第22話『VSヘルベティオス・クロード 後編』
「このクソガキ離れやがれ!!」
ヘルベティオスの右腕と俺の剣が激しくぶつかり合う。
奴の抵抗する力が凄まじい。
このままでは体力だけでなくこの剣もいずれぶつかり合いによる激しい耐性の消耗で壊れる可能性だってある。
長期戦は避けないと。
「!?」
剣ばかりに集中していた視界に下から迫りくる何かを捉えた。
ヘルベティオスの左拳だ。左は身体強化がかかっていないとはいえこの化け物の通常は普通の人間にとっては致命傷になりかねないほどだ。
なんとしてでも避けないとならない。
しかしやっと捉えたこのチャンスを逃すわけには――。
思考よりも先に体が動いた。
守りの体勢に変え、ヘルベティオスの左拳の力を何とか弱める。
それでも奴の化け物のような力を完全に抑えることは出来なかった。
俺は飛ばされた。
幸いにもそれほどは飛ばなかったが近くの木にぶつかった。
痛みを堪えながら、顔を上げる。
「まだまだだ!」
ヘルベティオスは地面に落ちていた大きめの石を拾い上げこちらに投げてきた。
咄嗟に横に転がる。
飛んできた石は俺のもといた木を貫通していった。
顔に冷や汗が流れる。
奴にとっては身の回りにあるすべてが武器になりえる、しかも殺傷能力抜群に。
「オラァァ!!!!!」
「....っ」
ヘルベティオスの拳が一発、また一発と繰り返し迫る。
防ぐことで精一杯だ。
気の所為かもしれないがヘルベティオスの拳の威力が少し前よりも上がっているような気がする。
「なっ!?」
油断した。
ヘルベティオスの蹴りが俺の腹部に直撃した。
痛みに悶えている所にヘルベティオスの拳による追撃。
「『拳衝突波』」
ヘルベティオスが力強く握った拳で殴りかかってきた。
一瞬にして命の危険を感じた。
剣で防ぐ。
「アァァァァ!!!!!!!」
ボォン、ボォン。
まるで空気が剣に直接圧をかけてきているかのような感覚。
一体に突風が巻き起こる。
「オラァ!!」
「!!」
俺は吹き飛ばされた。
木にぶつかって、地面に転がる。
額だけでなくあちこちから血が流れている。
まずい...、このままだと。
諦めるな。
サユ達のもとへ帰る為、この場を乗り切るんだ。
迫りくるヘルベティオスを睨みつけながら立ち上がる。
「まだやる気なのか? しつこいやつだな」
「こんな事父さんとの修行に比べたら生ぬるい」
「なら塗り替えてやるよ!」
ヘルベティオスは再び拳を強化する。
真っ向から戦っても勝てないことはこれまでの戦闘でわかっている。
なら、少し卑怯な手を使ってでも勝つ。
「どうした怖気づいたのか?」
「.....」
俺は手に握っていた細かい土をヘルベティオスに投げつけた。
「き、貴様ッ!?」
案の定、ヘルベティオスは土をどうにか散らそうと両手でかき分ける。
しかし細かい土を完全には払いきれず、いくつかの土がヘルベティオスの目に入ったのか、必死に擦っている。
「『一刀斬』!!」
「.....ッ?!」
ロクに守れる状態じゃない隙に斬りかかる。
「なァァ!!!」
俺の剣はしっかりとヘルベティオスの体に傷をつけた。
あとはここからだが。
逃げるしかない。
このあとサユ達の行く可能性があるがそれは限りなく低いだろう。
なんせこの男は俺にとんでもない恨みを持つからだ。
真っ向からは勝てない。
奴の目的は俺の消すことだ。
ならば俺は戦いに勝つ必要はない。
目的を果たさせなければ俺の勝ちだ。
「じゃあな、ヘルベティオス・クロード。もっと強いと思ったけど案外そこまでだったみたいだな!」
「貴様、舐めやがってェ!!!!!」
「『加速』」
俺はそそくさとその場をあとにした。
***
ガタガタという音と揺られる感覚。
ハッと目を覚ました。
気づくとそこは見知らぬ馬車だった。
「お、やっと目を覚ましたか」
馬車を操縦する優しそうな男性が声をかけてきた。
「あの、俺は....」
「まずは説明しないとな。兄ちゃんはな――」
男性の話をまとめるとこんな感じだ。
森の中の道で倒れていたらしい。
かなり必死に遠くまで走ったから力尽きたんだと思う。
その後、たまたま通りかかったこの男性が俺を見つけて応急処置をしてくれたそう。
なんて優しい人なんだ。
「いやぁ、兄ちゃんが3日も目を覚まさなかったから流石にビビったよ」
「3日もですか!?」
確かに戦い続きで疲労していたとはいえ、3日も目を瞑り続けていたとは。
情けない。
「それでだ、兄ちゃんに話さんといかんことがある」
「なんですか?」
「これを見ぃ」
男性がこちらに一枚の紙を渡してきた。
そこには驚くべきことが書かれていた。
【七の使星――ヘルベティオス・クロード暗殺未遂】
デカデカと書かれた文字。
その下には――
【犯人は無能剣士――クライド・アンサラー】
心外だ。
「俺はそんなこと!」
「あぁ、分かってる。協会ってのは都合が悪いとこうやって事実をひん曲げてきた。
どうせ今回もそんなことだろうと思ったさ。
それでどうする?」
「どうすると言われても....まだ色々と整理出来てなくて」
「決断は早いほうがいいぞ。んで兄ちゃんはどこから来たんだ?」
「王都ルグリアです」
「そうか。なら当分の間は帰れないな。
兄ちゃんが良ければルーゼルト王国まで送るぞ」
「ルーゼルト王国ですか」
聞いたことはある。
確か魔巣が多い国だ。
「あぁ、あそこは周りに小さな村が沢山あるんだが協会のやつは別にそんなとこには来ない。隠れるなら絶好の場所だぜ?」
行けばどれだけサユ達に会えないかわからない。
もしかしたら一生かもしれない。
でも俺がルグリアに帰れば俺を中心に周りにまで迷惑をかけることになる。
それは避けたい。
「......お願いします」
「わかった。ここからは大変だと思うけど頑張れよ」
「はい」
「あぁ、そういえば名乗ってなかったな。俺はマーレだ。
短い間だがよろしくな」
「あ、俺は――」
「名乗らなくてもわかってるよ。クライド・アンサラー。
良い名じゃないか」
ひとまずここからどうするかだ。
俺一人でどこまで行けるんだろう。
「ちょっと長いから眠っとけよ」
「あ、はい!」
みんな、ごめん。
でも必ずいつか、前の様な生活を送れるようにしてみせる。
だからそれまで――。
待っていてくれ。




