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第21話『VSヘルベティオス・クロード 前編』

 帰路の途中で姿を突如として現した冒険者協会の(しち)使星しせい――ヘルベティオス・クロード。

 その名は嫌になる程耳にし目の当たりにしてきた。

 (しち)使星しせいの中での序列は『陸』となっているが実質の序列は『伍』だと言われている。

 理由は簡単だ。

 十五年前の失星(しっせい)事件によって大量に出た犠牲者。

 その中に含まれている元(しち)使星しせい、序列『伍』――ニハル・アルナブ。

 彼の死で冒険者協会の七つの星ではなくなってしまった。

 

 巷では新たな者が加わると言われているし、ヘルベティオスが繰り上がりするとも言われている。

 実際の所、真実は冒険者協会の上位存在にしか知り得ない。


 それより彼を目の前にして知っておかなければならないことがある。


 ヘルベティオス・クロード。

 圧倒的な怪力を持ち身体能力だけで言えば人間の限界を超えていると言っても過言ではない。

 やはり厄介なのはヘルベティオスがドーテの攻撃を防いだ時の技。

 あれもヘルベティオスの強さの秘訣に違いない。


「来い、冒険者ども! 全員まとめて俺が相手をしてやるッ!!」


 ヘルベティオスの挑発に簡単に反応するドーテ。

 剣を握り走り始める。


「何が(しち)使星しせいだ! おめぇ、ほぼ最後尾じゃねぇか!!」


 何故ドーテはそうヘルベティオスが怒りそうな内容を簡単に言ってしまうんだ。


 案の定、ヘルベティオスはキレた。


「あぁ? お前はただの冒険者だろうがッ!!!!」


 ヘルベティオスは地面を殴る。

 あの拳の事だ。

 何か起こる事は間違いない。

 周囲を確認し警戒した。

 

 その瞬間、地面から突き上げてくる様な感覚がした。

 気の所為なのか。

 そんな事を思いもした。

 しかしすぐにそれが何だったのかがわかった。


 ヘルベティオスの拳を始点としてそこから地面が割れる。

 地面の硬い土は形をそのままにして片方だけが上に突き出してきた。

 それはドーテの方へと徐々に広がっていく。


「な、何だこれはッ!!」


 土魔法の類。

 本来ならそうだろう。

 しかしヘルベティオスに限っては違う。

 あれは魔法ではない。

 ただの怪力なのだ。

 

「ドーテ!」


 飛び出る地面に巻き込まれそうになるドーテ。

 寸前のところで横に避けた。


「んだ? そんなもんなのか!!」


 必要以上に煽るドーテ。

 それにしっかり反応するヘルベティオス。

 この二人、似た者同士だな。

 

「クライドさん、隙を見て行きましょう」

「はい!」


 横にいたロイスさんが俺を見て言った。

 ロイスさんはダンジョン開拓で左腕を失っている。

 ここで負担をかけさせるわけにはいかない。

 だから俺が出るしかない。


「ドーテ! 邪魔だ!」


 挑発を繰り返すドーテをどかす。

 俺が動き出したのを見たのかレインとフェンさんが走り始めた。


「『大剣化(グレートソード)』」

「『剣硬化(スティフェン)』」


 二人の剣はそれぞれ変化した。

 ヘルベティオスの視線はまさに今二人の方。

 俺に警戒はない。


「『大剣斬撃(グレートスラッシュ)』」


 レインは手に有る大剣の刃先を天に向けた。

 両手でがっちりと握る柄。

 そのまま縦に振り下ろす。


「おらァァァ!!!」


 『大剣斬撃(グレートスラッシュ)』は地面を軽くえぐる。


「こんなもので俺を倒せるとでも思ったかッ!」


 ヘルベティオスは両手を顔の近くまで持ってくるとその状態を固定した。

 やや前傾姿勢でレインの攻撃を待つ。

 

 ドンッ!


 レインの攻撃がついにぶつかった。

 衝突音の激しさからして人に致命傷を当てるのには充分な威力であることは間違いない。

 だがやはり……。


「風でも吹いたか?」


 レインの攻撃はもはやヘルベティオスに対して無意味。

 致命傷どころか傷ひとつすらつけられない。


「バケモンかよ……」


 その通り。

 バケモン、その一言で片付けるしかない。


「あとは俺が……」


 レインの後方で待機していたフェンさんが手に剣を持ち走りだした。

 ヘルベティオスは余裕な表情、明らかにナメている態度でその場に立ち尽くしフェンさんからの攻撃を待っている。


「『剣硬壊(スティフェンブレイク)』!!」


 見るに硬そうなフェンさんの剣。

 それはヘルベティオスの右腕と激しくぶつかりあう。

 レインの時よりも一層強く抵抗している。


 最初こそは油断をしていたヘルベティオスだったがフェンさんの攻撃を受けて一秒、明らかに腕にいれる力の大きさが増している。

 これが意味することはフェンさんの攻撃がヘルベティオスに効いているということだ。

 

 もしかしたら行けるのでは……。


 そう思った時、同じ様にその状況を見て感じたのかミーシアス達が一斉にヘルベティオスに杖を向けている。

 

「い、行きます! 土の精霊よ、我が敵を射る弾丸となれ。『土弾(アースバレット)』」

「風の精霊よ、我が敵を断つ風をなれ。『風断(ウインドスライス)』」


 アイナさんとミーシアスは同時に詠唱をした。

 二人の魔法は一直線にヘルベティオスへと飛んでいく。


 まぁ、流石にヘルベティオスは魔法の存在に気付いた。

 しかしフェンさんの圧倒的な剣の硬さ、力で押され続けるヘルベティオスはその相手をする事で精一杯で魔法に手が回らない様子だ。


「クソがァァ!!!!」


 ミーシアスの『土弾(アースバレット)』がヘルベティオスの顔面に直撃。

 視線がズレたところでアイナさんの『風断(ウインドスライス)』が体に当たる。


「あ、当たりました!!」

「よくやった!」


 意外な事にアイナさんの『風断(ウインドスライス)』によって攻撃を受けた数か所から血がツーっと垂れている。

 どうやら右腕以外の部分は身体強化モドキが施されていないようだ。

 それはそうか。

 確かに全身に身体強化モドキを付与すればそれはもう最強だ。

 しかし魔力の消費が激しい。

 どう見ても強さと魔力の消費が釣り合っていない。


「俺に傷をつけやがって!!!!」


 俺だって身体強化は一部にしか活用しない。

 ヘルベティオスの弱点は魔力の少なさと一箇所だけの身体強化だ。


「みんな! 右腕以外を狙うんだ! それが奴の弱点だ!!」

「き、貴様何故それをッ!!」


 怒鳴りながらもフェンさんとのぶつかり合いを続けているヘルベティオス。

 一方のフェンさんはというと顔中に汗が激しく垂れ流れている。

 そろそろ限界が近いのかもしれない。

 右腕が塞がっている今の状態で終わらせたい。


 だから俺は剣を強く握った。


「待て、俺が先だ。無能が行っても変わらねぇだろ」

「何を言っているんだ、ドーテ。そんな事を言っている場合じゃないだろ」

「だから何タメ口使ってんだよ。手柄は俺のモンだ!」


 ドーテは剣を片手にヘルベティオスへ突っ込む。

 彼は本当に何も恐れない。 

 それが良いことなのか悪いことなのか。


「ざまみろ! 協会ッ!!!」


 ドーテが斬りかかる。

 

「グハッ」


 ヘルベティオスは余っている左手で拳を作りそれをフェンさんの腹部に勢いよく殴りつけた。

 痛みにより力が緩んだ。

 その瞬間にヘルベティオスはフェンさんを蹴り飛ばした。


 勿論、右腕が開放されたヘルベティオスはドーテを狙う。

 一歩前に進んだヘルベティオスは右手で斬り掛かってきたドーテの剣の刃を握る。


「チッ! 何掴んでんだよお前!!」

「お前だと? 身の程知らない様だなッ!!」


 刃を握ったヘルベティオスはそのまま剣を吹き飛ばした。

 意地でも剣を離そうとしなかったドーテは一緒になって飛んでいった。


「さっきからうぜぇな……あぁ……」


 ギロリと眼球をサユの方に向けるヘルベティオス。

 不気味な笑みを浮かべる。


「やっぱやめだ。お前らはいつか殺れば良い。ただ今は……!!」


 ヘルベティオスの体がサユへと向く。

 その瞬間、感じた。

 あいつはサユを殺しに行くと。


 次の瞬間には俺は勝手に口と体が動いていた。


「『加速(アクセラレーション)』」


 必死に走る。

 間に合え、そう念じて。

 意識をただサユだけに。


「お兄ちゃん!! 来ちゃだめっ!!!!」


 サユの声が耳に入る。

 どういうことだ。

 サユ、お前はヘルベティオスに狙われてるんだぞ。

 なのに来ちゃだめって……。


「アッハッハ、お前を先に殺すッ!!」


 走っていたヘルベティオスは突然こちらを見てきた。

 

「!?」


 驚き一瞬動揺した。

 しかしその動揺が良くなかった。

 次に目を開いた時には目の前にヘルベティオスの姿があった。


「馬鹿がッ!!!」


 ヘルベティオスの拳が近づいてきている。

 避けられない。

 

「お兄ちゃん!!!」


 ドーン!!!!


 俺は吹き飛ばされ木に激突した。

 避けられはしなかったが剣で拳を防ぐ事は出来た。 

 だからそこまでの致命傷はないはず。


「クライド! 立て!!!」


 レインの声を聞いてハッとなる。

 顔を上げるともうすぐそこにヘルベティオスがまた拳を俺に向けている。


 俺は横に転がる。

 ヘルベティオスの拳は木にぶつかる。

 拳を始点に木に亀裂が入り終いには倒木した。


 あんなのがもろで当たったら生きては居られなかった。

 危ない……。


「クライドさん!!」


 ロイスさんがヘルベティオスに立ち向かう。


「ロイスさん、離れてください!」

「いや……私は!!!」


 だめだ。

 片腕のロイスさんではたとえ強くても敵わない。

 止まってくれ。


「片腕の貴様に何が成せるッ!」


 ロイスさんに迫る拳。

 たった一つの腕で支える剣で迎えた。


「私の命で時間を稼げれば……それだけで大勝だ!」

「ふざけやがって!」


 耐えるロイスさんだがじりじりと押されている。


「ロイスさん!!」


 俺は立ち上がってヘルベティオスに向かって走った。

 何の策もない。

 ただ走った。


「オラァァ!!」


 だが間に合わなかった。

 ロイスさんは地面に叩きつけられた。


「あぁあぁあぁ!!! 邪魔ばっかしやがって。さっさとくたばりやがれェ!!」


 怒鳴るヘルベティオスに俺は接近し剣を振る。


「くらえェ!」


 ヘルベティオスのズボンのポケットからナイフが出てきた。

 投げられたナイフは俺に飛んでくる。


「……っ!」


 ナイフが左横腹に刺さる。

 痛い……。

 でもここで諦めるわけには……!


「あぁぁぁぁああああああああ!!!!!」


 ただ我武者羅に突っ込んだ。

 まるでドーテみたいだけど。


 右腕で剣を止められた。

 しかしヘルベティオスを軽く押せた気がした。


 そこから何度も斬りつけた。

 その度に右腕で剣を流される。

 それでも斬りつけ、斬りつけ、斬り続けた。


「何度も何度もッ!!!!」


 ヘルベティオスがしびれを切らしたのか俺から離れる。

 その時右からサユの声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん!!!」

「クライドさん!!!」


 走ってくるサユとアイナさん。

 その後ろには何人かの人。

 誰かはわからない。

 ヘルベティオスもそっちを見ている。


「あ、あれは!!!」


 一本の矢が高速で飛んでくる。

 こちらに近づいてくるにつれてさらに加速している。


「!!?」


 気付いた時にはヘルベティオスの左腕に深く突き刺さっていた。

 流石のヘルベティオスでもあの速度で飛んできた矢が刺さっては正気を保てないようで歯を食いしばり悶えている。


 なんでだろうか。

 ふと冷静になった。

 近くには血を流し倒れるロイスさん。

 奥では木にもたれかかるレインとフェンさん。

 地面に倒れっぱなしのドーテ。

 サユの恐怖した顔。


 それ全てが目に映る。


 体の内、いやもっと奥。

 もはや無の領域と言ってもいいくらいの心底。

 そこから何かが吹き上がる様な感覚。

 そして『走れ、クライド』という幻聴がした。


「『加速(アクセラレーション)』」


 次の瞬間にはそう口にした。

 一瞬でヘルベティオスの目の前に立つ。

 反応の遅れたヘルベティオスの体に刃がかすれた。


 行ける。


 地面を殴り土を舞わせるヘルベティオス。 

 そして距離を取ってきた。


「面倒な事になった。これで終わりにしてやる!!!」


 矢を引き抜いたヘルベティオス。

 ドッとした気を感じる。

 魔力、体中にある魔力、体力、力がヘルベティオスの右に集まっていく。

 そんな風に感じた。

 

 何かをする気だ。

 止めないと。


 俺は走った。

 だが足が止まった。

 今になってナイフの箇所の痛みが強くなった。


 もはや意識を保つのも一苦労。

 剣も足もブレる。


「ああああああ!!!!!」


 俺は何を思ったのかナイフを無理やり引き抜いた。

 そして走った。

 

「血迷ったか!!」


 柄を両手でがっちり握る。

 手に自然と力が集まってくる。

 今までとは違う……何かだ。


 走れ走れ。


「アァァァ!!!!!!!」


 俺は剣でヘルベティオスを押し飛ばした。


「貴様ァ!」


 攻撃をしては防がれ。

 攻撃をされたら剣で流す。


 俺達の攻防は一層激しさを増した。


「ヘルベティオス、お前は許さない!!!」

「貴様こそだァ! 俺の顔に泥を塗りやがって!!」


 気づけば俺達は森の中に入っていた。

 周りは誰もいない。

 ただ俺達の攻撃が激しく巻き起こっていた。

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