包帯と覚悟
息がスムーズに出来ない。
足は先ほどより酷くなってきてヒールを赤く染めていた。
そして見つけた。
広場の真ん中で泣いているどんちゃん。
「どんちゃん!」
と呼ぶとこちらを振り向く。
スローモーションのように感じた。
目が合うと、どんちゃんは大きな涙を流してこちらに走って向かってくる。
途中で転んでしまってたどり着けなかった。
私は転んだどんちゃんの方へ走る。この距離が長く感じる。
どんちゃんを抱き上げる。
「どんちゃんごめんね」
「かぁたん怖かったぁぁぁ」
ずっとごめんねと言って抱きしめる。
こんなに生きた心地がしなかったのは初めてだ。
どんちゃんは私の服を涙で濡らす。
どんちゃんの背中を撫でながら菊池に電話する。
「見つかったか!?」
「大丈夫見つけた」
「良かった~」
菊池と合流するため元のイートインスペースに戻る。
靴擦れは痛むが、どんちゃんを見つけた安心感で包まれていた。
「どんちゃん!」
「おじさん!」
菊池は私とどんちゃんを抱きしめた。
こんな大勢の人の中で抱きしめられて恥ずかしさがあったが、背中に回ってる腕が震えてた。
菊池も不安と戦っていたのだ。
「ちょっと座ってもいい?」
「あ、あーわりぃ」
私はどんちゃんを抱っこしたままイスに座る。
足の痛みが増してきた。
「かぁたん足大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「怪我してるのか!?」
菊池は私の足を見て、「ちょっと待ってろ」とどこかへ消えていった。
十五分くらい経ったときに菊池は袋をもって帰ってきた。
「足出せ」
「な、いきなりなによ!」
菊池はアルコールスプレーでガーゼを濡らし、私の靴擦れをおこしている部分に充てる。
少し沁みたがその分優しさが広がるのを感じる。
絆創膏だけでいいのに丁寧に包帯を巻いてくれる。
「これでも大丈夫か?」
「ありがとう」
「おじさんありがとう!」
もう迷子になるなよと頭を撫でる。
足を包帯で巻いてもらったあと、気づけば夕方になっているので帰ることにした。
どんちゃんは迷子になって怖くなったのか抱っこから下りようとしないので、抱っこしたまま歩く。
歩いている最中にどんちゃんは寝てしまった。
「重くないか?」
「大丈夫だよ~」
包帯を巻いてくれたので痛みは軽減されたので、どんちゃんを抱っこし続けられる。
「悪かった」
菊池は申し訳なさそうに言ってきた。
「俺が目を離したからどんちゃん迷子になった」
「見つかったんだし、大丈夫だよ」
急に菊池は立ち止まる。
「どうしたの?」
私は問いかける。
「俺とのこと真剣に考えてほしい」
たったその一言で私は冷静になる。こうして休みの日に会うのはカップルと変わらない。
どんちゃんも仲間に入れてくれて、どんちゃんの事を考えてくれる人は中々いないだろう。
今日も迷子になった時も冷静に迷子センター行ってくれたし、足に包帯巻いてくれたりした優しさを身に染みている。
「あなたの嫌いな所は私を好きでいてくれないところだよ」
「・・・わりぃ」
二年片思いをして振られた人だ。今は気持ちが揺れ動く時期だろう。
元の鞘に収まるとは少し違う。なぜなら私たちは付き合っていなかったからだ。
付き合っていないのに体だけの関係をダラダラと続けていたのだ、情に近い感情しかない。
二人は静かに歩き始めた。
「ここまでありがとう」
「大丈夫か?」
「大丈夫どんちゃんも寝てるから私も少し寝る」
家の前まで持って送ってくれた菊池からリュックをもらう。
もう会うのをやめよう
「ねぇ」
「ん?」
「一瞬でも私の事好きだった?」
菊池は驚いた顔をしたが、私の目を見た
「好きだった」
「ありがとう!」
菊池の肩を叩いて、階段を上がる。
振り向いちゃだめだ。気持ちに揺らぎが出てしまう。
私は静かに涙を流した。これでいいのだ。
部屋に入り、ドアの前でどんちゃんを抱いたまま静かに崩れ落ちる。
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