第47話【サトゥールヌス】
俺達は今、銀髪の男性と一緒にオルグセイラの中を歩いている。
馬車はと言うと、しばらくこのオルグセイラに滞在するということを伝えたらそれならと銀髪の男性が馬小屋の場所を教えてくれた。
なんとここはしっかり馬の管理もしてくれるという優良サービス付き。
まぁ、その分値もかかりそうだが、それはしかたない。
「先程は通していただきありがとうございます」
「ハハ、気にしなくても構わないよ。来訪者が来るのは本当に久しいからつい歓迎したくなったんだ」
「本当に助かりました」
銀髪の男性はさっきから会話をしている感じではかなり優しそうな方だ。
腰には鞘があるのでどうやら剣士のようだ。
「そう言えば自己紹介をしていなかったね」
「あ、クライド・アンサラーです」
「ルナシーラ・ウェルナンよ」
「私はサユ!」
「俺はレインって呼んでくれ」
「わ、わ私はミーシアス・オルフェイアです」
俺達の自己紹介を終えると歩いていた銀髪の男性は立ち止まり、こちらを向いた。
「僕は時秩衆のクロノス。この国を代表して来訪者、諸君を歓迎するよ」
そう言ってクロノスさんは再び歩き始めた。
「ハハっ、それにしてもこんな所で会えるとは。
そちらの女性は失星事件の犯人の一人の親族、そしてもうひとりは竜殺しの七星殺し。
何とも物騒な肩書だ」
「俺達の事を知っているんですか?」
「他の人は知らないけど、少なくとも君達二人はね。とくにそのリボンとか。
この国はこんな状況だけれど情報は逐一取り入れてはいるんだ。
前までならそんな事はしていなかったと思うけどね」
まさか知られているとは意外だった。
協会と対立しているオルグセイラにとって俺達みたいな協会に反発する冒険者には興味があるのか?
「ところで何か質問したい事はあるかい? どうやら君達はここに来るのが初めてなようだから、知らない事も沢山あるだろうしね」
質問か。
いきなり言われてもあまり思いつかないけど、一つだけ気になっていることがある。
「時秩衆って何ですか?」
「あぁ! 時秩衆と言うのはサトゥールヌスの歩みの続きを紡ぐ者達の事だ。
とは言ってもその文言は僕達の立場を保証するものに過ぎない。
自分でも言うのもあれだけど僕達はそれなりの力を持っているんだ。
中には魔賦者もいるんだ。そしてそれらの力を使いこの国をありとあらゆる障害から護り抜く、それが僕達の役目なんだ」
魔賦者、昔、書物で見た記憶がある。
魔賦者とは、基本属性の魔法、光・闇、強化・治癒といった派生の魔法のどれにも属さない異端的な存在だ。
その力は天性の力であり何らかの条件で内に秘められていた力が開放され発現出来るとか。
魔賦者は一定数いるようだがやはり使えない力もあるらしい。
「お兄ちゃん、あんなに立派な防壁があるのに危険なんか有るのかな?」
「さぁな」
「きっとここに初めて来た人達はみんな感じるはずだよ。
オルグセイラは長年、謎の存在に脅かされてきたんだ。
現れる度に僕達は何度も挑み、仲間を失い、民を失い、残ったのは絶望だけ」
「そんな事が...」
「来訪者の諸君は気にせずこのオルグセイラを思う存分堪能して欲しい。
勿論、君達の安全は僕達が保証するから安心してくれ」
そう言ったクロノスさんは再び立ち止まった。
「きっと一日だと物足りないと思うから暫くはこの宿に泊まると良い。
ここは僕の知り合いが経営している宿なんだ」
クロノスさんはそう言いながら宿の扉を開けた。
「いらっしゃい」
宿の中にいた男性が硬貨をまとめながら言った。
「クロノス様じゃないか」
「その呼び方はやめてくれ、ルバート」
「呼び捨てなんてしたら俺の命なんてすぐ散っちまうさ」
「一体僕達を何だと思っているんだい」
「ふっ、それで後ろの人達は誰だ? 見ない顔だが」
「彼らは遠い地から来てくれた冒険者達だよ。
そこで彼らに部屋を充てて欲しいんだけど」
「そうだな。えーっと、まだ六部屋くらいは空いてるから好きに使ってくれて構わないぞ」
「そうか、助かるよ」
クロノスさんはこちらを向いた。
「今回は部下が粗相をしてしまったみたいだからここの代金は僕が受け持つよ。
君達はゆっくり休んでゆっくりこのオルグセイラを堪能して欲しい」
「ほ、本当ですか! ありがとうございます!!」
「それとすまないが僕はこれから少し用事があってもう行かなくちゃならないんだ。
だからもしこのオルグセイラで気になることがあったらルバートに聞くか、この通りをさらに真っ直ぐ行った先にちょっと大きめの建物があるから寄ってみてくれ」
「わかりました」
「それじゃあ、また」
クロノスさんはそう言い残して宿を後にした。
***
ルバートさんから宿の鍵をもらった俺達。
それぞれの部屋に入り荷物を整理することにした。
ちなみに俺とレイン、ルナ・サユ・ミーシアスといった部屋分けだ。
「レイン、見てみろよ」
「何だ?」
俺は窓の外を指さした。
レインは近づいてきて俺の指がさす方を見る。
「あれってクロノスさんが言ってた建物か! 城みたいだな」
「でも結構ボロくないか? いや、綺麗には見えるけどこの街の景色にしてはどこかボロく感じるというか」
「確かにな。ちょっと行ってみようぜ」
***
俺とレインは城の近くまでやってきた。
近くで見ると城の大きさがより感じるがボロさもより感じた。
「というか人が誰もいないな」
レインの言う通りだ。
城なら誰かしらいそうなものだがもはや人の気配すらも感じられないほどに静かだ。
それにしてもここから見える景色は絶景だ。
長い階段を登ってきた甲斐がある。
それにしてもオルグセイラは広い。
ここまで数分で来た気がするのに宿らしき場所はかなり離れている。
それに壁なんて遥か遠くにあるように感じる。
「おい、クライド。今人がいたぞ」
「え?」
レインは城の柵の向こうに人が歩いていたと言い出した。
「本当か?」
「ほんとうだって! 行ってみようぜ」
「でもこの柵の向こうだろ? 勝手に入って大丈夫なのか?」
「クロノスさんがここに行ってみてって言ってたんだし大丈夫だろ」
「そう、か?」
不安を感じながらも気になった俺は城の柵の向こうに行くために開閉可能になっている部分を開けた。
「あっちなんだよな」
「そうだ!」
人が歩いていったという方に俺達も歩いていく。
地面の石のタイルはひび割れ、草が侵食している。
だが無駄な雑草は刈られ、最低限には整えられているようだった。
ここにもやはり人がいるということなのだろうか。
「なんだあれ」
柵と城の狭い隙間を通った先にはひらけた場所があった。
そこには少し大きめの建物がポツンと建っている。
「もしかしてクロノスさんが言ってた建物ってあれなんじゃないか?」
「かもな! ひとまず行こうぜ」
俺達は建物の扉の前に立った。
「クライドが開けろって」
「いや、レインが先に行こうって言ったんだから開けろよ」
どちらが開けるかで争っていると俺達の背後でクサッという草を踏みつける音がした。
「何者だ」
恐る恐る振り返るとそこには長い緑髪の女性が立っていた。
その女性もクロノスさんの様に落ち着いた見た目でありながらどこか華やかさ、豪華さを感じる服装をしている。
「――よそ者か」
「あ、あのこれは違うんです! クロノスさんに何か聞きたい事があったらここに行くといいよと言われて。今は聞くことはとくに無いんですけど、少し興味本位と言いますか...」
「クロノスが? まぁ、いい。ひとまず中に入ると良い」
俺達はその女性に連れられて建物の中に入った。
中はかなり落ち着いた雰囲気のある部屋だった。
「好きに座れ」
俺達は近くのイスに座った。
すると女性が飲み物を出してくれた。
「この建物って何なんですか?」
「ここは私達、時秩衆が住む建物」
私達。
この女性もクロノスさんと同じ時秩衆なのか。
何と言うかこの女性からはあまり感情を感じない。
テンションが低いからかな。
「聞きたい事が出来たんですけど大丈夫ですか!」
レインが言った。
女性はイスに座り「なんでも聞くと良い」と言った。
「ここの城、誰もいなさそうなんですけど、何かあったんですか」
「あぁ、この城には私達時秩衆しかいない。
王は寿命でこの世を去った。子を宿さず。私達に使命を遺して」
「そんな事が」
「王の死去から数年、城の後継所有者を巡り、それぞれの思惑を持つ者達が争いあった。
最終的に私達時秩衆は王が遺した使命を果たす事を宣言し多くの者を退け、この城の所有権利を護り抜いた。
だが王無くして仕える者達の存在の意味は無く次第に一人、また一人、城を去った」
王が亡くなっていたとは。
初耳だ。
俺が情報を手にしていない可能性もあるがそうでないのならオルグセイラは王の死を世に発信していないということになる。
「王が遺した使命って...?」
「王は二つ、私達に言葉を遺した。
一つ、オルグセイラに秩序と平和を。
一つ、その姿はオルグセイラの危機が来た時のみ顕現させよ」
どれもかなり抽象的な内容だな。
とくに二つ目なんてどういう意味なんだ。
「それが時秩衆の使命、なんですか」
「あぁ、私達はこのオルグセイラを護る為に五箇区に別れ、日々を民の安寧に捧げている」
「五箇区ですか」
「説明が不足していたな。私達はこのオルグセイラの中心である城を目印にして五箇所に場所を区別した。
貴方達が出会ったクロノスは第一箇区を統べている。
私は第三箇区を」
女性は立ち上がり窓の外の景色を見つめていた。
「時の神――サトゥールヌス。
かの者が歩んだ時間の軌跡は今も尚、私達に諦める理由を与えはしない。
だからこそ私達はこのオルグセイラに再び平和を齎すその日まで軌跡に身を任せる。
そして全てが終わりを告げる時、私達はこの地に新たな時を紡ぐのだ」
窓の外に広がる広大な景色を見渡しながら女性は言ったのだった。




