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第23話『光の球』

 馬車から見える景色はいつもと違った。

 すぐ周辺を見れば広がる草原。

 奥を見れば点々と立ち並ぶ木々。

 晴天の空。


 やや広めに整備された土の道の上を走る馬車は徐々に速度を落としとある場所で停まった。


「兄ちゃん、ついたぞ」

「ここが....」

「あぁ、俺は用事があるからこれ以上はついていけない。だから――」


 マーレさんは馬車から降りて荷台の入口にやってきた。


「これをやるよ。流石にそのままってのもあれだからな」


 マーレさんの手にはフードのついたコート、小さな布袋があった。

 受け取る為に俺も馬車を降りた。


「良いんですか?」

「あぁ、でもその代わりしっかり逃げ切れよ」

「はい。本当にありがとうございます!!」

「....よし、早く行け。他の奴に見られたらまずいからな」

「は、はい! マーレさん、本当にありがとうございました!」


 俺は何度もマーレさんに感謝をした。

 少し離れると手を降っていたマーレさんは馬車に乗り込んだ。


 そして馬車は旋回しネスタナ王国の方へと戻っていった。

 俺の目の前にはお世辞にも立派とは言えない貧弱な柵がありそれは横に大きく伸びている。

 柵の内側には広がる畑、規則性もなく建っている木造の家々。

 無邪気に遊ぶ子供、洗濯をする大人。

 王都ルグリアではそう見ることがない光景が広がっている。


 俺は早速マーレさんから貰ったコートを身に着けた。

 着心地抜群だ。

 しっかりとフードも被る。

 布袋はひとまずポケットにでもしまっておこう。


 柵の近くには木の板があり、そこには『マーセル村』と書かれていた。


「ママー、あそこに不審者がいるよ?」


 え、どこどこ?

 自分ではない事を願ったが少女の指す先は完全に俺だった。

 なんで不審者何だ。

 あ、もしかしてこのコートが原因か。


「近づいちゃダメよ。何か持っているかもしれないし」

「おい、あいつ剣持ってるぞ!!」


 ゾロゾロと男たちが集まってくる。

 どうやらコートから剣が少し見えたみたいだ。

 でも剣を持ってるだけで不審者扱いって酷すぎない?


「お前、この村を襲う気だなッ!!」

「皆、行けェ!!!!」


 男達は手に危なそうな物を持って俺の方に走ってくる。


 いやいや待って。

 いきなりそれはないでしょ!

 ひとまずここから離れよう。


 俺は林っぽい方へ走った。


 到着早々、終わりそうだ。


***


「はぁ……はぁ……」


 男達の声は聞こえてこない。

 振り切れたか。

 それにしても無駄な体力を使わされた。

 何なんだあの村は。

 

 辺りを見渡しながらフードをどかした。


 何だか不思議な感じがする。

 それでも普通の林でしかないんだけど。

 でもあまり生き物がいない気がする。

 もしかしてとんでもない魔物が住んでたりして……。

 いやいやそんなまさかね。


 ガサガサ。


 近くの茂みから何かが動く音がした。

 恐る恐る近づいてみることにした。

 茂みをかき分けるとガサガサと何かが横に移動した。


 フワッ。


 何かが出てきたと思ったらよく分からない光の球だった。

 触れてみようとしたらその球は逃げるように林の奥へと進んでいく。

 気になったので俺はその球について行ってみることにした。


***


 どれくらい経っただろうか。

 多分、十分くらいだろうか。

 光の球は俺の歩くペースに合わせて進んでいってくれる。


 もしかして俺を案内してくれているのか?

 でもこの光は何なんだ。

 生き物?

 いやこんな生き物みたこともない。

 なら新種の魔物なのか!


 柄に手を近づけた。

 するといきなり林から抜けた。

 光の球はふわふわと浮遊しながら目の前にポツンと建っている家の中に入っていった。


 何だここ。

 どうしてこんな林の奥に家が一軒だけ建ってるんだ。


 言いたいことは沢山あるが今は非常にきまずい状況だ。

 恐らく洗濯物を干している途中であろう女性が剣を抜こうとしている俺と目が合ってしまった。

 別に敵意があるわけではないと伝えようとしたその時、背後から気配を感じた。

 物凄い何かが後ろにいる。


 咄嗟に剣を抜いて振りかえった。

 どっしりとした重みが剣に乗る。


「お前、ここで何をしていた」


 物凄い怖い表情をした男性が俺の顔を見て言った。

 だが俺はこの男性の剣を防ぐのに精一杯で答える余裕がなかった。


「言えッ!! 何故ここにいるんだ!!」

「ちょっと貴方、何か理由があるかもしれないんだから……」


 女性がそう言っているが男性は聞く耳を持たない。


「ゼイン、やめんか」


 恐らく家から出てきたであろう人の声が聞こえてきた。


「…………」


 男性は今度は力を緩めた。

 そして男性は家の方へと歩いていく。


「父さん、良いのか。あの子供」

「まぁまぁ、話を聞くくらい良いだろう」


 男性を制止したのはどうやらあのおじいさんだった様だ。

 何の支えもなく普通に立っているおじいさん。

 きっと元気な人なのだろう。


「お前、話を聞いてからどうするか決める。ひとまず家の中に入れ」

「あ、はい」


 俺は少し速歩きで男性のあとをついて行った。


***


 家の中に入った俺は椅子に座らさせられている。

 そして目の前には先程の男性、女性、お爺さんが座っている。


 ん〜、この状況は一体何?

 何かの面接だったりするのか。

 何かしらの試験の一貫だったり?


「オッホン」


 咳払いをするお爺さん。

 雰囲気的にかなり真面目な感じ。 

 というかこの三人からの警戒心が凄い。

 俺、そんなに危険そうに見えたのか。

 もう、本当に普通の人なのに。

 

「それでお前はどうしてここに来れたんだ」

「林を歩いていたら浮遊する光の球があって、それが俺をここまで導いてくれました」

「光の球? なんだそれは。

 それで見た所、ここらの人間じゃないな。

 如何にも怪しい格好。

 逃亡者か?」


 ギク。

 なんで鋭いんだこの男性は。


 ここは正直に事情を話すべきなのか。 

 信用される為には話した方が良いんだろうけど、協会に突き出されそうで怖い。

 どうしたものか。


「私達は貴方が危険かそうでないかを知りたいだけなの。

 だから正直に全てを話してくれさえすれば私達は貴方に何もしないわ」


 女性の優しい言葉に俺の心は揺らいだ。

 即決、信用を得る為、全てを話そう。


***


 あれから数十分、俺に関する事を話した。

 そしてマーレさんから受け取っていたあの新聞も見せた。

 でもそれはあちら側が仕組んだ事で俺は無罪無害であること。

 そして協会に捕まらない為に国を脱したことも。


「クライド君にそんな事が……大変だったでしょ?」

「はい....本当に...」

「ねぇ、貴方しばらくの間、クライド君を家に泊めてあげましょ。

 事情を知っちゃったわけだし、それに……」


 男性はめちゃくちゃ嫌な顔をしていた。

 こいつを泊めるのか、みたいな目でたまに俺を見てくる。


「何を躊躇っているのだ、ゼイン。 

 別によかろう、子供を家に泊めるくらい」

「俺は良いんだがな、いや良くないんだけど、あいつの事を考えると……」


 あいつ……?

 一体誰のことなのだろうか。

 この家にまだ住民がいるのか。


「それくらい大丈夫よ。むしろ話しやすい相手が出来て良いじゃない!」

「はぁ……俺は知らんぞ」

「なら決定ね! クライド君、どう? この家に泊まる?」


 マーセル村に泊まろうと思っていたけど村の住民があの様子だとちょっと嫌だ。

 なら他に宛もないし厚意に甘えよう。


「ぜひお願いします!!」


 俺は椅子から降りて深々とお辞儀をした。 

 最大の感謝をこの家族に!!


 するとお爺さんも椅子から降りた。


「ワシはルセル・ウェルナンじゃ。宜しく」

「私はリーズよ。クライド君、これからよろしくね!」

「俺はゼインだ。あまり勝手な事をするなよ。斬るぞ」


 なんて優しい人達なんだろうか。

 マーセル村の住民とは大違いだ。

 穏やかで暖かい人達に出会えて本当に良かった。


「改めまして、クライド・アンサラーです。

 これから宜しくお願いします!」


 再び深々とお辞儀をした。

 その時家の扉がガチャっと開いた。

 元の姿勢に戻り扉の方を見た。

 そこには落ち着いた金髪の女性がいた。

 女性はこちらを見てきょとんとしている。

 ゼインさんが言っていたあいつとはこの人の事だろうか。


「あ、ちょうど良い時に帰ってきたわね。

 今日からうちに泊まる事になったクライド君よ」

「あ、よろしくお願いします」


 代わりに紹介をしてくれたので立ち尽くしている女性に対して軽く会釈をした。


「え、あ、え? 男子と過ごせって? そんなの無理無理!」

「お父さん達だって男でしょ」

「いやだからわけが違うじゃんっ!」

「良いから、そういうの」


 リーズさんが俺の隣にやってくる。

 肩に手を置いてきた。


「今、空き部屋がないからルナと一緒の部屋で寝てね?」


 リーズさんの顔を見るとめちゃくちゃニコニコだった。

 何か恐ろしい。


「な、何でそうなるのよぉぉぉ!!!!!!!!」


 そりゃあ、そうなるよな。

 分かっていた事なのにどうしてリーズさんは……。


 ルナという女性の声が家中に響き渡ったのだった。

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