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第36話【魔巣主 後編】

 竜を追いかけだしてから数分。

 やはり竜はマネストの街を目指しているようだ。

 依然として竜は上空をかなりの速さで飛行している。

 当然追いつけるわけもなく徐々に距離が離れている。


 『加速(アクセラレーション)』で距離を縮めようと考えたが何となく意味がない気がしてやめた。

 たとえそれで竜の飛行に食いつけたとして何が出来るのだ、という話だ。

 ここで無駄な身体強化を施して魔力を消費するのは懸命な判断ではない。


「っもう、あの竜、早く下に降りてきなさいよ!!」


 ルナが怒るのも分かる。

 俺達は森の中をずっと走っている。

 多少は交通の為に整備されているとはいえ森であることに変わりはない。

 その為、道端には石が落ちていたり、木が倒れていたりと厄介なのだ。

 それに加えて、竜を見失わぬよう上空を逐一確認しなければならない。

 ただ追っているだけなのに想像以上に集中力を要し、無駄に体力が消耗する。


「クライ、見て!」

「何だ?」


 ルナが前方を指さした。

 それは最悪な知らせだった。


 指の先にはマネストの街、一軒目の家が建っていた。

 そう、もうマネストについてしまった。

 

 上空を確認する。

 竜は飛行をやめ、地上に降りてきていた。

 少しして竜は家の屋根に降り立っていた。


「りゅ、竜!!!?」

「ギャァァ!!!!」


 案の定、混乱は加速した。

 しかし好機。

 もう降りてこないものだと思っていたが竜はこうして再び舞い降りてきた。

 このチャンスを逃すわけには行かない。

 この場所、このタイミングで屠る。


 剣を握った瞬間、竜と目が合った。

 その瞬間、竜は口を広げた。

 

 灼熱の炎が押し寄せる。


「クライ少年!!」


 ロックさんが俺達の目の前に盾を構えて現れた。

 必死に踏ん張るロックさん。

 炎は盾に阻まれ分散し消失した。


「ありがとうございます!」

「構わない。むしろここからは少年とそこの少女に頼ることになるしな」

「え?」

「俺は盾、そんで俺の仲間は剣士だが、最近剣士になったばかり。

 つまりこの状況であの龍とやりあえるのは君たちだけだ」


 ロックさんがそう言うと奥でロックさんの仲間が「えへへ」と笑っていた。

 全く呑気な人だ。

 誰かに似ている。


「最低限のサポートはするつもりだ。

 このマネストの運命は君たち二人にかかっている」


 いきなり壮大だ。

 俺達に運命がかかっている。

 ルナはともなく俺にも。


「だから――」


 竜は家の瓦礫をこちらに飛ばしてきた。

 ロックさんはそれを盾で弾く。


「後は君たちに任せた!」

「分かりました。任せて下さい」


 何とも無責任な返事をしてしまった。

 出来る保証もないのに。

 でもなんだろうか。

 今までなら弱気になっていそうだけど今は違う。

 出来る気はしないけど結果はやりきれた未来が想像出来る。


 それにルナとこうして二人で一緒に戦うのはなにげに初めてなのか。

 これまでどちらかが攻撃してを繰り返していたからな。


「初めての共同戦闘だな」

「何よ、いきなり。ほんと変な人ね」


 相変わらずノリの悪いやつだ。

 ここは「そうね」とか言うべきだろう。

 せめて俺の発言に肯定してくれよ。


「良いから行くわよ。余計な被害が出る前に」

「分かってるよ」


 俺達は竜が止まっている家に向かって走りだした。

 竜は自分のいる家の瓦礫をこちらに無数に飛ばしてくる。


「っ!」


 何とか躱しながら近づく。

 視線の先では龍が口を広げていた。

 火の粉が微かに見えた。

 また来る!


「クライ、任せなさい!」


 ルナは俺の前を走りだす。

 距離があるのに龍の炎の熱さを感じる。

 

「お願い...」


 炎がどんどん迫ってくる。

 さっきよりも熱い。

 本当に大丈夫なのかこれ。


「クライ、止まらないで!」


 ルナが剣を振るった。

 直撃したかと思われた炎は俺達を避けて二つに分裂した。

 まさか精霊の風の力で炎を退けているのか。

 精霊のちからとは言え龍の炎の勢いに打ち勝つなんて。

 

 ただ風によって多少は熱さも緩和されているがそれでも熱い。

 額からは常に汗が垂れている。

 このままこの火の中にいたら火照ってしまいそうだ。


 そんな事を思っていた矢先、竜は炎を吹くのをやめた。

 今だ。


「『加速(アクセラレーション)』」


 一気に間合いを詰める。

 加速の勢いを一切殺さずに剣を振るう。


「『参斬(さんざん)太刀(たち)』」


 半壊した家ごと竜を斬った。

 瓦礫は舞い上がり龍は血を流し叫ぶ。


「オォォォ!!!」


 竜は叫びながら翼を広げた。

 また羽ばたこうとしている。

 翼を動かし風を地面に向けて送っている。

 少し浮いた時竜は左に倒れた。


「上手くいったか」


 あの時、咄嗟に竜の翼を狙った。

 当たるか確証はなかったがこうして命中出来た。

 片方の翼を負傷した龍はそう簡単に翼を動かし上空に飛ぶことは出来ないだろう。

 つまり龍は俺達と同じ土俵にいる。

 あとはどっちが強いかだけだ。


「でもそう簡単に終わるわけないよな」


 竜は右の翼と足のちからでこちらに飛んできた。

 鋭い手の爪が俺を貫こうとしていた。

 その攻撃を何とか剣で受け止めたが大きな手は俺を包み込み、そのまま押されて飛ばされていた。


「クライ、その先は!!!!」


 遠くから聞こえるルナの声を聞いて後ろを見た。

 俺が見た先には負傷者が待機している場所だった。

 このまま行けば俺だけでなくあの場にいる全員が被害に合う。

 止まらないと。

 止まれ。


「『加速(アクセラレーション)』」


 地面に何とか足をつけ、進行方向とは逆に加速する。

 押し返せなくてもいい。

 止まれば、止まってしまえば何とかなる。


 ルナやロックさん、仲間の冒険者がこっちに来てくれているが到底間に合う距離ではない。

 俺がやるんだ。


「『加速(アクセラレーション)』」


 止まれ。

 止まれ。


「『加速(アクセラレーション)』」

「『加速(アクセラレーション)』」


 加速だけじゃどうにもならない。

 ここで竜を殺すしかない。


「っ!?」


 こいつ...。

 この竜も俺にとどめを刺そうとしているのか、もう片方の手の鋭い爪で足を刺してきた。

 加速で抵抗しているのを理解したのか。


 まずい。

 痛みで加速どころではない。

 地面に足をつけていることさえ出来ない。


「クライ少年!!!」

「クライ!!!!!」


 出来るかわからないけどやるしかない。

 一か八かの攻撃。

 今使えば確実に体力、魔力は持たない。

 でもやるしかないんだ。


「お母さん...!!!!」

「大丈夫よ....」

「早く負傷者を避難させろ!!!!」

「早く逃げろォ!!!」


 何故だか人の声が良く聞こえる。

 怯える子供、慰める優しい声でいて内には恐怖を抱いている者、人命を優先し動く者。

 この街をこれ以上、壊させはしない。


 足の痛みは引き、熱さだけが残る。


 俺に与えられた時間は一瞬。


 これまでを糧に竜を穿て、無能の剣士――クライド・アンサラー。


「終わりだァァ!! 竜!!!」


 竜の爪を防いでいた剣をどかす。

 剣を強く握った。

 竜の爪が俺の体にいくつか突き刺さる。

  

 そんな事気にするな。

 限界を目指せ。


 今だ。


 剣を引き、全ての力を注ぎ込む。

 静寂の中、俺の全身を押す不思議な風。

 

 俺は押されるまま、力を全て突き放つ。


「『裂穿(れっせん)』」


 とてつもない風が巻き起こる。

 剣は容易に竜の手を貫く。

 しかしそれだけには留まらず、竜の胴すらも貫き、宙に血飛沫が舞う。


「オォォォォ......」


 薄暗く淀んだ空に光が訪れた。


 竜は徐々に消滅しその空へと消えていった。


「....」


 俺はと言うと止まれず、そのまま転がった。

 何回か。

 最後の最後でなんてださい着地なんだか。


 それにしても無理をしすぎた。

 今になって全部の疲れが襲ってきた。


「クライ!! 大丈夫なの!!」


 ルナが駆け寄ってきた。


「...まぁな」


 瞼が重い。

 今は瞑っていた方が良さそうだ。


「...悪い。ちょっと休憩」

「えぇ。ゆっくり休みなさい」


 俺は疲れを忘れ瞼を閉じた。


***

***

 

 とある場所。

 

「おい、まだか。この場所を貸してやってるんだから早く作ってくれ」

「....」


 白衣を着た男は黙々と小瓶に液体を少しずつ垂らしている。


「聞いてんのか!!!」


 男は小瓶に蓋をした。

 そして振り返る。


「えぇ、ヘルベティオス様。

 あなたがお望みの物が完成致しました」

「渡せ」

「はい」


 白衣を着た男――オホールはヘルベティオスに液体の入った小瓶を手に渡した。


「無力化した魔巣(まそう)内の微残の魔素を物体に侵食させ、液体化させる。

 これにより容易に生成出来ます」

「よくやった」

「ただし欠点もありますが」

「そんな事はどうでもいい。使えれば良い」

「そうですか。くれぐれもお気をつけて下さい」


 ヘルベティオスは小瓶を握った。


「今度こそはあの男を()()()()

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