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第48話【影人】

 あの日は緑髪の女性から少し話を聞いたあとすぐに宿に戻った。

 そして到着から二日が経過した。

 宿がある場所、つまり第一箇区は二日間である程度見終える事ができた。

 その中でひとつ気づいた事がある。

 この第一箇区はやたらと酒場や宿が多いことに気がついた。

 恐らくだがオルグセイラと外を繋ぐ門がこの第一箇区にしかないからだろう。

 

「今日はどうする?」

「ん〜他の場所も見に行ってみるとかは?」


 宿は二階に部屋があるのだが一階にはちょっとした共有スペースのような場所がある。

 俺達は今そこで座りながら今日一日をどうするか考えていた。


 とは言ってもこの地に来たのは協会からの追ってを逃れるため。

 そのおまけとして魔剣を探しに来た。

 だからこれといって大急ぎで何かに取り掛からないといけないということはない。


「せっかくだしクライが言っていた他の箇区にも行ってみましょ。

 もしかしたら違う雰囲気を感じられるかもしれないし」

「そうだな。じゃあ今日は第二箇区にでも行ってみるか」


 行先を決めた俺達。

 イスから立ち上がろうとした時、外が騒がしい事に気づいた。


「何かあったんですかね?」

「喧嘩か!?」


 困惑しながらもイスから見える窓の外を見た。

 しかしこれといって変わったことはない。

 ただ人々の声だけが聞こえる。


「まさか――」


 ルバートさんがそんな事を口にしながら宿の外に出た。


「何か揉め事とか何じゃないか」

「見に行ってみようぜ」


 その時、ドンっと爆発音の様なものが聞こえた。

 微かに揺れたイスにテーブル。

 どうやら揉め事という規模ではなさそうだ。


 ダンッ。

 ルバートさんが勢いよく宿の中に入ってきた。

 そして俺達の方を見る。


「来訪者、あんた達は今すぐこの国から離れた方が良い!」

「え? 一体何があったんですか」

「また来たんだ。影人が」

「影人...?」

「説明している暇はない。早く荷物をまとめて出ていった方が身のためだ」


 ルバートさんがそう言うが協会に追われている俺達はそう簡単にこの地を去ることは出来ない。

 だからもしここに危機が訪れているのなら少しは手助けでも...。


「どこに行く気だっ!」


 俺は宿の外に出た。


 大通り、人々が立ち尽くし同じ場所を見つめていた。

 いくつかの煙が天に昇っている。

 やや北東、第三箇区だ。


「...ッ」


 俺はそこに向かって走りだしていた。


「ちょっとお兄ちゃん!! 待ってよ!!」


 後ろから皆がついてくる。


***


「はぁ...はぁ...」


 俺達は第三箇区に辿り着いた。

 そこは既に崩壊が進んでいた。


 さっきよりも燃えている家は増え、中には崩れている建物まである。

 負傷をした者、逃げ惑う者、泣きじゃくる者。

 その中で二人だけが謎の存在と対峙していた。

 魔物の様な見た目をしているが全身がまるで闇のような色をしている。

 ルバートさんが言っていた影人、それはあれのことなのだろう。

 とくに人の様な姿ではないが、それは何か理由があるのだろうか。


「あぁああ!!!」


 何体もいる影人に剣を振るう銀髪の男性。

 植物の様なものを操り、影人を薙ぎ払い締め殺す緑髪の女性。


「はぁ...はぁ...はぁ...」


 長いことでここで戦っているのかわからないがクロノスさんはかなり息が上がっている。

 額には激しい汗をかいている。

 一方の緑髪の女性は恐らく魔法を扱っていることから魔力を既に多くの量を失っているはずだ。


「あぁあ!!」


 クロノスさんが大きく影人に剣を振った。

 バサッと影人を斬ったがその背後からまた別の影人が迫っていた。

 クロノスさんはきっと気づいていたはずだ。

 しかし疲労と振りかぶりの大きさから反応出来たとしても体が対応しない。


「『加速(アクセラレーション)』」


 俺は加速した。

 そして体を捻り加速の勢いで剣を振った。

 バサッ、魔物と何ら変わらない感触。

 違うとすれば魔石が落ちないということくらいだ。


「クライドさん、それに皆さん、どうしてこんな所に」

「何だかピンチそうだったので」

「――すまない。これほどまでに早く再来するとは思っていたなかったんだ。

 それでも君達に迷惑をかけてしまったのは事実。

 もう少し詳しく説明するべきだったよ」

「クロノス、今は説明に割く時間はない。一刻も早く影人の動きを止めなければ被害は拡大するだけだ」

「あぁ、セカリアさんの言う通りだ。すまないがこの話はあとで詳しく説明するからひとまず待っていてくれないか」

「はい!」


 俺は返事をして剣を握った。

 他の皆も杖を手に取り、剣を握り、負傷者の治癒を、それぞれが出来る事をやった。


***


 ボワッ。

 火の粉が舞う。

 影人は掃討したが被害は残ったままだ。

 

 危機は去ったことで人々が第三箇区に戻ってきて鎮火の手伝いをしている。

 瓦礫を整理したり負傷者の手助けをしたり。

 ちなみにサユは今、治癒で駆り出され大忙しだ。


 瓦礫を四人でまとめているとクロノスさんと緑髪の女性がこちらに近づいてきた。


「ここの後始末が終わったら城まで来て欲しいんだ。色々と話しておきたいからね。

 どうやらクライドさんとレインさんはこの間、あそこに登りセカリアさんから少し話を聞いたみたいだけど、もし君達がまだこの地に留まると言ってくれるのなら話をしておきたい」

「わかりました。これの後に向かいます」

「あぁ、頼むよ」


 そう言ってクロノスさんとセカリアさんは別の場所へと歩いていった。


「本当にここに残るのね?」

「出ても仕方がないだろ。協会に追われず魔剣も見つけられるかもしれないならここにいる方がマシだろ」

「そうなんだけど、マネスと以上に何だか厄介な問題を抱えていそうだけれど大丈夫なの? クライや周りの話を聞く限りでは到底安全とは言えなさそうだけど」

「今更安全とか考えても無駄だろ」

「...確かにそうね。何かあったらクライを囮にすれば良いんだものね!」

「おい」


***


 あれからどれだけ時間が経っただろうか。

 第三箇区の後片付けはかなりの時間がかかった。

 近くに住む人達で手分けをした。

 そんな行動が出来るほどここの民は互いの事を考え合っているということなのだろうか。

 そこだけを見れば平和な国のようにも見えるが俺達の見た影人のあとではそう思うことは出来ない。


 陽が落ち始めた頃、俺達は約束通り城のある中心へとやってきていた。

 他の三人はここに来るのは初めてなので見える景色に感動していた。

 夕日の時に登ると尚更美しい。


「お兄ちゃん、どこ?」

「あそこだよ」


 あの時と同じ狭い間を通り建物があるところへ向かう。


「もしかしてあの木造の建物ですか?」

「そう。あそこにいるみたいだよ」


 俺達が建物に近づくとちょうどクロノスさんが建物から出てきた。


「あっ、ようやく来たみたいだね。さぁ、中に入ってくれ」

「おっじゃましま〜す」


 サユがハイテンションで建物の中に入る。


「てきとうに座ってくれ」


 前回来たときよりもイスの数が増えている。

 きっと俺達に合わせて増やしてくれたのだろう。


 建物の一階にはクロノスさんとセカリアさんだけがいる。

 他の人達はいないようだ。


「今日は手助けをしてくれてありがとう。本当に助かったよ」


 クロノスさんはイスを引きながらそう言った。

 一方のセカリアさんは何かを持って二階に上がっていった。


「さて影人の話をしよう。

 君達も見たあの得体の知れない存在、あれこそが影人というものだ。

 彼らは日夜問わず、どころからともなく現れるんだ。

 現れてはこの国を荒らして行く。

 はっきり言って目的は良くわからないんだ」


 存在もよくわからない、どこから現れるかもわからない、目的もわからない。

 影人はここに暮らす人からしたら相当な恐怖の原因だろう。


「最初に影人が現れたのは旧第三都市ルサーリアでの出来事が起こるよりも遥か昔の事だ。

 大群の影人が押し寄せ、オルグセイラは壊滅的な状態になったんだ。

 それでも時秩衆(オルデウス)は諦めることはなく一人でも多く、民の命を救う為、己の命を盾に意志を彼らに突きつけた。

 だけど――」


 クロノスさんは強く拳を握っている。


時秩衆(オルデウス)はどうする事も出来なかった。

 結果、時秩衆(オルデウス)の四人を失い、多くの民を失った」


 時秩衆(オルデウス)が四人も...。

 つまり当時は一人だけが生き残ったのか。


「その日からオルグセイラの時は止まった。

 日々、再来の恐怖に怯え、時秩衆(オルデウス)や国王の言葉すらも民の心には届きはしなかった。

 それから数年後、再び再来の日が訪れたんだ。

 民は守れたが時秩衆(オルデウス)が再び死んだ。

 さらに数年後、再来、その度に誰かが犠牲になっていく。

 そして僕達は時の止まったこの国を再び動き出させるために影人を根絶しないといけない。

 何年も何十年も、どれだけの時間がかかろうと。

 死んで、仲間が増えて、死んで、同じ事の繰り返したけど僕達時秩衆(オルデウス)は時代の流れの中で少しつづ影人に抵抗出来るようになってきたんだ」


 少し声が震えているクロノスさん。

 俺達の知らない世界で彼らは未知の存在の常に戦い続けてきたんだ。

 それがどれだけ辛いことかは一生かけても俺達にはわからないだろう。

 でもこれは何かの縁だ。

 もし出来ることがあったら手伝おう。

 この国に入れてくれた恩返しもまだ出来ていないし。


「ああ、すまない。少し感情的になってしまったよ。

 そろそろ真っ暗になりそうだからここまでにするけど他に聞きたい事とかはあるかい?」

「とくにはないです」

「はいはい!! 第二箇区って何があるんですかっ!」


 サユが手を上げて言った。

 そう言えば今日はそもそも第二箇区に行く予定だったんだ。

 すっかり忘れていた。


「まず君達の宿がある第一箇区は商人や旅人の安らぎの場所、謂わばオルグセイラの玄関だ。

 そこは僕が担当している箇区だ。

 ルディアが担当している第二箇区はオルグセイラの民が住まう場所なんだけど、家族や子供、高齢者といった人が多くてちょっとした遊び場とかもあるんだ。

 セカリアさんが担当している第三箇区は主に農業などをしているんだ。そこで作られた製品や食材はそのまま第一箇区の宿で利用されたり民に販売したり商人達に向けて販売をしたりしているんだ。

 カイロネスさんが担当している第四箇区はあまり何もないんだ。

 そこはかつて一番影人の被害を受けたところでね、まだそのままなんだ。だから今はもうカイロネスさんの所有の土地みたいな感じになっている。

 アイオスが担当している第五箇区はオルグセイラの防衛や力仕事をしている人達が集まっているところで良くアイオスの厳しい訓練をしていると聞くよ」


 クロノスさんが色々と情報を教えてくれた。

 第二箇区のルディアさん、一体どんな人なのだろう。


「他に聞きたい事はないかい?」


 みんなの顔を見た。

 とくになさそうだったので「大丈夫です」と言って、そのあと感謝を述べた。


 そしてその日はそこで解散となり俺達は宿に戻り、一日の疲れを癒やす。

 オルグセイラがどんな状況にあるのかはなんとなく理解はした。

 少し気をつけながら暮らそう、そんな事を思いながらベッドに横になるのだった。

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