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第52話【夜祭】

 衝撃的な事実を言われたあの日から一日。

 あの日はルゴールは俺達に魔剣のこと、反協会派に協力をしてほしいと言う話をした後、どこかに去って行った。

 どうやらこのオルグセイラにも反協会派の拠点となっている場所があるそうだ。

 俺達が答えを出すのはこの国を出るときまで。

 今の所はオルグセイラを出る日にちなんて決めてはいない。

 もしかしたら一生をここで過ごす可能性すらある。

 だがそう上手くはいかないだろう。

 

 あれ以降、協会に関する記事はゼロ。

 あまりにも不自然すぎる。

 俗に言う嵐の前の静けさというやつだろうか。

 それはともかく――こいつらがうるさすぎる。


「ルナシーラさん、それは違うよ! ミーシアにはオーバーサイズの透き通った服装こそ一番なんだよ!」

「全くあなたは分かってないわね。男子が望むのはそういう子が大胆の服装をすることなのよ。

 例えばあえて体のラインが出る服装をしたり、足を極端に出したりね。

 普段とのギャップのうえに恥じらいも重なって最強なのよ」


 こんな感じで出先の服屋に入ってからミーシアスの服装スタイルに関するとてつもなくどうでもいい口論を繰り広げている。


「どうでも良くないからっ!」

「どうでも良くないわよ!」

「なんで心の声が読まれてんだ!?」


 一体どうしたらこの口論を終わらせられるんだ。

 俺が何か提案でもすればいいのか。


「そ、そのクライドさんはどんな私が良いですか?」

「どんなミーシアスか。どんなミーシアスでもめちゃくちゃ良いと思うぞ」

「そ、そうですか。ありがとうございます!」


 するとルナとサユがこっちを見てきた。


「はい、お兄ちゃんそういうの良くないよ。なんでもかんでも全部が良いとか、まとめるんじゃなくて沢山あるなら沢山言えって!!」

「はぁ、全くクライは女子力ってのが足りないのよ」

「あるわけないだろ」

「何も提案出来ないお兄ちゃんがミーシアを語らないで!!」


 これは何か言わないと一生終わらないやつなのだろうか。

 仕方がないか。


「わかったわかった。そうだな、二人の意見を足して考えるとしたらオーバーなサイズで少し愛らしさを出しつつ、下は短パンで足を出すみたいな部屋着とかは合いそうじゃないか」

「え?」

「あ?」

「え、こわ」


 なんでこの二人こんなにキレてんの?

 なんか俺やらかしたか?


「俺だったらいっそのことメイド服とか良いと思うけどな!」

「もうレインは論外」

「もうダメダメね」

「えぇ〜」


 俺に助けを求めるかのようにこっちを見てくるレイン。

 残念だったな、お前の方が下だ。


「そんな事よりそろそろ宿に戻りましょう。ちょっと疲れてきました」

「そうね」

「ミーシアが言うなら仕方がない。この戦いはお預けよ」

「えぇ、いつでもかかってくると良いわよ」


 またやるつもりなのかよ。

 もう勘弁してくれ。


***


 店を出た俺達は宿に向けて歩いている。

 相変わらず人通りの多い第一箇区。

 様々な人が行き交うからなのか見たことのない商品も出店に良く並んでいる。

 そんな光景を見るとこの国が全く平和でないことが嘘のように感じる。


「ルナは今日はやけにテンションが高いな」

「別にそういう日くらいあるわよ」

「そんな事言って本当は友達が増えて浮かれてんだろ。照れなくて良いんだぞ、正直になるんだ」

「べ、別に照れてないわよ。...それに一番の友達はあなたよ」

「グハッッ!!」

「なんであなたが照れてるのよ」


 そんな嬉しい事を言われて照れない友達がどこにいるだろうか。

 今レインに同じことを言われても照れてしまうと思う。


「ほんとお前ら仲が良いな。一ヶ月ちょっととは言え親密すぎるぞ」

「それはまぁ、幾千の苦難を乗り越えてきたからな。あとはちょっといろいろと」

「何だ、その色々って。一番重要なところだぞ」

「ほんとっ余計な事を言わなくて良いのよ。レインも気にしないで。

 これは私達の問題だから」

「私達の問題?? おっと」

「レイン、面倒くさいな、お前」

「ド直球」


 なんだろうか。

 レインが少しずつ本当にサユ味を増してきた。

 こうして一緒にいる時間が長くなっていくと他の人の性格に似てきてしまうのか。

 非常に大問題だ。

 もしミーシアスがそんなことになれば。

 だめだ、想像もしたくない。

 サユを三人相手なんて命が何個あっても足りん。


「ふふふ」


 屈託なく笑うミーシアス。


「お前らもこのミーシアスの笑顔を見習った方が良い。

 特にルナな」

「あっそ」


 俺はこの笑顔を守りたい。

 俺達の中に残された唯一の純粋な心――ミーシアス。


「んなこと良いから、早く戻ろうぜ」


 レインが皆を急かした。


***


「やっと戻ってきたか」


 宿に戻るとルバートさんが声をかけてきた。


「どうしたんですか?」

「お前たちは明日の夜祭に行くのか? 実は俺も参加するからちと宿を開けるんだけどよ」

「夜祭ですか?」

「何だ聞かされてないのか。明日はオルグセイラの伝統的な祭りで各箇区が第二箇区に集まるんだよ。

 そこで色んな出し物とかを見たり屋台の食事を楽しんだり、とにかく行ってみるのがいいな」

「なにそれ、お兄さん行きたい!!」


 サユが目を光らせて言う。


「みんなはどうだ?」

「どんなメシがあんだろうな!」

「祭り、ね。ハブられる前は良く友達と行ってたわね」

「ク、クライドさんと二人で祭り...?!」

「あ、あははは」


 それぞれとても不思議な発想をしているようだがひとまず行くということは共通しているようだ。


「じゃあ行くか!」

「祭りは明日の日暮れから徐々に始まるからな。まぁ、初めてだろうし楽しんでくれ」


 そう言ってルバートさんは受付の後ろの部屋に入って行った。


「よし、明日に備えて良く寝るぞ」


***


 あれから数十時間。

 だらだらしていたら気づけば日暮れだった。


「そろそろ三人、呼びに行くか?」

「だな、楽しみだぜ」

「あんま変なはしゃぎ方するなよ」

「ったく分かってるって。っし行こうぜ」

「あぁ」


 俺達は部屋を出てルナ達の部屋の扉をノックした。


「準備出来たか? 開けるぞ」

「あ、だ、だめぇぇぇ!!!!」

「なんだよ」


 扉を開けるとそこにはサユが立っていた。

 だめとか言っていたが何もだめな要素はない。


「着替え中かもとか期待しちゃった? 残念、なにもありませんでしたぁ!」

「....」


 俺は無言で扉を閉めた。


「あ、なんで閉めるの! 拗ねちゃったの? わかったお兄ちゃん。

 見せるから、見せてあげるから、ルナシーラさんのを!」

「そんなのいらん!!」

「いらないってどういうことなのよ!!!!」


 あまりにも理不尽。

 やはり癒やしはミーシアスだけなのか。


***


 準備を終えた俺達は早速第二箇区に向かっている。

 そう言えばサユが着替えだとか言っていたがそもそも俺達はあまり着替えを持ってきていない。

 本当に最低限だ。

 とくにサユ、ミーシアス、レインなんか何も考えずに俺のところまでかっ飛ばしてきたから尚更だ。

 俺はマネストで少しだけ稼いだ金で買い物をしているので少しはある。 

 ちゃんとしたものかと言われると自信を持って「はい」なんて言えないけど、俺も最低限はあるのだ。


「美味しそうな匂いがします!」


 確かに既に食べ物系の屋台から匂う食欲を唆る香り。

 食べ物ばかり食べてしまいそうだ。


「ミーシアスは祭りは好きなのか?」

「は、はい! 皆さんで行く祭りもとても楽しいです! でも...」


 最後は小さな声で呟いたミーシアス。

 あまりにも聞こえなかったので俺はミーシアスによって再び聞いた。


「そ、その」


 他の人には聞こえないような声で俺に言う。


「い、いつかは二人で行きたいです。こういうの」


 それはまさかのお願いだった。

 確かに今思えばルナとは二人ででかけた、サユは勿論だし、レインとは良く武器屋をハシゴしていた。

 だがミーシアスとは二人でどこかに出かけるという機会はなかった。


「あぁ、機会があったら一緒に行こうな」

「はい!」


 やけに上機嫌なミーシアス。


「いきなりテンション高いけどミーシアどうしたの?」

「あぁ、さっき――」


 俺が言おうとしたときミーシアスがそれを遮るように喋る。


「クライドさんとの内緒です!」

「えぇ、何それ。気になっちゃうやつ...」


 サユは何かを感じたのか不気味にニヤつく。


「甘く見ていたけどやるね、清楚の面を被った猛獣めっ!」

「も、猛獣なんかじゃないです!!」


 仲が良さそうで何よりだ。

 ここで気になるのがルナ。

 レインはさっきから会話に入って来ないがまぁ、仕方がない。

 ずっと一人であちこちに行ってるからな。


 ただルナは一人でツカツカと歩いている。

 俺はミーシアスから離れ、ルナの横を歩く。


「機嫌悪いのか?」

「そう見えるの?」

「あんまり喋らないから機嫌でも悪いのかなって」

「別に悪くないわよ。ちょっと憂鬱なだけ」

「なんでだ?」

「前にも言ったでしょ。かつては友達と私が思っていた子達と良く祭りに行ってたって。

 でもその子達は結局私を突き放した。

 だから私にとって祭りって別に嫌いではないけど好きでもないのよ」


 ん〜分からない。

 祭りっていつでもどこでも誰とでも楽しいってイメージしかないからな。

 友達と一緒に行ったときの馬鹿騒ぎとか楽しくて仕方がないイメージだけどルナみたいな考え方の人も少なからずいるということなのだろうか。


「まぁ、あんま気にするなよ!」

「そんなの無理よ、それが私の人生にどれだけ深く根を張っているか分かってるでしょ」

「でも今は俺がルナの()()だろ? だから一緒に楽しもう」

「...ん、もう。調子が狂うわ。あぁ、もう!」


 ルナがいきなり走り出した。

 ついに祭りを楽しみ始めたかと思ったが走ってる途中で地面に落ちていた大きな石の先に足を引っ掛け盛大にずっこけた。


「大丈夫か?」

 

 急いで駆け寄ると、ルナはゆっくりと体を起こしてこちらを向いた。

 転けたことへの恥じらいからなのかルナは顔を赤らめて俺に言う。


「あー、もう。クライのばか」

「...なんで」


 俺達の夜祭は始まったばかりなのだ。

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