第二十三話 楽園残滓機構⑤
『生体反応、3……。異常個体、1……。戦闘統括機兵……ザッ……ゴリアテ……、対象ノ排除ノタメ攻撃ヲ継続シマス』
「なーにが異常個体ですか!! おかしくなってるのは貴方の方じゃありませんの!!」
一行を排除するために活動を再開した巨大人形をクローディアが見上げ、睨みつける。
「戦闘統括って言ってましたね……。警備の人形達がやけに攻撃的だったのはコイツのせいかも。……っと、申し訳ありませんお嬢様」
レドが助けるためとはいえ、クローディアを抱きかかえる形になってしまったのを詫びながら体を離す。
クローディアはそれに対して首を振って。
「構いませんわ、私を助けるために動いてくれたのですから。ダビデさんにも感謝致します。……とにかく、この大きいのをどうにかしませんと」
『牽制ノタメ機銃ト大砲ノ掃射ヲ実行……。レーザーキャノンスタンバイ……。並行シテドリルアームノ回転ヲ開始……』
ゴリアテが手始めに二本の腕に持った武器や砲塔から弾を乱射する。同時に円柱形の体の中央に付いた目を赤く輝かせて何かを溜め始める。さらには何やら物騒な代物を高速で回転させ始めた。
「掠っただけでヤバそうな代物の数々なんだけど!? 牽制が致命打になるっておかしいんじゃないの!?」
レドが必死に弾を避けながら叫ぶ。危機感知能力が発動が止まらず、鼻の奥が熱くなり続けるような状態。ゴリアテから放たれる攻撃の殆どが死に直結しかねないということを彼に知らせていた。
しかし、弾丸を放ち続けている武器が一瞬にして腕ごと細切れにされる。さらには砲塔のいくつかも切断された。
「よっと」
「リノラさん!!」
レドの隣にリノラが着地した。
レドは彼女と合流できたこと、そしてそれによって危機感知が薄まったことに少しほっとする。
「多分だけどコイツ、本来であればもっとでかいのを多数相手にするために作られたんじゃないかな。一体どんな敵を想定してたんだか」
『優先順位変更、中型ノ刃物ヲ所持シタ敵性体ノ攻略ニ集中……』
ゴリアテの赤く輝き続ける瞳がリノラを捉える。リノラが再び跳躍し腕の一本に着地するとそれを追う。レーザーキャノンとドリルによる攻撃を行おうとして。
「おしおし、こっちこっち。キミがボクに気を取られてくれれば……」
「がら空きですわよ!!」
クローディアの拳による一撃が横から繰り出される。強烈な一打を側面にくらったゴリアテは装甲をへこませながらよろけた。
『ガッ、レーザーキャノン……充電中断……』
「ナーイス、クロちゃん。思った通りっ。そいでこっちの腕も頂きってね」
ゴリアテが体制を立て直しているうちにリノラがドリル付きの腕を斬り落とす。そして今度はクローディアの近くに着地して。
「火力は恐ろしいですけど、耐久性が他の人形達とそう変わらないのであれば押し切ってしまえば良いだけのこと!!」
クローディアがさらなる追撃を行おうと前へと踏み出す。
『……多数ノ損傷ヲ確認、電磁障壁ヲ展開。再生行動ニ移リマス……ザッ……』
その瞬間、ゴリアテの周囲をバリアが覆う。ダビデが先程クローディアとレドを助けるのに使ったのと同質のものだった。さらには自己修復機能がついているのか、破壊されたはずの部位が元に戻り始める。
「なっ、再生だなんて勝手な真似……っ!! 痛っ……!! この透明な壁、硬いとかいうレベルじゃありませんわよ!?」
クローディアが怯まずそのまま拳をバリアに叩きつけたが簡単に弾かれる。
弾かれた腕を抱えていると、レドが彼女の元に駆け寄った。
「お嬢様、大丈夫ですか……? 全部の力をバリアと再生に回してるっぽいですね……。これじゃ完治するまで手出しができない……」
「まあでもさ、本体が再生するとはいえ壊した武器とかまでは直せてないみたいだしさっきよりかはいくらか楽に……」
と、リノラが楽観視したところで、
『武器ト弾薬の補給ヲ要請。……即時受領ヲ確認。迅速ナ対応ニ感謝シマス』
床の一部が開き、下よりせり上がって来た武器類をゴリアテが修復された腕で拾い上げる。そこでようやくバリアが消えた。
「は? いやおっま……。それ駄目でしょ。耐久と武器とそれに使う消耗品が全部実質無制限とかなんだそれ」
流石のリノラもこれにはキレ気味だった。だがそれでもゴリアテの横暴は止まらない。
『敵性体ニ対抗スル為、アーミーズニ依ル支援ヲ要請』
ゴリアテの要請と同時に左右の壁が開き、一列にずらり並んだ筒状のカプセルが現れる。そのすべてには戦闘用の人形達が収められていた。
「あんなにいるなんて……。建物内で見なかったのはまさかこの為に温存を……?」
レドが驚愕する。
カプセルが開き次々と人形達が起動する。サイズ以外はゴリアテが持っていた武器と同等の代物から弾を放つ。
ダビデがバリアを展開し弾を防いで三人を守った。
「ありがとうダビデ君!!」
レドがダビデに礼を言う。
「撃ってくるとか……。ちぇ、さっきは持ってなかったでしょあんな武器」
その横でリノラが人形達に悪態をついた。
それにクローディアは、
「市街では市民を巻き込む可能性があったからでしょう。もうとっくに誰も居りませんけど……。この場所、全て彼らが戦うために整えられていると見たほうが良さそうですわね……」
「そうまでして何を守ろうとしてるんでしょうか……?」
レドが閉ざされた巨大な扉を見る。この激しい戦闘の中ですらびくともしていない。
「よっぽどのものなのでしょうね。ですが、こちらとてダビデさんに導かれてここまで来たのです。おいそれと退けるものではありませんわ!!」
意を決してクローディアが竜の姿に転じる。巨大化し、ゴリアテと真っ向から対峙する。
「ひとまずこの巨大な人形は私が抑えます!! 皆様はとにかく敵の数を減らしてくださいまし!!」
白銀の竜が咆哮と共に翼をはためかせる。地下のため大きく響き渡ったその咆哮はその場にいる二人の肌をひりつかせたが、同時に彼らを勇気づけるような不思議な効果もあった。
「おっけい!! レド君はダビデ君と一緒に反対側を頼んだよっ!!」
まず、リノラが飛び出して片側を引き受ける。
それにレドも頷いて、
「分かりました!! ダビデ君、こっち……」
と、共に行こうとしたところで彼が追い抜く形でレドの前に出る。そして、前面のみではあるがバリアを張った。動ける状態で貼れるのはこれだけという事なのだろう。
「っと、ありがとう……。これなら僕でも行ける!!」
だがそれでもレドには十分だった。彼と共に人形達の群れに飛び込んでいく。
そしてその一方で、ゴリアテはクローディアに注視していた。目の前の存在こそが一番の危険だと判断して武装の殆どを彼女に向ける。
『異常事態検知。突如発生シタ巨大ナ敵性体ニ対処シマス……。ガピッ……』
「ゴリアテさんと申しましたかしら? さあ、お手をどうぞ。私とダンスとしゃれこみましょう!!」
それこそが狙いなのだと彼女は笑った。いや、咆哮したというべきだろうか。ゴリアテの腕の一本を掴みいともたやすく引きちぎる。
一体の人形から始まった、旅の終わりは近い。