第51話【星使会議】
ここはとある結界内。
膨大な魔力が結界内を漂っている。
結界内はまるで迷宮のようだが、汚れてもいなければ魔物の姿もない。
感覚に触れるのは得体の知れない高濃度の魔力。
「またこうして集まるなんてなぁ! アハハ!」
タキシードを着た男が笑いながら言った。
「短期間に二度も隕落するとは。
七の使星も堕ちたものだ」
黒いコートを着た男が立ち尽くしながら呟いた。
「ん〜、まぁ、この年月の中、五人も残ってる方がマシでしょ。
んね、エルちゃん!」
大きく歪な形をした石の上で木の枝をぶらぶらしている男が言った。
「不愉快なのでその呼び方は止めてください。スハイルさん。
一応、そうですね。過去にはもっと早く落星した事もありましたから。
それらと比較すれば多少は余裕があるかもしれませんがそんな事を言っている暇はありません」
「スハイル、貴様はその楽観的な思考を止めた方が良い。時代は変わっている」
「ザウラクさんが言う様に最も早く落星をしたのは、遥か昔、私達に反する者がいない時代での話です」
タキシードを着た男がスハイルを挑発するように手を叩きながら笑い始めた。
「アハハハ! 馬鹿は何年生きても馬鹿だな。ヘルベティオスの頭と何ら変わり無いな」
木の枝の揺れが止まる。
シュッ。
スハイルは木の枝を一瞬だけ振った。
「......」
ドーンッ。
爆音と煙の中、挑発した男の腕が吹き飛んだ。
「あんな弱虫と同じにされるのは癪に障るなあ」
挑発した男の腕からは大量の血が流れていたがそれが瞬時に止まり、次の瞬間には何事もなかったようにもとに戻っていた。
「おれはただ楽しく遊びたいだけなんだけどなぁ、秩序も安寧もその過程も、どんな残虐的な行動であろうとどれだけ楽観的な考えであろうと、それらは全て娯楽じゃないとつまらないと思わない?」
「俺もこれまで手を汚してきたがお前の発想には理解できない。
それに余計なちからを使わせやがって」
スハイルが男の顔を離れたところから見つめる。
「前から思ってたけどフルドのそのちから、なんで服まで再生するの? 余計なちからって肉体の再生だけじゃなくて服まで再生させてるからじゃないの??」
「スハイル、お前と言うやつは」
「大人しくしろ」
黒いコートを着た男がそう言った。
「はぁ〜い」
「チッ」
二人は静かになった。
「ありがとうございます。ザウラクさん。
それとスハイルさん、ここで暴れられては困ります」
「それはごめーん」
「戦いを御所望でしたら魔法なら私がお相手をしますよ」
「えぇー、流石にそれは分が悪すぎるよ。おれ、すぐ負けちゃうよ」
「そうですかね。少しは拮抗したあと最終的にスハイルさんが死ぬと思いますけど」
「ほら、結局死ぬじゃん。それじゃあ意味ないって」
カツン、カツン、カツン。
結界内に響き渡る数人の鳴る足音。
「やっと来られたのですね、アルナタさん、リラムさん、ミンタリエさん」
「あたしはもっと早く行こって言ったけどねえ」
黒い編み上げたロングブーツで一歩一歩エルナトに近づく一人の少女――アルナタは赤い瞳を光らせて言った。
黒のワンピースは膝上で大胆に切り揃えられている。
背中には大きな黒いリボンが付けられておりそのリボンには槍が立てに付けられている。
「そうなのですか。ですが間に合っていない時点で遅れですが」
「わたしは準備してた。でもミンタリエが遅かった」
黒のワンピースを着たリラムはまるで全身を包むように足は足首まで、手は手首まで服が流れ落ちている。
足は白のハイソックスを履き、黒革のローファーには金色の装飾がされている。
その姿からは奇妙な品格が漂う。
「うちが遅れるなんて事はないって」
黒いワンピースでふわっと着地をしたミンタリエ。
彼女のワンピースは他の二人とは違い右側の裾に黒いフリルがついている。
さらに左の足には黒のハイソックスを履いているが右の足には黒いリボンが巻かれている。
「良いから早く終わらせよう。こんな所にいたら正気を保つのも時間の問題だ。
それにまだやらなきゃならない事が山程残ってんだ」
「分かりました。では早速始めましょう。今後についての会議を」
***
「この代の初の失星は魔巣暴走での出来事でした。当時の序列『伍』であったニハル・アルナブさん、歴代の使星と比較すれば平均的なお方でした。
平均的なのは問題ではありません、問題なのは失星してしまうことが問題なのです」
エルナトが椅子に座りながら言った。
「歴代の落星は一人の使星の失星。一人が消えることでまるで雪崩のように一人、また一人と失星していきました。
今回も同様、ニハルさんの失星を初めとし続くようにヘルベティオスさんも失星しました。
つまりは今、反協会派の流れが迫っている。
彼らはきっとこの好機を逃すほどの愚かな組織ではありません。
何かしら行動を起こすことでしょう。
私達はそれに対抗しなければならないのです」
「てことは行動した反協会派を潰せばいいってことだろ?」
「そんな安易な行動はどうかと思いますが簡潔に言ってしまえばそういう事です。
いずれは崩壊させなければなりません、アストライアの実現の為にも」
石の上から飛び降りたスハイル。
「反協会派を討伐する事は賛成だけど、ただ討伐するだけだったらこっちの損が大きくなっちゃうと思わない」
「確かにそうですね。ですが安心してください。
既に私が指示を出しています」
「おぉ〜さすがエルちゃんだ。やっぱり違うね! それじゃあ、俺達は好きにやっちゃって良いってことだよね?」
「はい」
その言葉を聞くとスハイルが体を動かし喜ぶ。
「でも、勝てるのか。規模もわからないんだぞ。
それにあのヘルベティオスを殺した竜殺しの男、巷では無能の剣士と聞くがそんな人物が倒したんだぞ。
もしかしたらあの場にいた奴しか分からない何らかの力を持っているのかもしれない」
「そうですね。あの青年は恐らく反協会が接触するのも時間の問題だと思います。ですから接触することは不可避。どう対処するかも考えなければならないですね」
スハイルがフルドに近づく。
「なんだあ、珍しくフルドが怖気づいているけど、もしかして勝てないと感じたのかな?」
「...ヘルベティオスの格闘技術は俺が生きてきた中でもトップレベルの技量だった。そんなあいつが負けたんだ、少しは警戒ぐらいする」
「あはは、少なくともフルドの方が上なんだし、余裕持ちなって。
じゃないと死ぬよ?」
スハイルはフルドの肩を叩いて別のところに歩いていく。
「臆する事はない。私達の策は始まったばかりだ」
「星の輝きを絶やすことがなければ私達は永遠にこの世を明りで支配出来ます」
ザウラクとエルナトが言った。
「最終的な事は分かったが、まず最初は何をする気なんだ?」
「二本。この数が何か分かりますか?」
「二本...?」
「あっは、それは魔剣の数だね。フルドは知らないだろうなぁ〜」
スハイルがフルドに指を向けながら言った。
「正しくは冒険者協会が現在所持している魔剣の数です。
世界には全七本の魔剣が存在していますが近年で実際に目撃された事例は殆ど存在せず、魔剣は噂程度の剣種となっています。
そして厄介な事でそれらの存在が噂されている場所はどこも協会に反対的な国家ばかり。
つまり私達の冒険者協会としての組織力を以て交渉することが不可能です」
全員が聞いてないようでしっかりと聞き耳を立てている。
「なので武力による強奪、これしか方法はないでしょう。少なくともあと一本は欲しい所です。
魔剣は剣としての機能以外にも様々な使い方が出来ますから、どうにか欲しいのです。
存在しているかもわからない上に戦闘は必至、手に入れるのが難しいとは重々承知していますが私達の目指す世界の達成には必要条件。
ですから皆さんには是非協力して貰いたいのです」
全員がすぐには言葉を返さなかった。
本当にエルナトの指示に従ってもいいのか、この指示はエルナトのものだという事はこれが成功したとき、エルナトの存在は協会内でも大きくなりそれはいずれ世に広がる。
誰もが今の自分の地位を侵される、そう考えた。
だが皆、分かっていた。
断るという選択肢は最初から消されているということを。
エルナトはコートから一冊の本を開き、ページをめくり始めた。
「....っ」
フルドの額に汗が流れる。
開かれたページにはフルドは体内から氷が貫いている姿、ザウラクは剣を失い炎で焼かれる姿、スハイルは腕を失い倒れる姿、アルナタ・ミンタリエは腹を貫かれている姿、リラムは腹部が貫通されている姿。
エルナトは一同の顔を見た。
フルドは焦った様に汗をかき、ザウラク、スハイルはそっぽを向き、アルナタ、ミンタリエ、リラムはそわそわとしていた。
エルナトは再び数ページをめくると、一瞬停止しその後そのページを破った。
本を閉じ破ったページと一緒にコートの中にしまった。
「それで皆さんどうされますか?」
「チッ、仕方がない。協力してやるよ」
「私も同意見だ。協力しよう」
「あ、あははエルちゃんの作戦なら勿論協力するよ」
「あたしたちも同じ意見。最低限は協力する」
エルナトはにこりと微笑む。
「そうですか。皆さん本当にありがとうございます。
今回はこれくらいですかね。では私は他に用事があるので先に失礼します」
エルナトはどこかに向かって歩き始めた。
すると立ち止まり振り返る。
「それと特に頭にリボンをつけた少女、黒い鞘の少年、精霊を操る少女、大剣の少年、反逆者の娘には気をつけた方がいいかもしれませんね。それでは」
再び歩き始めたエルナトは姿を消した。
残った七人は静かな空間で黙り込んでいた。
「全く、いつ会っても可愛いのに怖いなあ、エルちゃんは。
それに、今回は俺達の負けだね。あ〜あ、あの様子だとまだ何かあるよねえ」
スハイルは大きな独り言を言いながら去って行った。
続いて他の皆もこの空間から去って行った。
静まりかえった不思議な空間の地面に星が七つ、そのうちの五つが輝いている。
少しして消えていた星が一つ、輝きだしたのだった。




