新人の破壊力とiPadで絵本を選ばせたら
犬がスマホというものを知ったらどうなるんでしょう。
「犬舎の窓ふきは教わったんですけど、鍵がないので出来てないです」
「余ってる鍵ないから私の貸すよ」
腰のエプロンから鍵を取り出し柊さんに渡す。
「最初は犬や猫と遊ぶのが仕事だからめいいっぱい可愛がってあげてください」
「いいんですか?」
「最初はね」
この環境に慣れてもらうためか、私も最初子犬と遊んでたなと思い出した。
今は業務に追われて遊べていないが。
子犬や子猫と遊ぶのも仕事の一つだ。その仔の性格を知れる一つの手段で、お客様のニーズに合わせたりするときに必要になる。
お手入れの仕方でも教えようかどうか考える。
私に任されたが大丈夫なのだろうか・・・。
「田瀬さんって彼氏います?」
お手入れの仕方を教えていたら関係ない質問がきた。
「いないですよ」
「やっぱりいないですよね!」
柊さんは声を張り上げて私に目を合わせる
自然と見上げるようになるのは彼女の背が高いからだ。
「田瀬さん仕事人間を感じます!」
彼女は裏表がないから言えるのか悪意があるから言うのか初対面で彼氏できなさそうと遠回しにいっているのか少し疑問に思う。
「私彼氏いるんですけど、別れようか悩んでいて」
「そうなんですね」
私はカルテを書きながら答える。
早く加藤さんの接客終わらないか視線を向けるが、終わりそうにない。
何故初対面でこんな思いをしなくちゃいけないのか。
「でも次がいないから踏み切れなくて」
「そうなんですね」
なんて返せばいいのか分からない会話に少し苛立ちを覚える。
初対面で恋愛事情を話すほど仲良くなった覚えがない。ずかずかと人の領域を踏み荒らそうとしてくる。
それならまだ加藤さんに話した方がいい。加藤さんのことだから皆に言いふらすだろうけど。
その後加藤さんの接客が終わったので、引継ぎを終えてバックヤードに戻る。
鍋下さんに事の経緯を話して「やっぱり変な子か・・・」と鍋下さんは悩ましそうに呟いた。
その後新人育成は加藤さんに任せて二時間の残業を終えて帰宅した。
「かぁたん!ボロボロ食べながら絵本観たい!」
「どっちかにしないさい」
鶏肉の塩焼きを作りながらどんちゃんのわがままに答える。
こうしていると母親になった気分だ。人間の子供の方が断然大変だけど・・・。
焼いている最中にどんちゃんにボロボロをあげる。
「美味しい!今日七個食べたい!」
「わかった七個ね」
グリルで焼いているといつもより香ばしい良い匂いがしてきた。
肉を裏返しにしてもう一度焼く。
「絵本!絵本!動画!動画!」
「どんちゃんどんな絵本が欲しいとかある?」
「どんな絵本?」
本屋にはどんちゃんが入れないため絵本選びができない。
今の時代ネットショッピングができるのが幸いだった。
「明日絵本届くけど、どんちゃん絵本読むの好きだから買ってあげる」
「いいの!?」
iPadでママゾンを開く。
カテゴリーから絵本を選択してどんちゃんに見せる。
「いっぱいある!!」
「好きなの選んでね」
私はお肉を救出して、テーブルに置く。
長芋の千切りを用意していただきますと食べ始める。
いただきますもどんちゃんが居なかったら言ってなかったなと不思議な気持ちになる。
どんちゃんは必死に絵本を探している。
小さい肉球で操作しているのを見ながらご飯を食べる。
「いっぱいあって困るよ~かぁたん」
「一緒に探そうか」
iPadを取り膝にどんちゃんを乗せて一緒に選ぶ。
絵本にも何歳向けみたいな表記があってどんちゃんが人間でいう何歳くらいの知能を持っているのか分からなかったが、話せるレベルだと四、五歳なのかなと自己判断する。
「これ絵が可愛い!これと・・・あとおもちゃも欲しい!」
「絵本じゃないじゃん」
おもちゃは職場で社割で買えるから今は絵本を選んでもらう。
「大好きだよ?これも欲しい!」
「どんちゃん大好きって言葉好きだね」
「だって大好きなんだもん!」
純粋に大好きが大好きと返したどんちゃんに笑みがこぼれる。
「どんちゃんが居れば恋人なんていらないね」
「こいびと?」
「好きな人って意味だよ」
「ぼくかぁたん好きだからこいびとなの?」
「どんちゃんは面白いね!」
ちょっと違うなっと思いながら選んだ絵本をカートに入れる。
どんちゃんを膝から下してご飯の続きを食べる。
明日も仕事だ。
「ごちそうさまでした」
「かぁたんえらい!」
「ありがとう!さて寝るよ~」
絵本の時間だ!!とスロープを上る。
まだ選ぶほどの絵本はないが、かけがえのない時間だ。
また明日頑張ろう。
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