大好きなかぁたん
あれからどんちゃんは「大丈夫?かぁたん」と繰り返し聞いてきて、寝るまでずっと不安な顔をしてた。
こんなに不安にさせてしまって自分の日頃の行いを悔いた。
「かぁたん今日も仕事?」
朝の支度をしているときに、不安げに聞いてくるどんちゃん
今日は一人にさせるのが私自身不安だったので、仕事を休むことにした。
「ちょっとお電話するから待っててね」
「うん・・・」
会社に繋がる専用の電話番号に掛けて三回目のコールで店長が出てくれた。
「田瀬さんどうした?」
「ちょっと体調悪いのでお休みさせていただきたいと思いまして・・・」
「残業続きだもんね、今日はゆっくり休んで~」
「ありがとうございます」
電話を終えてどんちゃんに顔を合わせる。
ずる休みみたいで申し訳ないが全部の事情を言えな過ぎて誤魔化すしかできない。
「仕事休んだから大丈夫だよ」
「ほんと?大丈夫?」
「大丈夫今回だけね」
いつでも休めると覚えちゃうと困るので念を押す。
「今日はずっと家にいる?」
「いるよ」
「あいつは来ない?」
「来ない!来てもお母さんやっつける!」
「ぼくもやっつける!かぁたん守る!」
ひつじのぬいぐるみ相手にこうやってこうやって戦う!と言いながらもみくちゃにしてる。
一応お気に入りのぬいぐるみに取っ組み合いをしてるどんちゃんに笑顔がこぼれる。
「かぁたん笑った!」
「そうだね~ありがとう!」
どんちゃんから元気を貰いセフレに返事返さないとと思いスマホを弄る。
「昨日は気が動転してたけど、もう家には来ないでほしい」とメッセージアプリに入力して送信ボタンを押す。その手が震えていたのを隠すようにどんちゃんを撫でる。
「今日なにしようか!」
「絵本と動画観る!!」
動画と絵本にハマっているどんちゃん
動画で 「絵本 読み聞かせ」と検索する。
何歳向けがどんちゃんに当てはまるか分からないので、一番最初でた「きみのことが だいすき」という絵本の読み聞かせを再生する。
どんちゃんはぬいぐるみを持ってきて定位置に座った。
「この森には~」朗読も始めたので絵本選びは正解だったらしい。
私は朝ごはんを軽くパンで済ませてパジャマのまま座椅子に座って動画を眺める。
「かぁたんよいこ!」
「ありがとう!どんちゃんもよい仔だよ~」
「この絵本欲しい!」
「桃太郎読めた?読めたら買ってあげるよ」
と聞くとベッドにある絵本を咬んで持ってきて器用に前足で開いた。
最初は無理だったことが出来るようになっていることに心が温まった。
「むかーしむかしあるところに~」
私の横で朗読を始めるどんちゃん。どんちゃんは真剣に一門一句大事に読んでいた。
「きじさんおなか、まになりませんか?」
少し止まったりするが、読めているのでネットで「きみのことが だいすき」と検索して購入する。
私が小さい頃に読んでいた絵本も一緒に買ってみた。
届くのに二日ポスト投函なので、仕事でも大丈夫だ。
「読めたよ!かぁたん!」
「どんちゃんすごいじゃん!」
「えへへ」
「もう一冊買ってあるからそれも読もうか」
お腹が空いている毛虫のお話で人気らしいので買ってみたが、毛虫が苦手な私は絵でもダメなんだと発覚。動画を探すとこの絵本は歌付きらしい。
「お歌だ!」
「歌えるかな」
げつようび~げつようび~と前足をパタパタさせてリズムを取っている姿をスマホで撮影する。
絵本が終わり二回目観る前にどんちゃんに話さなければならないことを思い出す。
「どんちゃん今いいかな?」
「あおむしみたーい」
「お話終わったら観ていいよ」
はーいと返事をして私の前でおすわりする。
なんて説明しようか考えてなかったが変に回りくどい言い方しなくてもいいかと思えた。
「どんちゃんは生まれて八か月になるので、去勢手術を考えないといけません」
「きょうせいじゅじゅつって何?」
「どんちゃんのたまたまを取る手術です」
「たまたま取るの?」
少し不安そうに自分の陰部を見て確かめている。
どんちゃんにこれから発情期のことスプレー行動やマウント行動を説明して、睾丸があると睾丸の病気になりやすいこと、私が一番心配している性格が変わってしまうかもしれないことを説明した。
どんちゃんのわからないことだらけで不安にさせてしまうが、大事なことなので誤魔化して説明をしたくなかった。
「病気になっちゃうの?」
「その可能性があるってことだよ」
どんちゃんの質問に真摯に答えてあげようと決めていた。
「ぼく取ってもいいよ」
「いいの?」
「ぼく何も変わらないよ!かぁたん大好きなの変わらない!」
膝にしがみ付いてきて大好き!って言ってくれている。
意外とあっさり決まったが、どんちゃんの不安を考えると一大事な決定だった。
どんちゃんを撫でて「ありがとう」と伝える。
「あおむしぺこぺこ観ていい?」
「いいよ~」
動画を最初から再生してあげる。
これから病院に電話して手術の予定を入れて、どんちゃんの日本語勉強をして過ごした。
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