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お嬢様は財宝竜  作者: 久遠
11/50

~幕間~ とある港町でのこと

「ぷへーっ。へっへっへっ、昼間っから飲む酒はうめえなあ!!」


「おいおい大丈夫かよ? 人の事は言えねえけどよう。こんなことしてりゃ、カミさんに怒られねえか?」


「へーきへーき!! あいつだって、どーせ今頃奥様同士でいいもん食ってんだよ」


 小さな港町。酒場の外にある海の見える席で、二人の男が酒盛りをしていた。

 ワインの入ったジョッキを傾けながら、小気味よくおしゃべりに花を咲かせているのだ。


「んでさぁ、街に降り立った綺麗な白銀の竜がさぁ……」


 片方のぽっちゃりした男が赤ら顔で語り始めた時、もう一方のいかつい男が眉をひそめる。つまらなさそうに息を吐きだした。


「その話、前も聞いたぞ? 結局聖竜様じゃなかったってやつだろ?」


「ありゃもう言ったっけ? んじゃ、他の話でも……」


 ぽっちゃりした男がバツが悪そうに頭を掻きながら話題を切り替えようとする。何かあっただろうか? と酒で緩んだ脳を回転させ始めた。


「ねえ、その竜のお話。ボクに聞かせてくれないかなー?」


 だがそこで唐突に後ろから声をかけられる。間延びした女性の声で。

 振り替えるとそこには若い女の冒険者がいた。伸び放題の黒髪に着古した布の防具、縁の厚い眼鏡。

 腰に携えた得物からして恐らく剣士の類なのだろうが、その剣もほとんど錆びついてしまっている。

 なんともまあだらしのない恰好をした彼女は、酒で顔を赤らめぼんやりとした瞳で男達を見つめていた。


「んー?なんだ嬢ちゃん。竜の話に興味あんのか?」


「あんま面白くねーぞ? 何せ話し手がこいつだし」


「うっせ、お前よかましだっつーの」


 最初は警戒していたであろう二人も、彼女が自分たちと同じ酒飲みであるということを理解すると気を緩める。大方、弱小の冒険者が必死に依頼をこなして得たなけなしの金で酒を飲みに来たクチだろう。邪険にするも可哀そうだと思いながら。


「いーからいーから。さっきボクが頼んだお酒丸々一本あげちゃうから……ね?」


 どん、と男たちのテーブルにコルク栓のついたままのワインの瓶が一本置かれる。二人はきょとんとして顔を見合わせた。貧乏だと捉えていた相手に酒を奢られると思っていなかったのだ。


「ずいぶんと気前がいいな……」


「そこまで言われちゃあ、なぁ?」


 とはいえ、奢りは奢り。頂けるのであれば遠慮なく頂き、ちゃんとその分は返そうとぽっちゃりした男が語り始める。いかつい男もそれに続いた。


「まあ、なんてことない話さ。ヴェルキスの街に白銀色の竜が舞い降りて、創世の聖竜様だって大騒ぎになったが実際はそんな大それたものじゃなかったってやつ」


「本来なら竜種が街に現れた時点でたいした事なんだがなぁ。どうもがめついっていうか、金に汚いっていうか……」


「そうそう。礼拝に献金とか要求してたりなー。で、一緒にいる奴に止められたり、なんだかんだしてるうちにどっかにいっちまったんだよ。それ以来見ねえからただの偽物だったって説が有力だな」


 つまらないオチがついたもんだ、と付け加えつつ酒を口に運ぶぽっちゃりした男。ちょうどジョッキを空にして息を吐き出す。

 

 こくこく、と話を聞きながら頷いていた冒険者の女はその緩んだ瞳を一瞬だけ煌めかせる。

 

「なるほど、ヴェルキスかー……。教えてくれてありがとー。じゃあボクはコレで。お酒、楽しんでねー」


 そうしてその場からふらふらした足取りで去っていた。場には二人の男と、彼女が置いていったワインボトルが残る。いかつい男が怪訝な顔をしながら彼女の背を見つめていた。


「行っちまった……。何だったんだ結局」


「さあな……。案外竜のおっかけだったりして。まあ、ちょいと話したくらいで酒代が少し浮いたんだ。幸運だと思っておけば……」

 

 ぽっちゃり男が自身の空になったジョッキに、新たな酒を注ぎこもうとワインボトルに手を伸ばす。

 だが、その手が急に止まった。

 

「おい、どうした固まって……」


 いかつい男が友人の様子がおかしいことに気づき呼びかける。

 ぽっちゃりした男はワインボトルを凝視しながら何やら目を見開いていた。

 


「なあ、さっきまでコレ……栓してあったよな?てかちゃんと()()()あったよな?」


「何意味わかんねえこと言ってんだよ。飲みすぎたか?だったらこいつは俺が全部……は?」


 妙なことを口走る友人に呆れながらいかつい男もワインボトルに目をやる。するとそこには彼も言葉を失う異様な光景があった。


 ワインボトルの首に当たる部分。その中間から上が消失していた。地面にはその上に該当する部分がコルク栓が刺さったまま転がっている。綺麗な断面がそれがいつの間にか切断されていたことを物語っていた。


「これまさか、あの嬢ちゃんがか……?」


「それ以外に誰がいるんだよ……。いやでも……」


 当然自分たちにこんな芸当が出来るわけがない。

 だとすれば、先程までここにいたあの娘しかいないわけだが、テーブルに置いた後に二人に気づかれずに斬り落としたということになる。腰に下げた、あの錆びついた剣で。


「なんなんだ一体……」


酒飲みの二人は呆然とする。

 すっかり酔いが醒めてしまい、せっかく()()()()()ワインをすぐさま飲む気にもなれなかった。




 そんな二人の気持ちも露知らず、冒険者の女は小さな財布を開いて自らの持つ貨幣を数えていた。


「ひー、ふー、みー。よかったー……、ヴェルキスまでの船代足りなかったらどうしようかと」


 安堵の声を漏らして財布を閉じる。

 

 海鳥の鳴き声が聞こえるとその方面に目をやり、遠くに飛んでいく姿と青く広がった空を眺める。

笑みを浮かべた。しかしそれは海鳥や空に向けられたものではない。


「ふふっ、また会えるんだね。キミに」


 竜を追うもの。()()を期待する彼女の目的はいかなるものか。

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