第12話『リーハトン』
新ダンジョン開拓まで残り四日。
今日はミーシアスにお願いをして対魔法戦の訓練をした。
魔物の中にもレベルが上がれば魔法を使ってくるやつもいる。
そういった魔物に少しでも対抗出来るように一日対魔法特訓。
***
新ダンジョン開拓まで残り三日。
昨日から引き続き対魔法の特訓だ。
昨日は特に中距離や遠距離からの飛翔する魔法に対する特訓をした。
なので今日は再びミーシアスにお願いをして防御魔法に対する攻撃や迫る魔法を避け魔法士に接近する訓練をした。
休んでいたレインも一緒に参加した。
***
新ダンジョン開拓まで残り二日。
今日はシルさんからの話があった。
主に新ダンジョンに関する情報だ。
新ダンジョンの中は推測ではそれほど階層がないそうだ。
だが大きな空間がある可能性があるそうでそこには基準値を超える魔力を観測したらしい。
つまりそのダンジョンに何かいることは間違いないそうだ。
それと新ダンジョンの近くのリーハトンに推薦冒険者の為の宿泊施設が用意されているらしい。
ただシルさんが言うにはほとんど使わないらしい。
大抵の冒険者は集合日になるまでの間に利用しているとか。
そりゃあ、ダンジョンに入ればいつ出てこれるかわからないから当然だろう。
その後はまた特訓だ。
今日はサユの近接戦の特訓をした。
サユは治癒士ながらも短剣で戦う事もできる。
この有能っぷりには頭が上がらない。
***
新ダンジョン開拓まで残り一日。
今日は俺、レイン、ミーシアスで戦った。
それぞれが敵同士で全力で戦った。
その日の勝者はミーシアスだ。
俺とレインがミーシアスを忘れ戦っていたら魔法を放たれ同時にダウンしてしまった。
これからは周りをもっと見ておこうと思った。
そして今夜はリーハトンに向かう。
少し出発には早いかもしれないが遅れるよりかはマシだ。
***
「よし、全員揃ったな」
「レイン、馬車ありがとな」
「良いってもんよ!」
外はすっかり夜で肌寒い。
リーハトンまではレインの持っている馬車で向かう。
「皆、荷物は大丈夫か?」
「えーっと食べ物でしょ、布、お金……」
サユがバッグを開けて中をひとつひとつ確認する。
「……おっけ! 必要なものは全部あるよ!」
「ミーシアスも大丈夫か?」
「はい! 大丈夫です!!」
「よし、じゃあ二人共後ろから乗り込め〜」
サユとミーシアスは屋根付きの荷台に後ろから乗り込んだ。
俺とレインは御者台に一緒に乗った。
「んじゃ、行くぞ」
馬車はリーハトンを目指して進みだした。
***
ルグリアを出発してから一時間が経過した。
「レイン、眠くないか?」
「別に大丈夫だぜ」
「そうか。もし眠くなったら言ってくれ、交代するから」
「有り難いけど言ってもあと半分くらいだしな。
クライドが寝ずに俺の話し相手になってくれれば大丈夫だぜ」
「わかった。話し相手になるよ。俺で良ければだけど」
荷台ではサユとミーシアスが体をくっつけて眠っている。
本当に仲良しだな、あの二人は。
「前々から思ってたけどサユとクライドってなんかあるのか?」
「いきなりだな、どうしたんだよ」
「ちょっと気になってな。
確かに二人は仲が良いけどやっぱり良すぎるというか……兄妹を超えてるような気がするんだよな。
別に悪い意味とかはないぜ? どうしてそこまで異常なほど仲が良いんだろうなぁって」
「そうだなぁ、話せば一夜じゃ足りないからなぁ。
でもまぁ、レインが言いたいこともわかる。
ただまだそれはレインにでも話せない」
「そっかぁ……」
「またいつかその日が来たら話すよ」
そんな事を言った俺。
だが心の中では端から話す気はなかった。
別にレインが嫌いだからとかそういうわけじゃない。
ただ話すには早すぎる。
母さんとの約束があるから……。
「なんか食べ物とかないか? ちょっと腹減っちゃってさ」
「買い置きしてあったパンならあるよ」
「おっ、本当か! じゃあそれちょっとくれないか?」
「別にいいよ」
俺は御者台から後ろの荷台に移った。
サユが持ってきていたバッグを開け袋に入ったパンを二切れ手に持った。
そして再びレインのもとに戻った。
一切れを口にくわえ、もう一切れをレインに手渡した。
「ありがとな、助かったぜ」
***
「止まれ、止まれ」
リーハトンに入り宿がある北西方面に到着した。
すると一人の男性が現れて俺達の馬車を止めた。
「こっから先は新ダンジョン開拓で行き止まりなんだ。悪いが引き返してくれ!」
どうやらあの男性は俺達が無関係な者達だと思っているようだ。
「俺達はその開拓に参加する者です!」
「……代表者の名は何だ?」
「俺はクライドです」
名を言った。
男性は持っている紙を指でなぞりながらじーっと見つめていた。
数秒して紙に俺の名があることがわかったのかこちらに近づいてきた。
「宿はすぐそこに見えてるあれだ。この先にちょっとしたスペースがあるから馬車はそこに置いてきてくれ」
「わかりました」
男性はどこかへと去っていった。
「じゃあ、俺は馬車を置いてくるからクライドはサユ達を起こして先に宿に行っていてくれ」
「了解した。馬車は頼んだぞ」
俺は御者台から降りた。
馬車の後方に移動した。
相変わらず仲良くくっついて眠っている。
まだまだ二人も子どもだな。
すやすやと幸せそうに眠っている二人を無理やり起こすのは気が引けるがここでうだうだしていたらレインが馬車を持って行くまでに時間がかかってしまう。
ここは心の鬼にしサユ達を起こそう。
「サユ、ミーシアス。宿についたから起きろ」
薄々予想はしていたが声をかけただけじゃ目を覚まさなかった。
直接揺らして起こすか。
荷台に乗った俺はサユの体を揺らした。
「んにゃんにゃ……」
体を揺らすとミーシアスがサユの太ももに倒れた。
その間、サユはよくわからん事を呟いていた。
「おーい、二人共起きろ」
今度はさっきよりも強く揺らす。
「……クライドさん、匂いを嗅がないでください……」
ミーシアスの中で俺、どんだけ変態なの。
というかなんでそんなにいつも匂いを嗅いでるんだよ、ミーシアスの夢の中の俺は。
これだけやっても起きないなら致し方ない。
こうなったら武力行使だ。
手を高く振り上げる。
スッとサユの頭めがけて振り下ろした。
軽めのドンっという音が鳴った。
「あっいたぁぁ!!! お兄ちゃん! いきなり頭をチョップするなんて酷いよ!!」
「それはお前が何をしても全く起きない仕方なくやったんだよ」
「ミーシアにはやらないくせに……」
「そりゃあ、ミーシアスだからな。というか早く降りろ。宿についたぞ」
「は〜い」
サユがミーシアスの頭をゆっくりどかした。
こんな状況になってもまだぐっすりなミーシアス。
まぁ、訓練にずっと付き合ってもらってたし少し疲れてるのかな。
サユが馬車から降りたのを確認したあとミーシアスの荷物をサユに持たせた。
俺はサユの体を抱き上げそのまま馬車から降りた。
そして馬車は走りだした。
「お兄ちゃん、なにそれ、ずるい」
「何がだよ」
「私も抱き上げを要求する」
「サユは起きてるから無理だ」
「お兄ちゃんが起こしたんじゃん!」
ふと下を見るとミーシアスが目を覚ましていた。
きょとんとした様子で固まっている。
ミーシアスの首にはあの時買ってあげたネックレスを着けていた。
まだ着けていてくれたとは、ちょっと嬉しい。
「そのネックレスまだ着けてくれてるんだな」
「は、はい! それは勿論です!
……それとそろそろ下ろしてもらえませんか?
は、恥ずかしいので……」
「あっ、ごめん」
俺はゆっくりミーシアスを下ろした。
「ここは……」
「宿だ。結構大きいよな」
外観はどこにでもありそうな木造の宿だが大きさが違う。
通常の宿の二、三倍はありそうだ。
それにしても夜の外は冷える。
そろそろ中に入るか。
「じゃあ、宿に入ってレインを待つか」
「はい!」
「お兄ちゃんに賛成!」
俺達は冷えた体を暖める為に宿の中へと向かう。
***
宿に入って数分経つ。
暖かい。
暖かいよ。
まるで幼い頃、母さんに抱擁されていた時の暖かさ。
もう暖かさで眠たくなってきた。
「暖炉、最強ですね!」
「あぁ、俺の家にも欲しいもんだよ」
「お兄ちゃん、いっそ暖炉のある家に引っ越そうよ」
「まだ寝ぼけてるのか。この暖かさで目を覚ませ〜」
「その目を閉じそうなのはお兄ちゃんだよ」
俺達が暖炉で戯れていると後ろから声が聞こえてきた。
この声はレインで間違いない。
「何やってんだ、あんたら」
「レインも暖炉に染まるべきだ」
「良いから早く部屋に行こうぜ」
「はいよ〜」
俺達は荷物を持って部屋に向かった。
宿に入った時に渡された部屋の鍵。
しかも一つ。
どうやら一パーティー一部屋までらしい。
なら全員個人だ、と嘘を言おうと思ったが鍵を渡してきた女性は名簿を持っており諦めることにした。
まぁ、ひとつ屋根の下とは言ってもほとんど利用することはない。
それに普段から同じ屋根の下で過ごしてるしな。
何も変わったことはない。
「お兄ちゃん、ここじゃない?」
「本当だ。よし、開けるぞ」
鍵穴に鍵を差し込んだ。
すると廊下の奥から声が聞こえた。
それは聞き慣れた侮辱する言葉だった。
「おい、あれが噂の無能か? ったくなんで来れたんだか」
「あのちっこい治癒士いるだろ? あいつめちゃくちゃ有能なのにあの無能がいるせいでレベルも全く上がってないらしいぜ?」
「そりゃあ、最悪だな。アッハッハ!」
俺を嘲笑って男達は自身の部屋に戻った。
「クライド……大丈夫か?」
「……あぁ」
「あんな言葉気にすんなよ。ただ馬鹿の戯言だしな」
「そうだな」
俺は鍵をひねり扉を開けた。
部屋の中は思った以上に綺麗で広い。
ベッドも人数分用意されていた。
机の上には軽食がいくつか置かれていた。
「結構ちゃんとした部屋で良かったぜ」
「そうですね! 快適に眠れそうです!」
レインとミーシアスははしゃいでいた。
だがただ一人、サユだけは無言で部屋に入り、すぐに荷物を床に置いた。
靴を脱ぎベッドの上に乗った。
「…………」
ボスッ。
枕を一発殴った。
ボスッ。
また殴る。
さらに殴る。
「……ちっこい……ちっこいやつって何だよぉぉぉ!!!!!
そんなちっこくないから、私!
待って、それって本当に身長のこと……?
……お兄ちゃん、変態が居たから倒してくる」
「いや、待て待て。落ち着けって」
「落ち着けないよ。お兄ちゃんを馬鹿にされた上に私の胸まで馬鹿にしたんだよ! 許せないって!」
「いや、まぁ、別に大きいからと言ってその全てが良いってわけでもないし、な?」
「お兄ちゃん、分かってないね。これは小さき乙女のプライドなんだよ」
「はぁ……」
うん、よくわからない。
「まぁ、争いは良くないよ。それに明日からは大変なんだからそろそろ体を休めようよ」
「……お兄ちゃんが言うなら仕方ない。今回ばかりは許す」
「サユは偉いな」
「まぁね!」
サユの調子を戻せたところで俺達も荷物を床に置き、眠る準備を始めた。
***
俺達はベッドに横になった。
「サユ、火の灯り消してくれ」
「遠いから無理!」
「あっ、私が消しますよ」
ミーシアスが火にふーっと息を吹きかけ火が消えた。
そして外と同じ様に部屋にも暗闇が訪れた。
「皆、明日頑張ろうな」
「うん、私がいっぱい皆の傷を治癒するから!」
「俺はクライドに負けないくらい戦ってやるぜ」
「わ、私は皆さんのお役に立てる様に魔法で牽制します!」
それぞれの意気込みを口にした。
そして俺は目を瞑る。
「それじゃあ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみ〜」
「おやすみなさい!」
部屋は静かになった。
明日から向かう新しいダンジョン。
一体そこで何が待ち構えてるのかは今の俺達にはちっとも分からない。
だが俺はあることを感じていた。
予想? いや未来予知? そんなものではない。
ただそう感じるだけ。
それはこの依頼がなにかの節目になるであろうということだ。
何の節目かなんて分からない。
ひとまずは皆がダンジョンから無事で戻って来られることを願っている。
読んで頂きありがとうございます。
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