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第26話『不審者発生』

 クライド失踪から一日。


「もう、お兄ちゃん!!」


 水色髪の少女――サユの声は家中に響く。

 しかしいつもなら返ってくるであろう「わかった」という男の声はなかった。

 その現実を知りサユは心の中で自然とモヤついた。

 と同時にミーシアスの姿が朝から見ない事に気付いたサユ。


「ふふふ……」


 ミーシアスが居ないことを好機と思ったサユ。

 クライドが居なくなってから寂しさを感じていたが部屋に行けば少しはその気持を和らげる事が出来るのではと考えた。

 即決、思い浮かんだならすぐに行動に移す。

 サユは階段を駆け上がりクライドの部屋を開けた。


「お兄ちゃんの部屋だぁ〜」


 意気揚々と扉を開けたサユだったが目に映る光景に驚愕する。

 これから自分がダイブするはずだったベッドには茶髪の少女――ミーシアスが眠っていた。

 まさか先約がいるなんて……驚くサユは一瞬固まった。


「違う違う」


 すぐに思考を回転させ自我を戻す。

 なんでここでミーシアスが寝ているのか、どうしてミーシアスがそんな行動をしているのか。

 自分が納得出来る解を考えるが思い浮かぶのは何度繰り返しても同じ一つだけ。

 しかしサユはそれを納得、理解したくはなかった。

 よりによってミーシアスがクライドの事を……。

 何度も無いと自分に言い聞かせる。


 あ、だから違う。

 今とは関係のない事を考えていたサユはこの状況をどうするか考えた。

 見てみぬフリをするのか、それとも起こすのか。

 既にサユの中で答えは決まっていた。


「何してるの、ミーシア!!!!」


 サユの大きな声がクライドの部屋中に響く。

 声に驚いたミーシアスが飛び跳ね起きた。


「ど、どうしたんですか……?」


 何とも眠たそうな表情。

 クライドの布団を胸に手繰り寄せ、もう片方の手でしょぼしょぼした目を擦る。


「何でミーシアがお兄ちゃんの部屋で寝てるの!」

「それは……寂しいからです」

「っ!?」


 素直なミーシアスの答えに思わずサユはグッと来た。

 自分はその寂しさを誰にもバレず、悟られず、ひっそりとしようとしていた。

 サユはミーシアスの素直さに憧れた。


「良いから。まずは買い物に行かない? そのあとはお兄ちゃんを....」

「行きます。準備するのでちょっと待っていてください」

「わかった」


 サユは部屋を出て扉を閉めた。

 だが起こしたはずのミーシアスは一向に部屋からは出てこない。

 おかしいと思ったサユは再度部屋の扉を開けるとそこには部屋着を脱ぎ下着姿のミーシアスが立っていた。


「サユさん、今度はどうしたんですか?」


 ミーシアスの足元には部屋着が、クライドのベッドにはこれから着るであろう服が置かれていた。

 ここでサユは疑問を持つ。

 流石に()()すぎる。

 色々な事に対して正直すぎる。


「何でお兄ちゃんの部屋にミーシアの荷物があるの!」

「それはそうした方が楽だからです!」


 ニコッとしながら答えるミーシアス。

 ミーシアスはその行動のおかしさに気づいていないらしい。


「良いから、着替えて、荷物を自分の部屋に持っていくっ!!」

「わかりました……」


 サユは部屋を出て、階段を降りる。


「お兄ちゃんがいなくなってから変なことばっか……」


***


「今日は何を買うんですか?」

「ん〜お肉とか買っちゃう? ちょっとは奮発しちゃったり」

「良いですね! 硬貨もまだありますから少し贅沢しちゃいましょう!」


 二人は夕食の内容をそれぞれ想像しながら食材の売っている屋台が立ち並ぶ屋台通りを歩いていた。

 いつもなら三人で歩くこの通り。

 二人はどこか寂しさを感じながらもそれを表に出すことは決してなかった。


「あそこ安いですよ!!」

「ほんとだ! あんな格安で売ってるなんて。私達ツイてるね」


***


 一通りの買い物を終えた二人は帰路を歩く。

 談笑しながら歩いている二人の後ろから「おーい!」という声が聞こえてくる。 

 聞き覚えのある声。

 二人は振り向いた。


 そこには一人でこちらに歩いてくる赤髪の少年――レインがいた。

 二人は「あっ!」と反応した。


「二人は買い物か?」

「そう! 今日は贅沢をしようかなって!」

「あんま使いすぎたらクライドに怒られるぞ」

「確かに……お兄ちゃんなら『せっかく手に入った硬貨を無駄にするな!』って言いそう。

 というか今も言ってそう」


 三人の脳内にはサユの言ったクライドの姿が容易に想像出来た。


「それでレインさんはどうしたんですか?」

「あぁ、俺は剣の手入れをしてもらってたからさ、それを受け取りに行ってたんだよ。

 そしたら二人が居たから声をかけたんだ。

 それとこれからクライドのやつを探しに行こうと思って」

「そうだったんだ。じゃあ私も行くから、まずは荷物を家に持っていこ!」

「わかりました」


***


 ちゃっかり荷物持ち係に任命させられたレインは結局サユ達の家まで一緒に行く事になった。

 家があと少しというところでミーシアスが二人に声をかけた。


「あ、あれを見てください。ふ、不審者ですよ!」


 サユ達の家の前で立ち尽くしている老人。

 その老人は何度か扉を叩いている。

 

「おい、まじかよ。

 老人の不審者とか、強そうだな」

「ちょっと、剣を抜かないでね!」


 ミーシアスとレインはその不審者に警戒心を覚えていた。

 しかしサユだけはその老人に見覚えがあった。

 あの特徴的な顎から伸びるヒゲ。

 真っ黒な杖をついている。


「お、お爺ちゃん!?」

「お爺ちゃん???!」

「お爺ちゃん何ですか!?」


 サユがそう言うとレインとミーシアスも復唱し驚く。 

 声に気付いた老人が三人の方を向いた。


「ほう! サユじゃないか。久しいのう!」

「お爺ちゃん! 久しぶり!!」


 サユは老人の方へ走る。

 それに二人もついていく。


「なんでお爺ちゃんがこんな所にいるのっ?」

「そうじゃのう。何となくじゃ。

 何となく、サユに伝える日が来たと思ったからじゃ」

「伝える……?」

「ん? そちらの二人は?」


 老人がサユの隣を見た。

 レインとミーシアスは慌てて自己紹介をした。


「そうかそうか。あのクライドにも仲間が……」

「お爺ちゃんも一応挨拶しないとっ!」

「そうだったのう」


 老人は杖をカンっと地面をついた。


「ひとまず家に入らんか?」

「何だか長い話になりそうだし、そうだね、入ろ。

 レインは入っていいよ」

「お、おう」


 三人は老人と共に家の中に入った。


***


 それぞれ椅子に座る。

 老人はテーブルに杖を立てかけ椅子に座った。

 テーブルの上で肘を付き手を握り合わせた老人。


「わしはクライドの祖父――アンドルラ・アンサラーじゃ」


 レインとミーシアスは何か考えている、そんな表情をしていた。


「それでお爺ちゃん、話って?」

「そうじゃなぁ――」


 アンドルラは手を解き、椅子の背もたれにしっかりともたれかかった。


「――サユ、お主の()()についてじゃ」

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