第25話『盗み酒で一杯』
「はぁ……」
ルナのベッドの横で寝っ転がっていた。
木造の天井を見上げ溜め息をつく。
王都ルグリアを出て一日目がもう少しで終わる。
サユ達は大丈夫かな。
あのあとは無事に帰れただろうか。
まぁ、他にも沢山の人がいたから大丈夫だとは思うけど。
「あぁ〜あぁ……」
不安、不安だけど今はそれよりただ暇だ。
めちゃくちゃ暇だ。
ルナに戻れって言われたし、一人で林の先に行こうにもここらの地形なんて知らない。
ゼインさんはいなくなってるしリーズさんはさっきどこかに出掛けた。
この家に残されたのは俺とルセルさんだけか。
コンコン。
部屋の扉が叩かれた。
「クライドや、おるかのう」
その声の主はルセルさんだった。
俺に何の用だろ。
「あ、はい!」
返事をした。
「ちょっと話にでも付き合ってくれんか」
ルセルさんからのお誘い。
ちょうど暇していたところだったから有り難い。
「良いですよ!」
「おぉ、ありがとうな。じゃあワシの部屋に来てくれるかのう?」
俺は起き上がり部屋の扉を開けた。
既に歩き始めていたルセルさん。
俺はその後を追う。
***
部屋のあちこちが本棚で覆われている。
本棚にはびっしりと本がしまわれている。
まるで書斎みたいな感じだ。
というかベッドとかないからそうなのだろう。
「そこにでも座っておくれ」
机を挟んで対面するように置かれているソファ。
俺はそれに座った。
ふかふかで座り心地満点だ。
「それでお話って何ですか?」
俺が聞くとルセルさんもソファに座り、話し始めた。
「やぁ、まさかお主に出会えるなんて思いもしなかった」
ルセルさんの開口一番の言葉は予想もしていないものだった。
「どういうことですか?」
「クライド・アンサラー、その名を聞いてすぐにわかったんじゃ。
アンドルラ・アンサラー、瓜二つじゃな」
「な、なんでその名前を……」
アンドルラ・アンサラー。
それは俺のじいちゃんの名前だ。
今はルグリアでゆっくりと余生を過ごしている、と思う。
「ワシとあいつは旧友でな。
何度も共に戦った中なんじゃよ。
だからお主の名を聞いた時はとてつもなく驚いたんじゃ」
「そうだったんですか……」
こんな偶然があるのか。
「でもまぁ、クライドが精霊を見えるのも納得じゃ。
あいつもお主の父さんも見えておったからな。
受け継がれてるのじゃろう」
「受け継がれている……でもルナはルセルさんしか見えてないって言っていたんですけど」
「燃える街にいた孤児であるゼインをワシが拾っただけじゃからのう。
ただルナに精霊が見えているのかはワシにもわからん」
「才能、なんですかね?」
「それなら嬉しいんじゃがな」
ルセルさんはいきなり立ち上がるとソファの後ろから何かを取った。
戻ってきたルセルさんの手には何かの瓶があった。
「さっき奪ってきた酒じゃ。どうだ、一杯飲むか?」
この時間からお酒。
悪くないかもしれない。
でも俺はまだ飲酒ルーキーだから適度に行こう。
「はい! 頂きます!」
「おっ、いいのう。親友の孫と酒を飲めるなんて夢みたいじゃ」
テーブルの横に引っかかっていた入れ物。
そこには綺麗に二つの木のコップ。
ルセルさんが手に取った。
「コップを持っておくれ。いれるぞ」
コップを両手で掴んだ。
ルセルさんが注いでくれた。
「ありがとうございます」
ルセルさんが自分のコップに注ごうとしていたので「俺が注ぎますよ」と言った。
やっぱりこういうのは俺がやらないと。
「おっほっほ、ゼインはこういうことをしてくれんからのう。
嬉しいよ」
注ぎ終えたら瓶をテーブルに置く。
コップを持った。
「それじゃあ、この出会いに乾杯!」
俺とルセルさんは互いのコップを当て合った。
そしてグビッと喉に流し込む。
くぅ、食べ物がないのが惜しいがこの時間に飲めるだけで幸福だ。
サユがいたら絶対に無理だったからな。
最近は制限させられてたし。
「それで、クライドの父さんは元気か!」
「父さんは……もう……」
「そうか。考えなしに言ってすまないのう。
そういった話は聞いてなかったもので……」
俺の父さん、ルーク・アンサラーは魔巣災害、失星事件の戦いで亡くなったと聞いている。
長い事家にいなかった父さん。
俺達には何も言わずにだ。
「ルークは立派な魔法剣士じゃった」
「そうだったんですか!」
「何じゃ知らんのか」
「はい。剣士であることは知っていたんですけど....なにせよ父さんはあまり家に居なかったので。
基本は俺と母さんだけでした」
酒を一口呑んだルセルさん。
コップをテーブルに置いた。
「あぁ、間違いなく最強じゃった。
ルークに斬れぬものは大切な者達くらいじゃったからな」
父さんはそんなに強かったのか。
いっとき父さんから剣術を教わっていたけど、今覚えば教え方も完璧だった。
なんで俺は気づかなかったんだろう。
「一度くらい本気の父さんを見てみたかったです」
「それはもう凄いぞ。剣術も魔法制御もピカイチだったからのう。
それなのにルークはあの――」
ルセルさんが何かを言おうとした時に部屋の扉が勢いよく開いた。
そこにはゼインさんが立っていた。
「父さん!! また勝手に酒を持っていっただろ! もうやめてくれ。
酒は夜って言っただろ。あと独り占めをするな!」
俺はそーっと持っていたコップをテーブルに置いた。
***
林に囲まれたこの場所の夜はいつもの夜よりも暗く感じる。
夕飯を頂いた俺は今ルナの部屋にいる。
これから寝るそうだ。
時間も時間だから樽湯は明日の朝に入ることにした。
いや、本当は今日入ろうとしたのだが俺が入る事を知らなかったルナが火を止めてしまったらしい。
もはや嫌がらせだ。
ガチャ。
楽な格好に着替えたルナが部屋に入ってきた。
「何? ジロジロ見て」
「別に見てはないけど……」
「あっそ」
ルナは俺の前を通りベッドに乗った。
そして横になっていた。
「…………」
「…………」
互いに喋ることなく部屋は静かだ。
「……変な事する気?」
「しないって」
静寂を断ち切る一声がまさかそれだなんて。
どれだけ俺は信用されていないんだ。
会って間もないけど、ちょっとくらいは信用してくれても良いと思うけど……。
「灯り消して」
小棚に置かれていたランプの火をふっと息を吹きかけ消した。
「ありがと」
部屋は一気に真っ暗になった。
俺はリーズさんが用意してくれた布団に包まり温まる。
床で寝付けるのかと思っていたが枕と布団があるだけで眠れそうだ。
「あなた、協会に追われてるんだってね」
「何でそれを?」
「おじいちゃんから聞いた。
でも別に私には関係ないことだから気にしなくても良いよ。
それに協会が言ってることが本当かもわからないしね」
いつの間にルナに話していたんだ。
「王都から逃げてきたって事は家族はどうしたの?」
「父さんはもう亡くなってて母さんは買い物に行ったきり帰ってこなかったんだ」
「……なんかごめんね」
「いや、良いんだ。今は俺には仲間と妹がいる。
それだけで充分なんだ」
「妹がいるんだ。どんな子?」
「そうだな 。
俺にはあまりにも似てなくて、強くて有能で、それでも実は人一倍寂しがり屋な、普通の女の子だよ」
今頃、大泣きしてるんじゃないか。
いや、そんな事はないか。
サユはもう子供じゃないんだから。
「妹と仲が良いんだね」
「そうなのかな。
でも俺はただサユの理想でいるだけであって、そこには何もないのかもしれない」
「どういうこと?」
「話すと長い時間かかるんだけど……」
俺は上体を起こしルナの方を見た。
ルナは俺と反対側を向いて横になっている。
「いいよ。夜は長いからね」
ルナはこっちに体を向けた。
俺はルナのベッドにもたれ掛かる。
「なら話すよ」
「うん」
肌寒い部屋の中。
月明かりが部屋唯一の窓から差し込む。
布団を身に寄せ、俺は口を開いた。
「じゃあ、最初は俺とサユの出会いから話すよ」




