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第四章)煌めく輝星達 幕間・来訪

 その夜、市街はお祭り騒ぎだった。

もちろん四聖杯効果で、そもそもが書き入れ時だったということもあるのだろう。

しかし、この賑わいはそれ以上のものだった。


「やんややんや、まさかうちのチビ冒険者たちがあれほどのもんだとは」

「いやぁ、あの骸骨の巨人軍団を見た時、俺は思ったね。今年もノガルドがやるって!」

「あぁ、なにせあの白き刃と互角にやり合ったんだぜ?」


 エウル王国首都ドルアイ。

その街中の酒場では、今日の一回戦の話題でもちきりだった。

二ヶ月前、三龍祭でリュオが紹介された時の衝撃は凄かった。

なにせ、世界でもたった十二人しかいないSランク冒険者が、四校戦に参加するのだ。

エティウ以外の三国からは非難の声が集まったが、結果的には、そのエティウを(くだ)して開催国であるノガルドが暫定の1位をもぎ取ったのだ。


「うぇーへっへ、ひっく。おらぁ、ノガルドの冒険者様らどー、ひっく」


 当然、お祭り騒ぎにかこつけてハメを外す者も出てくる。


「こら、大人しくしやがれ! まったく。こんな有様じゃ息子のとこに行けないじゃねーか!」


 警備に駆り出された騎士がぼやく。

各地で転戦を重ね、ようやくエウルにもどってこれたと思ったら、この忙しさである。


 それもそのはず。

空前の盛り上がりを見せる市街だが、その分、犯罪や揉め事も爆発的に増えている。

まして、今この街には、四大国をはじめ、各国の要人や富豪たちも集まっているのだ。

警備の人手はいくらあっても足りない。


「お務め、ご苦労様です!」


 騎士が暴れていた酔っぱらいを詰所に連行する。

詰所の兵士は固く敬礼して酔っ払いを引き取った。


「なんだよ、水くせぇな、モブール。同期の仲じゃねーか」

「いえ。軍の中でも花形の近衛騎士様に、一介の兵士が気安く声をかける訳にいきませんよ。しかし、立派な騎士になりましたね」


 モブールと呼ばれた兵士は、騎士の言葉を固辞する。


「ふん、三年前までは、俺の方こそしがない冒険者だったんだがな。それにモブールの方こそ、街の連中には、たいそう慕われてるじゃないか。万年門兵と馬鹿にするような奴もいるが、冒険者達の間では、ドルアイの門兵は愚直で筋の通ったやつだと評判だ」


 かつて、冒険者として何度もこの門を潜った騎士は知っていた。

彼は、雨の日も風の日も、変わらずそこに立っていることを。

非番の日には、腕が鈍らぬように剣を振り、代わりの門番に差し入れを持っていくことを。

ずっと門兵という閑職に収まっているのは、かつて若かりし頃に貴族が握らせた賄賂を突き返したことに起因していることを。


「嬉しいものです。なんとか兵士になったものの、大して出世もできず日がな一日門番をするしか能がないのに」


 騎士は、首を横に振って答える。


「ふん、実際自分でそう思ってもいないくせによく言うぜ。お前は出世なんか望むやつじゃない。それがどんなものであれ、自分の仕事に誇りを持って務めあげるやつだ。毎日変わらず見守る門番がいる。結構な事じゃないか」


 兵士は珍しく、顔を真っ赤にして照れる。


「もう、そんなに持ち上げるのは、よしてくださいよ。しがない門番には、過ぎた賛辞です。それよりもう勤務時間は終わりでしょう? 奥さんと息子さんに会いに行く約束があるのでは?」

「お、いけね! そろそろやばいな。モブール、落ち着いたらそこらで飲み明かそう。今度は騎士と兵士でなく、昔の級友としてな」


 そう言って騎士は、詰所を後にする。

妻との待ち合わせ場所へと急ぎながら、騎士は昼間に見た息子の奮闘ぶりを思い出す。


「へっ、しかし強くなったよなぁ、アロウのヤツ。もう俺じゃ勝てんかもしれんな」


 そうして騎士、ハインゲート=デアクリフは、いつもは厳しい顔を緩めるのだった。




「おーい、アロウ。お前に面会だぞ!」


 寮のリビングで寛いでいると、寮生長であるメイサンが呼びに来る。


「面会?」


 呼ばれて振り向くと、そこには厳しい顔のヒゲ面と、法衣を着た母さんがいた。


「アーちゃん、久しぶりぃ~♪ 元気してたぁ? おっきくなったねー」

「か、母さん!?」


 文字通りに頬ずりしながら、しなだれかかってくる母さんをなんとか引き剥がそうとする。


「ちょっ、ちょっと、母さん。もういくつになったと思ってんのさ! みんなもいるんだし、アーちゃんはよしてよ! ちょっと、ラケイン、助けて!」


 忘れていたが、母さんは力がかなり強い。

この学校に入って思い知ったが、治癒術師(ヒーラー)は基本的に肉体改造が得意だ。

一定以上の実力者なら、常時強化状態にあると言ってもいい。

華奢なように見えるのに、本気で振りほどこうとしているが全くびくともしない。

周りからは親子がじゃれているようにしか見えないのだろうが、こっちは本気なのだ。

隣にいるラケインも、顔を背けて笑いを堪えている。


「もう、照れなくてもいいじゃない、三年ぶりなんだから~♪」

「もう三年経って、僕も十五になったんだからさ! ほんとに勘弁してよ! ラケイン、笑ってるんじゃない!」


 そうしてなんとか母さんの抱擁から逃れると、今度は目の前にヒゲが現れる。


「アロウ! まだまだちっこいが、でかくなったなぁ。逞しくなりやがって、父さんは嬉しいぞぉ」

「むがっ!?」


 ガシッとこちらも掴まれて抱擁を受ける。

金属製の胸当てと剃り残しの無精ヒゲのダブルパンチだ。

喋ることもままならないまま、魔力を発動させてヒゲの鳩尾(みぞおち)に拳を突き出す。


「痛いって言ってんだろー!」

「ぐはぁっ」


 やっとの事でヒゲから逃れる。

わりと本気でいったのに、二歩後退するだけで済んだとは、やはりヒゲのやつ、侮れない。


「アロウ、ご両親か?」


 我が家のドタバタが落ち着いたのを見計らって、ラケインが声をかけてきた。


「あぁ、うちの両親だよ。ヒゲと母さんだ。母さん、僕とパーティを組んでるラケインだよ」

「初めまして、ラケイン=ボルガットです」


 ラケインが軽く会釈をして自己紹介する。


「あら、これはご丁寧に。アロウの母、リスキィです。いつもアロウがお世話になっています」


 母さんが丁寧にお辞儀をする。

僕といると甘えてあんな感じだけど、よそ行きの顔は清楚という言葉がほんとに良く似合う。


「ハインゲート=デアクリフだ。ラケイン君か。昼の立ち会い、見ていたよ。俺も戦士だが大した腕前だよ」


 ニカッと笑い、ラケインと固く手を握り合う。


「ハインゲート……。もしかして“餓狼”ハインゲートさんですか?」

「お、なんだ? 俺のこと知ってるのか?」


 ラケインをはじめ、こちらに聞き耳を立てていた戦士組がザワつく。


「知っているかっていうか、知らない方がおかしいですよ。冒険者時代の年間狩猟報酬(バウンティスコア)のランカー。いまだにその記録は破られていないです。近年の大規模討伐の噂もよく耳にしますよ」

「はっはっは。本人も忘れてる古い話をよく知ってるよな。若気の至りでちょっと無茶した時代の話だよ」


 いやぁ、僕は全然知らなかったけどね。


「ラケイン、良かったら今からご飯を食べに行くんだけど、一緒にこない?」


 ちらっと母さんを見ながらラケインを誘う。

ラケインの父、レイドロスは、こういう所には来れないだろう。

ラケインに気を使ったということもあるが、母さん達に今の僕の仲間を紹介したい気持ちもあった。


「いいのか? 折角の親子水入らずじゃないか」


 ラケインが遠慮がちに訊ねる。


「うん。というか、さっきの見たろ。少しでも人目を増やしておきたいのが本音だよ。」

「ふっ、そういうことにしておくよ。それじゃ、お言葉に甘えてお呼ばれしようかな」



 そうして僕達は寮を後にして、街の料理屋に出かける。

猛き陸王(リオネット)〉亭。

その名の通り、リオネットOBが経営する料理店で、冒険者に根強い人気を誇るため、貴族達は寄りつけない隠れた名店だ。

何より、学生に融通を聞いてくれる、ありがたい存在でもある。

依頼(クエスト)に失敗した貧乏学生にはツケをしてくれるし、突然の宴会にも、材料持ち込みを条件に引き受けてくれる。

そして一躍時の人となった学生達の為に、四校戦中は学生専用の営業にしてくれているのだ。


 店長のおじさんに挨拶して、2階の席につく。


「はっはっは、そりゃあ災難だったな」


 料理に舌づつみをうちながら、僕達のクエストの話をする。

メイシャネタは、鉄板だ。


「そういえば、ヒゲや母さんはどうしてたのさ。たしか今は軍にいるんだよね?」


 旅立ちの日に別れてから母さん達の動向はあまり知らなかった。

まぁ、母さんからは手紙がよく来るのだが、大体はヒゲへのグチで、近況というものがない。


「ん、知らなかったか?俺は国王直轄騎士団《蒼龍の牙(ウォルタファング)》に席を置いているんだ。おかげで最近は各地で転戦ばっかりだよ」

「ぶっ!?」


 《蒼龍の牙》だって?

王国軍において、正規の司令系統とは外れた、国王が直接指揮権を持つ親衛隊。

普段は各地に散って治安を守り、有事には最強の騎兵隊となる、ノガルド連合国最強の騎士団じゃないか。


「私は聖十字教会の《黒法衣戦団(ノアルオルドール)》に入ってるわ。私も最近はあちこちに飛ばされてばかりで」

「はぁっ!?」


 《黒法衣戦団》。

コール聖教国を本拠地とするクルス教の武装僧侶集団だ。

曰く、戦中において弱者を救う、聖母の集団。

曰く、戦争を止めるために一切を灰燼と帰す、鬼神の集団。

圧倒的な破壊力をもって、強制的に戦争に介入する正義の軍団だ。

エウルも同盟国として、その一部が仮の軍属として駐在しているというが、母さんが所属しているのはそこだろう。

まったく、夫婦揃ってなんてとこに入ってるんだ。


「ア、アロウ。ご両親、とんでもない人物じゃないか……」


 流石のラケインも若干引いている。


「いや、村にいた頃は、ただの冴えない冒険者とただの主婦だったんだけど」


 それはこちらも同じだけど。


「何言ってるんだ。お前達だって、新進気鋭の冒険者として活躍しているじゃないか。それに今日の試合もとんでもないレベルだったじゃないか。もっと誇っていいんだぞ」


 そうヒゲが促すと、僕達も顔を見合わせて照れてしまう。

そうして、お互いの近況報告は、ひと段落ついた。


「ここからは若い冒険者への忠告だが、最近、各地で魔物の様子がおかしいんだ。四校戦が終わったら、お前達も注意しろよ」


 最後にヒゲが気になることを言い出した。


「様子がおかしいって、なんなの?」


 魔物、魔族の話となれば捨て置けない。

詳しい話をヒゲから聞く。


「ああ。ここ数年、小魔王たちの動きが沈静化していたのはお前達も知ってるだろ?」


 ビルスティアから聞いている。

神からのお告げにより旧魔王軍狩りをしていた小魔王たちだが、新たなお告げにより、活動が停止していたのだ。


「それが最近、新たな動きを見せてきた。どうも、小魔王同士の勢力争いが始まったようなんだ」


 ついに来た。

ビルスティアが言っていた、108柱の魔王たちによる勝ち抜き戦が本格化してきたのだろう。


「配下と思われる魔物達がこぞって凶暴化しているんだ。今は人間への直接の被害がないから軍も共倒れを期待して様子を見ているんだがな。俺はこれを阻止した方がいいと思うんだ。根拠もない勘だがな」


 ヒゲは勘と言うが、恐らく間違いないだろう。

『神』が何らかの目的で、小魔王たちを競わせている。

その後に起こる事態がなんであれ、いいもののはずが無い。


「わかったよ。僕達も学園を通じて注意を呼びかけておく。……父さんたちも気をつけて」


 深刻な内容に思わず礼を言ってしまう。

不意に父さんと呼ばれたヒゲが、滝のような涙を流している。


 はぁ、うっとうしいな。

①以前、ステータス回の時に出てきた、一般兵、タダノ=モブールさん、再臨。

リオネット寮生長、メイサン=モブールのお父さんです。

・ただのモブ→タダノ=モブール

息子マイサン→メイサン=モブール


②いまだにアロウは、父親のことをヒゲと呼んでいます。

しかし、昔に比べてその力を認めているので、シリアス場面ではうっかりと父さんと呼んでしまうのです。

父さんと呼ばれて号泣するヒゲは、もはや様式美です

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