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仕事と両立とりんご

入園して一週間が過ぎた。

バタバタした一週間だった。二回、二十分の職場に遅刻をしてしまい、店長には、


「大丈夫!ワンオペって大変だからね!」

「本当にすみません」

「何か力になれることがあったら言ってね」


私は業務に戻り鍋下さんにも謝罪を言う。


「私は大丈夫だけどシフト変わろうか?遅番だったら遅刻する心配ないでしょ?」

「ありがたいんですけど、それだと帰りが遅くなってしまって迎えが間に合わなくなってしまうので・・・」

「あ、そっか」


私がしっかりすればいい話なのだ。

シフト時間を減らせば暮らせなくなる。どんちゃんの保育園も通えなくなるそれだけは避けたい。

どんちゃんが保育園を楽しく登園してるのは私が一番わかっている。


「私が頑張ればいいんで大丈夫です!」

「田瀬・・・何かあったらいいなね」


私は業務を進めて、定時の五時半に鍋下さんから「上がりな」と言われる。


「でも、まだやることあります」

「定時に上がれるときはあがりなさい」


鍋下さんは優しい声で「どんちゃん待ってるよ?」と私を押した。

私は後ろ髪を引かれる思いでバックヤードの休憩室に入った。

そこには店長がいて、「お!田瀬さんあがりかい?」とパソコンから目を離す。


「でも、まだ業務が残っていて・・・」

「なら僕が手伝うからどんちゃん迎えに行きな!お疲れ様!」


そう言ってバックヤードに消えていった。

私は打刻をしてリュックをロッカーから取り出す。

私の居場所が無くなってしまうのではと一瞬怖くなった。

残業が出来るから私の居場所を作っていたかもしれない。

私は帰りに本屋さん寄りひらがなや数字のドリルを買い足した。


自転車を走らせてリクの里へ向かう。

六時に着きどんちゃんがいるであろう教室を開けると先生と絵本を読んでいた。


「あ、かぁたんだ!今日早い!!」

「どんちゃん!おかえり!」


足に抱き着くどんちゃんを抱っこする。

どんちゃんの担任の吉井さんが「どんべぇくん今日もいい子でしたよ~」と教えてくれる。

連絡帳など入っているトートバッグを渡してくれる。いつもどんちゃんがお迎え最後だから

先生と過ごす時間も多い。いつも助けられている。


「どんちゃんヘルメットしようか」

「自分でつける!」


どんちゃんは日に日に自分でやりたい欲が出てきている。保育園で自信がついたのか良い事だと危ない事以外全部やらせてみせる。


「出来ないぃぃ」

「どれ見せてみ」


付けれず半泣きになりながらも頑張っているどんちゃんの手を上から支えてパチンと閉める。


「どんちゃんすごいね!」

「どんべぇくん上手!」


えへへと半泣き君はどこかに行ったらしい。

吉井さんに礼を言って自転車のペダルを踏む。


「今日の夜ご飯なに?」

「今日はジャガイモとチキンを茹でたやつとご飯にしようかな」

「卵焼きは?」

「明日のお弁当にいれてあげる」


卵焼きが食べたい!とバタバタ暴れるので「明日入れないよ~」と言うと「もっといやだ!」とまた足をバタバタさせる。

保育園に通い始めてから自我が出てきたのか我儘な部分が出てきた。

喜ばしい事だけど、時間がない時などは困る一方だ。


家に着き、どんちゃんに手を洗うように言う。


「あわあわ石鹸」

手を泡で一杯にしてゴシゴシ合わせるどんちゃんの後ろで流しのシンクで手を洗う。

お水を鍋に入れお湯を沸かす。その間にじゃがいもの皮を剥く。


「てって洗ったよ!」

「良い子!あともう少し掛かるからかぁたんとお勉強しようか!」

「おべんきょうする!」


買ってきたドリルを出してあげると目をキラキラさせて覗き込んでくる。

新しい事に怖がらず挑戦してくれるのが嬉しかった。

買ったかいがある。


「鉛筆持って」

「あい!」


子供用のイスに自ら座って、鉛筆を持って足をパタパタさせる。

待ちきれないようだ。


「この文字をなぞってください」

「あーいーうーえーおー」


絵本を読んでいるから読みは強いが書きは覚えさせていなかったので、なぞらないと書けないらしい。

これから書ければいいと思いながらご飯作りに戻る。

茹で上がったジャガイモとささみをザルに取り、一口大に切る。

冷蔵庫にあったりんごも食べやすく切ってお皿に盛り付ける。


「どんちゃんご飯出来たからお勉強後にしようか」

「今、「さ」を書いてるから「そ」まで書きたい!」

「じゃぁ書いちゃって~」


お盆に載せたご飯たちがどんちゃんを待つ。


「書けた!かぁたん見て!」

「すごい!綺麗に書けたね!」

「すごい?」

「すごいよ!」


どんちゃんは恥ずかしそうに顔を隠してる。尻尾がふりふりしているのは隠せない。


「頑張ったどんちゃんにはりんごもついているよ」

「りんご?野菜?」

「果物っていって美味しい食べ物だよ」


明日のお弁当にも入れるねと伝えてどんちゃんのご飯を見守る。

上手にスプーンとフォークを使い分けている姿を見ると保育園に通わせて良かったと心から後悔がない。

家では限界がどうしてもあるのだと、ドリルを楽しそうに取り組むどんちゃんを見て実感する。

仕事と両立が大変だが、どんちゃんの頑張る姿を見ると不思議と頑張れる気がする。


「りんご美味しい!」


シャリシャリと音を鳴らしながら食べているどんちゃんの口元を拭く。


「明日のお弁当にも入っているから楽しみだね」

「卵焼きもだよ~」


足と尻尾をパタパタさせているどんちゃんを撫でる。

明日も頑張れそうだ。










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