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第3話『エリアボス――アステリオス』

 1、2、3……。

 六階層降りたすぐそこには広大な空間が広がっておりそこには魔物と戦闘している人物、負傷している人物が計8人。

 統率があまり取れていないことから複数のパーティーが魔物に襲われているのか。


「お兄ちゃん、あの魔物って!」


 そこで初めてよくその魔物を見た。

 大きさは俺の2倍、3倍。

 頭部が牛。

 全身が黒い肌。

 強固な鎧を身に着け通常の何倍もある斧を振り回している。 

 これらの特徴からしてあれは牛王アステリオス。

 間違いない。

 魔物の図鑑でみたことがある正真正銘のエリアボス――アステリオスだ。


 六階層からは階層ごとにエリアボスが存在するとは耳にしたことがあったが六階層降りてすぐにエリアボスがいるなんておかしすぎるだろ。


「お兄ちゃん! あの男の人が危ない!!」


 あんな化け物みたいな魔物のを前にして俺に頼られても何も変わらない。

 何が出来るんだ……。


「お兄ちゃん!!!!!!」


 あぁ、もうどうにでもなれ。

 俺はアザンに造って貰った剣を鞘から抜いた。

 

加速(アクセラレーション)


 俺は一瞬にしてアステリオスの真下に移動した。

 立ち止まりアステリオスを見上げる。

 何ともどでかい図体だ。


「モォォォォ!!!!!!!!!!」


 斧の持ち手を地面にドンッと落としてきた。

 激しい砂埃が舞った。


 まさか刃で攻撃して来ないとは随分なめられているらしい。

 まぁ、それもしょうがないことか。


 そんなことより今はあの魔物だ。

 アステリオス、明らかに先程よりも殺気高い。

 相当俺達を殺したいみたいだ。

 だがさせない。

 というかサユにそんなのを見せられない。

 俺は出来るだけをやる。


「モォォォモォォォ!」


 斧を振り回してきた。

 この感じ俺を狙っているのか。

 なら話しが早い。


 アステリオスは馬鹿の一つ覚えみたいに斧を地面に打ち付けている。

 だから回避なんて余裕だ。


 だがやはりあの図体によって振り下ろされた斧。

 威力は凄まじい。

 地面に刃がぶつかっただけで床の石が吹き飛び舞っている。


「お兄ちゃん! あの舞う瓦礫を使って!!!」


 後ろの方から冒険者を治癒するサユの声が聞こえてきた。


「アステリオスは頭部が弱点だからっ!!!」


 足は尋常ではない筋肉により守られ腕、胴は鎧によってしっかりと守られている。

 唯一手薄なのは頭部だけ。

 瓦礫を使って登れってか。

 無茶を言ってくれるなぁ、サユは。


 砂埃が激しいがその中に自ら入った。

 舞う瓦礫に飛び移る。

 瓦礫から瓦礫へとも移る。

 あの魔物、どうやら俺が上にいる事に気づいていないようだ。

 まだてきとうに斧を振り回していやがる。


 舞う瓦礫を足場に煙の中から飛び出た。

 結構高い。

 余裕を持ってあの魔物を見下ろせるくらいに。


「行けっ! お兄ちゃん!!!」


 俺は両手で柄を握る。

 力を込め、剣に体重と重力を上乗せし魔物へと一直線に突っ込んだ。


「オラァァ!!!!」


 声を出しさらに力を込める。

 頭部が弱点らしいがあの硬そうな見た目、もしかしたらの事を考えてさらに全力を出す。

 その瞬間、アステリオスがこちらを見た。

 その瞳は赤かった。


 気づかれたとてこんな状況ではもう止まれない。

 このまま続行だ。

 アステリオスは斧をこちらに下から振り上げてきた。

 俺の剣とアステリオスの斧は激しい突風と爆音を轟かせながら競り合った。


 何とも馬鹿げた力だ。

 それにあの不意に反応していたことも変だ。

 六階層のエリアボスの強さが階層に見合っていない。


「よせ!! 無能クライド! お前ではその魔物は無理だ!!!」

「ちょっとそこうるさいっ!! お兄ちゃんが戦ってるから!!!」

「だがあの魔物は……あのアステリオスは――」


 こんな状況でも無能呼びを欠かさないとはご苦労なこった。

 俺は剣を押し振った。

 斧ごとアステリオスは蹌踉めいた。


「お兄ちゃん! 変更っ! まず腕!!!」


 蹌踉めいたせいでアステリオスは斧を持つ腕が俺より遠ざかった。

 これは好機。

 片手を切り落としバランスをさらに悪化させる。


 近くの壁に一度足をつけ反発でアステリオスへ向かった。

 まだ体勢は戻っていない。


 剣を振る体勢を整えた。

 一度で斬り落とす。


「アステリオス!!」


 スパッ!!!!


 左腕には腕当があったが関節付近にはなかった。

 だからそこをめがけて一太刀。

 気色悪い液体を垂れ流しながらアステリオスの左腕は地面にドンッと落ちた。


 俺は地面に降りた。

 そしてアステリオスに近づく。

 そこでアステリオスの様子がおかしい事に気づいた。

 あいつは今俺を見ていない。

 何を狙っているんだ。


「……っ! わ、わわ私はお、美味しくな、ないですっ!!!


 両手を前に目を瞑って振っている女の子を狙っているようだ。

 それも既に斧を振り下ろしていた。

 いきなり違うやつを狙うなんて、最初のエリアボスにしては厄介な思考を持っている。


「くそっ」


 右足に力を込め、勢いよく踏み切った。

 全速で駆ける。

 間に合うかなんてわからないが一か八か。


 アステリオスの斧は女の子の眼前。

 まずい。


 間に合え。

 間に合え。

 間に合え。


「間に合えェェェェ!!!!!!」


 俺は最後に飛んだ。

 剣を上に構えて。


 女の子に触れ、抱きかかえた。

 その時、剣にはずっしりとした斧の重みを感じた。

 

「……グハッ」


 俺はそのままの勢いで壁に激突した。

 幸いなことに女の子は無事だ。


「あ、ありがとうございます!」

「君は少し離れておいた方がいい……はぁ……はぁ……」

「ですがお兄さんも! 怪我が……顔に……」


 女の子に言われ顔に触れた。

 ぺちゃっという音が微かに聞こえた。

 手を視界にいれると指先が赤くなっていた。


 血、か。

 あの勢いで壁にぶつかったら仕方がないか。

 これも全て俺が無能なせいだ。


「気にしなくてもいい。必ず俺があいつを倒すから」

「……っ!!」


 もはやこれ以上長引かせては俺の体力も持たない。

 無能なりに最期は抗ってみるとしよう。

 弱点が頭部だとしても俺は一撃で殺れる、その場所を狙う。


「もしかしてお兄ちゃん、あれをやっちゃう気なんだ!」

「何をする気なんだ、あの無能。あんなにボロボロでこれ以上無理だろ」

「だから黙って! 治癒しないよ?」

「あ、あぁ……悪かった」


 剣を鞘に納めた。

 俺の後ろには女の子。

 他にもサユに冒険者がいる。

 これで殺りきれないならそれまで。

 無能だって終わりは爪痕を残してやる。


 何かを察したのかアステリオスはこちらにまた斧を振り下ろしてきた。

 しかしもう遅い。


 俺は柄を握った。

 剣を抜いた勢いでそのまま右上に大きく振り上げた。


「『参斬(さんざん)太刀(たち)』」


 3つの見えぬ斬撃。

 壱の斬撃はアステリオスの斧を斬り頭部を斬った。

 弐の斬撃はアステリオスの腹部を斬った。

 参の斬撃はアステリオスの両足を斬った。


 アステリオスは斧を手から手放した。

 重々しい音が広い空間に響いた。

 それに続きアステリオスは足を失い、頭部を斬られたことで制御を失い地面に倒れた。


 数秒もしないうちにアステリオスは魔石へと姿を変えた。

 俺はその魔石の元へ向かう。

 

 紫に光る美しい魔石だ。

 通常よりも恐らく大きい。

 かなりの額になるんじゃないかな。


 俺はそれを拾った。

 すると俺の周りにそれまで倒れていた冒険者達がやってきた。


「クライド……お前、そんなに強かったのかよ。今まで馬鹿にして悪かった……」

「私もごめんなさい。これからは心をいれかえるわ……」


 なぜか皆謝る。

 皆が言う無能は本当なのに。

 実際こうして傷を負ってギリギリで勝つことしかできなかった。

 しかも六階層のエリアボス相手にだ。


「俺は……強くないよ。皆みたいに……」


 口から自然にその言葉が出た。

 皆、静かになった。


 すると後ろから先程の女の子がやってきた。

 その女の子は落ち着いた具合の金髪でまるで宝石の様に綺麗な瞳をしている。

 身長的にもサユと同じくらいの歳だろうか。

 いや、もう少し上の様な気もする。


「さ、さっきは助けてくれてありがとうございます! またいつかどこかでお返しします!」

「別にそこまでしなくていいよ。ただ助けただけだからね」


 さてこの魔石をどうするか。

 俺が独り占めにするのもあれだしな。

 皆の前に魔石を差し出した。


「この魔石の取り分はどうしますか?」

「いやいやいや!! これはクライドが受け取ってくれ」

「え?」

「お前が来なかったら俺達はきっと死んでいたかもしれねぇ。だから恩人のクライド、お前が全部持っていってくれ」

「でも……」


 流石に全部はと思い他の提案をしようとしたがその場にいた全員が無言で首を縦に振り謎の圧をかけてきたので仕方なくその魔石をもらうことにした。

 

「お兄ちゃん! お疲れ様っ!」

「あぁ、指示ありがとう」


 近づいてきたサユに魔石を渡した。

 サユはバッグの中に魔石をしまった。


「一時はどうなるかと思ったけどやっぱりお兄ちゃんは強いね!!!」

「別にそんなことはない……。もう帰ろう。シルさんにバレたら怒られるし」

「は〜い」


 俺達は六階層を登る階段へと歩きだした。


「クライド、本当にありがとな!!!! この事は絶対に忘れねぇから!!!!」


 エリアボスが初めて出現する六階層のくせにボスが強すぎる……。

 サユならどうにかなるかもしれないけど俺がいたらどうなるかわからない。

 今回がたまたま運が良かっただけなんだ。

 

 うん、もう六階層に行くのはやめよう。

 大人しく俺達は五階層ライフを楽しむべきなんだ。


「イタっ!! サユ、早くやってくれ!」

「はいはい、ダンジョンを出たらね」

 

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