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コメディー短編

王城付き文官の職場はダンジョンではないんだ!

作者: 白澤 睡蓮

 今私が見上げる先にあるのは、とても立派な地上型のダンジョンだった。


 王城で文官として働き、早十数年。自分のこの目で直にダンジョンを見る羽目になるとは、まさか思ってもみなかった。


 つい先日まで働いていた王城が、今は立派なダンジョンに変貌を遂げている。王城もといダンジョンの主たる国王陛下は、現在ダンジョンの最奥にいるらしい。


 お前のとこの国王は魔王かよと思う人もいるだろうが、安心してほしい。国王陛下はれっきとした人間だ。普通かと聞かれると、大いに首を捻らざるを得ないが。


 なぜ王城がこんなことになってしまったのかというと、国王陛下がブチ切れてしまったことが原因だった。大まかにことの流れを説明すると。



 近隣の国で聖女が追放され、当王国に居つく。

     ↓

 なんやかんやあって、国を挙げて対応に奔走する。

     ↓

 隣国で悪役令嬢が婚約破棄され、国外追放となり当王国に居つく。

     ↓

 なんやかんやあって、国を挙げて対応に奔走する。

     ↓

 有名冒険者パーティーから追放された荷物持ちの青年が、流れ流れて当王国に居つく。

     ↓

 なんやかんやあって、国を挙げて対応に奔走する。

     ↓

 国王陛下ブチ切れ、王城をダンジョンにする。 ←イマココ☆



 国王らしく国王陛下が持つ魔力は莫大だ。その莫大な魔力を用いて、国王陛下は魔法で王城をダンジョンに変えてしまった。


 これは何もかもが嫌になった国王陛下による、ダンジョンを利用した盛大な引きこもりだった。国王陛下が多少引きこもりになろうが、その程度で国が回らなくなることは無い。だがやはり諸々の最終決定権は、国王陛下にある。そのままダンジョンの最奥に引きこもられたままでは困る。


 初日にダンジョン内に入った偵察部隊によると、攻略する人物の強さによって、大幅にモンスターの強さが変わる親切設計とのことだった。また持ち込んだ武器次第でも、出現するモンスターの強さが変動すると。


 ……親切設計とは一体何だろう?


 王国の上層部は諸々を加味したうえで、正々堂々ダンジョンを攻略するしかないという結論に至った。正々堂々ダンジョンを攻略し、国王陛下をダンジョンから引きずり出す。


 最初にダンジョン攻略に名乗りを上げたのは、当王国が誇る精鋭騎士団だった。彼らは意気揚々とダンジョン攻略に挑み、そう時間を置かずに這う這うの体でダンジョンから帰還した。彼らの強さに合わせてモンスターが爆発的に強くなり、攻略どころではなくなった。そのまま攻略すれば、大量の死者が出てもおかしくなかったそうだ。


 再び王国上層部による会議が行われた。


 下手に強い相手をダンジョンに送り込めば、返り討ちにあってしまう。それならばいっそ、とにかく弱い相手を送り込み、なおかつ武器認定されない物を持ち込んで戦えば良いのではないか。


 かくして普段注目を全く集めない我々文官に、注目が集まった。


 長年のデスクワークによる体力及び筋力の低下。


 近頃のブラック労働による過度な疲労と睡眠不足。


 加齢による体力及び筋力の著しい低下。


 我々以上の底辺戦力がいるだろうか、いやいない。


 王城勤めの我々文官に拒否権は無かった。無かったったら無かったのだ。


 各部署からいけに……代表者一名が招集されることになった。私が所属する国土地理部では、私が生贄……ではない、代表者に選ばれた。己のクジ運の無さに涙が溢れた。


 再び私はダンジョンとなった王城を見上げた。


 私の周囲には、同じように部署の代表として選ばれた文官達が集まっている。集合時間の十分前にして、すでに全員が集合済みだ。どんなに嫌でも逃げ出したりせずに、文官らしく皆真面目。


 それぞれが手に馴染んだものをこの場に持って来ているのだが、持ち物は人によって様々だ。文鎮(鈍器)、ペーパーナイフ(金属製ではなく木製)、はさみ(最近先端の方で紙を切ろうとすると紙がぐしゃっとなるので、根元の方で切るのがコツ)、万年筆(ペンは剣よりも強い)等とバラエティ豊かだった。武器を持ち込んではいけないがために、こんな事態に陥っている。


 かくいう私は、製図用の巨大な分度器を持って来ていた。巨大三角定規にすれば良かったと、もうすでに後悔している。


 約束の時間が訪れ、ついにダンジョンの扉は開かれた。外観と同じように様変わりしてしまった内部に、我々は足を踏み入れた。床も壁も天井もすべてが石造りとなっており、ダンジョンの名に相応しい雰囲気だ。


 ダンジョン内での行動に関しては、事前に騎士団からある程度のレクチャーを受けている。教えに従って我々は歩を進めた。前を向けばどうしても視界に入る、文官達の哀愁漂う背中。私の背中からも同じものが漂っているのだろうか。


 ちなみに我々の中に魔法が使える人間は一人もいない。簡単なことだ。魔法が使える人間は、文官にならない、以上。


 口数少なく歩き続けて、我々は初めてのモンスターに遭遇した。プルプルとしたゼリー状で透明な身体を持つモンスター、スライムだ。我々を発見したスライムは、我々に問答無用で襲い掛かってくる……なんてことは無かった。


 その場で跳ねるだけのスライム。


 その場でプルプルと震えるだけのスライム。


 無の境地に至ったかのように微動だにしないスライム。


 おそらく我々があまりに弱すぎたため、こんなことになっている。我々の弱さの賜物だ。人を傷つける強さをもたない無力なスライムと、我々は死闘を繰り広げた。


 底辺の我々と底辺のモンスター達による、底辺の争いを乗り越えて、底辺の我々と底辺のモンスター達による、底辺の争いを乗り越えて、我々は最奥と思われる部屋の前までたどり着いた。ちなみに二度言ったからといって、大事なことは特にない。


 ここに至るまでには、避けられない犠牲があった。ぎっくり腰で二名、四十肩で一名、筋肉痛で一名が離脱した。歳には勝てなかったね。


 最奥と思われる部屋の扉は、なかなか開かれることはなかった。誰が扉を開けるかで、揉めに揉めたからだ。最終的にじゃんけんで負けた私が、扉を開くことになった。なぜ私はいつもここぞという時に、絶大な運の悪さを発揮するのだろう……。


 私は三度ノックしてから扉を開いた。恐る恐る部屋の中を確認すると、直接話したことは無いがよく見知った人物が、我々を待ち構えていた。


「この先に行きたければ、この僕を倒して行くことだ!」


 追放聖女の件で何やら大変な目にあったらしい、第二王子殿下だった。私は何があったのか全く知らないが、国王陛下に協力したくなるぐらい、第二王子殿下は酷い目にあったのだろう。


 王族の例にもれず、第二王子殿下も膨大な魔力を持っているはずだ。通常なら我々は、第二王子殿下に一方的に蹂躙されて終わるだろう。だが、ここは通常ではない、親切設計のダンジョン内部だ。


 ……ここで疑問が生じた。


 この親切設計のダンジョンでは、挑戦者の強さに応じたモンスターが、自動で生成されるようになっている。ボスであるらしい第二王子殿下は、これに当てはまらないため本来の強さのままのはずだ。ということは、親切設計のダンジョンとは言えないのではないだろうか?


 部屋の中央を陣取る第二王子殿下と、部屋の端の方にいる我々はにらみ合いを続けた。我々は一方的に蹂躙されるのを今か今かと待っていたのだが、第二王子殿下はその場から一歩も動かないままで急に叫んだ。


「なんだ!? このデバフ!?」


 先ほどの疑問に対する答えが出た。


 デバフがかかる。


 第二王子殿下は動かなかったのではなく、動けなかったらしい。我々が弱すぎることにより、現在第二王子殿下にかかっているデバフは、かなり凶悪なことになっているようだ。


 満足に歩くことも出来ずに、第二王子殿下は必死の形相で二歩進んで床に倒れ伏した。我々はしばらく第二王子殿下を見守っていたが、第二王子殿下が起き上がる気配は無かった。


 ボス戦の勝敗はついた。我々文官の不戦勝だ。第二王子殿下の敗因は、我々が弱すぎたことだった。


「やるな、お前達。僕の完敗だ!」


 ダンジョンの仕様によるデバフで自滅したことが恥ずかしいのか、あくまで我々にやられた体で話を進める第二王子殿下。


「すみません、貴方様の尊い犠牲を我々は決して忘れません」

「止めてくれー。気を遣うなら、早く先に行ってくれー」


 床に倒れたままの第二王子殿下の意思を尊重して、我々はそそくさと第二王子殿下の横を通り抜けていった。


 ゴールの扉の目の前まで来て、これでようやく終わりなのだと、我々は歓喜した。慣れない肉体労働とはおさらばだ!


 そこに無情に響く第二王女殿下によるアナウンス。


『第二階層への扉が開かれましたわ~!』


 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………我々の戦いはこれからだ!

続きません!

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