どんちゃんの願い
朝の六時にアラームが部屋中に響く。
今日も仕事だ。連休が取れない。アルバイトなのに。
起きようとすると右腕が痺れているのに気づく。目を向けると、どんちゃんが私の腕を枕にして寝てた。
寝息をたてながら気持ちよさそうに寝てるのを見てどうやって抜け出そうか考える。
昨日いっぱい遊んだから疲れてるんだろう。
ゆっくり腕からどんちゃんの頭をどかそうとゆっくり腕を引いていく。
少し揺れてしまいどんちゃんが目を開けてしまう。
「かぁたん!おはよう!」
「おはよう」
動物って寝起きいいよなと思いながら羨ましいと思う。
どんちゃんをベッドから下してご飯の準備をする。
「かぁたん今日も遊ぼ!」
「今日は仕事だから遊べないんだよ帰ってきたら遊ぼ」
お皿にドッグフードを入れてサークルの中に置く。
「嫌だ嫌だ!!僕と遊ぶの!!」
「わがまま言わないで」
「その箱も嫌だ!」
サークルの中にも入るのを拒否されてしまう。
困った。ただそれに尽きる。
喋れている分気持ちがダイレクトに心に響く。
サークルの中にだけでも入ってほしいが、ずっと嫌だ嫌だ言って走り回ってる。
「サークルの中に入らないでお留守番できる?」
「できるけど、かぁたんと一緒にお留守番するの!」
話せる前もこんなに一生懸命伝えていたのだろうか。
寂しい思いをさせまいとしていたが、足りないようだった。
私は洗顔を終えてしてるかわからない化粧をしながらどうしようか考える。
私の膝にしがみつきながら行っちゃダメと頭を振っている。
その頭を撫でて落ち着かせる。
「早く帰ってこれるように頑張るからどんちゃんも頑張ろう」
「僕頑張れるかな・・・」
「どんちゃんなら頑張れるし、帰りに新しいおやつ買ってきてあげるよ」
「ほんと?」
「ほんと」
話が聞けるまで落ち着いたのか、目から大粒の涙を流しならお座りしてくれた。
私は涙焼けになってしまうのでティッシュを取り出して涙を優しく拭いてあげる。
「ありがとうかぁたん」
「こちらこそありがとう」
鼻声のかぁたんが可愛くて頭をぐしゃぐしゃに撫でまわす。
ご飯食べなと言うとかぁたんが行った後に食べると言うので、身支度を済ませる。
七時に十分もう出ないと遅刻してしまう。
「じゃ、行ってくるね」
「早く帰ってきてね!絶対だよ!」
「できる限り頑張るね!あとおやつも忘れないからね」
「うん!絶対だよ!」
「ご飯食べておもちゃで遊んでいっぱい寝ていいからね」
「あい!!」
いってきまーすと扉を開けて日の日差しを浴びながらどんちゃんに言う。
どんちゃんはこちらを微かに尻尾を振っていた。
こんなにも出勤が不安で嫌な気持ちになるのは初めてだし、この先慣れるのだろうか。
職場に着いて子犬と子猫のご飯をふやかす。
十一時まで管理部門は、私一人なので、鍋下さんが働きやすいように少しでも業務を減らす。
そしてご飯をあげていて分かったが、私はどんちゃんの声しか分からないらしい。
「田瀬~おはよう」
「鍋下さんおはようございます」
業務をしていると時間が経つのが早いが、電話が鳴ったりして思うように進みがいかなかった。
「私トイレ洗うから田瀬はカルテ書いて、そのあと休憩入ろうか」
「わかりました」
表にいる仔と裏にいる仔合わせると三十頭のカルテを書いていく。
カルテと言っても食べたご飯の量やうんちの状態を記入していくだけだけど、このカルテで生体の状態がわかるので、記入漏れなど気を付けて書いていく。
「カルテ書き終わりました」
「じゃぁ休憩いってきて」
休憩に入って今日お弁当忘れたことに気づく。
朝はどんちゃんの機嫌を取るのに必死だったもんなと思いながら一階にあるスーパーで納豆巻きを買う。
匂いなど気にせず好きなものを食べるのが一番いいと思う。
たばこ一服してご飯食べてまた一服する。これが私のルーティンだ。
どんちゃん大丈夫かな・・・。ご飯食べたかな・・・。
犬用のカメラでも買うかとたばこを吸いながらネットを開く。
安かろう悪かろうだと私は思うので予算は一万位がいいだろうと探す。
自動でご飯もあげれるものだったり意外と沢山あることに驚いた。
家に帰ったら探そう。
「戻りました」
「おかえり~」
鍋下さんは子犬のお手入れをしながら言う。
「今日も残業ですかね」
「なに、用事でもあるの?」
「いや、なにもないんですけど・・・」
わかった!と鍋下さんは子犬を部屋に戻す
「どんべぇに会いたいんでしょ!」
「実は・・・」
「まだわからないけど、定時であがれるように善処するわ」
「ありがとうございます」
飼い経てはみんなそうだしねと次の仔をお手入れをする。
「鍋下さんは猫の声がわかったりしますか?」
「はい?」
変なことを聞いてるのは分かるが、鍋下さんは歴長いし、聞こえていてもおかしくないと思って聞いてみたが、反応が何言ってんのこいつはと聞くのを後悔した。ただの変な奴でしかない。
「わかってたら苦労しないわ」
確かにそうだ。喋ってくれたら体調などもっとわかりやすいだろうし、もっと生体に寄り添うことが出来るだろう。
鍋下さんに変な質問をしたあとも業務や接客に追われ定時になった。
「田瀬上がっていいよ~」
「いいんですか?」
「あとは床拭きだけだし、大丈夫よ」
私はありがとうございますと言い、社員証をタイムレコーダにピッとかざす。
帰りにおやつを買うのも忘れないようにすぐ商品コーナーに行ってたまごボーロを買う。
レジには竹本さんがなにか作業してた。
「お疲れ様です」
「もう上がりですか?」
「そうなんです」
たまごボーロを読み取り清算のスピードに慣れを感じる。
「今度休みの日でもいいんで会わせてくださいよ」
「わかりましたお疲れ様です」
会話もそこそこにして帰宅を急ぐ。