プロローグ~竜の伝承~
古来より、竜とは財を貯めこむものとして扱われている。
何千何万枚もの金の貨幣たち。
煌びやかな装飾の施された白銀の王冠。
日に照らされた星のような輝きを放つ宝石の埋め込まれた剣。
ただ光る物が好きなのか、それとも人にとって価値のあるものを自らの手に収めたのか。それは直接竜に尋ねなければわからぬことだ。
ただ確かなことは竜は財を、富を、自らの住処に集める習性があるという事。
それを求め数々の英雄が竜に挑み、あるものは敗れ命を落とし、またある者は竜に打ち勝ち栄誉と宝を手に入れた。財を求めず、竜と友になったものもいる。
そういった伝説はこの世に探せばいくらでもある。
昔話の好きな老人に聞けば真偽問わずいくらでも出てくるし、図書館の書物を漁ればほら何冊も。ページをめくればすぐ飛び出して来る。
そしてその分だけ様々な竜がいる。
人に知恵を授けた良き竜がいる。数々の人里を滅ぼした悪しき竜がいる。人智が及ばぬ神のような存在もいる。
ただ、その中でこの竜の一族は変わり種で…。
長い歴史の中で代を重ねるうちにすっかり「すり替わって」しまった。
圧倒的な力を持って財を集めていたはずが、財を集めれば集めるほど力を得るようになった。
簡単に言ってしまえば、金があればあるほど強力な存在になり、その逆、金がなければまったくの非力な存在に落ちてしまう。
そんなあまりにも不安定で、どうしようもない程に財宝に依存した竜族の娘が――地に落ちてしまったことにより一つの物語が始まる。