第44話【VSヘルベティオス・クロード 後編】
「来るぞ」
ダンダンと力強い足取りでクライド達に迫るヘルベティオス。
そんなヘルベティオスに対してぶつかりに行くクライド。
「ヘルベティオス――っ!」
クライドが接近したその瞬間、ヘルベティオスの両拳が迫った。
ドンッ。
明らかに通常よりも重いパンチ。
身体強化...であることは間違いないがどうもこれまでのとは違う。
ヘルベティオスの身体強化の特徴は一点に集中させる事で通常の強化よりもさらに効果を向上させること。
クライドは何となく勘づいた。
あの液体に何か他にあるのではないかと。
クライドはズズズと後ろに飛ばされたが何とか耐えた。
「魔力が増しているわ」
「そうみたいだな」
ルナも気づいたようだ。
「ヌグウォ!!」
奇妙な声を上げてクライド達を挑発しているヘルベティオス。
その姿は彼自身の意思のない、まさに化け物のような存在だった。
そんなヘルベティオスに恐れながらもクライド達は自身に出来る事をそれぞれ行う。
「お兄ちゃん、あの人はどんな戦い方をしてた?」
「ヘルベティオスは一点集中の身体強化をして戦っていたな。
でも今のあの様子じゃそうでもなさそうだけど」
「ひとまずは攻めてみようぜ、クライド」
「そうかもしれないな」
突如として変異したヘルベティオス。
現在のヘルベティオスはこれまで戦っていたクライドとルナシーラにとってもわからない事だらけだった。
「ならクライ、行くわよ」
「あぁ! あの身体を滅ぼさせるぞ」
クライドとルナシーラがヘルベティオスめがけて走り出す。
だがヘルベティオスはそんな二人を見つめているだけで何も行動をしようとしない。
それはまるであちらも様子見をしているようだ。
「『疾斬』」
左右に散開した二人。
まずはルナシーラがやや離れた位置から斬撃を飛ばす。
その斬撃の進むのと同時にクライドはヘルベティオスに攻めかかる。
「ヌウォ」
ルナシーラの斬撃は見事ヘルベティオスを直撃した。
斬撃の衝突で煙が舞ったところにクライドが剣を突き放つ。
「『穿破』」
クライドの技で煙が風に流され消える。
「!!?」
煙が消えた中にはクライドの剣の刃を掴むヘルベティオスの姿があった。
「がちかよ」
「俺を――倒そうと――愚かだ」
ノイズ混じりの中に冷静沈着なヘルベティオスの声が聞こえたクライド。
何度も剣をヘルベティオスから引き離そうとするが尋常ではない握力で掴んでいるのか中々抜くことが出来ない。
「ウォォォ!」
ヘルベティオスはクライドの剣を若干上に持ち上げた。
そしてそのまま剣の刃を放り投げた。
剣をがっちり掴んでいたクライドは一緒に飛ばされた。
「お兄ちゃん!」
クライドは近くの木にぶつかり止まった。
「どうなってるのよ」
「クライドさんの剣がああも簡単に...」
クライドが吹き飛ばされてから数秒。
皆、一気に警戒をした。
それは不自然に感じた魔力の気配が原因だった。
ズンと重くのしかかる殺気と気配。
何かをしてくると察したのだ。
「来るぞ!」
ヘルベティオスは両拳を地面に打ち付けた。
その瞬間、サユ達がいる方に地面が盛り上がり迫ってくる。
さらにはヘルベティオスは地面の一角を抉り取りそれを宙に投げた。
落下してきた所を拳で殴り、高速で砕けた破片がサユ達を襲いに来る。
「ここは私が!」
ミーシアスが杖を前に突き出した。
「土の精霊よ、私達を守り給え。『土円蓋』」
詠唱を終えるとクライドを除いた全員を囲むように土の壁が生成された。
壁には何度も何度も破片が当たる音が鳴り響く。
ヘルベティオスの攻撃から数秒後、ミーシアスは壁を解除した。
「せこい奴がァ!」
レインは壁が解除される瞬間、大剣を構えた。
「ウォォォォ!」
攻撃を防げたもののミーシアスの壁で視界が悪くなりヘルベティオスの正確な居場所を見失う。
ヘルベティオスはそれを理解し解除されるその一瞬を狙ってきた。
「『大剣飛打』」
レインは重々しい大剣を振った。
それは急いで移動してきたヘルベティオスに直撃した。
その瞬間、爆風が巻き起こったかのように風が吹き、轟音が鳴りヘルベティオスは吹き飛んだ。
「ないす、レイン!」
「おう!」
かなりの勢いで吹き飛ばされたヘルベティオスは木に激しくぶつかった。
「また来るぞ!」
クライドが剣を構え、皆に言う。
「ウォォォ!!」
立ち上がったヘルベティオスは木を足場にして突き放す反動でクライド達に迫る。
「いい加減、目を覚ませ! 星の使い!!」
ロイスが片手でヘルベティオスの鋭い爪を防ぐ。
その後方からクライドの奇襲。
「!?」
ヘルベティオスがロイスと競り合いをしている時、地面がえぐれ鋭い棘となり現れた。
間一髪で躱すクライド。
ロイスはヘルベティオスを押しのけた。
「土の精霊よ、我が敵を幾度となく撃ち滅ぼせ。『土連弾』」
ミーシアスの詠唱。
土の塊がヘルベティオスを襲う。
だが難無く躱されてしまう。
「お前らは――許さない」
意味不明の言葉ばかりを連呼していたヘルベティオス。
しかし今回ばかりははっきりと聞こえた。
「俺の――夢――邪魔は――」
途切れ途切れの言葉。
「――約束をッ!!」
ヘルベティオスが何かをしようとしていた。
皆、一層警戒を強めた。
しかし何かをしようとした瞬間、ヘルベティオスは口から血を吐き出した。
この時、剣と拳をぶつけあったクライドは直感的に感じていた。
ヘルベティオスの身体を強化し硬化させる力、『身体硬化』はあの形態に変化して以降、着実に弱まっていると。
液体による影響なのか、ヘルベティオスの疲労による影響なのか、どちらにせよこれはクライド達にとってチャンス。
「お兄ちゃん!」
「あぁ!」
サユとクライドは目を合わせ頷きあった。
「皆、これが最後だ。今ここでこの戦いに決着をつけるぞ」
一斉に声をあげる。
ヘルベティオスは息を切らしながらもひたすらにクライドを睨む。
「『大剣斬撃』」
レインが剣を振ると一つの斬撃がヘルベティオスへと飛んでいく。
だがヘルベティオスはその斬撃を拳で消した。
「土の精霊よ、我が敵を射る弾丸となれ。『土弾』」
次にミーシアスの魔法が飛ぶ。
一直線に飛んでいった土の塊だったがこれもまたヘルベティオスに破壊された。
「『疾斬』」
ルナの疾風の如き斬撃。
一つ、二つ、三つ、それらは高速にヘルベティオスへと迫った。
一つ目、二つ目はヘルベティオスが何とか対応していたが三つ目の斬撃は直撃した。
それを腕で受け止めたヘルベティオスは後ろへとずれた。
「ウォォォォォ!!」
ヘルベティオスが両拳で地面を何度も殴った。
その瞬間、あちこちから地面が隆起し、それは天へと昇る。
「こ、これは――」
「この攻撃はまずい!」
「今、逃げたら全て終わりよ! ここで終わらせるんでしょ!」
「だけど、奴の力はあの時よりも増しているんだぞ」
「私に任せて」
ルナは剣を見つめ出した。
「お願い...私の今有る体力を全部使っても良いからもう一度だけ力を貸して。
お願い――」
その時、光がふわふわと剣の周りを浮遊し始めた。
しかしクライドとルナを除く他の人からすれば見えないので何をしているのか理解はしていない。
ただ剣から感じる魔力には一同、気づいていた。
「――っ!」
上空から土や石が降り注ぐ中、辺りは静寂に包みこまれた。
ひとつの石が地面にドサっと静寂を断つかのように落ちた。
静寂は収束しその反動は風となりヘルベティオスを襲う。
「『無風』」
ボンッ。
ヘルベティオスの右肩が抉られた。
「みんな走って!!!」
上空から落ちてくる中、クライド達は負傷したヘルベティオスにとどめをさすべく走り出す。
しかし避けるには不可能な破片がクライド達を襲う。
「治癒の精霊よ、彼らの歩みに癒やしの花園を齎し給え。『リーヴ』」
サユが詠唱を終えると走っているクライド・ロイス・レインの傷が治っていく。
だが降り注ぐ破片の量には治癒の速度が間に合わず、完全治癒とはいっていない。
サユの治癒では本来、5の力のダメージを負うはずだったが治癒により負うダメージを1以上4以下にしただけ。
つまり、時間をかければかけるほどサユの治癒は意味を無くす。
まさしく時間勝負である。
「クライ!! やっちまいなさい!!!」
「言われなくともそのつもりだ!」
クライドは加速する。
破片など気にすること無く。
「クライド――お前と言う奴は――ッ!!!」
「これで終わりだ。ヘルベティオス!!!」
クライドの全身全霊。
剣に力が集中する。
「....」
ヘルベティオスの目にクライドの姿が映る。
その次の瞬間、白い空間に女性が立っていた。
***
「姉ちゃんなのか...でも死んだはずじゃ!」
『ヘルベティオス』
女性の声が白い空間に響き渡る。
「姉ちゃんは魔巣で――」
ヘルベティオスの目に様々な情報が断片的に流れる。
子供の頃、姉と喧嘩し合った日々。
稽古をつけて貰ったあの日。
初めて勝負をして負かされたあの日。
出稼ぎで訪れた魔巣。
そこでヘルベティオスの姉は命を落とした。
姉にも勝てぬヘルベティオスは助けられるはずもなくその場から走り出すことしか出来なかった。
『どうしてそこまでするの?』
「どうしてって...それは――」
姉を失って以来、己の無能さに憂い、日々鍛錬を続けた日々。
それでも勝てない。
ヘルベティオスはそこで考えた。
あの強き姉を殺した魔物の力があれば今よりも遥かに抵抗出来ると。
しかし魔巣はそう簡単に入れる場所ではなかった。
だがヘルベティオスは運命的な出会いをした。
「君の望みは?」
「強くなって人を守る」
「なら私についておいで」
過去が流れ再び白い空間へと帰ってきた。
『ヘルベティオス、もうあなたは体を侵食されてしまった』
「――っ、そんな馬鹿な。だって液体は魔素の一部を抽出したもので侵食に至るほどの影響は...」
ヘルベティオスは両膝を崩し地面に座り込んだ。
「ったく。クライドを性能の実験体にしようとしていたが、俺が実験体にされたってわけか。
くそが」
『ヘルベティオス、あなたはもう自由。だから私に囚われないで』
「何今更、言ってくれてんだ」
『私のせいであなたの人生は...』
「...姉ちゃんが家族で良かった」
『ヘルベティオス――』
ヘルベティオスは立ち上がり女性に近づいた。
「なぁ、もう一回、勝負しようぜ。昔みたいに」
『侵食されているとはいえまだ命はあるのよ...』
「俺は確実に強くなったぜ。それとも何だ、まさか姉ちゃん、負けるのが怖いのか?!」
『生意気な事を言うようになったわね! でもそれで良いの?』
「あぁ、今を手放さない為に、な」
***
女性は消え、ヘルベティオスの目には剣を向けているクライドの姿があった。
「次こそは、負けねぇからな!!!」
「――ッ。『裂穿』!!!!」
クライドの剣はヘルベティオスの体を貫いた。
肩を上下に動かし深く息を吸い込み吐くクライド。
ゆっくりと剣を引き抜く。
上空から落下してきていた破片は塵となり消え、ヘルベティオスはその場に倒れた。
「.......」
しばらくして、ヘルベティオスの姿は塵となり空に消え去った。
「これで終わったのか――」
安堵からなのかクライドはその場に倒れ込んだのだった。




