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第41話【VSヘルベティオス・クロード 前編】

「ルナ、大丈夫か!!」

「えぇ、何とかね」


 ヘルベティオスの攻撃で激しい砂埃が発生しているせいで視界があまりにも悪い。

 この砂埃をどうにか出来たら...。

 そうだ、ルナなら。


「この砂埃をどうにか出来ないか?」

「出来るわよ。でもこの中で派手に行動してしまったらあちらに居場所がバレるわよ。

 きっとあっちもこの状況じゃ、全てを把握しきれていないと思うから」


 確かにルナの言っていることは正しい。

 ただその考えがヘルベティオスに当てはまるかは別。


「見えてんぞ、クライド!」

「!?」


 砂埃のどこからか聞こえてくるヘルベティオスの声。

 

 どこだ、どこにいる。

 砂埃で方向感覚が奪われ、気配が散っている。


「まずはお前からだ」


 とてつもない気配がこちらに迫ってくるのを感じた。

 咄嗟に剣を抜く。


「キャっ」


 何かが通りすぎる音。

 ルナの声。

 さっきまで隣にいたルナはいなくなっていた。


「ルナ!」


 呼びかけるが返答はない。

 次第に砂埃が消えていく。


「――ッ!」


 きっと俺の今の顔はこれまでの中で一番悲壮感の漂う表情をしているんだろう。


「ク、クライ...」


 血を流し、木にもたれかかっているルナ。

 奴の仕業だ。


 急いでルナのもとに駆け寄る。


「まだ平気か!」

「...えぇ」


 ルナの肩をがっちりと掴み問いかけた。

 か細い声でルナは答えた。


「お前の大切なものを少しずつ殺していく。俺に歯向かうということは、俺の顔に泥を塗るということは、それ程の事なのだと今日、ここで思い知らせてやる」

「ヘルベティオス...」


 俺は立ち上がり後ろを向いた。


「俺はお前を許さない」

「何を言う。俺も貴様を許しはしない」


 俺とヘルベティオスは同時に動いた。


 剣と拳が激しくぶつかりあった。


「アハハッ!! どうした!! そんなんじゃ、俺の拳を剣では裂けないぞ!!」

「アァァァァ!!!!!!!」


 剣を握る腕が震える。

 これは恐怖の現れじゃない。

 力の限界。


 力の最大を以てしても強化されたヘルベティオスの拳を貫けない。 

 それどころか僅差にもならない。


「惨めだなァ!」

「グハっっ」


 ヘルベティオスの左拳が俺の腹部に直撃した。

 意識が飛びそうだ。


 剣を握る力が弱まり、ヘルベティオスの右拳が自由になった。

 まずい。

 

 ヘルベティオスの右拳に力が更に集中している。

 何かが来る。

 だがどうしようもない。

 

「『拳衝突波(インパクト)』」

「うっ」


 ヘルベティオスの拳の衝撃で俺は吹き飛ばされた。

 止まろうと抗ってみたものの何も出来ず、俺は木に激突した。


「そんなものか、クライド・アンサラー」


 ヘルベティオスがゆっくりこっちに歩いてくる。

 早く立たないと。

 でも木に激突した痛みとヘルベティオスの拳の痛みでそれどころじゃない。

 何かに刺されるよりも更に辛い。

 痛みがひたすら残り続ける。


「はぁ...はぁ...」

「お前を始末した後はあそこの女だな。せっかくだし協会の資金源にでもしてやろう」

「...させない。させるものか」


 苦しい。

 痛みが止まらない。


「アハハ、出来もしない事を語ってんじゃねぇよ。

 何だ、実現不可能で無責任な理想論を語るのは無能の専売特許か?」

「はぁ....はぁ」


 安い挑発にのるな。

 ここで反応したら奴の思う壺だ。


「だんまりか。少しは期待したんだがな。 

 前回から何も変わってないな」


 ヘルベティオスが目の前までやってきた。


「あぁ、今でも貴様の顔を見ていると虫唾が走る。俺の体に傷をつけやがって」

「うぐっ」


 ヘルベティオスが俺の首を掴んで持ち上げてきた。


「くっ」

「死ね、クライド・アンサラー!!!!」

「――っ」


 だめだ。

 息が...。

 

 段々と視界が暗くなっていく。

 ルナ、逃げ切ってくれ。


「勝手に死なせないわよ!」

「まだ意識があったなんてな」


 ルナが剣を鞘に納めた。


「どうした? 降伏する気か?」


 何をしてるんだ、ルナ。

 そんな事をしていないで早く逃げろ。


「ごめんね、少し痛いかもだけど我慢してね、精霊」

「何を言ってるんだ?」


 ルナの鞘にとてつもない魔力が纏う。

 

「貴様、それは――」

「『無風(シレントラ)』」


 ルナが抜刀したが何も起こらない。

 その瞬間の風も吹かない静けさは死の予兆。


「ッ!!」


 ヘルベティオスはいきなり俺の首から手を離し、その場から離れようとした。


 ボン。


 何かがぶつかったような軽い音がした。

 同時に地面に血がぶしゃっと飛び散っていた。


「貴様、魔法剣士か。チッ、初見殺しがッ」


 ヘルベティオスは左の肩を掴んでいた。

 そこには左腕がなく、ひたすらに血が垂れていた。


 立ち尽くしているヘルベティオス。

 その隙に俺は何とかその場を離れ、ルナの近くに移動した。


「ルナ、今のは何なんだ?」

「精霊が傷つく代わりに抜刀と同時に敵にダメージを与えられるのよ」

「精霊が傷つく?」

「えぇ、これを使うと痛みで精霊はしばらく力を貸してくれないのよ」

「てことはここからは――」

「そう、私は魔法士ではない。ただの剣士」

「そんな事になるならどうして使ったんだ」

「はぁ、クライが死んだら元も子もないでしょ」

「でも」

「良いから、今は目の前の状況をどうにかしましょう。

 相手は(しち)使星しせい、片腕を失ったくらいで私達の差はそう簡単には埋まらないわよ」


 そうかもしれない。

 だって片腕を失っているのに険しい顔をするだけで依然として正気を保っている。

 常人なら気絶でもしている。

 この時点でやはりあの男は超人だと言える。


「この痛み、必ず倍返ししてやる」

「クライ、ごめんだけどここからは私、足を引っ張るかもしれないから」

「あぁ、わかった。ルナに助けられた分、俺は出来る事をするよ」


 一瞬の静寂のあとヘルベティオスが足を踏み込み、前かがみになる。


 地面を蹴る音。

 ヘルベティオスは俺達の目の前に来ていた。


「オラァ!」


 ヘルベティオスの拳が迫る。

 後退しながら拳を剣で受け止める。


 拳を受け流しヘルベティオスの背後を取る。

 そして剣を振った。


「させねぇ!」


 ヘルベティオスは体の向きを変え俺の剣を拳で受け止めてきた。

 何度も何度も斬りかかるがその度にヘルベティオスの拳に防がれる。


 奴は片腕なんだぞ...。


 一瞬だけヘルベティオスの拳から力を感じなくなった。

 そして同時にヘルベティオスは握り拳を作らなくなった。


 どういう事なのかと思っていたがすぐにその理由はわかった。

 ヘルベティオスは足で俺の事を蹴ってきた。


 それまで拳から感じていた同一の力。

 強化を拳から足に変えたようだ。


 蹴りを間一髪のところで回避出来たが、再び足から力が消える。

 まさかとは思ったがそのとおりだった。

 ヘルベティオスの拳がこちらに迫る。


「――っ!」


 俺には当たらなかった。

 ただ剣が拳を真正面から受けた。

 凄まじい力が俺ごと飛ばした。


 何とかズズズと地面を滑りながら耐えた。


「『参斬(さんざん)太刀(たち)』」


 ヘルベティオスはその時、足を地面めがけて落とした。

 地面の一部が抉れヘルベティオスと俺の間に壁を生み出した。


 その壁に斬撃が衝突した。

 斬撃は壁を斬り裂いた。


「こんなものか!」


 確かに斬撃はヘルベティオスに命中した。

 しかし斬撃はただヘルベティオスの体に傷をつけ血を垂らさせた程で斬ることが出来なかった。


 恐らくさっきの土の壁で斬撃の威力を落としたのか。

 つくづく頭の回る男だ。


「そこの女、名前は何だ?」

「私? 教えるわけがないでしょ」

「そうか。まぁいい。クライド、女、戯れはここまでだ。

 貴様如きにこれ以上時間はかけてられない。とっとと殺して俺は上に進む」

「だから何だ」

「俺にここまでの事をさせたお前達を称賛でもしてやる。だがここからそう上手く行くと思うなよ」


 ヘルベティオスの強化が足に集中し始めた。

 しかもこれまで感じていた力とは比べ物にならない程にだ。


「せいぜい頑張って抗うんだな!」


 ヘルベティオスは強化された足を地面におろした。


「『昇崩散(グラッシュ)』」


 辺りは『爆震衝(クエイク・インパクト)』の時の様に揺れ始めた。

 しかし違う点が存在した。

 それはヘルベティオスの周辺にだけ少しの亀裂が入っている。

 

 ヘルベティオスがさらに足で押し込むとまるで押し出されたように地面が隆起した。

 それはどんどん伸びていき、木をも超えた。

 地面はヘルベティオスを囲んだ高い壁となったのだ。


「これは...」


 俺達はこの技が一体何なのか理解が出来なかった。

 ただ壁を作っただけ、しかも自分はその壁の外に出られない。

 

 ヘルベティオスの言っていた抗ってみろ。

 この技には何か凄まじいものがあるというのか。


「砕け散れ!」


 ヘルベティオスの声が聞こえた。

 その瞬間、地面の壁に無数の亀裂が入った。


 空に近い最も高い場所からドンっと重々しい塊が落下してきた。

 俺とルナは目を見合わせた。


「まさか――」


 ヘルベティオスの『昇崩散(グラッシュ)』は上空で地面が砕ける事で広範囲に無差別に攻撃が出来る。

 おまけにどれだけ躱そうとも不規則に落下してくる。


「――っ!」

「んっ!」


 躱しても降り注いでくる。

 おまけに木だらけで上の状況も直前まで見えない。

 場所が悪すぎる。


「ルナ、どこから広いところは無いのか!」

「何よ、こんな時に! でもあるとしたらあっちの方よ! ちょっとした草原があるわ」

「ならそっちに走るぞ」

「え!」


 俺はルナに言われた方に走り始めた。

 

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