第27話『過去と今、そして――』
時は遡り、今から十一年前。
クライドが八歳の時の話である。
この頃から冒険者や国民による冒険者協会への不満は高まっていた。
しかしそんな事など知らない子供のクライドは父――ルーク・アンサラーからありとあらゆる剣術を教えてもらい毎日何時間も特訓に励んでいた。
***
今から十年前。
終わりというものは突然としてやってくる。
当時クライド達が住んでいた旧第三都市ルサーリアが大規模な魔巣災害により被害を受けた。
魔巣から放たれる高濃度の魔素による侵食。
現れ、暴れる魔物。
ルサーリアは冒険者の数が他の地域に比べて少なかった事が仇となり被害は壊滅的だった。
同盟諸国が救助活動、支援をする中、冒険者協会は旧第三都市ルサーリアからのギルド撤退を発表。
さらには協会から救助活動に派遣が来ることはなかった。
この冒険者協会の行動によりこれまで溜め込んできた人々の怒りが大爆発を起こす。
当時の協会本部があった王都ルグリアにルサーリアからの避難民に加え反協会派が押し寄せた。
これが後に失星事件と呼ばれる事になる。
***
戦いが終わったあとのルグリアは悲惨なものだった。
本来ならば魔物による被害でルサーリアだけが危機的状況に陥るはずが反協会派、一般国民の暴動により被害は大拡大。
ルグリアだけでなくその周辺にも影響が及んだ。
これはもはや内乱の様なものだった。
ならば死者も少なくはない。
多くの死者、中には反協会派でもなければ協会の人間でも冒険者でもない、無関係の国民さえも時代の被害者となった。
一方クライド達は避難民の列に入りゆっくりと王都ルグリアに向かっていた。
そのおかげでクライドは直接的な被害を受けることはなかった。
***
これは争いから二ヶ月が経った頃の話である。
「お母さん! 今日も行ってくる!」
「気をつけるのよ」
「は〜い」
多くの家屋が崩壊したルグリアでクライドは母――セナールと二人でルークが持っていたもう一つの家で暮らしていた。
そんな環境で生活をしているクライドのする事は剣の修行でもなく遊びでもなく復興作業だった。
奇跡的に立ち残ったルークの家だが所々崩壊が見受けられる。
それにあちこちに家の崩壊で出来た瓦礫が危険な程に散らばっている。
クライドは暇があれば他の人々と共に一緒に瓦礫をどかしてはまた違うところに貯まる瓦礫をどかしていった。
そんなクライドはある日、家から少しだけ離れた比較的被害を受けていない住宅街に赴いた。
そこはかつての活気はなくひっそりと皆暮らしていた。
ゴミは散らばりとても人間が住んでいる場所とは思えないほどだった。
歩いていると二人の男が大きな声を出して小さい子供に何かを言っている様子をみかけたクライド。
男達の腕には星のマークが入った腕章がついていた。
要するに彼らは協会職員であるということだ。
クライドはそこで気づく。
あの少女に何かするのではないか。
暴力、下手すれば奴隷に……。
クライドの頭の中に様々な憶測が飛び交う。
憶測の結果が導き出されるよりも先にクライドは体が動いていた。
圧倒的体格差がある男達の前に手を広げ立ち塞がるクライド。
男達はきょとんっとした表情でクライドを睨む。
「この子に酷い事はさせないっ!!!!!」
「ガキがナメた事してんじゃねぇぞ」
一人の男が声を荒げると周りに居た人達の視線が一点に集中した。
「…………っ」
クライドの後ろで少女が聞こえるか聞こえないか、それほどのレベルの大きさで何かを呟いていた。
次の瞬間、クライドの背中は暖かくなった。
「おにいちゃんっ!」
少女はクライドにそう言って抱きついていた。
「チっ、自分の妹くらいしっかり見とけよ」
男達はクライドにそう言い残し去っていった。
周りで見ていた人達もどこかホッとした表情をしていた。
「あ、あのちょっと離れて……」
「おにいちゃん……!」
「……っ」
無邪気な少女はクライドに言った。
思わず心が揺らいだクライドだが少女から匂う臭さで一瞬にして気持ちが吹き飛ぶ。
クライドは少女を無理やり自分から引き離した。
「星の腕章がある奴らには気をつけるんだぞ。わかったか!」
「?」
少女は首を傾げる。
クライドは諦めて家に帰ることにした。
「まってっ!」
帰ろうとするクライドに少女はついてきた。
「なんでついてくるんだよ」
「だっておにいちゃんでしょ?」
「は……?」
またも呆れてクライドは歩く。
だがやはり少女は後ろをついてくる。
「家に帰った方が良いぞ。お母さん達が悲しむ」
「…………」
少女は黙り込む。
クライドは振り返った。
「おかあさんもおとうさんもどこにいるかわからない。家もない。
私にはおにいちゃんだけしかいなかった……」
クライドは頭を抱えて悩む。
そんな状況の少女をこれからどうしてあげたらいいのか。
このまま置いていくのか、それともどこかに預けるのか。
しかしまたしてもクライドは考えがまとまるよりも先に体が行動していた。
少女の腕を掴み走るクライド。
「ほら、帰って体洗うぞ」
「うんっ!!」
少女は笑顔いっぱいに元気で返事をした。
***
「クライド……その女の子はどうしたの?」
「協会の奴に……」
「おにいちゃん!!」
事情を説明するクライドに汚れた少女は抱きついた。
「ふふ、ひとまず体を洗わないとね。
ところであなた名前はなんて言うの?」
「わたしはサユ! サユ……そうサユだよ!」
「そう! サユって言うのね。
じゃあサユちゃん、私と一緒に体を洗いに行きましょ」
「うんっ!」
クライドが善意で助けた少女――サユ。
この日から二人は血が繋がっていないものの家族であり兄妹となっていく。
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クライド視点
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「あなたの妹と会った事はないけれど、あなたと妹の間にそんな事があったのね」
「まぁな。
でも時々思うんだ。
あの時サユを助けていて良かったのかって」
「え? それはどういうこと?」
「今はサユを救って家族になって幸せだ。
きっとサユもそうだと思いたい。
でも、決してサユのせいではないが俺はあの日から新しい使命を背負い全てを捨てた。
サユが成長するまでサユを最優先にしてきたんだ」
「良いお兄さんをしてるじゃない」
「だから俺は弱くなったのかもしれない」
「はい?」
これに関しては本当にサユは何も悪くはない。
俺が勝手に助けて、勝手に使命を背負って、勝手に最優先にしただけだ。
勝手な判断をしたのは俺であってサユに非はない。
だからこそ後悔がある。
もしあそこで助けずに後の人生を歩んでいたら。
俺は毎日父さんから教わった剣術を鍛えていただろう。
「俺は無能のクライド。
そう呼ばれている」
「あなたが無能? そうは見えないけれど」
「俺は弱いんだよ……サユはあんなに優秀なのに。
助けられたサユはあんなに凄くて、人生を費やした俺は……。
弱ければ失うものも多い...」
暗闇の部屋の中、俺の横からガサガサと音がした。
多分ルナの布団の音だろう。
起き上がったのか。
「あなたね、聞いてれば『俺は弱い』とか『サユは優秀で』とか、そんな事言ってる暇あるの?
あなたが過去にしたことは称される事で一人の少女を育て上げた事もとても凄い事。
その行動に間違いなんて一つもないわ。
でもあなたはひとつだけ大きな間違いをしているの」
「間違い……?」
「ちょっと過去に執着しすぎ。
後ろ見てどーすんの。
今を見なさいよ。
あなたには才能がある……多分そうだから」
なんで最後、そんなに自信なさ気なんだよ。
そこは自信を持っていってくれ。
「あなたがこれまで積み上げてきたものは決して崩れない。
だからこれからは本当は嫌でしかたないし、面倒くさいし、嫌だけど仕方なーく、私があなたをビシバシ稽古をつけてあげる」
「何でそうなった」
「文句を言わない!! まずはそうね、ひとまずギルドに行きましょ」
「そんな事したらバレるから無理だって」
「偽名を使って登録すれば大丈夫大丈夫!!」
「てきとう過ぎないか……」
本当に偽名だけでやり過ごせるのか不安だけど、確かにこのままずっとこの家にタダでお世話になるのも申し訳ない。
国王から頂いた謝礼金があるとは言え、使いすぎも禁物。
それに全ての事が解決するまでにどれくらいの時間がかかるかもわからない。
時間がかかればかかるほど硬貨は減っていく。
そうなるのなら少しは稼げた方がいい。
だけど俺は何かを作れる程器用でもないし、かといって接客とかも無理だし。
なら慣れ浸しんだ冒険者しかないのか……。
「まぁ、とりあえず明日はギルド行くから」
「いや、ちょっと待て。
ここってルーゼルト王国の端っこだし、ギルドがある街とかあるとは思えないんだけど」
「知らないの? ここからちょっとだけ進んだ所に魔巣都市――マネストがあるのよ」
「そんな所があるのか!」
魔巣都市、マネスト。
ルーゼルト王国は他の国に比べて魔巣が多いという話は何かで見て知っているが魔巣という名が付く都市があるとは知らなかった。
名前からして何だかやばそうな感じだけど。
「そこに行くから、ちゃんと寝るのよ」
「あぁ、おやすみ」
「ん、おやすみ」
その夜はそこで会話が終わった。
俺は明日行くマネストに好奇心を覚え、新たな地での一日目を終えたのだった。




