第43話【VSヘルベティオス 中編】
ちらちらと走りながら背後を確認する。
すぐ横には石が落下してくる。
攻撃が規格外すぎる。
でも奴はこの技を発動して以降、あの場所から移動していない。
この技を使うと行動が制限されるのか。
「あと少しよ!」
少しずつヘルベティオスが遠のいていく。
***
あれからほんの少し走った。
ルナの言う通り大草原とまでは行かないが見渡しの良い草原に出た。
近くには舗装された道もある。
「油断しないで!」
相変わらず上から降り注ぐ土やら石達。
一体いつになったら止むのかと思っていたがふと俺達がいた上空を見てみると地面の壁の終わりに差し掛かっていた。
あと少し耐えればこの状況も終わりということだ。
「本当にしつこいわね!」
ルナはまだ精霊の力が使えないため剣を振って何とか防いでいた。
「!?」
直感的に何かを感じた。
とてつもない速い何か。
これはヘルベティオスではない。
もっと大きな存在だ。
もう来る。
「『参斬の太刀』」
何かわからないが高速で移動してきたものに対して技を使った。
すると背後でズドンという重々しい音が鳴り響いた。
後ろには三本の割かれた木が落ちていた。
まさかあの男がこれをこちらに投げつけてきたというのか。
どれだけの怪力なんだ。
「つくづく腹の立つ奴らだなァ!!」
ヘルベティオスの高速の移動。
左腕を失った人間が成せることではないだろ。
右拳で連続して殴りかかってくる。
剣で応戦しながら反撃を繰り返した。
ヘルベティオスの背後からルナが剣を振って不意をつく。
だがヘルベティオスは片腕で対処しながら俺の攻撃を躱す。
どこまで化け物なんだ。
この男は。
もうその言葉しか出ない。
「『加速』」
ルナの相手をした一瞬、俺はそう呟いた。
ルナは剣を振るのをやめ後退。
ヘルベティオスがその状況に気づいた時、俺はもうその場にはいなかった。
もといた俺の場所を振り返ったヘルベティオスに――。
「『一刀斬』!!」
「――へッ!」
馬鹿な。
あの状況でも追いつくのか。
剣がガタガタと震える。
腕に触れているはずの剣はその腕を斬り裂けない。
ヘルベティオスの異常なまでの身体強化によりその力が集中している右腕は何倍もの筋力を得ているようだ。
ヘルベティオスの武器であるこの腕を掻い潜り倒す必要がある。
俺達は今二人。
やれないことはないだろう。
ただ成功するかは保証出来ない。
一か八かの策。
やるしかない。
俺はルナと目をあわせた。
「まだちょっとしか回復してないから対した攻撃にはならないわよ」
「あぁ、それでも大丈夫だ」
俺はヘルベティオスに接近した。
「ついにトチ狂ったか!!」
「あぁ!!」
剣を一振り、また一振り。
案の定、剣はヘルベティオスの右腕で防がれる。
だが今はそれでいい。
「おらおらァ!」
ヘルベティオスの拳が何度もぶつかる。
重い。
だが今は耐えろ。
「『穿破』」
ヘルベティオスは俺の攻撃で少し後ろに下がった。
「『参斬の太刀』」
その隙に畳み掛ける。
「ッ!」
完全には斬り裂けなかったが体に傷をつけることが出来た。
「ちまちまと!!」
「『加速』」
間を詰める。
驚いたヘルベティオスが咄嗟に強化した拳で俺の剣を防ごうとしてきた。
「ルナ!」
俺の剣を防いだヘルベティオス。
その時背後には魔力を剣に帯びたルナが立っていた。
「その魔力は一体!!」
それはフェイクだ。
精霊だからこそできる上っ面だけの帯びる魔力。
ヘルベティオスはその魔力に騙されたようだ。
俺をすぐに押した。
だがその状況からでは間に合わない。
ヘルベティオスの強化が右足に移るのを微かに感じた。
足で防ぐ気だ。
「これで終わりよ!!」
「させねぇ!!」
振り返りながら足を上げるヘルベティオス。
ルナの剣がぶつかった。
「何だこの違和感――」
「きゃっ!」
ルナは蹴り飛ばされた。
「まさかお前ら――!!!」
ヘルベティオスが気づいた時にはもう遅い。
俺の刃が既にヘルベティオスの背中に近づいていた。
「ヤメロォ!!!!」
「『裂穿』!!」
刃が背に触れた瞬間、直線に爆風が巻き起こった。
「よ、よくも――」
ヘルベティオスの背中にはぽっかりと穴が空いていた。
そしてその場に倒れ込む。
「はぁ...はぁ...」
俺はそんなヘルベティオスを見向きもせず通り過ぎルナのもとに何とか移動した。
「だ、大丈夫か」
「私はそこまでよ。クライの方こそそんなんで大丈夫なの?」
「技で体力をかなり消費したから、魔力もあんまり残ってないな...」
「己――クライド!!」
あの状態でもヘルベティオスは這いつくばりながら俺の名を呼んでいた。
「はぁ――、これで終わりだヘルベティオス」
何とか立ち上がる。
だが思うように立っていられない。
「ちょっと大丈夫なの!」
「なんとか、な」
ルナが俺の体を支えてくれてやっと立てた。
「ナメるな。俺は最強なんだ...あの女に指図されようとも己の道を行く」
「何を言っているんだ」
ヘルベティオスはニコッと笑いやがった。
「これがあればあの時と同じ様な事にはならない。俺の人生をかけて追い求めたこれがついに!!」
ヘルベティオスは謎の小瓶を掲げてそう言った。
「クライド・アンサラー、実験体になって貰うぞ!!」
ヘルベティオスは小瓶を握りつぶした。
手を伝って液体がヘルベティオスの口へと流れていく。
「何をする気なんだ....!」
「アァァァァァ!!!」
ヘルベティオスの左腕が再生した。
と思ったら左右の腕が激しく動き変形し始める。
体も足も顔もどんどん変形していく。
化け物と成り果てた。
全身は黒いボコボコした肌。もはや肌とは言えない形をしている。
人間型のあれは両手に鋭い爪の様なものもついておりヘルベティオスの様な屈強な身体つきをしている。
「な、何よあれ!」
「わ、わからない」
まずい、奴がこっちに来る。
でも力が――。
せめてルナだけでも――!!
「『大剣斬撃』!!!」
そんな技を叫ぶ声と共に斬撃が飛んできてヘルベティオスが吹き飛んでいった。
この声はまさか。
辺りを見渡した。
すると近くには馬車が止まっていた。
その中からは――。
「お兄ちゃん!!!!」
「クライド!!!」
「クライドさん!!!」
サユ、ミーシアス、レイン、それにロイスさんまで!!
四人がこっちに駆け寄ってくる。
「みんなどうして!」
「新聞を見て来たんだ。そしたらとんでもない音がしたからこっちに来てみたらこれだよ」
「ほんと、お兄ちゃん――」
サユが抱きついてきた。
「痛い痛い」
「あ、ごめんっ!」
「クライドさん...無事で良かったです」
「あぁ、心配かけて悪かったよ、ミーシアス」
一同、ルナの事を見つめていた。
「ところでそちらの女性はどなた何ですか?」
「詳しい事はあとで説明するけどひとまず友達って事にしといてくれ」
「と、とと友達にはまだなってないわよ!!」
「まぁ、こういうやつだ」
一同、頷いた。
「お兄ちゃん、傷が...。じっとしててね」
サユが俺の傷口に手を近づけた。
「治癒の精霊よ、かの者を癒やし給え。『ヒーリング』」
この感覚も何だか懐かしい。
「あ、サユ。ルナにもやってやってくれ」
「わかった!」
サユはルナにも俺と同じように治癒を施してくれた。
それが終わるとサユがいきなり「そうだ!」と声を出した。
「魔力も回復してあげるよ」
「そんな事が出来るのか!?」
「まだ練習中だからちょっとだけしか回復しないけどね」
「それでも十分だ。ルナにも頼む」
「うん」
サユは目を瞑り集中し始めた。
「治癒の精霊よ、静けき環にて力を巡らせよ。『マナ・リサークル』」
サユが詠唱を終えると俺達の周りに不思議な光が円状に囲いゆっくりと舞い降りてくる。
下まで行くとホワッと光は消えた。
「凄いわ、魔力が回復してる!」
「本当か?」
俺は感じられなかった。
まぁ、俺はあまり魔力を直接使っていないからだろうか。
魔法を駆使出来ない俺にとって魔力の使い道はちょっとした身体強化と体力変換くらいだからな。
「それでこっちに来ようとしてるあれは何なんだ?」
レインが奥を見て言った。
「あれか。あれはヘルベティオスだ」
「まじで? イメチェンきつすぎだろ」
「そんなわけあるかよ。変な液体を飲んだらああなったんだよ」
俺とルナは立ち上がった。
そして変わり果てたヘルベティオスを見つめた。
「再開初っ端の共同戦闘か。俺クライドとの連携いっけかな。忘れちまったぞ」
「何とか行けるだろ」
俺は剣をヘルベティオスに向けた。
「殺ってやる」
「そうね、やられたらやり返すわよ」
ルナもヘルベティオスに剣を向けた。
「そうですね、彼らをこんな状況に仕立て上げた張本人、到底許せません」
「俺もロイスさんに同感だ。ここでぶっ飛ばしておかないと気が済まねぇぜ」
ロイスさんにレインもヘルベティオスに剣を向けた。
「クライドさんと私達を引き裂いた事はぜったいにぜったいに許さないです!」
ミーシアスは杖を向けた。
「そうそう、許さない!!!」
サユは何だか戸惑った後に人差し指をヘルベティオスに向けた。
「グヌウォォォォォ!!!!」
ヘルベティオスが狂ったように恐ろしい牙を見せつけながら叫ぶ。
しかし俺達はその変わり果てたヘルベティオスの姿に恐れる事など無く睨みつけた。




