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第四章)煌めく輝星達 トーナメント・中編

■四聖杯⑨


「第三試合、開始!」


 ラケインの周りに闘気が渦巻く。

操気剣技。

闘気を纏わせ身体能力を上げる、操気法の極意。

その迸る闘気は、次第に身体を覆い、生きた鎧と化す。


 僕も魔力を練り上げ身体の隅々に行き渡らせる。

魔操闘術。

魔力によって身体能力を上げる、魔闘法の極意。

単なる肉体強化としては操気闘術に及ばぬものの、同時に魔法を行使する魔法使いの極みの技。


 武と魔。

方向は違い、未だ(いただき)は先といえど、互いにそこへ至る資格は持った。


「見事だよ、アロウ。お前のような親友(とも)を得て、こうして剣を交えることが出来る。俺は恵まれたよ」

「あぁ、僕も同じだ。さあ、始めよう! ラケイン!」


 ラケインが、ゆるりと剣を抜き放つ。

突き出した右手に剣を、後方に引き絞る形で左手を構える。

それは魔王の剣。

本来は、左手に魔力を込め、迎撃にカウンターにと魔法を繰り出す攻防一体の構えだ。


 僕も魔法で杖を剣に変える。

鉄より硬いこおりで作られた魔法剣だ。

右手で剣を支え、左手を柄尻に添える。

それは勇者の剣。

力が上の者に立ち向かうため、中途半端な防御を捨てて、一撃に全てをこめる攻撃の構え。


 今ここに、かつての決戦が再現される。


 まずは陽動も兼ねた小手調べ。

周囲に人の頭サイズの炎弾を6個出現させる。

左手を突き出す。

火炎系魔法(フレイ)火炎六槍(シアボルグ)

 炎弾が槍に姿をかえ、ラケインを襲うが、ラケインは、それを剣のひと薙ぎで打ち消す。


 その瞬間、対消滅の霞に紛れ背後から袈裟斬りに剣を振り下ろす。

火炎六槍(シアボルグ)を放つと同時に、風の守護魔法(エンチャント)で加速し、背後に回ったのだ。


重複詠唱(デュアルスペル)

 動作と魔法の使用を同時に行う、《同時詠唱(ダブルアクション)》と並んで、魔法使いの戦闘の要となる技術。

複数の魔法を同時に使用する技だ。

異なる式、異なる属性の魔力を同時に操る高等技術だ。

並の(・・)魔法使いにとっては、だが。


「甘い!」

 当然この程度、ラケインは読んでいる。

裏拳(バックブロウ))気味に左の肘が迎撃に飛んでくる。

すぐさま後ろへ跳び、距離をとる。


 しかし、そこまでもラケインは読み切っていたか。

跳んだその先に、唐竹割りとも言えないような、まさに垂直に落ちてくる刃。

ラケインは、肘打ちに使った回転をそのままに、まさに全力で剣を叩きつけたのだ。


「くぅっ!」

 ただの斬撃。

それなのに、その破壊力は尋常のものではない。

石畳の床は割れ、その破片が散弾のように襲いかかる。

何とか再度ステップを踏み、宙に逃れたら、この石の雨だ。

風の障壁を一瞬で生み出し、何とか直撃を避ける。


 世には、大きくわけて四つの戦闘職がある。

戦士(ウォーリア)魔法闘士(マジックウォーリア)魔法剣士(マジックソルジャー)魔法使い(ウィザード)だ。

魔法闘士は、メイサンのように、魔法が使える剣士。

魔法剣士は、剣が使える魔法使い。

僕は、どちらかと言えば後者になる。


 そして、ラケインは、純然たる戦士だ。

魔法は使えない。

属性や攻撃パターン、または幻惑など、多種多彩なバリエーションがある魔法に対し、戦士の攻撃は地味だ。

基本的には、剣で斬るか突くかくらいしかない。


 では、戦士の不利かといえば、そうではない。

なにも、未熟な魔法使いにはタメの隙があるとか、そういう話ではない。

戦士の強みは、属性に左右されない物理的な破壊力、そしてその身体だ。

高レベルの戦士は、まさに歩く要塞だ。

下手な攻撃など歯牙にもかけず、必殺の魔法は発動前に潰され、その一撃は魔法障壁をも破壊する。


 当然、ラケインもその域に達している。

圧倒的な攻撃力に高い防御力。

後の先(カウンター)を主体とするラケインのスタイルは、攻防一体の構えとも相性がいい。

先の先(クイック)を重視する僕のスタイルにとっては最悪の相性と言える。

まさに鉄壁の要塞だ。

では、どうするか?


「我、アロウ=デアクリフの名において命ずる」

 その答えがこれだ。

足を止め、魔力を最大限に練り上げる。


「そびえたつ氷柱、汝の名は氷龍! 荒れくるう烈風、汝の名は風牙! 大いなるその名は氷風龍牙!」

 ラケインは闘気を高めて待ち構えている。

相手の最大を最大で迎え撃つ、あいつはそういうやつだ。

魔力を高め、術式を緻密に組み上げ、最大効率で放つ。

相手が城なら、こちらはその城ごとぶち破るのみ!


氷雪系魔法(フリージング)白龍氷棘(コキュートス)ッ!!」

 氷の柱が幾重にも大地を貫きそびえる。

それは、あたかも龍が地を這い、大地を食らっていく様に見える。

氷の龍は縦横無尽に暴れ周り、競技場の石畳を砕いていく。


「うぉぉぉぉっ!!」

 ラケインは、裂帛の気合をもって、あらん限りの力を剣に込め、龍の(アギト)へと叩きつける。

衝突。

冷気のモヤと土煙で視界が閉ざされる。


 そして、ラケインは立っていた。

一瞬焦るが、その次の瞬間、ラケインが膝を付く。

よく見れば、剣は折れ、半身は凍っている。


「やっぱり流石だよ、アロウ」

 ラケインの声で決着がついた。


「勝者、アロウ=デアクリフ!」




「ラク様ぁ。この試合勝って、次で(かたき)、取りますから!」


 メイシャが、そう言って闘技場へと向かう。

敵って、僕の事だよな?

意気揚々と向かった先に待ち構えているのは、燃えるような赤の魔法衣を纏った小柄な少女だ。

フレイヤ=シャンク。

はたしてあの少女は、僕の想像通りの人物なのか。


「第四試合、始め!」


「うりゃぁぁぁっ!」

 先に仕掛けたのはメイシャだ。

同時詠唱(ダブルアクション)》を駆使して、距離を詰めながら氷弾を連射する。

まさかの突貫攻撃だ。


 しかし、メイシャの氷弾をフレイヤは、炎の壁で無効化する。

本来、有利属性であるはずの氷が、炎に勝てないのだ。


「うぅ、せめてメイスが欲しかったです」

 持ち前のパワーがあるとはいえ、先の分類でいえば、完全な魔法使い(ウィザード)タイプであるメイシャが持っているのは、訓練用の魔杖だ。

小さなナイフ程度の杖は、長さも強度もその辺の小枝と変わらない。

持ち味である怪力が封じられた状態なのだ。

氷弾は、放ったそばから炎の壁に吸い込まれていく。

しかし、それでもメイシャは前進を止めない。


「うぉぉぉぉぉっっ!!!」

 雄叫びを上げながら、距離を詰めていく。

必然的に、着弾の密度が上がっていく。

もしかして、メイシャの作戦って……


「うぉぉっ! 壊れるまでぶっぱなしてやるんだからぁぁぁっ!!」

 ……ということらしい。

流石は脳筋メイシャ。


 しかし、これは意外にいい手かもしれない。

フレイヤが明らかに嫌そうな顔をしたのだ。

武闘派僧侶であるメイシャ以上に専門魔法使いである彼女だ。

基本の戦術は、足を止めて、遠距離からの魔法射撃となる。

それがごり押しで近づかれるのだ。

いい気分なわけがない。


「っ!」

 遂に氷弾が炎の壁を抜いた。

フレイヤは、咄嗟に身を返し、小さくなった氷を避ける。

場内が沸き立つ。

しかし、そうは上手く進まない。


「私の炎壁(フレイウォール)を抜いたことは、素直に賞賛しましょう。素晴らしい発想と研鑽です。予選の彼女といい、ノガルドもやりますね」

 そう言うと、足元から炎が吹き荒れる。


「ご褒美に私の《紅帝(ロゼ・クライト)》をお見せしましょう」


 炎が脚を、腰を、身体を伝う。

そして腕にまで達した時、紅バラの様な炎のドレスが現れる。

ただの炎ではない。

その証拠に、紅帝の下にある服は一切燃えていない。

燃やす対象、温度、その密度まで完璧に制御しているのだ。

もはや、メイシャの氷など届かない。


「さて、温度は下げてあります。優しく撫でてあげましょう」

 そう言って左手をあげ、巨大の炎球を作り上げる。

もはや、物質並みのエネルギー量を持った炎は、例え燃えずとも、当たれば無事では済まない。


「……あ、そう言えば」

 メイシャが思い出したようにフレイヤに話しかける。


「なんでしょう? 命乞いなら聞きませんよ?」

 フレイヤは勝ち誇った顔で言い放つ。


「いえ、負けそうになったら言うように、エレナ先生から伝言がありました。」

 あまりにも意外な内容に、フレイヤも訝しげに尋ねる。


「聞きましょう。内容は?」

 フレイヤが炎球を掲げたまま、先を促す。

するとメイシャは、ニヤリと笑って、一言だけ言葉を発した。


「どチビ。」


 瞬間、振り下ろされる炎球。

同時に、あまりの衝撃に吹き飛ばされるメイシャ。

なんと、闘技場の端から端へと吹き飛ばされたのだ。

おそらく、勇者パーティ時代のタブーか何かだったんだろう。


「ほんっっっっとーに、あのクソ僧侶がっ!! 師が師なら弟子も弟子だ!!」


 フレイヤは、ノガルド教師陣の席を睨みつける。

エレナ先生……、もう少しマシな確認の仕方は無かったんですか。


 しかし、これで確定した。

フレイヤはロゼリア導師、そして『魔法使い』フラウだ。


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