第46話【閉鎖国家――オルグセイラ】
星が光り輝く暗闇の中、冷たい風が草を巻き上げて吹いている。
出発して数十時間が経過した。
もうマネストが懐かしく感じる。
惨劇のあと俺を快く受け入れてくれた街。
まぁ、素性は隠していたんだけど。
それでもあそこはルグリアにいた時のように何の支障もなく過ごすことが出来ていた。
ヘルベティオス・クロード。
ただ彼のことだけが今でも強く深く思い出す。
身分がどうであれ、存在がどうであれ、俺は一人の人間を殺めた。
その行動が正解なのかは今になってはわからない。
あの行動が誰かを救っているかもだしそうでないかもしれない。
称賛する人もいれば批判する人もいる。
常に対立している世界で正解を求めるのは無謀なのかもしれない。
きっと俺はもう後戻り出来ないところに立っている。
それは崖っぷちで選択肢は飛ぶことだけ、引き下がれはしない。
それが星の輝きを絶やした者の運命。
これは彼らも感じていることなのだろうか。
「ずっと空を眺めてどうしたのよ」
「ちょっと考え事をな」
静かな草原の中、一人地面に座り込んで空を眺めていた俺のもとにルナが声をかけてきた。
「そう」
ルナは一言そう言って俺の隣に座ってきた。
「自分でしたことを後悔してるの?」
「まぁ、そうだな。俺はまた皆と過ごすために仕方なかったことだと思ってる。
でもあいつはかりにも協会、しかも使星。
あの男でもきっとこれまでに何人も人を救っていたかもしれない。
でも俺が....これから救われるはずだった人々が救われないかもしれない。
そう思うと、何が正しいのかわからないんだ」
「そうね、悩む気持ちも分かるわ。でもこの未来を選んだのはあなた、クライよ。
だからあなたがその未来を選んだ理由を正当化すればいいのよ。
きっとそれに対して反発してくる人もいるけれどそれは互いに正しいことを選んだ上での争い。
間違いなんてないのよ、悪く言う人にとってはそれが正しいこと、何かに負けてもそれは現状の自分にとって正しいことかもしれない。
その正解をどう皆に示すか、それが一番重要なのよ」
ルナはちいさい頃から迫害まがいなことをされてきた。
それでも彼女は傷つきながらも反抗しなかった。
それは未来で強く成長するための正しいこと。
正しいこと、か。
「たまには良いこと言うな」
「何よ、それ。まあ、間違いなんてないって言ったけどあなたに間違いが一つあるとしたら過去に執着しすぎなことね。だからあまり過去に執着しすぎないようにね。
そのうちそれが自分の足を引っ張るかもしれないし。今を見て未来に進む。
ただそれだけよ」
「ありがとう。少し心が楽になったよ」
「そう、それなら良かったわ」
なんだろう、こいつ出発してからあまりトゲトゲしていない気がする。
まぁ、いきなり知らない人達と旅に出るってなったらさすがのルナでも丸くはなるか。
「そういや友達になったんだし何かするか?」
「こんな時間から何をするのよ」
「かけっことか?」
「はい、おつかれお休みなさい」
ルナは立ち上がり馬車の方へと歩いていく。
「ちょ、待ってくれよ。さすがに冗談だって」
「もう私は寝るわ。あとあんまり大きな声出してたらみんな起きるわよ」
「あ、それはすまん」
その日はとくになにもすることはなく眠りについた。
本当は少しかけっこをしたかったがこれは秘密だ。
***
「お兄ちゃん、まだ着かないの?」
「もらった地図的にはあと少しだからじっとして待ってろ」
「えぇー。ルナシーラさんも何か言ってやってよ」
「早く着きなさいよ」
「変なノリに乗るなよ」
俺が馬車を動かし隣にはレインが座っている。
荷台ではルナ、サユ、ミーシアスが座っているのだがやたらとルナはサユの変なノリに乗ってふざけている。
そんなタイプではないと思っていたんだが意外だ。
ミーシアスはいつもより大人しい気がする。
「そういやクライドはルナシーラさんとはどういう関係なんだ?」
レインが聞いてきた。
ルナの家で大まかな流れは説明していたがルナに関することはそこまで話していなかった。
「ほんと全部偶然だよ。林に入ったらたまたま家があって、たまたまゼインさん達が俺のことを迎え入れてくれて。俺がこうしているのも彼らのおかげだよ」
「へぇ。そう言えばルナシーラさんとクライド、抱き合ってたらしいな」
「っ!?」
レインの一言でその場の空気が凍りついた、そんな気がした。
俺は後ろを向いてルナを見た。
目でそんなこと話したのかと訴えかける。
それに対してルナは必死に首を横に振っていた。
「クライドさん、それはどういうことですか。たまたま出会った人なのに、そんなことまでしちゃうんですか」
「あぁ、いやぁこれは色々と事情があってだな...」
思い出した。
あの窓から俺達を見つめていた人物のことを。
ゼインさん、なんで話しちまったんだ!?
「お兄ちゃん、良くないよ。いつかルグリアに帰ったら皆に言いつけるから!」
「やめてくれ...」
無能以上に最悪な汚名をつけられそうだ。
「んんっ」
ルナが咳払いをした。
サユ達の視線がルナに向いた。
「私が抱きついたのよ」
「えぇ? ルナシーラさんが??」
「そうよ。クライは私の過去のことを知って、色々としてくれたのよ。
それでずっと一人だった私に友達になろうって言ってくれて、それでつい嬉しくて――。
ただそれだけよ。今度からは気をつけるようにするわ」
「そうだったんだ!」
「ふぅー、一安心です」
ルナが話を出来事を掻い摘んで説明するとサユ達は納得したのかわからないがそれ以上の追求はしてこなかった。
感謝を伝えようと思い後ろを向いたらルナはその瞬間、そっぽを向いた。
「そう言えばオルグセイラってどんなとこなの? ちょっと話は聞いたけどよく分かんない!」
「俺もそこまでは詳しくは知らないぞ」
「えぇ〜」
「簡単に言ったら協会同盟に加盟していない国ね」
ルナが言った。
すると「知ってるの!?」とサユはかなり食いついていた。
「オルグセイラは時の神サトゥールヌスという神を信仰しているの。それでどうして協会同盟に加盟していないかって言うとまぁ、単純に協会の信仰神であるアストライアと考え方が違うからよ」
アストライアの考え方の違いか。
協会の神の考え方は『恒久的に輝く星の下、安寧と秩序を築く』。
本来、星は夜にしか輝かない。
でもそれだと夜以外の時間は救いの光である星は手を差し伸べてはくれない。
だからこそ一日を通してどこでも星を輝かせ世に平和をもたらす。
しかし目的の為に手段を問わない。
それが協会の目指しているものだ。
この考えから生まれたのがギルド、冒険者だとか。
「ん〜神の話とかになると良くわかんないな。
いや、一応俺達冒険者だけどよ、結局神を気にしてるやつなんてあんまいないだろ」
まぁ、レインの言う通りだ。
気にしているのは国王だったり協会の人間だけだろう。
冒険者は神という存在からもっとも離れた位置にいるのだからそうなってしまうのも仕方がないことだ。
「実際の所はそうね。まぁ、オルグセイラの事は着いてから過ごしていれば嫌でも知れるわよ」
ルナがそんな事を話していると少し離れた所に何やら建造物が見えてきた。
地図的に恐らくあれがオルグセイラだろう。
一体どんな地なんだろうか。
***
「でっか」
どこまでも続いていそうな壁。
高さもそれなりにある。
何と言うか凄い護りだ。
オルグセイラの中に入るにはあそこの門を通らないといけなさそうだ。
警備兵らしき人が二人立っている。
俺達は馬車に乗りながらゆっくりと進んでいく。
「そこで止まれ」
警備兵の一人に言われ馬車を止めた。
「身なりからして冒険者か。何の用だ」
「観光です」
「本当にか。観光なのにあまり荷物がないように見えるが?」
「...冒険者はあまり大荷物を持って移動はしないんですよ。なのでその流れで、みたいな?」
「そんな言葉が信用出来るか。さては協会の差し金だな」
その警備兵は後ろにいたもうひとりの警備兵に何やら合図を送っていた。
「悪いがこの場を立ち去らないのならこちらも相応の抵抗をすることになる」
「先程から何やら言い合っているようだけど、どうしたんだい?」
「!?」
警備兵はその声の主に驚いていた。
門の入口から歩いてくる銀髪の男性。
高貴な存在であることを一瞬で理解出来るほどの服装だ。
「クロノス様! どうしてこんな所におられるのですか!」
「この国を見回る事も僕の使命だからね。それでどうしたんだ?」
「実はこちらの冒険者がどうやら入国したいようなのですがどうも理解出来ない発言ばかりをするんです」
「そうか。でも久しぶりの来訪者だ。歓迎してあげてくれ」
「ですが!」
「僕達は拒む事ばかりだけでは駄目だ」
「わ、わかりました」
警備兵はこちらを見て「行け」と合図をしてきた。
「せっかくだし僕が案内をするよ。さぁ、来訪者の諸君、着いてきてくれ」
そう言われ俺達はその銀髪の男性のあとをゆっくりと馬車で移動した。
そしてついにオルグセイラの門をくぐった。
「来訪者の諸君、ようこそ。ここがオルグセイラだ」
目に見える全てに立ち並ぶ家々。
ぱっと見てでも沢山の人々で賑わっている。
想像していたものよりもとても良さそうな国だった。
「ここがオルグセイラか...」
俺はオルグセイラの街並みに驚き、心が踊った。




