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お嬢様は財宝竜  作者: 久遠
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第四十四話 参上、その名はツバキ!!

「いやあ、失敬失敬!! 拙者の名はツバキ。ここより遠い海の果て、東の島国より参った忍びの者にござる」


 ツバキと名乗る女性が丁寧にお辞儀をする。先程までほとんど裸の状態であったが今は黒き衣装をしっかり身に纏っていた。腕や脚などの装備は動きやすいよう簡素にされていたが、代わりに首にはマフラーのように長い布状の物を巻きつけ、腰にも腹を護るために厚めの物が巻かれている。

 

「忍び……?」


 聞き慣れない言葉にクローディアが首を傾げる。

 すると、クローディアの横にいたラピスが小さな「ピピッ」という音を頭から出す。

 自らの記憶領域から情報を引き出し、まとめていたのだろう。そのまま解説を始めた。


「冒険者の間では、忍者と呼ばれる存在ですね。冒険者ギルドで記録した情報を参照にすると、どうやらレドさんの盗賊に似たスタイルのようです。素早い動きで敵を翻弄し、小さい得物で相手を討つ。違いは属性を操る特有の技を持っている、という所でしょうか。そのおかげで色々な状況に適応しやすい模様です」

「おや、そちらのメイドなお方はどうやら相当に情報通な様子。如何にも!! 拙者はなんでもできるすーぱーな存在でござる」


 得意げに胸を張るツバキ。

 そこにすぐさまレドが口を挟む。


「と言ってますが、装甲の硬い奴の相手はきついですよ」

「レド、余計な横槍はやめるでござる。それにお主も似たようなものでござろうに」

「ええと……、結局レドとはどういう関係で……」


 恐る恐るクローディアがツバキに問う。

 あのレドが裸体を見ても動じなてくて、口を開けばはかなり険悪で、でもお互い気安い話し方をしている。

 姉だとか弟だとか血のつながった存在なら辛うじて納得できる。だが、ツバキは東の島国より来たと言っているのだからそれも違う。

クローディアだけでなく、皆して頭にクエッションマークを浮かべている。そんな状態で。


「ふむ。まあ、元相方にござるな」

「あ、相方ぁ……?」

 

 ツバキの言葉に、クローディアがさらに困惑していく。


「相方というと様々な意味がありますが……」


 ラピスに至っては余計な情報を検索したらしく、もしや元恋人か夫婦なのでは? とまで疑い出していた。

 それに気づいたレドが、一瞬物凄く渋い顔をした後、注釈を入れる。

 

「あー、誤解がないように言っておきますと、冒険者としてのですよ。以前は彼女と二人で組んでいたんです」

「なんだ、そうでしたのね……」


 クローディアがホッと胸を撫でおろす。過去に二人で組んでいたのならば、この奇妙な関係にも納得でき……、いや、それでも少し気になるところはあるが飲み込める。


「むしろ気になるのはこちらの方にござる。先程、貴殿をお嬢様とレドが呼んでいたでござるが……」


 ツバキがクローディアをじっと見据える。クローディアの眼によく似た金色の瞳が彼女を捉えていた。

  

「ええ、私はクローディア・ドラゴディウス。お嬢様……志望の竜族ですの」


 丁寧に自己紹介をするクローディア。しかし、いつもより若干声に張りがない。


「クロちゃん、ちょっと自信がなくなってるなコレ。一応、財宝竜っていう金品の扱いに長けた種族だよ」


 リノラがそう補足すると、ツバキがクローディアの頭からつま先までをじっと見て。


「竜族でお嬢様……。つまり貴族にござるか? 確かに出で立ちこそ、気品を感じるものはあるにござるが……。財宝竜……、例えば何ができるでござる?」

「なんだよ、疑ってるのかツバ吉」

「一応の確認でござるよう。レドは純真にござるから、騙されてないかどうか見ておく必要があるにござる」


 口を尖らせるツバキ。元から表情がコロコロ変わる性質らしいが、レドが絡むとそれが随分と増しているように見える。

 リノラが頬を掻きながら、何かないかと少しの間考える。


「まあそれっぽいところといえば、宝石とか出せるよね?」

「ええまあ、この通りに」


 クローディアの手のひらに複数の宝石を出す。赤、緑、黄色、桃、青と様々な色合いで。

 瞬間、ツバキが地に触れ伏した。


「主殿とお呼びしてもよろしいか……」


 それは見事な土下座だった。絨毯の上に小さく縮こまったすーぱーろくでなし忍者が爆誕した。


「えっ、そんなこと急に言われても……」


 ツバキの急な配下宣言にクローディアが困っていると、レドが間に割り込み、土下座している彼女に対して喚く。


「やめてくれないかな!? そもそも僕の主人だぞう?」

「配下は何人居ても良いにござろう!? 拙者もあやかりたいでござるぅ!!」


 ツバキが顔を上げて、またレドと二人で口喧嘩をしだした。

 呆れかえったマルヴァスが二人に乾いた視線を向ける。


「そもそも、無限に出せるわけではなく、取り込んでしまっておくタイプなのだがな。クローディア?」

「……っと、申し訳ございません。ええと、こうして自分の取り合いになってると、ちょっと嬉しいというかムズ痒いというか……」


 もじもじしながら頬を緩めるクローディア。白いドレスの布地をきゅっとつまんだりと少し可愛らしい事をして。

 それを見ていたラピスが無表情のままこくりと頷く。 


「憧れ、というやつですね。分かります。この前、レド先輩を初めて先輩呼びしたら、大変気持ちの悪い笑みを浮かべてらっしゃったので。それと似たようなものだと」

「ちょっと待ってくださいラピスさん。それ言う必要ありました???」

「面白かったので、つい……」


 口元を抑えるラピス。レドの反応に笑っているのか、笑っていないのか微妙な所だ。

 一方、ツバキはといえば、レドを指さしながら遠慮なく爆笑していた。


「ふはは!! 先輩呼びされたぐらいでにやけるとは、相変わらず単純でござるのぅ、レド!!」

「君にだけは言われたくはないんだけどなぁ……。それより、髪飾りずれてる。ちゃんと付けなよ」

「ん、すまぬな」


 さっと自然な動きでツバキの頭に手をやり髪飾りを正すレドと、それを受け入れるツバキ。

 

「……これ結局仲いいの? 悪いの?」


 リノラがクローディアに尋ねるが、彼女は首をブンブン横に振り、ついには頭を抱えだした。


「私に聞かれても正しい答えは返せませんわ……」

「喧嘩するほど、というやつでしょうか?」


 こてん、とラピスが首を傾げる。

 それにレドは表情一つ変えず、顔の前で「ナイナイ」と手を振って否定する。 

 

「ただの腐れ縁ですよ。そうだツバ吉。君、あんな所から出て来たってことは、ある程度屋敷内の仕掛けとか把握してるだろ? 僕ら奥に行きたいんだけど、教えてくれないか?」

「うーむ、教えてやりたいのはやまやまにござるが、これは拙者個人の依頼ゆえにな」

「依頼?」

「この屋敷、最近、怪奇現象や騒音の類を周囲にもたらしていたにござる。ヴェルキスの行政が対処しようにも、『内情が分からないから手の出しようがない。持ち主であるはずのかの英雄も連絡が取れない』と気を揉んでいたようでな。そこから冒険者ギルドを通して拙者に潜入依頼が回ってきたのでござる。場合によっては取り壊すことも検討していたとか」

「うわ、マジでギリギリだったんだなー……」

 

 リノラがうへー、と舌を出した。長い間ほったらかしにしていたリノラ自身が悪いと言えば悪いのだが。

 クローディアがドレスを整え、ツバキの前に一歩踏み出す。


「私達、依頼の報酬には興味がありませんの。いえ、お金が必要といえばそうなのですけれど……。今回はこの屋敷そのものが私達の目的でして」

「よーするに、依頼の報酬は全部そっちのもんでいいから、屋敷の攻略に協力してくんない? ってコト」


 リノラが再びクローディアの言葉を補足する。

 するとツバキは頬に手を当て、しばらく考える仕草を見せた後、こくりと頷き。


「そういうことであれば、是非引き受けさせていただくにござる。ふふふ、味方が沢山増えて、それでも報酬全取りは美味いでござる……」


 思わずにんまりするツバキ。

 その頬をレドが軽く指でつき、苦笑する。


「相変わらず金にがめついよなぁ」

「何かと入用なのでござるよぅ。無事に終わったら、いつもの所で奢ってやるからレドも付き合うでござる。じゃ、案内するでござるよー」

「はいはいっと、あそこね」


 そうして二人で先に連れ立っていく。

 そんな姿を見ながら、リノラがふーっとちょっと疲れたような息を吐きだした。


「……とりあえず、二人の関係については今は捨ておこうか」


 気になることは色々あるが、考えれば考えるほど分からなくなるし、頭が痛くなる。

 クローディアは、その場でただ頷くことしかできなかった。

 






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