第四章)煌めく輝星達⑦ デモンストレーション
リュオの協力で西国の生徒が依頼を消化してくれたお陰で、なんとか市場の混乱も落ち着いてきた。
実際には現場でバタバタしている僕達よりも、各国の用心やエウルの王族と打ち合わせを続けている教師陣の方が大変だったと思うが。
何よりもジーンさんの苦労を思えば、もう足を向けて寝る事は出来ないだろう。
さて、四聖杯では、エウル、エティウ、ノスマルク、コールの四学校から、代表となる各三十名の生徒が参加する。
基本的には魔王討伐や軍事行動などを意識した種目を三日間かけて争い、総合得点で優勝が決められる。
三龍戦から二ヶ月近く、エウル各地に滞在した他国の貴族が、祭り納めと言わんばかりに集まり、またその財布から金を引き出そうとする商人たちが集まり、商人たちと取引するために小作や冒険者が集まる。
金が動くところにはならず者も集まり、その警備のために軍や警備隊も集まる。
全てが人の動きに繋がり、空前絶後の活気を見せる。
「さあ、いよいよ四聖杯です。選抜に選ばれた生徒もそうでない生徒も、ホスト校として恥ずかしくない振る舞いをお願いします。彼らは争い合う敵ではなく、競い合うライバル達です。敬意をもって接するように」
エレナ先生がそう皆に言い聞かせる。
特に南国では亜人種が社会で活躍していると聞くが、ここエウルでは、亜人の身分は低い。
特に貴族の多い学園では、なお更にその傾向が強いのだ。
先生たちが目を光らせてるとはいえ、心配だな。
そんな心配をよそに、四校戦が始まる。
「それでは、各校のデモンストレーションです」
アナウンスが入る。
試合会場となるのは、学園の巨大スタジアムだ。
学園の、とは言っても、実際には国営と言っていいようなもので、本来は王国軍の練兵や式典に使われる会場なのだ。
それを学園の教師陣の指揮の下、王宮魔道士達が土魔法で拡張・増築を行っている。
四聖杯は、単なる腕試しの場ではなく、卒業後のアピールの場であり、なによりも各国の戦力を知らしめる格好の機会なのだ。
この為、一日目の競技は午後からとして、午前中は、各校のデモンストレーションの時間となる。
この演習は、各校の実力を分析し、味方の士気を高める、相手を威圧するなどの駆け引きとしての側面もある。
まずはエティウ校。
流石に現役の将軍でもあるリュオが指揮するだけあり、入場からして迫力が違う。
一人一人を見ると、一見には、ただ歩いているだけのようにも見える。
しかし、全体として見れば、隣との感覚は一定に保たれ、視界や動線が被らないように配慮されている。
一見地味だが、だからこそ見るものが見ればわかる圧倒的な統率力。
これは入場ではない、行軍だ。
先頭のリュオが、片手を上げる。
その僅かな動作で、三十人全員がピタッと止まる。
上げた手を払う。
全員が散開、そしてすぐ様に陣形を取る。
リュオを起点として、四人一組、計八個の小隊が三角形に並ぶ。
組の配置も考え尽くされているようだ。
前列には、戦士が多い近接重視組が。
後列には、魔法使いが多い支援重視組が配置されている。
リュオは、自らを入れて三十名もの人間を、僅かな合図で意のままに操る。
エティウ校の選抜メンバーは、個々の実力もあるだろうが、リュオを要とした一つの生き物のように訓練された軍団なのだ。
次にノスマルク校。
入場してすぐに気付くが、2/3程は魔法使いなのではないだろうか。
そして、戦士組もその多くは魔法剣士であるようだ。
魔法大国とも名高いノスマルクだけあり、選抜メンバーも他校と比べると魔法使いの比率が多い。
やや時間をかけそれぞれが配置につく。
中央に六人、四方に四人ずつ四組、22人の魔法使いがそれぞれ円形になり、戦士らしい八名は、護衛という立ち位置なのか、中央付近に散開する。
周囲の四組が魔力を高める。
足元に魔法陣が浮かび上がる。
描かれる図形は召喚系。
それぞれに2m以上はあるだろう人型が浮かび上がる。
それぞれ火、水、土、風の基本四属性をもつ精霊だろう。
ぼんやりとした発光体ではなく、これほど巨大な人型ともなれば、かなりの力を持つ上位精霊だ。
その力は、冒険者ギルドで言うところのBランク魔物にも相応する。
通常の魔法以上に精密な魔力操作が必要であり、また、召喚した対象を使役する性質上、その実力も相応のものが求められる。
上位精霊を喚び出せるとは、かなりの実力者だ。
しかし、そんな彼らを脇役とする中央の六人。
彼らもまた魔法の準備をする。
魔力の流れによって現れる魔法陣の図形から、その効果を読み解く。
これは、〈虚無〉の術式!?
火、水、土、風の四属性に、その裏である闇属性。
それに純粋な魔力である無属性を組み込んだ、本来なら有り得ない〈六属性複合魔法〉。
はっきり言おう。
こんなの、魔王以外に使用するところなど見たことがない。
かつて、『戦士』と『魔法使い』の攻撃を受け止めた〈崩壊する虚無〉がそれだ。
複合魔法は、混合する属性の数によって難易度が跳ね上がる。
それを、無属性を含めて六。
これを人間の身で再現するのか。
確実に『魔法使い』フラウ、いや、ロゼリア導師の手引きだ。
彼女の『魔王』に対する執念は、既に常軌を逸している。
その彼女が作り上げた精鋭と戦うことになる。
三番手はコール校。
クルス聖教の総本山だけあり、僧侶、つまり治癒術師がメインとなる。
だからといって、攻撃力にかけるかと言えばそうでもない。
母さんやメイシャがそうであるように、膨大な魔力を扱うには肉体の鍛錬も必要だ。
まして、治癒術師は肉体の構造について深く造詣がある。
よって、自らの肉体を“使いやすいように”鍛えることも可能だし、相手を“壊しやすく”攻撃することも可能だ。
優れた治癒術師は、同時に優れた魔法闘士でもあるのだ。
コール校の選抜メンバーもそうであるらしい。
制服なのか、それとも本職なのか。
全員がクルス教の僧服を着ている。
もし僕の考えが正しいなら、コール校は、三十人全員が魔法闘士ということになる。
人数が少なくとも“当たれば大きい”魔法使いが、闘士として小回りが効くようになり、しかも全員がそのレベルにあるとしたら……。
背筋が寒くなる。
コールの生徒達が展開する。
二人の生徒が中央に立ち、残りの生徒が後方に円陣を組む。
一糸乱れぬ動きで、どちらも魔力を練り上げる。
やはり全員が魔力持ちなようだ。
中央の二人が行ったのは、ありふれた召喚魔法。
推定でCランクの魔物が召喚され、他のメンバーの方へと襲いかかる。
対して28人の生徒が行ったのは、〈光属性〉による殲滅魔法。
本来、〈光〉という属性は存在しない。
四属性を正とすれば、その負の存在として闇属性がある。
それでは光魔法とは、四属性の複合魔法か?
答えは否だ。
複合魔法は、厳密に言えば二種の魔法の同時発動という枠になる。
光魔法の発言に必要なのは、複合ではなく融合。
それを完璧に統合して一つの上位属性へと進化させたのだ。
現れたのは、神の使いである羽根を持った天使の幻像だ。
光が収束し、爆ぜる。
一瞬のうちに魔物が消滅する。
光魔法とは、現存するあらゆる物質に対して有効な猛毒なのだ。
まったく、恐ろしい博愛の力もあったものだ。
最後に、大トリは僕達ノガルド校だ。
正直、ほかの三校のレベルが高すぎる。
生徒達の演習どころか、完全に国家秘密クラスの秘術がバンバン出ている。
よく見れば各国のお偉いさんたちは、顔が青くなったり、自慢するのに興奮したりで忙しそうにしている。
まぁ、インパクトでいえばうちも負けていないと思うが。
エティウは、リュオの指揮の元による連携。
ノスマルクは、秘匿された魔法技術。
コールは、究極の光魔法を見せた。
では、ノガルドの強みとはなんだ?
そもそもノガルド連合国とは、中小数10もの国々がほかの大国に対抗するべく、より集まっている。
その中で盟主として最大規模の国力を持っているのが、ここエウルだということなのだ。
そして、ノガルド育成学校においてもその縮図は適応される。
様々な国から人材が集まり、寮も三つに分かれてそれぞれに特色を持つ。
そして、冒険者にとって、何よりも大切なのは、個人の実力ではなく、パーティの連携なのではないか?
そう、僕達ノガルドの強みは、一芸に頼らず、長所を生かし短所を補い合える仲間達だ。
その姿を見た瞬間、観客が湧く。
三龍祭でもお披露目した、龍骸巨兵だ。
三龍祭を見てきたものは、訳知り顔で周りに説明し、初見のものは、その威容に驚嘆の表情を浮かべる。
しかし、そのまま出したのではただの二番煎じだ。
まずは、僕の龍骸巨兵を先頭に入場する。
様々な魔獣の骨の巨体に龍の頭蓋骨。
その手には、新たに骨製の大剣と盾が握られている。
そしてその後に続くのは、龍骸巨兵同様に作られた搭乗式の鎧巨兵・鉄鬼巨兵の軍団だ。
イーグレスの自由な発想が、骨ではなく最初から武装を積んだ鎧武者を選んだ。
ホーエリアの研究と研鑽で、その部品を最適化し、操作性も格段に上がった。
そして僕ほどに魔法と剣を扱える生徒は少ないが、それは戦士と魔法使いのセットで登場することで解決した。
リオネットの熱い魂は、エティウの軍隊行動にも劣らない連携を持つ。
戦士の動きのイメージを思念として捉え、ゴリアテを操作する。
特殊な念話魔法を使ったが、それでもこれを成功させるのは、味方ながら流石としか言いようがない。
こうして、龍骸巨兵と鉄鬼巨兵の軍団、〈巨神兵団〉のお披露目は完了したのだ。




