選ばれた運命
セフレと関係を切って半年になる。
小さな寂しさには仕事の疲れで、感じることはなくなってはいるが、大寒波並みの寂しさには慣れずにいる。仕事の量が増えた。いや、出来ることが増えた。
契約を何件かこなしながら裏方業務もしなくてはならなくて残業時間もアルバイトには厳しいものがある。
「お前とも半年も一緒にいるんだね~」
バックヤードにいるシーズーに向けて話しかける。
シーズーも他の仔より一回り大きくなって、部屋が狭く見えてしまう。
半年も家族が決まらないのは多くはないがたまにいるよねってまだ迎えはきてないだけだと。
「田瀬さん!田瀬さん!」
「加藤さんどうしたんですか?」
年下で先輩の加藤さん
背が小さくて女の子らしい人だ。悪く言えばぶりっ子に見えるだろう。
そんな彼女がぴょんぴょんと跳ねながら
「シーズーちゃんの抱っこ希望する人がいて今度こそ絶対飼い主見つけてあげたいんです!」
加藤さんは売り上げをあげているのは、優しい雰囲気に隠れている負けず嫌いな所とプライドの高さだろう。加藤さんの接客は飼う気がない人も飼ってしまうほど気持ちを動かすのが上手な人だ。
半年いるシーズーも家族決まるかな。
「シーズーちゃん頑張ろうね~」
加藤さんに連れていかれるシーズーを見て寂しく感じた。
半年前からシーズーの事を考えると胸が痛くなる。
落合さんの事を考えても痛くなる。最近会えてないのも寂しさの一つかもしれない。
明日落合さんがヘルプで来るらしいけれど、あいにく私は休日だ・・・。
それにしてもシーズーの帰りが遅い。
扉を少し開けて覗いてみると家族に抱っこされてるらしく、小学生位の女の子の膝の上にいるが女の子がシーズーの耳を引っ張ったり鼻を押したり嫌がる行動ばかりしている。加藤さんは親御さんと話していて気づかない。その時シーズーも我慢の限界だったのだろう女の子の膝から飛び降りて一目散に私のほうへ走ってきた。
「田瀬さん!ありがとう!急に走り出すからびっくりしちゃった!」
親御さんはすみませんすみませんと頭を下げて子供の手を引っ張って去っていった。
「あともうちょいだったんだけどな・・・」
たまに自分のノルマのために本当に相性の良い家族探しをしているのか?
加藤さんはノルマしか見えてないのだろうか・・・。
私はシーズーをぎゅっと抱きしめた。この仔の性格上ファミリー向けではないだろう。
シーズーは私の薄化粧したが汗で化粧が落ちた頬を舐めた。
あの後残業をして最後にシーズーを見て帰ったが、いずれは家族が決まって会えなくなるんだろうな。
私がいない間に家族決まってしまったらどうしよう・・・。
私が家族になるのはどうだろうか?今住んでいるマンションはペット可だし、お金の用意もできる。
最後まで看取る覚悟が私にはあるか・・・。
気が付いたら私は自分の職場に来ていた。
お金が入った封筒を握りしめて。
落合さんのいらっしゃいませ~を休みの日に聞くのは今日で最初で最後だろうな。
私はCAのエリアに行きシーズーがいるか確認した。シーズーはいた。あっちもこっちに気づき尻尾振って前足でガラスをひっかいている。
「あれ、田瀬さんだぁ!どうしたの今日休みですよね?」
「この仔迎えに来たんです」
加藤さんに話しかけられたが、私は淡々と告げたため一瞬二人の間に変な空気が流れた。
なんて言ったこの人?え?なんて返せば正解なのだろうか顔見ただけでこんなにも考えていることがわかるのも面白いものだ。
「担当の人は落合さんでお願いします。」
間髪を入れずそう答えた。
加藤さんは一瞬固まったけど、すぐいつもの笑顔で「落合さん呼んできますね!」
この時間落合さんは商品の方で品出しかな。
加藤さんは自分の契約にならなくて怒っているかな・・・。
でも好きな人を独り占めしたいそして新しい生活を全力で応援してほしいと思ったのだ。
「田瀬さん!連れてきたよ~」
「ありがとうございます」
「私はシーズーちゃんのお手入れしとくね」
「はい お願いします」
加藤さんがシーズーを抱っこしてバックヤードに消えていった。
私は落合さんに向き合い
「忙しい中申し訳ございません」
「いいよ全然!まさか迎える側になるとはね」
「少ないんですか?」
「いや、結構いるよ」
こうして落合さんと話せる機会なんてそうそうにないから心臓がバクバクだ。
二人で何も言わず契約ルームに行く。
「保険とかその他諸々省いて大丈夫かな?」
「はい!大丈夫です」
「あ、でも動画だけでも観てて決まりだからさ」
落合さんが出た後、動画を見てたが、これずっと見るの子供とか辛いだろうな。
これらを飛ばして早く家に連れて帰りたい気持ちがやっとわかった。
でも働いている側なので初心に戻って動画を観ていたらお手入れされたシーズーが来た。
「田瀬さんが迎えるなんて思わなかったけど、幸せだね~」
加藤さんに抱っこされたシーズーは首元にリボンを付けていてそれが気に食わないのか首を横に振っていた。それが可愛くて胸が痛くなった。私がこの仔の家族になるんだ・・・。
「田瀬さんこの書類にサインお願いできるかな」
落合さんが終始育成の書類を持ってきた。
これはあんまり強制力のある書類ではないが、ある種の確認ともいえる。
私は悩まずサインをして絶対この仔を幸せにするんだと少し字が震えた。
「名前とか決まってる?保険入る前提で聞くんだけど」
名前までは決まってなかったが、ふとかっこいい名前は似合わないし、可愛い名前も似合わないと思い少し悩みながらシーズーを見てたらちょっと古風な感じが似合うなと思ったので・・・。
「どんべぇでお願いします」
そう言ったら加藤さんが笑ってしかも落合さんまでも笑うので変だったかなと少し恥ずかしくまったが、どんべぇがしっくりときた。
「どんべぇちゃんか!いい名前だね!田瀬さんらしいし!」
「どんべぇちゃんよかったね!」
加藤さんからどんべぇを渡してきて心の中でどんべぇよろしくねと言った。
名前が決まってからリードや首輪やおもちゃをどんべぇと落合さんで選び幸せな空間に私は高揚としていた。
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