第10話『新しい一日』
窓から差し込む陽の光で目を覚ます。
上体を起こし目を擦る。
両足をベッドから降ろしてから立ち上がった。
そして部屋を出て下に降りた。
一階には誰もいない。
サユは出かけているのだろうか。
テーブルには昨日寝る前に飲んでいた飲み物がある。
俺はそれを手に取り椅子に座った。
コップを口につけて軽く飲む。
「冷たっ」
昨日は色々な出来事の連続だった。
でもまぁ、なんとかなって良かったが。
それにしても昨日のレインが奢ってくれた料理は美味しかった。
何だか高そうだったし無理でもしてくれたんだろうか。
だったら少し申し訳ない。
そういえば昨日の魔石はどうしようか。
魔石はサユのバッグ……。
見渡してもバッグはない。
ギルドに持っていくのはサユが帰ってきてからでいいか。
それとあれだな。
冒険者ランクの昇格。
念願のレベル3だ。
レベル3になったからと言って何か大きく変わるというわけではないがやはりそこは気持ち的な喜び。
レベルが上がった。
それだけで嬉しいのだ。
「今日は何をするかぁ……」
暇すぎて呟いた。
外がガヤガヤとうるさい。
それは次第に近づいてきた。
そのうるささが最大に達すると同時に家の扉がガチャと開いた。
そこには色々と袋を持ったサユ。
その後ろにミーシアスがいた。
「あっ、お兄ちゃん。やっと起きたんだ」
「まぁな。それでその荷物はどうしたんだ?」
「実はね。ミーシアをこの家に迎え入れようと思って!」
大荷物を持ちながら家に入ってきた。
床にドンっと荷物を置いたサユ。
「なんか、ミーシアの家、冒険者協会の貸家らしいんだけどそれが最近高いみたいで!
だったら仲間になったんだしいっそのこと一緒に住んじゃおうみたいな?」
「はぁ……この家に部屋なんてもうないぞ」
「お兄ちゃんの隣の部屋の物置みたいなところを片付ければ行けるでしょっ!」
「片付けた物はどうするんだよ。
それにミーシアスは本当にこの家に住みたいのかまだ聞いてないしな。
勝手に話を進めるのは良くないぞ。サユ」
荷物を両手で抱えているミーシアスが俺の目を見る。
「ど、どうか……私を住まわさせてください!」
そんなにも丁寧に。
別に俺は住むことに否定ではない。
むしろ住んで欲しい。
そっちのほうが賑やかだしサユの面倒を見る人が増えるから尚良い。
「良いけど物置はやめておけ。物多いし汚いし。だったら俺の部屋の向かいの部屋ならどうだ?」
「そういえばあそこ何があるの?」
「いや、特にはない。
俺の荷物が少しあるくらいだし少し掃除でもすれば他の部屋と変わらないくらいにはなると思うぞ」
「い、良いんですか!」
「あぁ、よろしくな。ミーシアス」
「は、はい! よろしくお願いします」
ミーシアスは嬉しそうに微笑んだ。
床に置いていた荷物をサユが持ち上げた。
「じゃあ! 掃除始めちゃおう!」
「待て、サユ」
「ん?」
「ギルドに色々と言わないといけないだろ」
「あぁ! 昇格のやつね」
「悪いがミーシアス。ギルドのやることが終わったあとでも構わないか?」
「はい! 全然大丈夫ですよ」
「ありがとう。じゃあサユ、ギルドに行く準備を済ませておけよ」
「は〜い」
俺は準備をしに再び二階に上がり部屋に入った。
***
ギルドは今日も賑やかだ。
シルさんはいつもと同じ定位置で受付の仕事をしていた。
俺達が近づくとすぐに気づき微笑んできた。
「おはよう、クライドくん。今回の護衛依頼どうだった?」
「おはようございます、シルさん。
謎の集団に奇襲されましたけどなんとか依頼主の方達を目的の地まで送り届けることが出来ました」
「それは良かったわ。それで今日はどうしたの? また依頼?」
「魔石の査定と昇格をお願いしたくて」
「わかったわ」
サユがバッグから昨日取ったオルトロスの魔石を出した。
シルさんの表情がまた変わった。
「この近くに双頭犬の生息域なんてあったかしら」
俺達はその疑問を晴らすべく昨日あった出来事を一通り話した。
一応レインのことも。
するとまた表情を変えた。
「話はわかったわ……でもあのアズオーク大森林に入ったの?」
「はい。そこでオルトロスと戦って……でレインの妹を助けたんです」
「それでさらに奥に行って魔巣を見つけたと……待ってね、ちょっと待ってね」
シルさんはらしくもなく慌てている。
受付の下から大きめの布袋を取り出した。
その布袋に魔石をしまった。
「これはこっちで預かっておくから。悪いけれどこれの代金は支払うことが出来ないの……」
「何かあるんですか?」
シルさんは俺の言葉を聞くと辺りをキョロキョロと見渡した。
周りに聞き耳を立てられていないかも確認をした。
小さな手の動きでシルさんが俺達を手招きした。
シルさんに耳を近づけた。
「ここだけの話よ。他言はしないこと」
「はい」
「最近私達受付の中でとある噂があってね、攻略・討伐の認可が下りていない魔巣域に行った冒険者が不可解な死を遂げてるっていうのなんだけど。
でもあくまで噂ね。
違う所のギルドから流れてきた話だし確証はないけれど一応対策は取るべきでしょ。
私達の仕事は冒険者をサポートすることだからね」
「そんなことが……配慮ありがとうございます」
礼を言ってシルさんから離れた。
それにしても魔巣に行った冒険者の不可解な死って一体。
もしかしてあの時の……。
いや、あの時人は俺達以外にはいなかった。
気の所為だ。
「じゃあ、昇格の方を済ませちゃおうっか」
サユがバッグから硬貨の入った布袋を取り出した。
中から一枚また一枚と硬貨を手に取る。
手に取った硬貨をカウンターの上にジャランっと置いた。
「はい、ちょうどね。おめでとう! 今日から二人ともレベル3の冒険者よ」
やっとだ。
ついにレベル3になった。
「ありがとうございます」
***
ギルドでの諸々を終えた俺達は帰路につく。
「お兄ちゃん、部屋の掃除する為の物って家にあるっけ?」
「物置にでも置いてあるんじゃないか」
「そうなの? なら早く帰ってやっちゃおう! あっ、勿論お兄ちゃんも手伝ってね!」
「わかったよ」
サユはニコニコしながら先を走って行った。
その後ろを俺とミーシアスが歩いて追う。
***
「……お兄ちゃん、物散らかしすぎ」
「すいません……」
俺の部屋の向かい。
特に使うことはなかったので俺の物を時々置いていた。
だが想像以上に物がバラバラに置かれていた。
「もう……こういうのとか物置に置けばいいのに」
「いやぁ……物置に置くとさどこに置いたかわからなくなるじゃん?」
「こんなに散らかしてたら物置と変わんないっ!」
「本当にすいません。代わりに部屋のホコリを掃除致します」
「うむ、頼んだ。それでお兄ちゃん、この荷物達って全部物置でいいの?」
「あぁ、うん。それで頼む」
「はいは〜い。じゃあ、ミーシア、一緒に持ってこ」
「はい!」
サユとミーシアスが俺の荷物を一緒に持って物置まで向かった。
俺は濡れた布を持ってまずは窓を拭く。
拭き終えたら窓を開ける。
次に床だ。
ちょっとホコリが被っていて汚い。
といってもこれを拭くのもめんどくさい。
だから布拭きを加速してやろう。
「加速」
端から端にスーッと濡れた布で走る。
行って戻って、それを少しずつ横に移動しながら繰り返した。
数秒もしないうちに部屋はあっという間にピカピカに。
あれ、これもしかして俺、掃除の才能あるかもな。
「お兄ちゃんー!!!!」
物置の方からサユの声が聞こえてきた。
急いで向かう。
「お兄ちゃん、ここは男の力が発揮する時だよ」
「え?」
サユが指さす先にはベッドが置かれていた。
そういえば俺の向かいの部屋にはベッドがなかったな。
「はいはい、お任せ〜」
ベッドを横に傾けた。
「扉側の方を二人で持ってくれないか」
「は〜い」
「わかりました!」
息を合わせて部屋を出て、俺の向かいの部屋にベッドを入れ込んだ。
ちょっとずつ部屋らしくなってきた。
「よし、じゃあ、お兄ちゃん、シーツとか洗っといてね」
「良いけど、サユはどうするんだ?」
「一通り終わったし、私達はこれからルーアのところに行ってくる!」
「そうか、わかったよ。あとは全部やっとく」
「任せた!!」
サユとミーシアスが階段を駆け下りていく。
するとサユが扉の前で立ち止まった。
「あっ! 家に誰もいないからってミーシアスの下着が入った入れ物開けちゃだめだからねっ!」
「開けねーよ!」
「ク、クライドさんにお見せできるようなのは入っていないので……まだ待ってください……!」
「まだって何だよ。というか開けないから安心しろ。ほら、早くレインとこ行って来い」
「は〜い! じゃあ行ってきます!」
サユとミーシアスは家を出ていった。
***
シーツや枕などを洗い終え干した。
そして今は俺の部屋のベッドの上で横になっている。
久しぶりに一人でゆっくりしている気がする。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
いつサユに言うべきか。
本当はいつでも言えるのにタイミングを考えてしまう。
ただ離れよう、そう口にするだけなのに。
どうして俺はこんなに……。
早くしないと。
サユの為にも俺達の為にも。
成長する為に。
本来あるべき状態に戻さないと。
「あぁ!! もう!!!」
俺は枕に顔を埋めた。
「母さん……俺はどうしたらいい。今は正解なのか……?」
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