第4話【昇格】
ダンジョンを出た俺達は街中を歩いていた。
額の傷はダンジョンから出た直後にサユが治癒をしてくれて今では完治。
流石治癒士だ。
六階層には行かないなんて言ったけど今では少し感謝をしている。
このアザンさんに造って貰った新しい剣を試せたし。
前の剣も凄く良かったが今回のこの剣はさらに良い。
持ちやすい斬りやすい、斬り味も良い。
やっぱり王都一、いや世界一の鍛冶職人はアザンさんかもしれない。
「お兄ちゃん? 魔石どーする?」
「そうだなぁ」
この魔石をカウンターにひょいと出せば恐らくすぐに六階層に行った事がリーシアさんにバレる。
だからと言って出さないわけにはいかない。
せっかくお金になるんだから。
しかもかなりの値になるはず。
「スッと行ってスッと帰ろう」
「それが終わったら買い物だからね! 昨日は行けなかったし」
「わかってるよ」
俺達はギルドに向かった。
***
ギルドについた俺達は早速カウンターに向かった。
俺達が向かったカウンターには受付嬢がいなかった。
少し体を前かがみにして声をかけた。
するとすぐに「はーい」という声が聞こえた。
「あっ! クライドさんでしたか!」
「アールさん、お久しぶりです!」
彼女はアールさん。
俺達がこの王都に来て初めて対応をしてくれたのがアールさんなのだ。
だから俺達は仕事の相談をシルさんかアールさんによく頼んでいる。
でもどうしてアールさんが出てきたのだろうか。
いつもならやる気に満ちあふれているシルさんはカウンターによくいるのに。
「今日はシルさんはいないんですか?」
「そうそう! 今日はお休みの日でね、多分出掛けてるんじゃないかな?」
「そうだったんですね」
「それで今日は何をしに来たの? 依頼ならいっぱいあるよ!」
「今日は依頼じゃなくて魔石を持ってきたんです」
「あぁ! じゃあ、ここの上に置いてね」
サユはバッグからアステリオスの魔石を取り出した。
カウンターに置かれている四角い石の板の様なモノの上に魔石を置いた。
「はいはい! えぇーっと、えぇー、えぇーーーーっと……」
アールさんは魔石をじっくり見ていた。
徐々に様子がおかしくなってきた。
魔石に何かあったのだろうか。
それともしょうもなさすぎたか。
いやそれはないか。
だって六階層のエリアボスの魔石だし。
「えぇーっとクライド?」
「はい?」
「これ、お二人で倒したの?」
「私は何もしてないよ! お兄ちゃんが剣で一太刀!! まぁ、お兄ちゃんなら倒せて当たり前だよ。だってお兄ちゃんだよ、お兄ちゃん!!」
「はぁ……そんなことないよ。サユが指示してくれなきゃ弱点わからなかったし」
「えへへ〜、そんなに褒めても何も出ないよ、お兄ちゃん!」
俺達が会話をしているとアールさんが頭を抱えていた。
そして小さな声で何か呟いた。
でも本当に小さな声だったので何を言ったのかはっきり聞き取れなかった。
聞こえたことはせいぜい『十』という数字だけ。
十……何の数字だろうか。
「まぁ、わかった。とりあえず待っててね」
そう言ってアールさんは右手に手袋をして魔石を布の中に入れた。
そしてそのままどこかへと行ってしまった。
「今日はいつもと様子が違うな」
「やっぱり私達が勝手に六階層に行ってエリアボスを倒したのに怒ってるのかな?」
「そうだろうな。責任はサユだからな」
「って酷い!! お兄ちゃんだってあんなにノリノリに戦ってたのに!」
「いや、別にノリノリで戦ってないって。俺に力があればもっと早く倒せたかもしれないのに」
***
五分ほどが経過した。
まだかなと待っていると二つの袋を持ったアールさんがやってきた。
「待たせちゃってごめんね。これが今回の報酬金です」
袋の大きさからしてあまり入っていなさそうだ。
やはり六階層のエリアボス一体だけではあまり稼げないのか。
「それとお二人の冒険者ランクの昇格についてだけどギルド長の許可をもらえたから手続きを進めるね。冒険者協会へのランク昇格通達についてはこちらでやっておくから」
冒険者ランク?
昇格?
ギルド長の許可?
何のことかさっぱり分からない。
「俺達って次の昇格、まだ先じゃなかったでしたっけ」
「何を言っているの? お二人が倒したのはアステリオス! 十階層のエリアボス!」
十階層のエリアボス?
でもだってあれは六階層にいたはずじゃ。
あぁ、わかった。
十階層のアステリオスの下位互換アステリオスがたまたま六階層に居たということか。
それなら俺が倒せたのにも納得が行く。
にしても下位互換アステリオスでもあの強さ。
十階層の本当のアステリオスならどれだけの強さなんだろうか。
恐ろしい。
「いやだなぁ〜、アールさん! あれは確かにアステリオスだったけど六階層に居たんだし弱いほうだよ」
「お二人共見てください。ここの鑑定結果に――」
石の板を見せようとしてきたその時、後ろから大きな音が聞こえてきた。
思わず振り向いた。
そこには柄の悪い冒険者が三人いた。
どうやらさっきの音は無駄に扉を強く開けた音だったらしい。
というかあの三人少し前に見た気がする。
確か最近問題になっている悪徳冒険者だったけか。
ひ弱な冒険者を狙って金品を奪ったりしているらしい。
なんて下劣な。
と反抗心を燃やしている俺だが勿論、無能である俺も彼らに狩られる対象である事は間違いない。
現にあの三人は偶然かはたまた必然か、どちらなのかはわからないが扉から一直線に俺達の方へと歩いてきている。
圧に周りの冒険者は離れていく。
受付嬢でさえ関わりたくないのか裏の部屋に何人か移動している。
いや、誰か助けてくれ。
「おい、無能ッ! ちょっと金貸してくんねぇか!」
「お金ですか。ちょっと今は持ち合わせがなくて……」
「あぁ? チッ。金がなかったら俺達は今日どの女と遊べば良いんだよ。良いから出せよ。無能でも持ってんだろう。金くらい」
はぁ。
そんな変なお金の使い方をするからすぐなくなると言うのに。
まぁ、まだちゃんとお金を払って何かをしているから良い方か。
そんな風に考えればこの三人、案外悪い奴らでは無いのかもしれない。
「んだ? 出せないならそっちを差し出してもらうしかないな」
一人の男がサユを見た。
「前の貧乏冒険者はすぐに差し出したぞ」
「あれは笑えたな!」
あぁ、やっぱりこいつらは終わっている。
心の底から腐ってるんだ。
「……サユは渡せない。絶対にだ!!!」
「なら、金を出せよ」
仕方ない。
今さっき貰ったあの少ないお金で納得してくれるかわからないけどサユを連れて行かれない為にも渡すしかない。
俺はカウンターに置いていた布の袋を真ん中の男に渡した。
男は袋を受け取った瞬間、あまりの軽さに少し機嫌が悪くなった。
渋々男は袋を開けた。
すると男は驚いた顔をして他二人にも中を見せた。
他二人の男もテンションが高くなった。
「クライド! なんだ、お前、やるじゃんか」
「ありがとな。まさかお前がこんなにくれるとは」
「無能じゃねぇなこりゃあ。有能だ!」
男三人はそのままギルドを出ていった。
はぁ、とりあえずサユに何もなくてよかった。
「あ、あの……良かったの?」
「何がですか?」
「一応あの中に昇格に必要な金額が揃っていたんだけど……?」
昇格に必要なお金。
あぁ、毎回かかるやつか。
ランクは上から10、9、8、7、6、5、4、3、2、1と数字で分けられている。
主に1は初心者。
2〜4は中級者。
5〜7は上級者。
8〜10は伝説的な感じで分かれている。
あくまでこれは俺が見てきた中での思い込みだが。
というかほとんどの冒険者が2〜4止まりだ。
5〜7はたまに見かける程度。
8以降に関しては見たことも聞いたこともない。
そして俺達のランクはというと。
悲しいことにレベル2だ。
アールさん曰く、昇格するらしいので3になるがまだ上級者の域であろう5になるにはまだまだ時間がかかる。
話しを最初に戻しお金に関して。
まず登録にお金がかかる。
んでランクを上げるためにお金がかかるのだがそれは上がるランクに応じて金額が変わる。
1から2になる為にかかったのが確か大銅貨1枚。
「次のランクに上がるためにはいくらいるんですか……?」
あのアールさんの反応からしてかなり高い。
きっとそのはずだ。
もしかしたら払えない可能性もある。
頼む、前回とあまり変わらないでくれ。
「……大銅貨6枚ね」
「6枚……ですか」
いや、払えないことはない。
このあとのサユとの買い物や外食、装備の買い物とかをしなければ。
俺は恐る恐る自分が持っていた硬貨の入った布を開けた。
「お兄ちゃん?」
「ん〜よし、サユ。依頼でも受けようか」
うん、終わった。
布の中には大銅貨6枚しか残っていない。
払えるがそれを払えば俺達はどう生活をすればいい。
くそっ、やはりこの新調した剣が高すぎたか。
いや、剣を妥協するわけにもいかなかった。
大人しく依頼を受けまくるしかない。
「アールさん、昇格でまた今度でもいけますか?」
「勿論! でも残念ね」
「何がですか?」
「あの布の中には銀貨10枚も入ってたのよ」
ということは大銀貨一枚……。
はい??
「んん………いやぁ……あぁ……」
「お兄ちゃん、そんなに悶えてどうしたの?」
「サユに大銀貨一枚……そんなの安いもんさ……」
「明らかに無理してるよね!!!? そこは悩まずちゃんと言ってよ!!!」
もっと依頼を頑張ろう……。
そう心に誓うのだった。