第33話【魔巣災害】
あれから一週間、魔巣都市――マネストに厄災が訪れた。
「ギャァァァ!!!」
「助けて!」
「逃げろォ!」
魔物を前にして悲鳴を上げる人々。
為す術がなくただひたすら救済を懇願する人々。
周りに危機を知らせ行動させる人々。
建物は崩れ落ち、火が燃え上がる。
息を失った者達は地面に転がり、戦いの痕跡が全てに刻まれている。
多くの冒険者が魔物と交戦する中、俺は変わり果てたマネストの地をただ眺める事しか出来なかった。
頭の中で断片的に何度も過去の記憶が蘇る。
悲鳴、鳴き声、魔物の声、それら全てが過去の記憶を刺激する。
「...ライ!! クライ! しっかりして!!」
ルナに体を揺らされ正気に戻った。
こんな時に何をしているんだ。
「私達も戦うわよ! このマネストの為に」
「ゼインさん達は良いのか」
「お父さん達なら大丈夫。家はここから少し離れているし、それに山の中。
そう簡単には魔物は行けないわ」
「それなら良いんだけど」
それにしても酷い光景だ。
多くの冒険者が集まっているが完全に数が足りていない。
さらには数が多いのにその個々が強力。
これにより一体に対する冒険者の数が増えさらに人数が足りていない。
「ルースター様! メンバーが集まりました、準備完了です!」
「よくやった。ではこの私が出世する為にこの街の者を救ってくるのだッ!」
「「おぉぉぉ!!!!」」
あれは確か協会の....。
変な協会の人の事を見ているとその近くに見覚えのある後ろ姿があった。
黒いコートを羽織、金色の星の紋章をつけた人物。
その人物はこちらを見る事なく魔物が集中して発生していない路地に入り姿を消した。
「おう、少年大丈夫か!」
「お、俺ですか?」
協会の人を見ていると後ろから屈強な男性が話しかけてきた。
男性の手には大きな盾の様なものがある。
戦士なのだろうか。
「ずっと立っているからどうしたものかと思ったんだが大丈夫そうだな。ここは危ないから早く逃げると良い」
「いえ、戦うので大丈夫です!」
「そうなのか。まぁ、くれぐれも怪我をしないようになっ!」
戦士の男性は俺にそう言うと冒険者が戦っている前方へと走っていった。
「助けてェ!!!」
どこからか女性の声が聞こえてきた。
同時に同じ方向から泣く子供の声も聞こえた。
「ルナ」
「ええ」
俺達は目を合わせたのち走りだした。
「『加速』」
「ちょっと――!」
崩れた瓦礫の上で泣きじゃくる子供の姿。
どうやら母親らしき人物は足が瓦礫の下敷きになって動けなくなっているようだ。
そして運悪く大型の魔物が接近してきていた。
女性は子供に逃げるよう叫ぶが子供は離れようとせずひたすら女性を助けようと瓦礫を持ち上げようと試みている。
誰かを失う気持ちは痛いほどに分かる。
だからあの子にはそうなって欲しくはない。
「近づくんじゃねェ!!!!」
「ウォォォ!!!」
走る俺に気づいた魔物。
興味は子供から俺に移った。
素早く魔物の足元に駆ける。
勢いのまま剣を一振り。
魔物の足から血が垂れるが当の本人は何も感じていなさそうだ。
それにしても外皮がやけに硬い。
斬れないほどではないが回数が必要そうだ。
「ママぁ!」
「早く逃げなさい! お母さんは後から行くから」
「やだ!」
絶対に魔物を進ませるわけにはいかない。
「ウォォォォォ!!!!!」
風を感じるほどの咆哮。
「まじか...」
大きな拳が女性、子供そして俺めがけて迫ってくる。
ここは受け止めるしかない。
ドドン。
重々しい拳が剣にぶつかる。
全力で握り剣を押し、両足で少しずつ後退する体を支え抵抗する。
まるでヘルベティオスのような重い攻撃。
耐えれるのも時間の問題だ。
「行くよ、精霊の力!」
その時、遅れてルナが走ってきた。
精霊はルナの周りを動き回ったあと剣めがけて一直線に落下した。
そしてルナは魔物に向かって走る。
「『風牙』」
すぐそばまで来た時、ルナはそう言った。
その瞬間、剣の刃が見える風の刃に覆われた。
「クライから離れろ!!」
ルナが剣を振り上げ魔物にぶつけた。
刃は魔物の外皮に当たると無数の細かい風の刃が剣の動きに連動し魔物を何度も斬りつけていた。
たった一度の太刀で連続的に攻撃されたことで俺の時よりも倍以上のダメージを受けていた。
「ウォォ!!」
これには怯んだようで魔物は俺から拳を離した。
と思ったら今度は足元にいるルナに向かって拳をぶつけようとしていた。
「ルナ!」
俺は加速しルナのもとに駆け寄る。
片腕でルナを抱え、もう片方では魔物の拳を受け止めそのまま流す。
転がる形で攻撃を避けた俺達。
「ありがとう」
「こっちこそ、さっきは助かった。ありがとう」
俺達は立ち上がり剣先を魔物に向ける。
「行くわよ」
「あぁ!」
ルナは再び精霊に声をかける。
「『疾斬』」
ルナは何度も剣を振る。
その度に高速な風の波のような、斬撃のようなものが放たれる。
殺傷力は凄まじく当たる度に血が吹き出ている。
「最後の行くわよ!」
最後の攻撃は魔物の胴体に深く傷をつけた。
そして魔物が弱ったその瞬間を狙う。
「早く行って、クライ!」
俺は駆け出した。
「これでお終いだ。元いた場所に帰りやがれ!!」
剣先を魔物に向けた状態で剣を自分の体の方に少し引く。
両手で力強く握り、魔物が近くなったところで勢いよく前に突き出す。
「『穿破』!!」
空気を巻き込んだ一突き。
魔物の体に突き刺さると一瞬遅れて空気が押し寄せる
巻き込まれた空気の圧が剣に乗りそれは強大な力へと変わり魔物の胴体に少し小さめの穴が出来た。
それでも魔物にとっては致命傷だったようだ。
俺が突き刺したところには魔石がたまたまありそれを破壊出来たようだ。
魔石が破壊された魔物は魔力を失い、魔石と共に消失した。
「殺ったか」
俺は剣についた血を振り払い、一度鞘に納める。
そして女性のもとに駆け寄った。
「もう大丈夫ですから」
「....ありがとうございます」
俺は原因の瓦礫の片方を掴んだ。
「ルナ、そっちを頼む」
「わかったわ」
ルナは反対側から瓦礫を掴む。
息をあわせて思いっきり瓦礫を持ち上げる。
想像以上に重かったが何とか持ち上げきることが出来た。
見た感じ足は大丈夫そうだがあの重さの瓦礫に挟まれていたんだ。
きっと骨折はしているだろう。
でもここらに治療をしてくれる場所なんてわからないし...。
「負傷者ですか?」
顔を上げるとそこには星の紋章が入った白の服を着ている男性が立っていた。
思わず顔を隠した。
「は、はい。足を瓦礫に挟まれていたようで」
「そうですか。ルースター様の救護場があるのでそこまでご案内します」
「よろしくお願いします」
あのルースターという変人。
意外にも優秀な協会の人なのかもしれない。
俺とルナは女性が立ち上がるのを手伝う為に肩を貸した。
「ここからは私がお連れします。冒険者の方は引き続き討伐をお願いします」
「はい」
女性を協会職員に引き渡した。
彼らは魔物のいない方へと歩いていく。
「それにしてもクライのあの技、凄いわね。魔法なしであれでしょ?」
「そうでもないぞ。みんなあれくらいは当たり前にこなしてると思うけど」
「...王都ルグリアは凄いわね」
「ルナだって凄かったな。あの風の斬撃とか」
「ほとんど精霊頼りだけどね。私の力なんて塵みたいなものよ。
それより早く他の魔物も討伐しに行くわよ」
この一度の戦いで最初に感じていた思いが少し晴れたような気がした。
無能であってもあの時のように何も出来ないわけではない。
無能なりに抗える術を手に入れたんだ。
今の俺なら、俺達なら、この街なら魔巣災害から救えるかもしれない。
俺はルナと再び走りだしたのだった。




