3話
「いい加減離れろ!撃つぞ!」
「お願いです!パーティー組んでください!」
迷宮の出入り口に来ても尚付きまとう少年の頭を掴んで引っぺがし、魂石の換金の為に探索者協会に向かった。
少年も後をついてきたので、換金待ちで暇なので怒鳴ってやる事にした。
「テメェ!しつこいんだよ!よそ行けよそ!」
「あなたのような後衛が必要なんです!お願いします!」
「他当たれ他ァ!」
2人のやり取りは他の探索者の目を引き、目立ってしまう。
アロンはテンガロンハットを深く被ると受け皿に乗った9万4千ヴルを受け取って協会を後にした。
アロンが街を歩いている中でも少年は後ろを歩いてくる。まるで雛鳥だ。
呆れたアロンはいい事を思いついた。囮にでもすれば10階層くらいは行けるだろう。
そうと決まればやるべき事はひとつだ。
アロンは振り返ると初めて少年をしっかりと見る。
犬の獣人で、明るい茶色のウルフカット。
サイズが合っていないのか少し遊びがある、胸と肩を隠した古いプレートメイルに安そうな鎖帷子。
下半身に至っては鉄のブーツだけで、大事な太股を守れていない。
控えめに言っても1度くらいしか囮に使えなさそうだったが、アロンは使ってやる事にした。
「気が変わった。明日協会前で集合だ」
「…!ありがとうございます!」
嬉しそうに尻尾を振りながら、少年は帰っていった。
人気のない裏通りの酒場に入り、カウンター席で蜂蜜酒を飲んでいると隣に座った女に声を掛けられる。
「やっほーアロン。聞いたよ?パーティー追い出されたって」
彼女はハオ。ミュンヘル薬屋の看板娘だ。
そばかすが魅力的な彼女は、アロンのテンガロンハットをとって自分が被ると、アロンの顔を覗き込んで話を続ける。
「ドーンとは別れたんでしょ?これからは堂々と私に会えるね!」
「…おお、そうだな」
アロンは心ここにあらずと言った感じでそっけなく返し、ぼんやりと蜂蜜酒を飲んだ。
ハオはそんなアロンに一方的に話しながら、夜遅くまで飲み明かした。
◇◇◇◇◇
翌日。二日酔いの中迷宮に行こうとすると、獣人の少年に声を掛けられる。
「おはようございます!今日はよろしくおねがいします!」
「………誰だお前?」
「えぇっ!?昨日協会前で集合って…」
そう言われてみればなんとなく思い出す。確か囮に使えそうな奴だった。はずだ。
囮が居れば10階前後に行けるので、アロンは痛む頭を押さえながら迷宮へと向かった。もちろん獣人の少年も後ろをついてきた。
迷宮11層。明日には迷宮変化が起きるので、稼げるだけ稼いでおきたい。
幸い今の25層までの地形は頭に叩き込んでいるので、最高でもそこまで行ける。
しかし2人では無謀なので、11層で稼ぐことにした。
獣人の少年、名をユーシアと言った。
彼は迷宮都市ユトゥリスのあるアーミシア大陸は北方の村から夢を求めてここに来たと言っていた。
役割は笛役。迷宮探索には必須の役割だ。
迷宮内の魔獣は特殊な笛の音に反応、執着するので、敵のヘイトを引き付け前衛や後衛に魔獣を攻撃させ、自身は耐えるのが仕事だ。
木製の中盾に貧相なロングソード。防具も合わせて見ても、やはりいい装備とは言えない。
横目でそう思いながら進んでいくと、迷宮の道の先で黒い靄が集まっていく。
「お出ましだ。いけるか笛役」
「もちろんです!役に立って見せますよ!」
そう言ってユーシアは剣を構え、アロンも銃を構えた。
2人の始めての共闘が、今始まる。