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第四章)煌めく輝星達⑩ マギ・ゴリアース

守護系魔法(エンチャント)魔装強化(マギ・ゴリアース)!」


 そのキモは、通常の守護系魔法(エンチャントスペル)のように肉体そのものに加護を与えるのではなく、体の表層を覆うように加護を重ね、体の各部位を強化させることにある。

無理やり体内に魔力をねじ込んで強化する通常の術式より、理論上では魔力効果が数倍に跳ね上がるはずだ。


「ぬぅうぇりゃぁぁぁ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


 迫るリュオの大剣にラケインが吠える。

袈裟斬りに振り下ろされるリュオの大剣をラケインが万物喰らい(フルイーター)を切り上げに向い打つ。


──ズガァァァッン!


 およそ金属同士の衝突には聞こえない、雷鳴の如くの衝撃。

二つの強大な力がぶつかり合った結果、剣を弾かれ、たたらを踏んだのは、なんとリュオだった。

あの翠王亀(エメラルドトータス))の首を一撃で落とす斬撃を、しかも下から打ち返したのだ。


「ぐぅっ!?」

「なっ!?」


 これには、打ち返されたリュオはもとより、当のラケインも戸惑う。

ラケインの剣技もさることながら、この魔装強化(マギ・ゴリアース)の強化力、実に凄まじい。

付け焼き刃どころか、つい先程調整したばかりの新技がである。

しかも、これを考えたのが、僕でもマーマレードでもない、戦士のラケインなのだ。




 半刻前の休憩中。


「……ひとつ、考えがある」


 試合直前、ラケインが発案した作戦は脅威のものだった。


「俺が、リュオを抑える」


 エティウ校の強さは二本柱だ。

最強の武人であるリュオ。

そして、リュオに鍛えられた、軍隊並みの統率力だ。

しかし、僕らノガルドにも統率力に代わる、一体感では負けていない。

ならば、あとはどうあのリュオを攻略するかなのだが。


「いや、気持ちは分かるし考え方は正しいかもしれないが、気持ちだけで実力差は変わらないぞ」


 メイサンがラケインをたしなめる。

普段は暑苦しい程のメイサンだ。

本当は、この提案に喝采を送りたいだろうことは分かっている。

何より、同じ戦士として、剣一つであの最強の武人に立ち向かいたい気持ちは痛いほどわかるはずだ。

だが、今はノガルドのリーダーとして冷静にならなければならない。

ラケインは首を横に振る。


「自分の実力の程はわきまえている。勝算、というか考えがある」


 普段無口なラケインが珍しく食い下がる。

熱い眼差しを込め、ラケインが僕に振り返る。


「アロウ、俺は魔法について疎いから、無理なら笑ってくれていい。あの龍骸巨兵(ドラゴリアス)の強化と補助の魔法、俺にかけられないか?」


 驚愕する。

確かに、通常の強化魔法に比べても、龍骸巨兵(ドラゴリアス)の操作・強化の魔法は格段に強力だ。

ラケインは、漠然と強力な守護系魔法(エンチャントスペル)くらいのつもりで提案したのだろう。

実力不足は承知の上。

それを龍骸巨兵(ドラゴリアス)の魔法で補おうと言うのか。


「無理よ」


 そう言ったのは、ホーエリアの寮生長であり、長い間メイサンとパートナーを組んできたマーマレードだ。


「他人の魔力は馴染みにくいのよ。守護魔法なら無理やり体内に作用させて効果を出すけど、あれは体の外側に作用してるもの。生きている物、人間なんかに発動したとして、たとえ効果があっても一瞬で弾かれるわ」


 確かにそうだ。

しかし、それに僕が反論する。


「ならその一瞬に、効果的に作用させればいい」


 これは魔法としては全く新しい、そして、最も古い術式だ。

マーマレードも、もちろんラケインが知るはずもない、それは魔王の術式だ。

基本的な考え方は、魔族の強化と変わりがない。

もっとも、あれは魔王の持つ膨大な魔力量によって魔族の勢力圏内を満たし、常に(・・)体の周りを強化魔力で覆い、常に(・・)全ての魔族に作用させている状態なのだが。


「弾かれる前提での一瞬だけの付加。つまり、攻撃や防御を行う各動作の一瞬に、適した属性魔力を選択し、適した部分に発動させようというの? そんなの、それこそ同一人物でもなければ無理よ!」

「……アロウなら。俺とアロウのコンビならやれるはずだ」


 ラケインが呟く。

あのラケインがまさかの無茶振りだ。

理論上では可能ということと、それが出来るということには、かなり大きな違いがある。

だが、ラケインの心に迷いなどは一切ない。

いや、本当に僕なら出来ると信じているのだろう。


「アロウ、出来るのか?」


 メイサンが疑うように、そして期待するように、僕を見る。

自信はない。

けれど予感はある。


「うん、ラケインとなら出来るはずさ」


 そう言い切る。


「ふふふ。なぁ、マム。年下にここまで言い切られたんだ。なら、俺達も同学年とはいえ尻込みしている場合じゃないよな」


 メイサンがマーマレードを見つめ頷く。


「ちょっと! 勝手にやるって決めないでよ。……はぁ、わかった。やってやるわよ。せめて鉄鬼巨兵(ゴリアテ)に使った意識共有の魔法を併用させてよ。あれで成功率が上がるわ」


 そうして何度かの試験を行い、新型の強化魔法(バフスペル)、〈魔装強化(マギ・ゴリアース)〉を急遽完成させたのだ。




「おいおい、お前達。なんて代物を作ったんだよ」


 リュオが冷や汗ともに歓喜の笑みを作る。

魔法に詳しくない、自分にもわかる。

あれは、既存の魔法技術の先を行く代物だ。


 目を凝らせば、二人の戦士の周りに魔力が漂うのが見える。

そして、剣と剣が交わるその一瞬に魔力が膨れ上がるのだ。

Sランクである自分と拮抗するレベルの戦い。

そんなハイレベルの戦いにも関わらず、戦闘の流れを先読みして、必要な部位に必要な魔力を選択する魔法技術。

明らかな規格外だ。

無論、強化があってとはいえ、自分と斬り結べるラケインともう1人の戦士のバトルセンスにも脅威を覚える。


「いい。いいぜ! ラケイン、アロウ!! 想像通り、いやそれ以上だよ!」


 今一度大剣を握り直し、咆哮するのだった。




 もう何度、窮地を凌いだろう。

リュオの一撃一撃は、その全てが必殺の威力を持っている。

メイサンの剣を弾き、ラケインの剣を撃ち落とす。

あらゆる方向から襲い来る猛威。

同じ大剣使いとはいえ、ラケインの剣とは、かなり趣が異なる。


 卓越した剣技の延長にあるラケインの剣を、変幻自在に形を変え、全てを飲み込む激流の大河とするならば、リュオの剣は、圧倒的な暴力を体現し、触れただけで打ち砕かれる暴風のようだ。

いくら魔法で底上げしようと、未だ僕達の実力は遥かに届かない。

そして、実際に剣を受けるラケイン達はもとより、永遠にも思える一瞬の連続のなか、極限の集中力を続ける僕達にも疲労が現れ始める。


「ここで決めるぞ! アロウ!」

「踏ん張りどころだ! マム!」


 戦士組の叱咤により、唇を噛み締めながらも魔法に集中する。

幸い、攻勢はこちらがやや有利だ。

次第にラケインとメイサンのコンビネーションが噛み合ってきており、リュオを追い詰めつつある。

しかし、その優性も僅かな失敗で覆ってしまう。

そんな綱渡りのような戦いを既に三十分以上続けているのだ。


 リュオが攻めあぐねているのを見て、エティウ校の面々が浮き足立つ。

いくら軍隊並みの統率を持つエティウと言えど、司令塔であるリュオを抑えられては、ただの学生に過ぎない。

ついに、副リーダーらしき学生が合図を送り、エティウ校が進軍を始める。


 それは二回戦でノガルドが見せた、全員攻撃(フルアタック)

リュオと僕達四人が拮抗している今、残る全戦力で雌雄を決するつもりのようだ。

一匹の猛獣のようになったエティウ校が、ノガルドの陣に襲いかかる。


 確かに、その判断は間違いではなかった。

単純な人数としても、29対26。

ほぼ同数とはいえ、エティウに若干の有利。

また、リュオ仕込みの全体行動は、本人不在でも乱されることなく、完璧な連携が取れている。

そして、ここで勝負は付いた。


「うぉりゃぁぁっ! 見ててくださいね、ラク様ぁっ!!」


 巨大な爆発音。

エティウの誤算は、でたらめな破壊力を持ち、大雑把な物理攻撃が得意な僧侶が一人、守備陣営に残っていたことだ。

完璧な連携が仇となり、たっぷと魔力を込めた大ぶりの一撃によって、部隊の大半がまとめて粉砕された。


 全くの予想外の事態に、リュオも僕達4人も唖然とする。

その隙に綱を引ききるゴーレム。


「勝者、ノガルド校!」


 アナウンスを背景に、仁王立ちでブイサインをするメイシャがにこやかに笑っていた。

このバトル。

オチだけは決めてありました。


いやぁ、ここまで持っていくのがながかった。

反逆者メンバーの伏兵、メイシャさんバンザイです。ヾ(●´∇`●)ノ


新型魔法・〈マギ・ゴリアース〉は、説明が難しいので、後で詳しく説明します

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