2話
翌朝。
パーティーを追放されたアロンには金が無かった。
どうにかして金を稼がないと、明日はおろか今日の飯すら食えない。家賃もあるし、とにかく金だ。
ルシルへの借金もあるが、まあこれからあまり顔を合わせないし、とりあえず置いておいて大丈夫だろう。
「今日の飯を稼ぐかね」
ホルスターを腰に着け、銃をくるりと回してホルスターに納めると、アロンは家を後にした。
ユトゥリスの朝は早い。贖罪の迷宮に潜る探索者の朝を支える為にこの迷宮都市は動くのだ。
アロンが朝食のリンゴを齧りながら街を歩いていると、迷宮前に構える探索者協会が賑わっていた。
朝はそれぞれのパーティーがその日雇いのパーティーメンバーを募集しているのだが、アロンは追放されたのでまたパーティーに入る気になれなかった。
なのでソロで潜ることにしたアロンは、テンガロンハットをくるくる回しながら贖罪の迷宮へと入っていった。
迷宮内は迷宮変化と言って20日おきにその造りが変わり、地図などはあまり意味がない。
新米探索者などの後発組などは、安全に進むために先発隊から地図を買うと言うのがお決まりだ。
現在の最高踏破階層は40年前に『深紅の獅子』が出した41階になっており、その記録は今なお塗り替えられていない。
100年も経てば迷宮で得られる素材が金になると言う事で、本来人間が目指す最下層到達と言う目標は忘れられようとしている。
かく言うアロンも最下層到達など考える訳も無く、その日の酒と蜂蜜酒に家賃を稼げればそれでいいと言うクチだった。
4階層で雑魚を撃ち殺しながら、進んでいく。
魔獣は迷宮内の魔素から生まれる獣で、殺すと体は霧散し魂石だけが残る。
アロンはひょいひょいと魂石を拾ってポーチに詰めていく。
魂石は様々な用途があり、光源や魔法の触媒、武器や防具の材料になる。
アロンが着ている服も魂石から作られた魔法の糸で作られており、派手な柄のポンチョはアロンには見合わない一級品だ。
銃も同じ一級品で、昔ドーンからプレゼントされた魔法銃を使っている。
この銃自体も凄いが、アロンの戦闘センスと合わさってその価値を示している。
しかしひとりでは相手できる魔獣の数にも限りがある。
ポーチの中も魂石でいっぱいになってきたところで来た道を引き返し、地上に帰ろうとすると悲鳴が聞こえてくる。
よくある事だと思いながら鼻歌を歌って上機嫌に帰り道を歩いていると、角から飛び出してきた誰かにぶつかる。
「ってぇな!前見て走れ!」
アロンが振り向くと、そこには少年が尻もちをついており、その奥からゴブリンキングが追いかけてきていた。
ゴブリンキングは本来19階層以降から出てくる魔獣で、こんな低階層で出てくる敵ではない。
逃げるにしてもこのままいけば地上に出てきてしまうだろう。
今日は迷宮変化まで今日を入れてあと2日。大方後発組が下の階層でゴブリンキングに敗れ、逃げ帰ってきたのを追いかけてここまで上ってきたのだろう。
面倒だが金になるし、ひとりでも充分勝てる上、ここはある程度開けている。アロンにとっては最高の戦場だった。
ゴブリンキングが射程内に入ると、アロンは目に見えない速さで魔法銃を早撃ちし、くるりと銃を回して魔素を込めると再び撃ち始める。
弾丸は着弾と同時に爆発し、ゴブリンキングにダメージを与えていく。
このまま近付かれては厄介なので、顔面に集中砲火し、爆炎で視界を塞ぐ。
爆発の衝撃で頭部を押され、ゴブリンキングは動きが鈍り一方的に撃たれるだけだった。
しかし流石にアロンひとりの弾幕では押しとどめるまでにはいかず、ゴブリンキングはゆっくりと進んでアロンを追い詰める。
ゴブリンキングが振り下ろした棍棒を転がって避けると、素早く膝裏に2発撃ち込み片膝をつかせる。
続けて転がりながら右肘を撃ち抜き、吹き飛ばす。
棍棒を振れなくなったゴブリンキングは、なんとか立ち上がって残った左手で掴もうとしてくるが、アロンは後ろに飛び退きながらくるくると銃を回して魔素を込め、背中で着地すると同時に後転し、起き上がりと同時に両目を撃ち抜く。
前が見えなくなった上、すでに満身創痍のゴブリンキングはそのまま殺されるしかなく、アロンの手によって霧散し、親指3つ分の魂石をどさりと落とした。
アロンが上機嫌でそれを拾うと、道の隅で震えていた少年がいきなり大声を出す。
「あの!僕とパーティーを組んでください!」