第一話 少女と偽英雄
ープアーズ 日本地区 東京ー
プアーズの中でも特に廃れているこの東京では、治安の悪化に伴い、警察は愚か自警団も居ず、強盗、詐欺、殺人などが往来していた。
そんな中を今日もヒーローのような格好をした少年があちらこちらで起きているありとあらゆることを解決するため、飛び回っていた。
〜
「ふ〜こんなとこか?今日は…」
そう言うと俺、「空野 翔」は廃ビルの上から街を見下ろす。
見れば見るほど廃れている。きれいなビルなんて、奥に見える高層ビルしかない。
あとはほんの少しの住宅街と…無惨にもバラバラになったコンクリートや鉄の集まりだ。
そんな中俺は何をやっているかというと、「ヒーロー」の真似事のようなものをやっている。
瓦礫に埋まった人を助けたり、ひったくりにあった人の荷物を取り返したり…そんなことをやっている。
え?生身の人間じゃそんなことできないだろって?
そこは安心してくれ!俺には優秀な相棒…
「おつかれ、翔。」
噂をしたら来たとはこのことか。今、ジェットパックを使って廃ビルの上に来たのが俺には優秀な相棒兼メカニックの「ボブ」がいんだ。
「ボブ」はアメリカ連合出身で10歳で大学を卒業したちょーエリートで機械いじりが大好きなんだ!
「どうだい?僕が作ったエレキックグローブとマグネッツシューズは?」
そう、この装備もボブが作ったものでなんか仕組みは知らないけど、銃弾が防げたり空が飛べたり、敵の戦術パターンを解析したりする優れもんだ。
「最高だぜ!無抵抗で移動できるし、スピードがスゲーんだ!」
「それはよかった!」
ボブに俺が、素直に感想を言ったらボブはスゲー嬉しそうな顔をしてた。
「それでよ、今日はな…」
「待って翔、あそこ!」
ボブに今日あったことを話し始めたらボブが止めてきて、廃ビルの隙間…路地を指さした。
「人さらいか?」
「みたいだね…」
この街、東京では人さらいも多い。現に今、10歳にも満たなそうな少女が、大量の悪そうな奴らに囲まれている。
「ちょっと行ってくる!」
「気をつけろ!囲っている奴らはおそらく、マフィアだ。拳銃どころかライフルも持ってるかもしれない…」
俺は靴のつま先を2回、地面に打ち付けヘッドギアを着けジャンプで飛び降りた。
マグネッツシューズが作動し空へ浮上する。
「マーズ!起きてる?」
俺はすかさず、ヘッドギアについている旧式AI『マーズ』に話しかけた。
『どうしましたか?今日はもう終わりと聞いていましたが。』
ヘッドギアから機械的な女性の声が流れる。
「人さらいだ!マーズは今あそこにいる少女の周りにどれだけの数の敵がいるか教えてくれ!」
『なにか敵の目印は?』
俺は奴らを見る……見れば見るほど怪しい集団で、全員がサングラスをかけている。
「サングラスだ!サングラスをかけている奴らをサーチしてくれ!VRビジョン…開始!」
『了解しました。』
指示してすぐに、立体的な映像が広がる。そして、サングラスをかけてた人をサーチし、赤いポイントで示された。
「数は…20人か!」
一人の少女に対してこの数は正直多すぎる。今までの中でもトップクラスだ。
そんなことを考えながら俺は、空を飛ぶのをやめ、地へと降り立った。
ズ〜ンといった、ヒーローあるあるの着地音ではなく、スッ…と音も立てずに降り立ったつもり…だったが何人かに気づかれた!
「誰だ!」
と一人が叫ぶと全員がこちらを見る。数は…10数人だ。
「人さらいは…この街でしないほうがいいぞ…」
俺はいつもよりも低い声で話し始める。
「俺の名はブレイブ…ただのヒーローだ!」
少しばかりこの名のりは恥ずかしいが、かっこいいと思う。
「はぁ?ヒーローだと?お前は時代遅れか?この世界の映画館で貼られているポスターを見てみろ!
どこもかしこも『恋愛映画』や『ホラー映画』だぞ?ヒーローなんて古くせぇものなんて…今どきのガキは馬鹿なのか?」
マフィアの一人が叫ぶ。すると、ボスらしき人が
「ヒーローなんか関係ねぇ!相手はただのガキだ!銃で女ごと殺しちまえ!」
といったのを境にマフィアの全員が銃を構える。
今にも撃ってきそうなのと少女が「ヒイッ!」と声をあげたのを聞いた俺は片手を前に出して、叫ぶ
「『ウェーブ・シールド』!!」
銃弾が放たれる、少しだけスローモーションに感じた次の瞬間
【ガッ】という音をたて、弾は突き抜け後ろに…いかずに地面にめり込んだ。。
銃口から煙があがった後、ボスの顔が余裕そうな表情から驚愕したような顔になる。
「な…何なんだ貴様は…?」
マフィアの一人が喋る。ボスはその言葉に
「うろたえるな!!撃ち続ければいずれ割れる!!」
マフィア達はその言葉に撃ち続ける。無駄だ!と言いたいが実際のところ、俺にもわからない。
ボブは『空気中の電子を震わせることで空気中に大きな透明な盾を作るんだ。』と言っていたがそれがどれだけ持つかは俺にもわからない。
何百発も防ぎきったあと、マーズに
「バッテリー残量は?」
と聞いてみた。すると
『現在、残りバッテリーは45%です。』
と返ってきた。なるほど…消費電力はかなり低め…っと
俺はこの防弾性能に感心しつつ、怯えきっている少女へと視線を向けた。
「きみ!大丈夫か?」
俺が問いかけるとその少女は
「あなたも…なにか私に求めるの?」
少女は、俺を恐れながら聞いてきた。俺はその問いに銃弾を防ぎながら答える。
「俺は、ただ、困っている人を見かけると放っておけない性分でね。求めるものなんてないさ。人が安心してこの世界を暮らしてくれるんならそれでいい。」
少女は納得いかなかったのか、「エゴでしょ」という小言が聞こえた。
俺は聞こえないふりをしながらもマーズに
「『ショック・リバース』準備。』
といった。マーズは『了解』と声を出した後にグローブに電力が溜まっていく。
「発射!」
そう言うとグローブの先から青紫色の光が稲妻のようになり、マフィア達に向かっていき…
「ウバァァァァ!」
マフィアは叫び声をあげる。
隙ができたと確信した俺はとっさに少女の手を掴み
「立てるか?」
と声をかける。すると少女はハッとした表情でこちらを見た後、俺の手を掴んだ。
俺は手を掴んだのを合図に、つま先を2回地面に打ち付け、飛び上がる。
「もう大丈夫だからな。」
といった瞬間、VRビジョンから警告音が聞こえる。
『10時の方向にスナイパーを発見。』
というマーズの声も聞こえたので、とりあえずグローブをその方向へ向けながらも飛び去ろうとする。
すると警告音は鳴り止み、赤いポイントも何処かへ消えていく。
「どうなってるんだ?」
俺が疑問に思うと、マーズが答えを出してくれた。
『マフィアのボスらしき人物が撤退命令を下していました。』
「マーズ、ありがとう。ご苦労さん。」
俺は問への答えと今日のサポートに感謝しながらも手に掴まっている少女の方へ目を向けた。
少女の目には少しばかりの涙が映っていた。