第24話『三つ目の道』
「それでどうしてあなたは当たり前の様に私の部屋にいるのよ」
この女性も嫌がっていたし正直俺も初対面の人と一緒に同じ部屋なんてお断りだ。
だから何度も拒んだが何やかんやありリーズさんに押し切られてしまった。
今はもう、泊めてもらう身だから何かを拒むのはやめた。
それでこの家を追い出されたらあの変な人達がいるマーセル村に行かないといけなくなるし。
「リーズさんの指示なので」
「はぁ……お母さんの言う事は聞かない方が良いよ。
滅多に人が来ないからってはしゃいじゃって」
ルナさんはそんな事を呟きながらベッドの上に座った。
俺は未だに扉の前に立っている。
そんな俺を見てルナさんは「はぁ」と溜め息を吐く。
「……お母さん達に何か言われるのも面倒だからこの部屋にいる事は許してあげる。
でも寝る時は床ね。
あと変な事したら許さないから」
「部屋に居させてもらえるならそれでも充分です。
ありがとうございます!」
「荷物は端の方に置いといていいよ」
「あ、はい」
着ていたコートを綺麗に畳んで机の上に乗せる。
「あなたどこから来たの?」
「王都ルグリアから来ました」
「へぇ、結構遠いところから来たんだ。
それにしても何でわざわざこんな何も無い所に来たの?」
「なんとなくで……」
「そ。立ちっぱもあれだから椅子に座っていいよ」
椅子の背を引っ張り座った。
ルナさんがこっちを見てくる。
「そう言えば自己紹介してなかったね。
私はルナシーラ・ウェルナン」
「クライド・アンサラーです。
ルナシーラさん、これからよろしくお願いします!」
ルナさんは改めて見ると多分かなり美人だ。
落ち着いた金髪は肩より少し長い、透き通った水色の瞳……睨みつけてくる瞳。
「ど、どうしたんですか?」
何故かルナさんは俺の事をまたじーっと見てきた。
何かついてるのかな。
「ねぇ」
「はい」
「呼び方、ルナで良いわよ。
お母さん達もそう呼んでるし」
「そうですか。
わかりました、ルナ」
部屋の中は静まり返った。
俺、なんか変な事言ったか?
「敬語もナシ。違和感凄すぎるから。
それにこれからしばらくの間はこの家に住むんでしょ。
ずっとその接し方で居たいなら別に良いけど普通にしてた方が楽よ」
確かにそうだ。
ずっと気を使って話さないといけないのは苦。
「わかった、これからはこんな感じで行くよ」
「そ。じゃあ私はちょっと外に行ってくるから。
くれぐれも変な事はしないでね」
「わかってるよ」
ルナは壁に立てかけていた鞘を手に取った。
まさか剣士なのだろうか。
その剣を持ったルナは部屋を出ていった。
「!?」
ルナが部屋を出た直後、外で見た光の球が現れた。
光の球はまたふわふわと浮遊しながら部屋の外に出た。
気になった俺はその球を再び追いかけてみることにした。
***
家を出たルナ。
家の前の拓けたところで立ち止まった。
剣を抜いたルナは鞘を地面に置いた。
「おいで」
ルナが優しい声で囁いた。
すると滞空していた光の球がルナの周りを飛び始めた。
二回、三回ほど周ったところで光の球は剣にぶつかった。
ただぶつかったわけではない。
俺はその光景を見て驚いた。
剣が一瞬だけど間違いなく輝いた。
もしかしてあの光は……。
でもそんな事があるのか。
家の扉の前で立ち尽くしながらルナの様子を見ていた。
それも興味津々でだ。
一体あれの正体が何なのか気になる。
「…………」
聞いてみようと数段の階段を降りようとした。
剣を構えたルナと目が合った。
「……何してるのよ。ストーカー」
ス、ストーカー呼ばわりなんてサユにもされたことないのに。
「あ、いや別にルナを追ってきたわけじゃなくて光の球を――」
「え!!」
ルナは目を大きく開き驚いた。
そしてこっちに速歩きで近づいてくる。
「な、何だよ」
近づいてくるルナに恐怖を覚える俺。
何かされるのではと思った。
「さっきなんて言ったの? もう一度言って」
ルナはかかとを上げて顔を近づけてきた。
「ルナを追いかけてきたわけじゃない」
「そのあと!」
「光の球を追いかけてきた」
「そ、それ! あなた、見えるの?」
「まぁ、その光を追いかけてここに来たし」
ルナは俺の顔から離れた。
その後何やら一人でぶつぶつと呟いている。
「そんなことあるの」とか「あり得ない」とか「もしかしてこの男……」とか。
それらの言葉が意図することは何もわからないけどやはり光の球はルナやリーズさん達の反応からするに何か特殊なものなのには間違いない。
ただそれが何なのかという肝心なところが分からない。
「本当に見えるの?」
「うん。さっきルナの剣に光の球が入っていくのを見たし。
それでその光の球って何なんだ?」
「剣に入るのも見たの……? あなた何者?」
いや、それはこちらのセリフなのだが。
「……お父さん達があなたをこの家に泊める事を許した理由が何となくわかったわ」
「どういうことなんだ?」
ルナは一人で納得しているが俺には一切何も理解出来ていない。
「光の球――所謂、精霊なのよ」
「精霊?!」
精霊と言えば火・水・風・土の四大属性の由来にもなっている超自然的な存在。
でもそんな精霊が何故ここを漂っているんだ。
「何を言ってるの? って感じよね。
でもこれは事実。
私が幼い時に出会ってから一緒にいるのよ」
「実際に見えているから信じるよ」
待てよ。
精霊という存在は本来、視認することは出来ない。
ただ魔力を多く保有していると精霊を見れるとは聞いたことが有る。
ルナは魔力が多いから、それだけで見える原因が分かるが俺はそんな魔力を持っていない。
なのになんで見えているんだ。
「それよ!」
「え?」
「なんで俺は見えてるんだ? みたいな顔してる。
そうなのよ。
おじいちゃんを除いて見えるのは私だけ。
なのにあなたは何で見れるのよ」
そんな事で怒鳴られても困る。
俺だって精霊が見える事に驚いている。
原因だってわからない。
「んで、精霊が剣に入ったのってどういうことなんだ?」
「私は幼い頃、何の才能もなかったの。
でもこの精霊と出会った時から変わった。
ねぇ、あなたは魔法剣士って知ってる?」
「それは、まぁ」
ルナは俺から少し離れて剣を構えた。
「成るには剣の技術と魔法制御が必須。
そしてもう一つは魔剣を手にすること」
ルナの言う通りだ。
魔法剣士に成るにはその二つの道がある。
「でもね、私には三つ目の道があると思うの。
それはね――」
ルナは剣を両手で握る。
振り上げ、勢いよく振り下ろした。
その瞬間、突風が巻き起こる。
風が刃となり空を斬る。
風の刃はいとも簡単にずっしりと生える太い木を真っ二つにしてみせた。
「――精霊を仲間にすること」
ルナはとんでもないことを口にした。
誰がその三つ目の道を選ぶだろうか。
否、あのレヴァントさんでも選ばないだろう。
それほどぶっ飛んだ考え方だ。
「何よその顔っ! 私が馬鹿みたいな考え方をしてるとでも思ってるんでしょ!!」
バレたか。
というかなんでそんなに俺の心の声が分かるんだ。
エスパーかよ。
「いやその、考え方はわからなくもないんだけど……」
ぶっ飛んだ考え方だ。
でも理屈は正しいと思う。
剣の技術、魔法制御の二刀流を成し遂げるか魔剣を手に入れる。
これらは普通では出来ない。
だから魔法の根源である精霊を仲間にして剣に膨大な魔力を付与する。
「何よ」
「普通はそんな事を考える人はいないかなぁって」
ちゃんと言うならば発想がぶっ飛んでいる変人。
いや、こんな事直接は言わないけどね。
そんな事したらこの家に居られなくなる。
「まぁね。超人である私だからこそ思いつくことよね」
いや、だから変人だ。
「あはは、そりゃ凄い」
「そのてきとうな感じやめてよ。
というか私これから特訓するんだから家に戻って」
「わかったよ」
まだ気になることもあったから話をしたかったが言う事を聞かなかったら何をされるかわからなかったので従い俺は家に戻ることにした。
戻る途中で俺はとあることを思った。
魔法剣士になってみたい。
昔そんな幻想を抱いていた事もあった。
今ではそこまで思っていない。
ほぼ無理だと思っているからだ。
でも今日、ルナの話を聞いて思った。
「精霊、か」
魔法剣士を目指す三つ目の道。
その選択肢も良いかもなんて思ってしまった。
俺も変人になってしまったのかもしれん。
一つ目は無理だし、二つ目は手に入るかわからないし、三つ目は精霊が見えてもどうやって仲間になるのかもわからないし。
本格的に目指すとなったらルナみたいな変人的発想で四つ目を生み出すしかないか。
「あはは……」
何言ってんだ俺。
本当におかしくなったのか。
魔法剣士になることは疾うの昔に諦めただろ。
「はぁ……」
ガチャ。
溜め息を吐きながら俺は家の扉を開けた。




