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第20話『執行と復讐』

 翌日。

 俺達は王都ルグリアに帰る事になった。

 ほとんどの冒険者がルグリアに行くそうだ。

 というのも何やら今回の開拓の功績を称えてネスタナ王国が俺達を食事会に招待してくれたらしい。

 それで今回の開拓に参加した冒険者は食事会開催地である王城がある王都ルグリアに来るというわけだ。


 せっかく出会った冒険者の人達ともう少し一緒に居られると思うとちょっと嬉しいけど早く自分達の家に帰っていつも通りの生活に戻りたいとも思ってしまう。

 でもまぁ、流石に国王が招待してくれているんだ。

 断るわけにはいかないしそんな体験、今後の人生でもう一度ある可能性は低い。

 貴重な体験だしサユ達にも冒険者としての思い出にしてもらいたい。

 だから家に帰るのはもうしばらくあと。


 そして俺達は今馬車で移動中だ。

 サユが何か物を無くしたとかで時間がかかり他の馬車はかなり先を走っている。

 まぁ、別に遅れているからといってとくに問題はない。

 帰る経路はレインが知っているし。


「レイン、眠そうだな」


 リーハトンを出てから数時間、馬車を操縦してくれているレインだが時々うとうととしている。

 完全に寝るという状況までにはなってないがどう見ても眠そうだ。


「ちょっとな」

「昨日のあれのせいだろ?」

「多分そうだ……。流石に寝とけばよかったか……」


 昨日の夜。

 俺とミーシアスとサユは部屋に戻り寝たのだがレインだけはフェンさん達の部屋に行って色々と話しをしたらしい。

 剣術の事とかを。

 それはもうかなり話しが白熱したらしく気づけば真夜中だったとか。


「あれだったら後ろで寝ててもいいぞ。俺が代わるから」

「本当か? それなら有り難い」


 俺はレインと場所を代わった。

 レインは後ろの荷台に移動した。

 勿論、サユ達は既に寝ている。

 この二人、移動する時毎度の様に寝てるな。

 ちょっとは会話相手くらいになって欲しいものだ。


「じゃあ、クライド、よろしく頼むぜ」

「あぁ、ルグリアはまではもう少しあるからぐっすり寝てくれ」


 しばらくしてレインの声が聞こえなくなった。

 眠ったのか。

 これで馬車で起きているのは俺とこの馬だけ。


「暇だな」


 馬に語りかけたが当たり前だが反応するわけもない。

 語りかけて無視されたせいでより寂しさが増した気がする。

 本当に早くルグリアに着かないだろうか。


***


 あれからさらに時間が経過した。

 朝に出発したが今はもうお昼を過ぎた頃だろう。

 この調子なら夕方前にはルグリアに着きそうだ。

 それにしても前の馬車達に追いつかない。

 この馬車が遅いのかそれとも他の馬車が早いのか。

 見えるのはロイスさん達の馬車だけだ。


 レヴァントさん達、早すぎる。

 やはり最強パーティーだと馬も最強なのか。


 そんな事を思った俺だった。

 今はリーハトンとルグリアの間、もしかしたら少しルグリアよりだろうか。

 それくらいの位置にいる。

 ここらはとくに街はない。

 木々ばかりで林になっているからだろう。

 だけど村は周辺にいくつかある。

 村と言っても立派な村ではない。

 本当、少人数の村だ。


 この林を超えたらいよいよラストスパート。

 拓けた草原を走ることになる。

 その草原から見える夕日は最高だ。

 心が癒やされる。

 行ったことがないけど酒場で冒険者がそう話しているのを聞いたことがある。

 誰も起きていないけどそれをこの帰り道の楽しみにでもしておこう。


「はぁ……」


 疲れでため息を吐いた。

 一瞬目を瞑ったその時だ。

 目の前でロイスさん達の馬車が止まっているのが見えた。

 馬車の隣にはフードのついたローブをした何者かが立っている。

 ロイスさん達の馬車より前の馬車がいないと言うことは……検問的な何かだろうか。

 でもどうしてこんな人気のない林で検問をしているんだろうか。


 気になりつつもロイスさん達の馬車の後ろで止まった。

 

 ロイスさん達の検問が終わったのかローブを着た人はこっちに来た。

 ロイスさんがこっちを見てきた。

 どうしたのだろうか。


「お前達、もう行って構わない。早く行け!」

「は、はい!!」


 声からして男性か。

 その男性はロイスさん達の馬車を早く進ませるよう急かした。

 ロイスさんは慌てて走らせたが随分とゆっくりだ。


「検問か何かですか?」

「あぁ、そんな所だ」


 男性はそのフードの中の顔を見せようとはしなかった。


「何かあったんですか?」

「協会からの指示でな。

 ルグリアに住む奴がダンジョンの開拓に向かったと聞いたんだが、お前達はダンジョン開拓に行った者か」

「あ、はい。今ちょうどルグリアに帰る途中でして」

「そうか、わかった。それで後ろの頭に大きな赤いリボンを着けている奴を見かけた事はないか?」

「赤いリボンですか……?」


 赤いリボン……他にいるかもしれないけどもしかしてサユの事?

 いやいやまさかそんな事があるわけない。


「そのリボンの奴は無能と呼ばれる兄を持っているそうだ。

 その人物達がルグリアから開拓に向かったとルグリアギルドから聞いたのだが知らないか?」


 うん、これは完全に俺達の事だ。

 赤いリボンに無能の兄。

 めちゃくちゃ俺達の事だ。


 何も知らない風を装いしらばっくれた。


「知らないか。わかった。遅れて戻ってきている他の奴らはいるか?」


 勿論いるわけがない。

 俺達が最後の馬車なんだから。


「それは……ちょっとわからないですね……」

「…………」


 男性は俺の顔を見た後、馬車の荷台の中を見つめだした。

 その視線の先を俺も見た。

 そこにはミーシアスを枕にして眠っているサユの姿。

 そして最悪な事にサユは赤いリボンをこちらに見せた状態で眠っている。


「……っ」


 男性はフードを脱いだ。

 あちこちに傷がついている。

 それでもこの男性は生きている。

 顔から分かる。

 強者だと。


 男性は俺の顔を見た。


「お前が無能クライドだな」

「俺はっ……」


 その瞬間、首を捕まれ持ち上げられた。

 とんでもない強さ。

 抵抗すら出来ない


 くっ苦しい。


「お、お前は……」


 首を締められた状態でその言葉だけが出た。

 すると男性は笑って応えだした。


「俺は冒険者協会、(しち)使星しせい――ヘルベティオス・クロードだ。

 やっと見つけたぞ。

 犯罪者どもッ!」


 ヘルベティオス・クロードだと……。

 お前は……お前はっ!!!


「協会の承認は得ている。だから俺はお前達を好きな様に罰せられるんだぜ」


 そろそろ息が……。

 俺はヘルベティオスの腕を噛んだ。

 しかしびくりともしない。


「何噛んでんだよッ!!!」


 噛まれた事にキレたヘルベティオス。

 俺を馬車から離し近くの木に投げつけた。


「ハッ……」


 やっと息が出来る。

 はぁはぁと俺は必死に呼吸した。

 そしてゆっくり立ち上がる。


「……犯罪者だって、俺達は何もしちゃいない」

「黙れ!」


 柄に触れたその時、お腹を思いっきり殴られた。

 痛みのあまり地面にしゃがみ込んだ。


「お前らは犯罪者以外何でもねぇ」

「だから俺達は……!」

魔巣(まそう)に入っただろッ。

 それにお前の名を聞いて思い出した。

 あいつらの子供だろ。

 あん時は良くもやってくれたなッ。

 これはそれの仕返しでもある」

「……仕返し? 何をしたって言うんだ」

「恨むならお前の親を恨むんだな。ま、これから合わせてやるよッ!」


 ヘルベティオスは足で俺の事を踏みつけた。

 俺は痛みと疲れで抵抗出来ず地面とくっついた。


「安心しろ。お前の妹も極刑だ」

「サユには手を出すな!」

「黙れ!!!」


 首を何とか動かせるとこまで動かした。

 ヘルベティオスが右手で拳を作っている。

 まずい、あの力で殴られたら、俺は。

 抵抗も出来ない、ただ無抵抗で殴り続けられ死ぬのか……。

 そんなのは嫌だ。

 でも俺はどうやって。


「『身体硬化(ハーデン)』」


 目には見えない。

 だがヘルベティオスの作る拳からとてつもない力を感じる。

 身体強化の類なのか……。

 なら尚の事まずい。

 くそ……。

 サユ、ミーシアス、レイン……。


「じゃあなッ!!!」

「おらァァァァ!!!!!」

「ッ!?」


 ヘルベティオスは何者かに押され俺から離れた。

 体が自由になった俺は直ぐに立ち上がり剣を抜いた。


「何をしてるんだ!」


 俺の目の前にはドーテがいた。

 ドーテは剣でヘルベティオスと競り合っていた。

 だが驚くことにヘルベティオスはドーテの剣を右腕で受け止めていた。


 身体強化ではあるのだろうが剣を完全に受け止める事ができるなんて……通常の身体強化ではない。

 明らかに特殊な身体強化だ。


「クライドさん! 大丈夫ですか!!」


 奥からロイスさん、フェンさん、アイナさんが走ってきた。

 馬車からもレイン、サユ、ミーシアスが出てきた。


「お兄ちゃん! どうしたの! 血が……!」

「サユ、逃げろ!」

「え、」

「逃げろ!!!」


 サユは俺の言う事を聞いて馬車から降りヘルベティオスから離れた場所、ロイスさん達の馬車の方に走りだした。

 それに気付いたヘルベティオス。

 ドーテを押し退けサユに向かって走りだした。


 させるか。

 くそが。


「『加速(アクセラレーション)』」


 俺はヘルベティオスめがけて走った。

 いや、もはや飛びかかった様なものだ。


 剣を振りヘルベティオスにぶつける。

 だがやはり右腕によって受け止められる。


「邪魔だッ! ガキが!」


 ヘルベティオスは左手で俺の顔を殴った。

 しかし俺は動じない。

 ここを退けばサユが危険な目に遭う。

 俺がここで抑える。


「おい、クソ野郎! 俺を飛ばしやがって。

 見た所協会の野郎だな? 日頃の協会への鬱憤をお前で晴らしてやるッ!」


 ドーテがまたヘルベティオスに突っ込む。

 俺がドーテの方に一瞬視界をずらした瞬間にヘルベティオスに剣を握られた。

 そしてそのまま木へと投げ飛ばされた。


「お兄ちゃん!!!」

「邪魔な奴らだな!」


 ドーテは何度も剣を振るがそのヘルベティオスの強固な右腕には敵う事はなく防がれお腹を殴られ吹き飛ばされてしまった。


「チッ。めんどくせぇ。もういい。承認はないが殺ってやる」


 ヘルベティオスはその場にいる俺達を見て指さしてきた。


「ここにいるお前らを協会の名により執行の妨害で極刑だッ!!

 全員あの世へ行け! 冒険者風情がッ!!」


 ヘルベティオスは更に雰囲気が凶暴化した。

 俺達はその迫力に退く。

 

 ヘルベティオスを殺さなければ俺達が死ぬ。

 しかし相手は人間……。

 俺に人間を倒す勇気があるのか……。


 サユの方を見た。

 全身で恐怖を覚え震えるサユ。

 

「クライド、大丈夫だ。俺達がいるぜ!」


 馬車から剣を抜くレイン。


「共に戦った仲間がピンチなら協力しないわけがありません」

「そうだな」


 ロイスさんとフェンさんも剣を抜いた。


「クライドさん達を傷付けるのは許しません!」

「サユさんは私達の恩人。治癒がなければきっと私達はあのダンジョンを脱せなかった。

 だから今度は私達が助ける番!」


 ミーシアスとアイナさんが杖を向ける。


「ったく。また無能の為に……。貸しイチだからなッ」


 立ち上がったドーテは嫌々剣をヘルベティオスに向ける。


 あぁ、皆がこんなに殺る気なんだ。

 なのに俺がこんなんじゃだめだ。

 覚悟を決めろ。

 別れる事を決意したように。

 俺がサユを守る。

 俺が過去の復讐を。


「ヘルベティオス、お前は許さない!」

「それはこちらのセリフだ、クライドッ!!!」


 ダンジョンでは常に感じていた痛み。

 きっと今はかなり怪我をしているはずだ。

 でも不思議と何も感じない。

 

 俺はヘルベティオスを睨みつけ黒き剣を両手で握りしめたのだった。

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