病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
ご指摘頂きまして、少し設定変えました。十二歳差から九歳差です。
私の婚約者には、愛する幼馴染がいる。彼はいつだって、彼女のそばを離れない。病弱な幼馴染が寂しがるからと、いくらデートに誘ってもお断りされる。
手紙も、こちらからはたくさん出すけれど彼からはたまにしか返ってこない。内容もほとんど幼馴染の彼女のことばかり。
今日でもう何回目のデートのお断りだろうか。いい加減、私にも諦めがついた。
「きっと、結婚しても彼は変わらないのでしょうね」
だから私は。
「お父様、お母様」
「どうした?」
「お父様とお母様も、いい加減私と婚約者の関係が上手くいっていないのに気付いてらっしゃるでしょう?」
お父様とお母様の顔が強張る。
「すまないが、政略結婚とはそういうものだ。我慢してくれないか」
「いえ、それは別にいいんです。そっちは頑張って我慢するので、別のおねだりを聞いてください」
「おねだりを…?」
私はずっと考えていた願望を口にしてみる。
「結婚するまでの間…病弱だとお噂の、今年で六歳になる第三王子殿下のお世話係をさせていただきたいのです。どうせまだ私は十五歳で結婚適齢期にはなっていませんし、結婚まではまだまだお時間はあるでしょう?」
「…私達としては、それはむしろ願ったり叶ったりだがいいのか?外で働くのは大変だぞ?」
「お願いします」
「わかった。なら、手続きを済ませておこう」
「ありがとうございます!」
だって、彼を見ていると思うのだ。そんなに年下の異性の病気で弱っている姿というのは、甘美なものに見えるのかと。
だから、確かめてみたかったのだ。
「お初にお目にかかります、第三王子殿下。これから私が専属のお世話係となります。よろしくお願いします」
「専属のお世話係…?」
「はい。第三王子殿下だけのお世話係ですよ」
「本当?ずっと一緒にいてくれるの?」
「はい」
幼く見るからに病弱な第三王子殿下をみて、悟った。ああ、これは婚約者が幼馴染にハマるのも仕方がないと。
第三王子殿下が…可愛すぎる…!
「じゃあ、じゃあ甘えていい?」
「もちろんです。ハグしますか?」
「する!」
諸事情で甘えられる相手が今までいなかった第三王子殿下。彼はベッドの上で私からのハグを待ち、手を伸ばしてくる。あああああ!可愛すぎる!可愛い!可愛い!
「第三王子殿下。今までよく頑張ってきましたね。偉い偉い」
「えへへ…」
ハグついでに頭を撫でれば、第三王子殿下は嬉しそうに笑う。
実際本当の年齢も幼いが、病弱なせいでさらに子供っぽい見た目から成長していない第三王子殿下。
ずっとベッドから出られない生活のため、勉強も出来ず教養もあまり身に付いていないと思われる。
「第三王子殿下、もしよかったら一緒に絵本でも読みましょうか」
「うん!」
私は専属のお世話係なので、ずっと付きっ切りで第三王子殿下のそばにいられる。なので、せっかくなら少しずつでも勉強も無理のないペースで教えて差し上げたい。まずは読み書きからということで、絵本の読み聞かせから始めようと思う。
数ヶ月が経ち、私はすっかりと第三王子殿下にメロメロになっていた。気付けば婚約者のことなどもう悩まなくなっていた。婚約者の方も、煩わしい私からの干渉が無くなって幼馴染を大切に出来て幸せそうにしているらしい。
第三王子殿下は私がお世話係になってから、お姫様抱っこで連れ出して少しずつ日の光を浴びるようにしてきた。好き嫌いなく食べられるように、あーんしてあげて頑張って栄養を摂取してもらっている。さらに少しずつ、ほんのちょっとだけベッドから降りてみたり歩いてみたりして、筋力をつけようとしてきた。
その結果この数ヶ月でかなり劇的に体力がついてきた。今ではほんの少しだけ中庭をお散歩できるまでになった。免疫力もついてきたように見える。
「ねえ、これからもずっと一緒にいてくれる?」
「もちろんです、第三王子殿下」
「やったぁ!」
第三王子殿下との日々はとても楽しい。ずっと続けばいいのに。
数年後、私は結婚適齢期となった。幼く病弱だった第三王子殿下はすっかりやんちゃで元気な少年となった。もう体力と免疫力はしっかりついたし、美形揃いの王族の中でもピカイチのイケメン。教養も、本人が天才だったおかげで私の拙い教育でも充分年齢相応の能力を身につけていらっしゃるし。
今までの冷遇が嘘のように、大切な王子様として可愛がられるようになった第三王子殿下。今ではたくさんの侍従と家庭教師まで付いている。そんな第三王子殿下の専属のお世話係として、私も今ではかなり厚遇してもらえるようになっている。
そして、ある有り難いお話をいただいた。
「このまま、結婚せずに第三王子殿下のお世話係を続けていいんですか!?」
うちの爵位をお父様から継いだばかりのお兄様は、私に微笑みかける。
「うん。国王陛下からそうして欲しいと懇願されてね。今まで冷遇してきた手前、第三王子殿下のそんな健気なわがままを断れないとかなんとか」
「ぜひぜひお受けいたしますわ!でも、結婚は破談になりますけれど大丈夫かしら」
「それが…婚約者の彼自身が乗り気でね。病弱な幼馴染を嫁に迎えたいそうだよ」
「あら、やっぱり…」
「だから、破談にはなるがまあ…言いたいことはお互い色々あるだろうけれど、拗れはしないさ」
色々なんとかなりそうで、私はほっと胸を撫で下ろす。
「お兄様、ありがとう。ご迷惑をおかけしますけれど、よろしくお願いいたします」
「ふふ、可愛いお前のための迷惑ならばいくらでも」
そうして私は婚約者と別々の道を進むことになった。
「第三王子殿下も、すっかりと大きくなりましたね」
「全部君のおかげさ」
すっかりと身体を鍛え上げ、文武両道の完璧イケメンとなった第三王子殿下。でも、相変わらず私を慕ってくれています。九歳差の私達。第三王子殿下が十八歳の結婚適齢期になった今、私は二十七歳になりました。でも、結婚しない人生というのも案外良いものです。お金は貯まっているので将来の心配もないし。
心配といえば…。
「第三王子殿下の婚約者、まだ決まりませんねぇ。早く決めて第三王子妃として教育も受けていただきたいのですが。私は第三王子殿下が心配です」
「ああ。そのことなんだけど、水面下で話が決まってたりするよ?」
「え!?なんで教えて下さらなかったのですか!」
「君を驚かせたくて」
悪戯っぽく笑う第三王子殿下。可愛い。
「で、どんな方なのです?」
「公爵家のお嬢さんさ。九歳差なんだけど」
「え、幼すぎませんか?」
「逆。相手が上なの」
「え!?」
ビッくらポンだ。
「第三王子殿下がいいならいいんですけど、いいんですか?」
「いいも悪いも、僕の方から懇願した婚約だし」
「ああ、それならいいんです。第三王子殿下の幸せが第一ですから」
「そう、君にそう言って貰えてよかった。というわけで、第三王子妃教育頑張ってね」
「え?」
第三王子殿下は今なんて?
「君が僕のお嫁さんになるんだよ。驚いた?」
「…えー!?」
「あはは。だって君公爵家のお嬢さんだし、教養も正直充分だろ?だからすぐ結婚できるだろうし、問題ないじゃん」
「そういうことじゃなくて!」
「好きだよ」
短いその言葉に、私は思わず固まる。
「愛してる。君だけが僕の心の支えだ。これからも、そばにいてよ」
私は、気付けば頷いていた。
「わ、私でよければ…」
私は第三王子殿下に強く抱きしめられる。
「わっ」
「愛してる、本当に、心から!」
こうして私は、気付けば思わぬ幸せを手にしていたのでした。