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第5話『初めての護衛依頼』

 翌日。

 昨日は結局買い物をすることを諦めた。

 昇格の話についてもまだ保留にしてもらってる。

 今はまず生活も余裕になるくらいにお金を稼ぐ必要がある。

 だから今日も俺達はギルドにやってきた。

 楽して稼げる依頼はないだろうか。


 今日はカウンターにシルさんの姿がある。

 昨日の出来事をアールさんにチクられていないだろうか。


「あっ、来たわね。二人とも」


 いつもなら挨拶をしてくるところ。

 しかし待っていたとは。

 これは完全にチクられたとしか言いようがない。


「ど、どうしたんですか?」


 あからさまにきょどってしまった。

 シルさんに悟られないようにしないといけないというのに。


「はぁ……聞いたわよ。昨日のこと」

「き、昨日のことですか?」


 シルさんは深いため息をついた。

 そしてカウンターの下から数枚の依頼書を出してきた。


「これは……?」

「せっかく昇格できるのに輩に硬貨を渡してそれができないなんて勿体なさすぎる。だから良さそうな依頼を抑えといたわ。でも中には人数が必要なやつもあるけれど。そこは臨時でやったりして」


 あぁ、シルさんはなんていい人なんだ。

 神だ。

 いや、女神だ。

 この地に舞い降りた金の女神。


 俺は差し出された依頼書に目を通した。

 まとめるとこんな感じだ。


 ・ダンジョンエリアボスの討伐援護 大銅貨1枚

 ・レベル3の魔物の魔石収集(沢山欲しい!)大銅貨2枚

 ・ルドールの草原から薬草採取 銅貨7枚

 ・王都外壁周辺の魔物討伐 大銅貨4枚

 ・馬車の護衛 銀貨5枚


 一番上、一見良さそうに見えるが俺をダンジョンへ連れて行こうとしているからもちろんなしだ。

 次の魔石収集だができないことはない。

 だがレベル3だと少し時間がかかりそうだ。

 魔物のレベルは俺達冒険者のレベルと同じで同レベルの魔物に対しては張り合える。

 つまりレベル2の冒険者はレベル2の魔物と張り合うことができるということだ。

 これがレベル2の冒険者に対してレベル3の魔物だと少し苦戦をする可能性がある。


 俺達は今レベル3になることができる。

 だけど今まで弱っちい魔物ばかりを狩っていたからいきなりレベル3の魔物に対応できるのかは不安だ。

 となるとまだやめといたほうがいいだろう。


 次の薬草採取だが即決でお断りだ。

 俺の好む採取系の依頼だけどルドールの草原はここから少し遠い。

 なのに報酬は銅貨7枚。

 やるわけがない。


 次の王都外壁周辺の魔物討伐だがこんなところにサユを連れて行くなんてことはできないから却下だ。

 最後の馬車の護衛が気になる。

 噂によると護衛は簡単なことが多いらしい。

 ちょっとしたお偉いさんを連れて行くだけとか。

 しかも特に何も起こらず終わるらしい。

 ちょっとこの護衛ってのをやってみたい。

 がサユはどうだろうか。


「サユはどれが良い?」

「ふふ〜ん! 多分お兄ちゃんと一緒だよっ!」

「じゃあ、一緒に指さすか」

「うんっ!」


 俺達は「せーの」と声をかけて指をさした。

 すると本当に俺達のやりたい依頼は同じだった。


「ほらねっ!」

「じゃあ、シルさん、これでお願いします」

「まさかそれを選択するとは……。これがさっき言った人数が必要な依頼なのよ……」

「ちなみにそれって何人ですか?」

「三人よ」


 三人。

 つまりあと一人入れたら依頼を受けられるのか。

 でも待てよ、この無能と称される俺とパーティーを組みたいやつなんているのか。

 こんなところで名称が足を引っ張るなんて。


 困っていたそのとき、後ろから声が聞こえてきた。


「お兄さん!!」


 振りかえった。

 そこにはこの間ダンジョン六階層にいた女の子がいた。

 

「わ、私も手伝います!」

「本当に良いのか? こっちとしては有り難いけど何があるかわからないし」

「大丈夫です! この間、助けてもらった恩を返したいので!」


 まさかこんな形で助けたことが役立つとは。

 あの時助けていて良かった。


 俺はシルさんの方を振り向いた。

 何も言わなかったがシルさんは護衛の依頼書と一枚の折られた紙を渡してきた。

 

「この紙はなんですか?」

「そこに護衛依頼をした人がいるから色々と話を聞いてみて」

「わかりました。じゃあまた依頼が終わったら!」

「えぇ、気をつけるのよ!」


 俺達はギルドをあとにした。


***


 紙に描かれている簡易的な絵を頼りに目的地へと向かっている。 

 ギルドからはそう遠くなさそうだ。

 とは言っても絵があまりにも抽象的過ぎてここら周辺の情報を知っていなかったらわからないレベルだ。

 もう少し具体的に描いてくれていても良かったんじゃないか。


 俺達が歩く後ろで女の子が歩いている。

 かなり気まずそうだ。

 恩を返す為だけに見ず知らずの二人についていくなんて怖いしな。

 そんなことを思いながら後ろをチラっと見ているとその行動がサユにバレた。

 謎に微笑んできた。 

 そしてサユは歩く速度を遅くして女の子の隣を歩き始めた。


「君、なんて言う名前なの?」

「わ、私はミーシアス・オルフェイアです」


 オルフェイア……。

 サユはその名を聞いて可愛い名前っ! みたいなことを思ってそうな表情をしている。

 だが俺はその名を聞いたことがあった。

 

 オルフェイア……アルバート・オルフェイア。

 十年前、多くの冒険者が集まるこの王都ルグリアスで起こった大事件の犯人の一人。


 当時の冒険者達は度重なる冒険者協会による金銭の搾取、支配、圧力などそれら全てに対する怒りはもはや限度を超過していた。

 そして誕生したのが反協会派である。

 反協会派は何度も協会前で過激な暴動を繰り返していた。

 

 しかし冒険者協会もその様な行動を許すほど寛容ではない。

 ついには冒険者協会は過激な行動を繰り返す反協会派に対して武力で制圧しようとした。


 冒険者協会のシンボルにも刻まれている七つの星。

 (しち)使星しせい

 所謂大幹部だ。

 冒険者協会は(しち)使星しせいを使い、反する者達に制裁の鉄槌を降した。

 

 反協会派幹部はちょうど王都ルグリアに滞在していた。

 そこを狙った(しち)使星しせいとの激しい戦いが王都ルグリアに勃発。

 王都は大規模な戦場と化した。

 無意味な戦いの末、多くの死者を出した。

 しかしこの戦いで最も問題とされたのが(しち)使星しせいのうちの一人が死んだことだった。


 冒険者協会は七つ星を一つ失った事からこの大事件を失星(しっせい)事件と呼んだ。

 そしてこの事件以降、冒険者協会は(しち)使星しせいを表沙汰では動かしていない。


「かわいい名前〜!!! 私はサユっ! それでこっちがお兄ちゃんのクライドだよ!」

「よ、よろしくお願いします……!」


 しかし未だ尚、多くの国が冒険者協会に支配されている。

 いや、依存しているのかもしれない。

 まぁ、ただの冒険者である俺にはそこまで関係のない話しだが。

 

「お兄ちゃん〜、ボーッとしてないで! ミーシアスを無視しない!」

「あ、あぁ、悪い。考え事してたんだ。今回は依頼に協力してくれてありがとう。ミーシアス、今日はよろしくな」

「は、はい!!」


 ミーシアスは大きな声で精一杯な返事をした。

 そんなことをしているうちに紙に描かれてい場所までやってきた。

 見た目は至って普通だ。


 恐る恐る扉の前に立つ。

 今になって少し緊張してきた。

 これまで依頼はいくつかこなしてきたが護衛は初めてだ。

 一体どんなことをしてどんなことを話ながら目的地まで行けばいいのだろうか。


 息を吸う。

 呼吸を整え扉をノックした。

 だが何もない。

 声が聞こえるわけでもないし足音が聞こえるわけでもない。

 留守なのだろうか。


「私の家になにかようでも?」


 右から声が聞こえてきた。

 右を向くと紙袋を抱えたヒゲの生えた男前な男性が立っていた。

 怪しい何者かと疑われているのか。

 俺は急いで訂正をする。


「俺達は護衛の依頼でここに来たんです」

「護衛……あぁ、それはすまなかった。今扉を開けよう」


 男性は扉まで歩いてきた。

 鍵をタキシードのポケットから取り出し差し込んだ。


「さぁ、入ってくれ」


 男性は扉を開けてそう言った。

 俺達は会釈をして中に入った。


***


「てきとうにソファにでも座っていてくれ」


 男性は荷物を片付けながら言ってきた。

 俺達はその言葉通りにソファに座った。


「いやぁ、先程は本当にすまない。最近は妙な輩が多くてね。少し警戒をしていたんだ」

「こちらこそすいません。怪しい風に見せてしまって」

「ハッハッハ、君はいい人のようだな。これでも飲むといい」


 男性はソファの前のテーブルに温かいコーヒーを入れたコップを3つ置いてくれた。

 サユって飲めたっけなんてことを思いながらコーヒーを飲んだ。

 結構苦い。

 何も入れていないのか。


 隣でサユがちょっと口をつけて苦っとした表情をしていた。

 その隣では普通に飲んでいるミーシアス。

 サユは飲めないのにミーシアスは飲めるとは。

 どうやらミーシアスの方が少し大人のようだ。


「では私も座らさせて貰うよ」


 男性は向かいのソファに座った。

 飲んでいたコーヒーを俺はテーブルに置いた。


「それで依頼の件なんですけど」

「そうだったね。とある女性をここから少し離れた街、アスフェルまで連れて行って貰いたいんだ。もちろん私も同行する」


 アスフェルか。

 確かにそれほど遠くはないけど。

 やけに簡単すぎる。

 そんな簡単な依頼にあれほどの報酬を支払うのか。

 会って数十秒だが男性がそんな様なことをするとも思えない。


「わかりました」

「それで今からでも行けるかな?」

「全然構わないですよ」

「それは有り難い。では私についてきてくれ」


 男性は立ち上がり家の外へと向かいだした。


***


 数分歩いた。

 男性について歩いてきたその先は人通りのない狭い道。

 そこには馬車が一台だけ止まっていた。


「ここだ。この馬車に護衛をしてもらいたい女性が乗っている。しかし君たちにその姿を見せるわけにはいかない。まだ何があるかわからないからな」

「わかりました」

「では君は私の隣に。他二人は馬車後方に座ってくれ」


 貴族とかが乗っていそうな馬車だ。

 立派な運転席。

 そして後方には人が二人も座れるちょっとした席まである。

 少数精鋭の護衛に向いた馬車の造りだ。

 俺は精鋭ではないが。


 そんなことを思いながら俺達は言われた場所に乗った。


「本日はよろしくお願いしますね」


 馬車の中から透き通った美しい声が聞こえてきた。

 

「はい!」

「では出発する」


 そして俺達を乗せた馬車は離町アスフェルに向けて走りだした。

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