第37話【一歩進んで】
「...ったぁ」
激しい頭痛がして目が覚めた。
いつも見慣れた天井がそこにはあった。
上体を起こす。
体には布団がかけられていた。
それにベッドに横になっていた。
「これってルナのベッド....」
部屋には俺しかいない。
みんなどこか行ってしまったのだろうか。
「いったぁ」
体を動かすと足と体に痛みが走る。
あの竜の攻撃のせいか。
というか俺はどうしてベッドに...竜はどうなったんだ。
魔巣の暴走も...。
「ん?」
ふと机に置かれているキラキラとした魔石に目が行った。
何ともきれいな魔石だ。
普通の魔物とは違った雰囲気を持っている。
「よいしょ」
もっと近くで見たくなり痛みに耐えながら布団をどかしたらベッドに立てかけられていた俺の剣がガチャンと床に倒れた。
その瞬間、ダンダンダンという音が聞こえてくる。
誰かが階段を物凄い速さで上がってきているようだ。
バンッと勢いよく扉が開いた。
「クライ! やっと目を覚ましたの!」
そこにはルナがいた。
「ルナ、どうしたんだ?」
数秒、その場で固まった後、こちらに近づいてきた。
「どうしたんだ? じゃないわよ。
何日も起きないんだから心配したのよ、ほんと...」
「そうだったのか...色々迷惑をかけたみたいでごめん」
「ほんとうよ、大変だったんだからね」
***
ルナはその後、何があったのか説明してくれた。
まず俺が倒れたあと竜の魔巣から現れていた魔物は消滅。
残りの冒険者達で残された魔巣主を順番に討伐したそうだ。
俺はと言うとロックさんが救護場まで運んでくれてある程度の治療をしてくれたらしい。
ただ完全に治っているわけではないからあまり無理をするなとロックさんが言っていたとルナが教えてくれた。
魔巣災害のマネストの被害は軽いものではなかった。
ただ旧第三都市ルサーリアの様な壊滅的な被害には至らなかったそうだ。
やはりマネストに多くの冒険者がいたこと、また彼らが魔巣に対する知識を持っていた事が大きかったのだろう。
「もうこんな災害が起きない事を願うばかりだわ」
「だな」
「じゃないとこんなボロボロになってまで自己犠牲で救おうとしちゃう人が出てきちゃうし」
「いや...これは何と言うか仕方ないことだと思うんだけど」
「それでもしクライが死んじゃったら元も子もないでしょ」
ルナの言っていることは分かる。
「そうだけど、俺にとって今回の出来事は凄くプラスになったと思うんだ。
いつも俺の隣には優秀な治癒士がいて怪我をしても何も思わなかった。
だからがむしゃらに戦って来たんだ。弱くても必死にな。
でも隣に治癒をすぐしてくれる人がいなくなって、指示をしてくれる人もいなくなって、支援をしてくれる人もいなくなった。
そんな今までに置かれたことのない状況で今回を迎えたんだ。
でもだからこそ俺は一歩進めたような気がしているんだ。
痛みを知って、周りを見て、状況を見極める。昔の俺には出来なかっただろうな。
正直、自分でも驚いているよ、あんな事をするなんて、な。
早く見せてやりたいな、成長した俺を。いや、まだまだ未熟なんだけどさ」
「そうよ。まだまだ私の方が上なんだからね。
だからもっと剣術だけじゃなくて色々私から学びなさい。そしたら立派な剣士になれるわよ」
「ハハハ、そうかもな。よろしく、ルナ師匠」
「何笑ってるのよ! それにその呼び方は何かむず痒いからやめて!!」
ルナがベッドにあった枕を投げつけてきた。
見事に俺の顔に激突。
こんなにはしゃいでいるルナを見るのは初めてだ。
もしかして少し距離が縮まったりして?
それと枕から、そして布団からにいい香りがした。
何と言うかあれだ――。
「良く思うんだけどルナの匂いって分かりやすいな」
「...何よ、いきなり。気持ち悪い」
「えぇ...酷くない?」
「もう良いわ、下にご飯があるから自力で降りてきなさい」
「いや、待ってくれ。ちょっとは手伝ってくれ」
バン。
ご丁寧に扉を閉めてルナは部屋を去っていった。
やっぱり距離は一歩も近づいていなかったらしい。
***
「とても美味しいです!」
「それは良かったわ! クライド君の口に合って」
リーズさんの手料理はやはりいつも美味しい。
どこか懐かしい気分にもなる。
「お父さんはいつになったら帰って来るの?」
「今日も遅いんじゃないかしら」
ゼインさんはどうやら俺が眠っている間の時からマネストに行って復興の手助けをしているそうだ。
俺はその話を聞いて、手伝いますと言ったらリーズさんとルナに全力で拒否された。
「あ、そうそう! これを見て!」
リーズさんは小棚に置いていた新聞を手に取り戻ってきた。
その新聞を自分の体の目の前で広げたリーズさん。
「ここ、ここ!」
必死に指をさしているそのさきには【失星未遂事件、クライド・アンサラーが竜を討伐】と大々的に書かれていた。
一体そんな所を見られたんだとは思いつつ記事を読み進める。
竜殺しという言葉が目に入った。
魔巣主の竜でも竜殺しの判定になるのかと疑問に思ったが言わないでおこう。
「さすがクライド君ね!!」
「私のことも載ってるわ」
ルナが指をさして読み上げた。
「突如として現れたクライド・アンサラーの右腕的存在の少女。
魔法を駆使した剣術で竜殺しに一役買っていた....?」
ルナの指がプルプルと震えている。
「なんで私がクライの右腕になってるのよ!! 私の方が上なんですけど!!」
「いや、まぁ、仕方ないと思うよ。そう見えちゃったんだから」
「なに? 馬鹿にしてるの! この記事は誤ってるわ!」
「まぁまぁ、落ち着くんだ。右腕」
「クライ、今すぐあなたが怪我をした所を殴ってあげようか」
あぁ、なんて恐ろしい女なんだ。
一体どうしてそんな発想がこうもすぐに出てくるんだ。
両親はこんなにも優しいのに、なんという突然変異。
「もういい! 私もマネストに行ってくる」
「じゃあ、俺も行くよ」
「クライは休んでなさいよ、怪我してるんだから」
「一緒に行くのは嫌なのか?」
「べ、別にそう言うわけではないけど...」
「なら決まりだな。早くゼインさん達の手伝いしに行くぞ」
俺はイスから立ち上がった。
「ルナ、良かったわね」
「な、何も良くなんか無い...から!」
ルナはズッと勢いよく立ち上がり、すぐに家を出ていった。
俺はリーズさんに朝食の礼を言って急いでルナの後を追いかけたのだった。




