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第四章)煌めく輝星達③ ドレッキン子爵の茶会

 三龍祭から一夜開けると、僕達は目が回るような忙しさの中にいた。


「ふっふわぁぁぁ!? 何ですかこの忙しさ! 二日でCランク(上位級)の魔物三件とか尋常じゃ……」

「あ、追加でラスト一件な」

「ノォぉぉぉ!?」


 一年目のメイシャにはきついだろう。

ことは単純だ。

三龍祭の、準備から開催まで、約1ヶ月分の仕事が溜まっているのだ。

まして今年は四校戦も開催される。

一月後に迫る四校戦の前に片付けておきたい駆け込みの依頼も多い。

そして、お祭り騒ぎだった三龍祭に味をしめた商人たちによる買い占めや在庫確保も加熱している。


 国を上げてのイベントであるため、軍も毎年協力してくれているが、そもそも軍が出てきて片付くようなら、冒険者なんて仕事はいらない訳で。

今年に限っては、生徒だけではなく、先生方でさえもギルドからの要請で依頼を片っ端から片付けている。

結果、学校も実地授業と言わんばかりに開店休業。

まさに東奔西走と言った感じである。




 そんななか、(くだん)の貴族からの招待状が届く。


『屋敷にて茶会を催したく思います。是非、ご参加されたし。ドルティア領子爵·ビルスティア=ドレッキン』


 貴族らしい言い回しや比喩が盛り沢山だったが、要約するとこういうことらしい。

エレナ先生がつかまって助かった。

貴族の文章は、ほとんど暗号かと思えるほどに要領を得ない。

エレナ先生曰く、これはまだわかりやすい部類の手紙らしい。


 ちなみに、本人も言っていたが、貴族として小勢力だというのは本当らしい。

貴族の爵位は、全10階位。

大公>公爵>侯爵>辺境伯>伯爵>子爵>男爵>準男爵>叙勲騎士>騎士

となる。

準男爵以下は、公務員という以上の意味を持たず、領なども与えられない。

そういう意味でも、子爵は、ギリギリの貴族であると言っていい。


「それにしても、『僧侶』ですか。彼は何者なんでしょう」


 エレナ先生を含めた五人で魔蜥蜴(ホラレ)馬車に揺られている。


「それにフランベルジュ老師があのフラウですか。はぁ、あの子は何をやっているのか」


 ドレッキン子爵に前後して現れた、仮面の魔導師のことを思い出し、軽くこめかみを押さえる。


「ロゼリア導師って呼んでほしいみたいですよ。老師って言うと、機嫌が悪くなります。……ロゼリア導師ってどんな方だったんですか?」


 気になって聞いてみた。

魔の長であった『魔王()』をして、奥の手を使わせるほどの魔の匠。

彼女もそうだが、勇者パーティのことは未だに忘れたことがない。


「そうね、まずフラウについてだけど、あの子は、一言で言うなら天才よ。」


 そう言って、彼女のことを語り始めた。


曰く、魔法の天才。

曰く、魔法の申し子。


 魔族、魔物などと言うように、魔とは、自然ならざる力を言う。

まぁ、人間達から見れば、だが。

だからこそ、人々は魔法使いを敬うと同時に畏れるのだ。


 その有り余る才能と研鑽によって、天才とまで呼ばれた彼女が、どのような人生を辿ってきたのかは誰も知らない。

勇者パーティとして最初に参加していた魔法使いは、王国軍から派遣された腕利きだったが、彼女の加入によって自信を失くし、野に下った。


「彼女は、多くの魔法使いたちを潰してきました。それは意図してではなく、あまりにもかけ離れた才能に、周りが勝手に挫折していっただけなのですが」


 溢れる有象無象を顧みず、ただ己の道を邁進(まいしん)する。

唯我独尊。

それが、フラウ=クリムゾンローズという魔法使いだった。


「実際、私達も彼女のことは多くは知らないのよ。ある街で、魔法の研究をしていた彼女に『勇者』が声をかけた。その街での研究に行き詰まっていた彼女が、気まぐれにパーティに入った。それだけの関係なのよ」




 ロゼリア導師について考えていると、魔蜥蜴(ホラレ)を操るメイシャから声がかけられる。

話し込んでいるうちにドルティア領に入ったようだ。


 見事な農園が広がる。

実りは豊かで働いている農民達も健やかな様子だ。

区画整備がされていないのか、道が奇妙に蛇行しているのだけが気になるが、ドレッキン子爵は、思いのほかいい領主のようだ。


 領主の館に着く。


「お待ちしておりました。エレナ=クレケレンス様、《反逆者(リベリオン)》の皆様」


 執事らしき初老の男性が出迎える。

その挨拶からも、子爵のエレナ先生に対する執着が見て取れる。


「ドレッキン子爵がお待ちです。どうぞこちらへ」




「主に知らせてまいります。しばらくお待ちください」


 そう言って執事は客間を後にする。

客間には、豪華そうな家具が並び香でも焚かれているのか、微かに甘い香りがする。


「……アロウ」

「うん、リリィロッシュ」


 しかし、僕の興味はそこではなかった。

魔力の探知に長けた僕達でなければ気づかないほどに微かに、屋敷を、いや、村全体を魔力が流れているのだ。

エレナ先生もなにか気づいたのか、表情も険しく辺りを見渡している。


「エレナ先生?」

「え? あぁ、少し気になることがありまして」

「気になること?」

「えぇ。領地の豊かさもそうですが、屋敷が大きすぎるかと。子爵と言えば、領地持ちの貴族の中では下位に当たりますから」


 そう言って豪華な装飾のされた家具を撫でる。

確かに、壁は漆喰で綺麗に覆われ、床には目が細かく豪奢な絨毯。

机や椅子は、白で統一され金箔と思われる装飾が散りばめられている。

そうか、貴族というイメージで、当たり前に受け入れていたが、豪華すぎるという違和感があるのか。

この辺りは、かつて勇者パーティとして各地を回った、エレナ先生ならではの感覚だな。


 ふと窓際を見ると、はしゃぐメイシャにラケインが付き合っている。


「どうした、ラケイン?」

「ん? あぁ、メイシャが町並みが面白いと言い出してね」

「町並み?」

「はい、そうなんです。来る時に道がくねくね曲がっていたからここから見てみたんですけど、ちょっと気になって」


 この館は小高い丘の上に立っている。

だから、領地の町並みが一望できるのだ。


「……これ、は」

「アロウ! 全力で探知(サーチ)を! ドレッキンにバレても構いません、できる限り広範囲に掛けてください!」


 リリィロッシュも、僕と同じ認識を持ったらしい。

全力で探知(サーチ)の魔力を放つ。

今の僕なら、なりふり構わなければ10km(コモメーダ)くらいの範囲で探知可能だ。


 客間、屋敷、庭園にドレッキンがいる。

丘、道路は屋敷に向かって各方向から道が伸びている。

そして村、家屋や畑が“規則性をもって”配置されている。


「……なんだよ、これ」

「どうした、アロウ」


 見るからに顔が青ざめていたのだろう。

ラケインが警戒した顔で駆け寄ってくる。


「村が、畑が、魔法陣になっている」


 僕は動揺を隠せないまま、感知したものを説明する。

家や畑を上から俯瞰するように見ると、屋敷を中心として魔法陣の形になっているのだ。


「ドレッキンは、村人を生贄に魔力を奪っているのか!」


 ラケインが怒りに燃える。


「いや、それが違うんだよ、ラケイン。僕も最初はそう思った。だけど、詳しくは分からないけど、この魔法陣は、“循環”と“強化”。つまり、実りを豊かにして、領民を助ける魔法陣なんだ」

「……はっ?」


 一同は意外な結果についていけない。

なんというか、毒気を抜かれてしまったのだ。


「お待たせいたしました。用意が整いましたので、会場の方へどうぞ」


 執事が迎えに来る。

どうやら会場はここではないようだ。

屋敷の裏手に広がる庭園に案内される。

大きな日傘の下にテーブルとティーセットが用意されている。

そこには、ドレッキン子爵とメイドたちが待っていた。


「やぁやぁ、お待たせしました。どうぞおくつろぎ下さい」


 真紅の貴族服に身を包んだドレッキン子爵が、相変わらず大仰な仕草で出迎える。

何事もなかったような雰囲気だが、あれだけの魔法陣を操るのだ。

探知(サーチ)の魔法に気づかなかったということは無いだろう。

腹の探り合い、というやつだ。


「子爵様。本日はお招きに預かりまして、ありがとうございます」


 エレナ先生が丁寧な礼をする。

僕達も慌ててそれに習う。

こういう場には流石の大人の対応だ。

……まぁ、僕やリリィロッシュの実年齢については置いておいてほしい。


「あぁ、この場ではそういう堅苦しいものはなしにしましょう。私のこともビルスティア、そう、ビルスと呼んでくれたまえ」


 そう言って席へと導く。


 それからしばらくは最近の情勢やら、四校戦前で依頼が立て込んでいるだとかの他愛のない話題で時間が過ぎていった。


「さて、それではそろそろ本題に入りましょうか」


 先に切り出したのはドレッキン、いやビルスだ。


「と言っても、改めて宣言する話でもないのですがね。今日ここへお呼びしたのは、先日もお話したとおりですよ。私は弱い領主で、手札となる冒険者が欲しい。あなた達はあなた達で、私を利用すればいい。それだけなのですよ」


 なるほど、確かに彼は先日のプロムでそう言った。

そしてその内容にも嘘はないのだろう。


「お言葉ですが、言葉は同じでも、あなたが何者かによって、その意味は大きく違ってくる。既にお気づきでしょうが、先ほど探知(サーチ)を使わせて貰いました。領地とはいえ、村にあれほどの魔法陣を仕掛けられる人物。あなたは誰なんですか?」


 もう化かし合いはたくさんだ。

僕は正面から疑問をぶつけてみる。


「はっはっは。いや、ここまで正面から来られるとは。やはりあなたには、正攻法で近づいた方が良かったのかな?」

「質問に……」

「もちろん答えるさ。いえ、答えさせていただきます」


 そう言って、ビルスは席から立ち、芝生に跪く。

途端、膨大な魔力が吹き荒れ、その纏っている貴族服も変貌を遂げる。

真紅の貴族服は赤いローブになる。

そのコートは見たことがある。

それは、二年前。


「ご無礼をお許しください。『僧侶』様、リオハザード様。私の真の名はビルスロイ。かつて『僧侶』様の慈悲によって命を救われた、獣魔の森の主です。そして、今の名は、《“血獣”の魔王》、ビルスティアと申します」

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