第35話【魔巣主 前編】
っくそ。
斬っても斬ってもどこからともなく魔物が湧き出してくる。
こんなんじゃこっちの体力が一方的に消耗していくだけだ。
既に周りの冒険者も長時間の戦闘による疲労で油断し負傷している。
「クライ! そっち!!」
「あぁ!!!」
ただひたすらに斬る。
「はぁ...はぁ...」
「ちょっと大丈夫?」
「まだ何とか...」
「一回休んだ方がいいわよ」
「いや、これ以上戦力を減らすわけにはいかない」
「クライ、後ろ!!!!」
「!?」
俺は後ろから迫る魔物の攻撃に気が付かなかった。
体を振り返るまでには間に合わない。
油断した。
「少年!!」
ドドンッ!!
振り返るとそこには大柄の男性が立っていた。
彼は少し前に会った戦士の――!
「おらァァァ!!!」
戦士の男は魔物の攻撃を押し返すと、手に持っている大きな盾を振り上げる。
盾の下は鋭く尖っている。
その部分を魔物にぶつけ、撃破した。
「ありがとうございます」
「戦場は助け合いだからな」
「...それにしてもこんな数の魔物どうしたら」
戦士の男は魔物を倒しながら答えてくれた。
「魔巣はそれぞれに魔巣主という巣内における支配者的存在がいる。
これを倒すことで魔巣から出現した魔物は消失する。
だがマネストは小規模な魔巣が根の様に繋がっている。つまりは一体の魔巣主を討伐する事で地上に出ている魔物が消えるのだが...」
戦士の男はそこで言葉を詰まらせる。
「どうしたんですか?」
「最悪な事に根繋がりの魔巣だけでなく独立した魔巣も暴走を引き起こしている。
今は根繋がりの魔巣を他の冒険者が討伐に向かっているが独立した魔巣にはあまり人が向かっていない」
俺がどうしてなんだ? と聞く前にルナが答える。
「独立している魔巣の方が魔巣主が強力だからよね」
「あぁ、君の言う通りだ。繋がりのある魔巣があるほど魔力は分散されるんだ。
これじゃあ、かつてと同じ道を辿ってしまう...」
そんな事は絶対にさせない。
短い間だったけどこの街を好きになった。
新しい出会いもあったし新しい交流も出来た。
そんなこの街を終わらせたりはしない。
「俺も行きます。その強力な魔巣主がいる方に」
「良いのか? 他に冒険者がいるとは言え、勝算はあまりない。それでもか?」
「はい。少しでも役に立つ為に」
「わかった。全く良い男だな、少年! 俺はロックだ。よろしくな」
「俺はクライです」
「よろしくな!」
ロックさん...とてもいい人だ。
それに戦士。
今までに戦士の人と一緒に戦ったことはなかったけどさっきの戦闘で確信した。
彼がいればとても心強いと。
「...もう私も行くわよ」
「ルナは危ないから来なくても大丈夫だけど」
「どうしてそうなるのよ。言っておくけど私の方が強いからね! 前の戦いは例外、ノーカン!」
「はいはい、わかった。よろしくな、ルナ」
「えぇ」
近づいてきた小型の魔物を弾き飛ばしたロックさんは言う。
「しゃっあ、行くぞ!」
***
あれからしばらくして俺達はとある場所に連れて来られた。
その場所は森の中。
見たこともない場所だ。
本当にこんなところに魔巣があるのかと思っていると本当にあった。
森の中に大きくひらけた空間。
真ん中には大きな遺跡のような石造りの建物。
「ッ!?」
魔巣の周辺に響き渡る魔物の声。
何人かの冒険者がその存在と対峙している。
「あ、あれは...」
「どうしてあれがこんなところに...」
「あれが魔巣都市マネスト、最大級の魔巣の主だ」
これまで戦ってきた魔物を軽く超える大きさ。
魔巣の主として相応しい大きい翼、鋭い爪、睨みつけてくる狩る者の目。
レヴァントさんが討伐した黒龍よりも格下だが、圧倒的脅威。
「キャァァァ!!」
竜の攻撃に簡単に冒険者が負けていく。
あんなのに勝てるのか。
「わかるか、クライ。俺達はあれと戦わないとならねぇ。
だが、勝った暁には竜殺しの称号を得られる。欲しくないか?」
「まぁ、確かに...」
「俺達に出来ることはここで剣を盾を下げることじゃねぇ、振るうこと、それしかない。
だから行くぞ、結果のことなんてあとで考えろ!」
ロックさんはそう言うと走りだした。
「ロック、やっと来たか!!!」
「あぁ!! 男気のあるやつを連れてきたぜ!」
「ならこっから巻き上げるぞ」
俺とルナは目を合わせた。
「行くぞ」
「えぇ、ついていくわ!」
俺達は互いに剣を抜いた。
そして走りだした。
***
竜が翼を羽ばたかせる度に突風が巻き起こる。
草は巻き上がり、木の葉は激しく揺れ動く。
「『加速』」
他の冒険者と竜が交戦している隙に後ろにまわる。
竜はどうやら俺の存在に気がついていない。
勢いを殺し、剣を強く握る。
声を出し力を振り絞り剣を振るった。
ズサッ。
確かに攻撃が当たった感じはした。
だが竜はそこまで痛そうではなさそうだ。
何と言っても、この皮膚。
あの力いっぱいでこれしか傷を与えられない。
相当の硬さだ。
硬い...もしかしたらルナなら龍に対してダメージを与えられるかもしれない。
「オォォォォォ!!」
響く竜の咆哮。
その時、竜が尾を動かし、それはこちらに向かってくる。
竜の尾は体の大きさ相応にでかい。
だからこそ今避けられない。
「っ!」
俺はとっさに逃げるのではなくその場でうつ伏せになった。
竜の尾は体スレスレで通り過ぎた。
本当に間一髪だ。
「ルナ!!」
「言いたい事は分かってるわよ!!」
ルナは竜に向かって走る。
「行くよ、私の精霊! あの竜に力を見せつけるの! 『風牙』」
竜の外皮に剣の刃が接触した瞬間に無数の刃が竜を襲っている。
ルナが剣に力を乗せる度にどんどんと外皮が削れていく。
やはりだ。
あのルナの『風牙』は強固な外皮に対して強い。
便利な技だ。
「オォォォォォ!!!」
痛みに暴れる竜。
翼を大きく動かし風を発生させた。
「きゃっ!」
ルナは竜の風に飛ばされた。
「ルナ!!!!」
地面に打ち付けられそうになった時、ルナの真下から風がボワッと吹き出て勢いが落ちる。
そしてスタっと地面に足から着地していた。
竜の集中がルナに向いている隙に一度、みんなのもとへ戻った。
なんせ一人後方から攻撃したところで意味がないからだ。
「クライ、俺達が一斉にあの龍の気を引く。
その間に二人は攻撃をしかけてくれ。少しでもダメージを与えられる事が出来れば勝利はこちらのものだ」
「分かりました」
ロックさんは仲間の人と一緒に大きな声を出して近づいていった。
仲間を狙う攻撃をロックさんの盾で防ぎ、そのあと仲間の人と一緒に反撃をしている。
何度も何度も、複数人での陣営を築き、守りも反撃も完璧だ。
竜に一瞬の隙も見せない。
そんなロックさん達に既に龍は集中していた。
「ルナ、もう一度行こう」
「えぇ、出来る限りの事はやるわ」
俺達は剣を握り、よそ見をしている竜に向かって走り出す。
「『疾斬』」
ルナは走りながら剣を振るう。
高速な風の刃が何度か竜に直撃した。
竜は自身を攻撃した方を見渡そうとしていたがそれをしてしまえば今度はロックさん達の方の注意が疎かになり攻撃をくらう。
つまり竜はどの道攻撃をくらうのだ。
「『風牙』」
「『穿破』」
俺とルナの攻撃が竜を襲う。
「オォォォ!!!!!!!」
竜は叫び、体をうねらせる。
そこにロックさん達も攻撃の加勢に入ってきた。
「あぁああああああ!!!!!」
「おぉぉ!!!!!!!」
俺達はただひたすら全力で剣を振るった。
「!?」
竜は突然大きく翼を広げた。
そして翼を羽ばたかせる。
「まさか――」
予感は的中した。
これまで竜は飛ばなかったから魔巣主の場合は飛ばないものだと思っていた。
しかしそんな甘いわけがなかった。
「オォォォォ」
口を広げながらその鋭い牙を見せる。
翼から発生する風は俺達を退けた。
「逃さない!」
ルナが上空に向かって剣を振るった。
「『疾斬』」
何度か刃が竜に当たるが落ちてくる気配はない。
上昇をやめない竜は一定の高さで羽ばたき停滞した。
しかし次の瞬間には移動を開始した。
「あの龍、もしかして――」
ロックさんがそう呟いた。
何となく察しがつく。
竜の進んだ先は、俺達がここまでにやってきた道。
つまりはマネスト。
既に混乱状態にあるマネストに龍が現れれば冒険者の負担も限界を超える。
どうにか食い止めなければならないがそんな事が出来るのか。
相手は遥か上空、対する俺達は地。
魔法士がいないこの現状で一体どうすれば。
「くそっ...」
「ひとまず追うわよ!」
ルナはそう言って竜の進んだ方向へ走りだした。
俺もひとまず竜を追いかけたのだった。




