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お嬢様は財宝竜  作者: 久遠
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第十六話 欠片遺構

「という訳で、見事おじいさんを助けたリノラ一行は依頼を受けて彼の村に馬車で向かうのであった!! あでっ!!」

 

 勢いよくクローディアがリノラの頭をはたく。


「という訳で、じゃあありませんわ!! あとパーティを乗っ取るのは止めてくださいまし!!」


 リノラの言う通り一行は依頼人である老人と共に馬車に乗って移動していた。


 馬車を引いているのは只の馬ではなくこれもまた飼い慣らした魔物だ。通常の馬より力強いために荷物を多くできるという利点がある。その分餌代も余分にかかるが。

 

「すいません……。せっかく四人乗せてもらったのに騒がしくしちゃって……」


「いいさいいさ。旅は騒がしい方がいいってね。オイラもその村には行商で立ち寄る予定だったしな」


 レドの謝罪に馬車の主である商人が朗らかに笑う。


 ナーゴ族。ずんぐりむっくりした毛むくじゃらの獣人。

 まあ平たく言ってしまえば二足歩行の太いネコである。

 

 操縦席に座りながらレドに毛づくろいをしてもらっていた。


 

 穏やかな旅を満喫している彼らと違って、依頼人である老人は落ち着かない様子。

 恐る恐るリノラにしわがれた声で尋ねる。


「しかしバルディス様。あんなにすんなり引き受けて下さってよろしかったのでしょうか……。ギルドの方も困惑しておられましたし」


「だいじょーぶ」

 

 そんな彼にリノラは呑気にブイサインをした。


「本来ならこういった依頼はもっとちゃんとした手続きがいるし、クロちゃん達も上のランクに行くための試験パスしてからじゃないといけないけど、依頼人から名指しでならそういうのスルー出来るからさ」


 つまりは特例として認められているいうことだ。

 手続きをした職員が納得しているかはともかくとして。


「にしても、リノラさんが既に冒険者として登録しているなんて驚きましたわ。それならもっと騒ぎになってるものかと……」

 

 馬車に揺られながらクローディアがリノラに話しかける。


「登録に使ってるのが母方の姓だからね。リノラード・ペンタクル。出来れば皆も今後はそっちで呼んでくれると助かるかなー」

 

「何故ですの? まあ、大事(おおごと)にしたくないとかなら分かりますけど」


「それもあるけど、ね。とりあえず、今のボクはただの冒険者の一人として扱ってくれればいいよ」


「ならばそれで。誰だって秘密は抱えてますもの、それを無暗に暴くのは無粋というやつですわ」


「わーい、クロちゃんやっさしー!! でっかい竜だった時とは大違いー!!」


「くっつかないでくださいまし!? あと、一言余計でしてよ!!」


 二人が騒ぎ始めてしまったので、レドは肩をすくめつつ老人に確認を取る。


「それで村長さん、とりあえず村の方にはまだ被害は無いんですよね?」


「ええ、定期的にやってきて何やら探し回っているだけです。しかし、今までに見たことがない魔物でしたので……。村の皆も怯えておりましたし、ああして急いでヴェルキスの冒険者ギルドに向かったのです。その結果、皆さまにご迷惑をかけてしまいましたが……」

 

 老人、もとい村長は牛車でギルドに向かっていたのだが、牛車を引いていた魔牛が暴走してしまいあのような事態になってしまったらしい。


 牛車が破損しても、暴走した魔牛にしがみ付いてまでヴェルキスに来た辺り相当必死であったことが伺える。


「害がないならもう少し様子見してもよかったのでは?」


 クローディアの疑問にリノラが首を振る。

 

「いや、こういう時は対処は早い方がいいよクロちゃん。偵察って線もあるからね。気づいた時には既に群れが押し寄せてきていて、最悪村そのものが壊滅って可能性もある」


「壊滅……」


 クローディアが身震いをする。敵が押し寄せてくることが怖かったのではない。

 そこにあった命がいとも簡単に消されてしまうことが怖かったのだ。


「しかし、本当に魔物なんですかねコレ。どちらかというと魔導人形の方が近いような……」


 レドが依頼書を広げ、村長の証言を元に描かれた魔物の姿を見て呟く。

 

 体は三角錐を逆さにしたような形状で、脚部に当たる部位は無く浮遊している。

 頭は球体でこれもまたぽつんと体の上で浮いており、円状の目らしきものが一つだけ確認できる。

 

 唯一腕だけが異様に発達していて人間のようで、そのせいか少しばかりバランスが悪い。

 そして目の部分以外はすべてが黒塗りにされていた。


「人形型の魔物も結構いるから何とも言えないよー。とりあえず実物を見ないことにはね」


「それもそうですね……。え……?」


 レドがリノラの言葉に納得しつつ、一度依頼書をしまおうとすると商人にその手を掴まれる。


「なあ、もしかしてここに描かれてる人形ってのはアイツのことじゃないか?」


 商人の視線の先に、依頼書に描かれた魔物の姿があった。

 絵だけでは分からなかったが、その表面は研磨された黒曜石のように滑らかで。


「あ、あいつです!! 間違いありません!!」


 村長が声を上げて魔物を指をさした。


「商人さんごめんちょっとストップ!!」


 リノラの言葉と共に馬車が止まる。

 それと同時にクローディアとレド、リノラの三人が飛び降りた。


「お、おい!? お前らどうするつもりだ!!」


「このまま対処に移りますわ!! 商人さんは申し訳ありませんが、彼を村まで送り届けてくださいまし!!」


「……分かった!! 坊主、コレ持ってきな!!」


 商人からレドに向かって何かが入った小袋が投げられる。


「これは……」


「餞別だ、ちっとは役に立つだろうよ!!」


「ありがとうございますっ……」

 

「み、皆さまどうかご無事で!!」


 村長の祈りを最後に、馬車は速度を上げて走りさっていった。




「さて。これで憂いなくやれますわね!! レド、リノラさん!! 行きますわよ!!」


 三人が魔物の前に立つ。

 クローディアが拳を構え、他の二人はそれぞれの武器を抜く。


 魔物が顔らしきものを向けて三人を捉えた。

 青色に発光している目が点滅している。


 そうして決戦の火蓋が切られ……。


「……」


 ない。何故か何もしない。


「あれ? もしもーし……。聞こえてましてー?」


「仕掛けてきませんね。本当に無害の奴だったり……?」

 

 クローディアとレドが顔を見合わせる。

 魔物はすーっとそのまま移動を始めてしまった。


「逃げた? いや、それにしては速度が遅いような……」


 魔物の背中を見つつ奇妙に思うリノラ。

 すると魔物は一旦、三人の方を振り返ってからまた移動を始めた。


「もしかして、こっちこいとか言ってる……?」


「ついていくしかありませんわね。罠かもしれませんが……」


 警戒しつつも、一行は魔物の後についていく。


 

 例えば足場の悪い崖の道も。


「うえー、こんなところ通るのか……」


「踏み外さないように、慎重に行きましょう……」


「もしもの時は抱えて飛びますのでご心配なさらず」


 

 人が一人なんとか通れるような岩の隙間も。


「狭っ!! 通るのギリギリだぞここ!!」


「これなら楽勝ですわね」


「あっ。小さくなるとかクロちゃんずっる!!」


 

 視界の悪い森林の中も。


「あれ、見失った?」


「むしろ後ろにいますわ」


「なんで追い抜いちゃってるんです!?」




「とまあそんなこんなで、奥っぽいところまで来た訳だけども……」


「帰りは流石に竜になって飛びますわ……。騒ぎになるのでアレを見つけた地点までですが……」


「異議なしでーす……」


 さすがに三人とも全員ぐったりしてしまっていた。

 岩の上に座りこみながらつかの間の休息を取る。

 

「で、あいつはっと……。ん……? なんでそっちに……」

 

 皮製の水筒で喉を潤しつつ、レドが魔物を目で追う。

 魔物は行き止まりに進んでいくと岩壁に触れ、溶け込むように消えていった。


「消えた……!?」


「追っかけるよ!!」


 リノラが走り出す。

 クローディアとレドも慌てて水筒の蓋を締めて追いかけた。


「これ、壁っぽく見えるけど通れるみたい……」


 リノラがそっと手を伸ばして岩壁に触れると手が沈み込んでいく。


「行く?」


 彼女の問いに二人が頷く。

 意を決してリノラ、レド、クローディアの順で飛び込んでいった。





「これは……!? この黒い建物は一体……。それにまるでここだけ綺麗に別の場所がすっぽりはまったかのような……」


 クローディアが驚きの声を上げる。

 

 飛び込んだ先、眼下に広がるのは三人が追いかけた魔物と同じ、漆黒の色をした巨大な建物。

 同色の地面と壁には地に張った根っこのような模様が描かれていて、それが青く光って辺りを照らす。

 

 その領域内を魔物と似た姿形をした者たちが忙しなく動き回っている。

 こちらに気づくことなく、ただひたすらに。

  

「まさか、欠片遺構(かけらいこう)……?」


「欠片遺構?」


 レドの口から洩れた呟きをクローディアが意味も分からぬまま復唱する。


「滅びた世界からの漂流物(ひょうりゅうぶつ)だよ。かつて何処かにあった文明の残骸」


 リノラが振り返る。その顔は暗く、重苦しい。


「リノラさん……? 顔色が悪いようですが大丈夫ですの?」


「ああ、大丈夫。さ、行こう。あいつを追いかけなくちゃ」


 クローディアの心配にリノラはいつものように笑顔を作り、自らを嗤う。


 勇者達が、自分自身が、背負った業を呪いながら。

 

 

―――――――――――― 

 

 とある高名な学者がある時言った。


 

 

 まるでこれらは、別のパズルのピースが無理やりはまり込んできたようなものだと。


 

 

 崩れた世界が救いを求め、縋るようになだれ込む。もうその上に生きているものはほぼ無いというのに。

 

 

 遺された建物たちは、人の営みの証は、いくら目を逸らそうとしても多くの命がかつてそこにあったのだという現実を押し付けてくる。


 

 

 そしてここは暖かく病も殆どが()()、多くの人間がかつて幸せに暮らしていた場所。そのひと欠片。





楽園残滓機構(らくえんざんしきこう) エデン・アインダレット』

 

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