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第30話【お義父さん?】

「んふー!」


 両手を腰に当ててこちらを見てくるルナ。


「何だよ、その勝ちを確信している顔は。

 結果を言う前に勝手に決めつけるなよ」

「ふふーん、全く。

 クライは分かってないなぁ。

 この勝負が始まった瞬間から私の勝ちは決まってるのよ!」


 何言ってるんだ、こいつ。


「ささ、今日はもう家に帰るよ」

「結果は言い合わないのか」

「ここで話しちゃったら帰り道、暇でしょ。

 期待してるわよ、クライの敗北伝!」


 こいつ、魔巣(まそう)を出てからやけにテンションがおかしいな。

 もしかして魔素にでもやられたのか。

 

「ボサッとしてないで早く。 

 夜が来ちゃうから」

「わかったから」


 先を行くルナのあとを追う。


***


 マネストを出た俺達はようやく本題の結果発表の時間となった。

 正直自信はない。

 なんせあの魔物に邪魔をされたからだ。

 圧倒的時間ロス。

 別の道を行くべきだったか。


「じゃあ私から言うわね。

 私はね――」


 ルナは肩掛けバッグをパカっと開けて俺に見せる。

 何となくわかっていた。

 帰りの道中、そのバッグからジャラジャラと何かが擦れる音がしていた。

 音からして量が多いのは明らかだった。


 だが――。


「小さすぎじゃないか?」


 ルナのバッグに入っていたのは小さい魔石。

 しかもかなりの量ある。


「こんな小さいので勝負をしようとしてるのか?」

「だってこの勝負は魔石の大きさでもなければ魔物の強さでもない! 求められるのは圧倒的討伐量!!

 なのに時間をかけてちょっと強そうな魔物を狩るなんて勿体ないでしょ」


 ....いやそうなんだけど。

 俺だって好きであの魔物と戦ったわけじゃない。

 できれば弱そうな魔物を狙って討伐数を増やしたかった。 

 運が悪すぎたんだ。


「私は魔石が28個! つまり28体倒したってことよ! これは流石に勝ったわね!」


 28体か。

 これは負けだ。

 魔巣(まそう)から出る帰り道に魔物を狩っていたがそれでも20体。

 8体差もある。


「ほら、クライは何体?」

 

 俺はバッグを開いて見せた。


「20、俺の負けだ」


 ルナはずっと俺のバッグの中を覗いている。

 そんなにも俺の事を馬鹿にしたいのだろうか。

 

「勝負の結果は分かったんだし、帰ろう」

 

 俺はバッグを閉じて歩きだす。


「待って」


 ルナが呼び止めて来た。

 俺は声に反応して後ろを振り向く。


「どうしたんだ?」


 ルナはこっちに近づいてきた。


「さっきのもっとよく見せて!」

「何だ、煽りたいのか?」

「違うから、早く」


 ルナは無理やり俺のバッグをこじ開けた。


「やっぱり....」

「さっきからどうしたんだよ」

「この魔石....」

「あぁー」


 ルナが指さしたのは俺の貴重な時間を奪ったミノタウロスモドキの魔石だ。

 他の魔石よりも大きく、輝いている。

 ダンジョンでも同様に強い魔物の魔石は普通の魔物とは異なる。

 それと同じようなものなのだろう。


「この魔石の魔物のせいで――」


 理由を説明しようとしたのを遮ってルナが話す。


「この魔石は『魔素侵食体(コラプテッド)』のものよ....。

 大きさ的には上位の存在ではないみたいだけど」

魔素侵食体(コラプテッド)?」

「知らないの?」

「聞いたことないな」


 ルナは歩きながら話始めた。


魔素侵食体(コラプテッド)魔巣(まそう)から発生する高濃度の魔素に完全に侵食された存在よ。

 ここでどうして魔物が侵食されたのか疑問に思ったでしょ? それはね、魔巣(まそう)に長期間留まっていることが原因なの。

 数時間、数日、数週間なら大丈夫なんだけど、これが月単位、年単位ともなると話が変わってくるの。

 魔素は生き物や物に侵食しやすい、つまり滞在時間が長ければ長いほど魔素の影響は大きくなっていく」

「魔力を持っていない人はどうなるんだ?」

「厳密に言うと誰しもが魔力を持つ素質はあるの。ただ環境や魔力の入る器の大きさによってはほぼ無に近いってだけ。それで話を戻すけど、 クライが倒した魔素侵食体(コラプテッド)はまだ完全に侵食したばかりだった。だからこそ力は膨大になっていなかったの。それでも魔素侵食体(コラプテッド)になったばかりの魔物の力は侮れないわ」


 整理すると魔素侵食体(コラプテッド)は強い。

 魔素の侵食は時間経過。

 俺はちょっと凄いのを倒した?


「マネストやそのほか魔巣(まそう)が多くある地域にいる冒険者たちは確かにお金稼ぎの為に魔物を狩っている部分もあるけれども第一に魔素侵食体(コラプテッド)になる魔物が発生しないように戦っているの」

「そういう理由があったのか。いや、待てよ。ということは....」

「あの有名な旧第三都市ルサーリアの魔巣(まそう)災害が起きてしまった理由はそこにあるの」

「ルサーリアは昔から冒険者不足だった。ということは魔巣(まそう)魔素侵食体(コラプテッド)の出現を阻止出来ない....」


 あの災害にはそんな理由があったなんて。

 今まで知らなかった。

 でも何故協会は対策を講じなかったんだ?

 協会なら冒険者の派遣だって出来たはずなのに。

 災害発生後も冒険者を派遣せず、さらには他国の支援を阻止しようとしていたという話も噂で聞いたことがある。

 何かあるのか....いやそんな事を考えても無駄か。

 なんせ今は追われている身。

 まずは保身保身。

 

「話はここまで! 疲れたことだし、早く家に帰りましょ!」

「ちょ、待ってくれ。先に行かれたら迷子になるだろ、俺が!」

「そんな事知らない〜。ついてこれないクライが悪いのよ!」

「何だと....なら。『加速(アクセラレーション)』」


 俺は加速しルナを追い抜いてやった!


「どうした、ルナ。追いつけないのか?」

「そっちの方が迷子になりそうだけれど」


***


「ん〜! お腹いっぱい!!」

「そう、それは良かったわ!」


 夜ご飯を食べ終えた俺達。


「クライド君はどうだった? お口に合ってたのなら良いのだけれど」

「はい、とても美味しかったです!」


 大人の女性が作る料理を久しぶりに食べたからなんだか懐かしさを感じた。

 母さんの手料理を食べたい。


「クライド、ちょっとついてきてくれ」

「わ、わかりました」


 俺はゼインさんのあとをついていく。


***


「ここは....」


 家の裏に建っているもう一つの小さな建物。

 その中はどうやらお風呂場になっている。

 でもどうしてゼインさんは俺をこんなところに?


「服は適当にそこら辺に置いといて構わない。タオルは好きなのを使ってくれ」

「あ、はい」


 一体何が起こるのかわからないがひとまず指示に従うことにした。

 服を脱ぎ終えたあと脱衣所を仕切る扉を開けた。

 その先には石で積み上げられある程度の広さで囲まれた場所があった。

 中には水が張っていて湯気が出ている。

 

 ゼインさんは何も言わずにお湯で体を流したあと湯に浸かった。

 俺もあとに続いて同様の動作をした。


「......」

「......」


 あまりにも無。

 流石に気まずい。

 本当にゼインさんは何が目的なんだ?


「この湯は妻が毎回出してるんだ。下に木を入れて燃やしてる」


 リーズさんの事か。

 ゼインさんの言ってることからしてリーズさんは魔法士のようだ。


「ところで今日はルナと二人っきりで出かけたらしいな。

 まだあって間もないのに、()()()()()()()で、なぁ」

「あ、いやそれはぁ....」


 もしかしてその事を追求する為に俺を風呂場に...。

 確かにこのお風呂場で話せば俺は簡単に逃げられない。

 裸で逃げれば良いかもしれないがそんな事をしたら俺は終わりだ。


「その...ルナがギルドに行きたいって言ってて....」

「ほぉー、ルナ、ねぇ。もう呼び捨てしてるのか。

 今日も食事の時、ルナはずっと『クライが....クライが....』ばっかだったなぁ」


 まずい、何を話してもゼインさんの地雷を踏みそうだ。


「俺の一人娘をこうも簡単にたぶらかすなんてなぁ」


 今思えば、そうか。

 ゼインさんは俺が来た時から住むことに難色を示していた。

 結果的には渋々泊めてくれたけど。

 そんないきなりやってきた相手が自分の大切な娘といたら親としては心配する。

 当然のこと。


「すいません。これからは――!」

「ありがとう」

「え?」


 ゼインさんの予想外の発言に思わず声が出た。


「ルナから聞いているだろ、精霊の話。

 幼くして精霊が見えていたルナは周りに自分の精霊の事を紹介していたんだ。

 当時のルナはみんなに精霊がいると思い込んでいてそれぞれの精霊の事を共有したかったんだと思うんだ。でもそんなルナの行動や発言は端から見れば異常。

 いつしか異端児として見られ嫌がらせは増えた。

 それを見ていられなかった俺達は反抗するのではなく逃げる事を選び、人里離れたここに来た。

 しかしそのせいでルナは友達を知る機会がなかったんだ」


 どうしてこんなところに家があるのかと思っていたがルナ達にそんな過去があったとは。

 

「そんな時に君が、クライドが来てくれた。

 確かに最初はこんな奴とは思っていたが今日の夕食で全部俺が間違っていたってわかった。

 あんなウキウキに何かを話すルナは久しぶりに見た。

 だからありがとう、クライド」

「俺はそんなお礼をされるようなことなんてしてませんから....」

「全くそんな謙遜を。出来ればこれからもルナとは仲良くしてほしい。

 あわよくば友達にもなってあげてほしい」

「勿論です。こうして泊めてくれている恩返しとして、精一杯やらせていただきます!」

「頼もしいな」


 ゼインさんはそう言うと少し笑った。

 と思ったらいきなりこっちを見てくる。


「ところで、まさかだとは思うがルナに気があるとか、好きになったとかはないよな」


 い、いきなり何を言ってくるんだ。

 これ絶対否定した方が良いやつだろう。

 なんだかゼインさんはルナへの愛情が凄いし。


「そんな事全くないですよ!」

「何だと!! 全く無いとはなんだ! あんな可愛いルナといてか! ルナが可愛くないと言いたいのか!!」

「あ、いや、もしかしたらあるのかもしれないです」

「あぁ! お前にお義父さんと言える資格はなァァァァい!!!」


 いや、言っていない。

 というか理不尽すぎる。

 何を返しても地雷を踏むんだが。


「まぁ...程々にな。ルナと同じ部屋で寝ているからと言って欲情するなよ。

 そんな事をしたら追い出すからな」

「流石にそんな事はしないですよ!!」

「何だと!? 娘に女性としての魅力がないと言いたいのかァァ!!!」


 あぁ、駄目だ、このひと。

 あんまり話さない方がいいかもしれない。


「どうなんだァァ!! クライドォォォォ!!!!!!」

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