第38話【絶句】
冒険者協会本部。
エルナトが長い黒髪を靡かせて廊下を歩いていた。
カツン、カツンと言う歩く音だけが廊下に響いていた。
「新聞はもう見ましたか?」
エルナトがなにかに向かって問いかけると、足音が増えた。
「勿論です」
「それでカストール、どうでしたか? 厄介な事になっていましたけど」
カストールは歩幅を合わせ、エルナトの隣を歩き始めた。
「至って普通の存在でした。魔力量も突出しているわけでもなさそうでした」
「そうですか」
「どちらかというと隣にいた人物の方が気になりました」
「カストールがそういうのなら何かあるのでしょう。少し警戒しておきましょう」
エルナトは立ち止まった。
「分かりました? ヘルベティオスさん」
「チッ」
右へと繋がっている廊下の所で壁にもたれかかるヘルベティオス。
腕を組んでエルナトを睨みつけている。
「いらねぇよ、そんな忠告なんか」
「そうですか。それでオホールとは上手く出来てますか?」
「目的は達成したが、あいつどうにかならねぇのか。変人すぎるぞ」
「彼は最初からあの様な感じなのでそこはご理解を」
「ったく」
ヘルベティオスは廊下の奥に向かって歩きだした。
「無事に帰って来る事を祈っています」
「やられるようなヘマなんかしねぇ。俺は最強だからな」
「ふふ、面白い冗談ですね。確かニハルさんもそんな事を言って死んでましたよ」
「お前はもう引っ込んでろ」
ヘルベティオスはその後、振り返ることなく歩いていった。
一方、エルナトとカストールは再び廊下を進みだした。
「エルナト様、これからどこに行かれるのですか?」
「近々、使星会議がありますのでその打ち合わせなどをしに行きます」
「では僕もお供します」
「いえ、カストールには少しお願いしたいことがあります」
「一体...それは何ですか?」
エルナトはお願い事をカストールに話した。
しかしカストールはきょとんとした様子だった。
「それは本当に必要なんでしょうか。既に事足りていると思うのですが」
「念には念をです。よろしくお願いしますよ、カストール」
「承知致しました。このカストール・ポルックス、全力で遂行致します」
「えぇ、期待しています」
カストールは去りゆくエルナトに深々とお辞儀をしたあとエルナトが見えなくなるまでその場に立ち止まった。
そしてカストールは大きな窓を見つめた。
「エルナト様、どこまでも聡明なお方だ。一体どれほどの物語をお読みになられたのか」
カストールはヘルベティオスが歩いていった方に歩き始めた。
***
「えぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
ミーシアスが朝一でこれまでに聞いた事のない彼女史上大きい声をあげた。
食べていた朝ご飯すら放棄し、一枚の紙を手に階段を駆け上がる。
「皆さん! 起きて下さいっ!」
クライドの部屋をノック。
そのあとサユとルーアが寝ている部屋の扉を勢いよく開けた。
「サユ、これを見て下さい!!」
「んん...?」
「わはぁぁぁ」
サユとルーアは大きなあくびをして起き上がった。
「どうしたの...こんあ朝から」
「マネストの事が新聞に載っているんですけど――!」
「数日前に制圧したんだよね。それがどうしたの?」
「それです! ほらここの文を見て下さい!」
「ミーシア、まだ眠たいから...あとでね」
ミーシアは再び布団に潜った。
ルーアも一緒になって布団に包まり温まり始めた。
「ここにクライドさんの名前がっ!」
「お兄ちゃん!?」
サユはバッと布団を吹き飛ばしとてつもない速さで起き上がった。
「クライドってあのクライドさんですよね!」
「そうです! あのクライドさんです!」
二人はミーシアスの手に持っている新聞に食いついた。
「ほ、本当だ。この名前はお兄ちゃん...無事だったんだ...」
「ったく、朝からどうしたんだ?」
目を擦りながらクライドの部屋から出てきたレイン。
「流石に勝手にベッドで寝るわけにも行かないから床で寝てるけど、もう体がバキバキだぜ」
「そんな事を言っている場合じゃないですよ! レインさん!」
「ミーシアスがそんなに慌ただしくしてるなんて珍しいな」
「レイン、良いから見て!」
「そうそう! おにいも早く見るべき!」
ミーシアスは方向転換しレインの方を向いた。
そしてサユ達と同様にレインにも新聞を見せつけた。
「クライド・アンサラー....竜殺し!!? あいつ生きてたのか! というか竜殺しって、え?!」
「こうなったらマネストに行くしか無いですよ!!」
ミーシアスが目を輝かせて言った。
「私もお兄ちゃんに会いたいけど、この新聞を見た協会は既に動いてマネストに向かってるかもしれない。
そしたら私達はかえってお兄ちゃんの邪魔になっちゃうんじゃないかな...」
「そんな事はないはずです! それに私達はパーティー、仲間なんですよ! 行方が分からなかった仲間がようやく見つかって、でも危機が迫っている。
なら私達が助けるしかないじゃないですか!!」
「ミーシアスの言う通りかもしれないな。邪魔になったとしても俺達は仲間だ。
助けないなんて出来っこない」
サユは「お兄ちゃん」とポツリと呟く。
「そうかもっ。でもどうやって行くの? あまり派手に動いたら見つかるかもしれないし」
「そこはロイスさんにでも相談してみたら良いんじゃないか?」
「そうですね! では早速!!」
「待て待て、そうすぐに動き出すのは良くないぞ。ここからは慎重にいかないと」
「確かに...」
ミーシアスは新聞を降り一階に降りようとした時、ルーアが「そう言えば」と言って呼び止めた。
「さっきの新聞、続きに何か書いてありませんでした?」
「えぇーっと」
ミーシアスは再び新聞を広げ、続きの文を探す。
「――竜を討伐した。
その討伐では突如として現れたクライド・アンサラーの右腕的存在の少女。
魔法を駆使した剣術で竜殺しに一役買っていた...?」
ミーシアスは指が、もはや体全体が小刻みにプルプルと震えていた。
「ク、クライドさんが他の女性と...」
「まずい、ミーシアスが壊れたぞ」
「こういう時はクライドさんの服を見せると良いんですよね!」
「ルーアちゃん、それはどういうこと?」
「おにいが言ってました!」
「....」
サユがレインを睨む。
レインは慌てて訂正する。
「これは言葉の綾だって。
そ、その寂しかったりしたらその人の物を見たりして感情を宥めたりするだろ? ここ最近はミーシアスがよく寂しがってたから前にクライドが忘れていったタオルを渡してみたら落ち着いたんだよ」
「そうなのね。でもお兄ちゃんの部屋から勝手に何かを持ち出したりしてミーシアにあげないでね。
清楚なミーシアが変態の域に行きかねないから」
「それは確かにまずいな。クライドになんて言われるかわからないし」
「というかタオルも早くお兄ちゃんの部屋に戻して! それとお兄ちゃんの物を使って宥めるのも禁止!」
「じゃあ、どうするんだよ、こいつ」
「そんなの時間が解決してくれるって!」
「それもそうか」
「まずはミーシアを下に降ろそっ」
サユとレインはミーシアスを持ち上げて階段を下り始めた。
その光景を見ていたルーアは「これが仲間!」と目を輝かせていたのだった。




