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第三章)新たな輝星⑩ 閉会式

 三日間の攻防が終わり、四日目。

最終日である今日は、生徒達はその片付けに追われる。

その間に教師陣は投票結果の集計と、夕方から行われる、閉会式とその後の舞踏会(プロム)の準備だ。


 とはいえ、閉会式の会場は、三龍祭の間使われなかった大講堂である。

料理は外注、飾り付けの時間も十分にある……はずなのだが、


「ちょっと! 戦士系の教師あんたたちが机を片付けてくれないと、魔法系教師わたしたちが飾りを取り付けられないじゃない!」

「ちっ、うるせーなぁ。だったら生徒達の投票結果でもまとめてろよ。ご自慢のおつむ使ってよぉ」


 世間の冒険者パーティが抱える問題は、ここでも適応される。

すなわち、〈ガサツな戦士〉対〈頭でっかちの魔法使い〉という構図だ。


「おい、戦士系! どうせこの後のプロムでは、生徒達と飲んだくれて使い物にならないんだから、三龍祭の間に片付けろって、毎年言ってるだろ!」

「ふんっ! こっちは荒くれの生徒達を相手にしなきゃいけないんだ。お上品な魔法使い様たちとご一緒にして欲しくないね!」


 実のところ、この様子は毎年生徒達にバッチリ見られている。

この最終日には講堂への立ち入りは禁止されているが、生徒達の方も後片付けに追われており、そんなことも言っていられないのだ。

そして教師達の子供じみた喧嘩は、ああはなるまい、と、まさに反面“教師”として、生徒達に刻まれることとなる。


 夕方になると、正装した生徒や来賓たちが大講堂に集まり出す。

ちなみに、プロムという形式であるために、原則として入場は男女一組での参加が基本である。

特例として、表彰式もあるので各寮生長は、パートナーなしでも参加が義務付けられているが、寮の期待を背負った寮生長である。

死に物狂いでパートナーを見つけてくるのが、毎年の常である。

午前中の喧騒など忘れたかのように、教師陣の一番のお楽しみはこの瞬間だ。


「お、あそこのカップル、分かれてるぞ。パートナーが違ってる!」

「あぁ、あそこはダメだと思ってたんだよねー。パーティに新しい子が増えてからギクシャクしてたしさ」

「ひょっひょっひょ、残念じゃが、あちらは試練を乗り越えたようじゃな。つまらんのぉ」


 まさに最低の教師達である。




 ともあれ、三龍祭のしめくくり、表彰式のスタートである。

既に参加する生徒達は、講堂に入っている。

男子の方は、色鮮やかな広襟のジャケットや、フリルのついたコートを身につけている者もいるが、基本は黒の燕尾服である。


 対して、エスコートされる女子は百花繚乱、華やかの一言だ。

赤、黄、青、紫、白。

大胆に胸元の開いたドレスで周りを魅了するものもいれば、慎ましやかに身を覆い清楚な装いの者もいる。

普段は(いかめ)しい鎧姿の女戦士も、すすだらけのローブに身を包む女魔法使いも、皆同様に美しく着飾っている。


 少し離れた所を見ると、ラケインとメイシャが隣合って座っている。

カチコチになっているメイシャをラケインが何とか落ち着かせようと悪戦苦闘しているようだ。

そして僕の隣には、


「ん~? どぅしたのぉ、アロウ君」


 イーグレスのカーレンがいる。

講堂に待機しているのは学生だけなので、外部にプロムのパートナーがいる生徒達は、臨時でペアを組んだり、代理の相手を生徒間で探したりしている。


 僕の場合、リリィロッシュは臨時とはいえ教師枠であり、閉会式の間は運営に回っている。

カーレンも学園外に恋人がいて、プロムで落ち合うそうだ。


 クラスでも変わり者として浮いているカーレンだが、見事にドレスアップした姿は、本当に可愛らしい。

のんびりしたカーレンらしく、オシャレには無頓着だ。

髪はいつも通りに後ろで結わえただけ。

しかし、そのドレスはまさにカーレンのためにあつらえたように似合っている。


 それもそのはず。

子煩悩なゴーワンさんが、イーグレスの寮長に頼んで特別オーダーした一品だ。

戦士らしからぬ華奢な体つきだが、こうしてドレスに身を包むと、実は女性らしい部分がかなり主張が激しい。

まさかの伏兵に思わず、その、目が行ってしまう。

三日目の午前中に代理ペアの申し出を彼女から受けて二つ返事で返したが、まさかこんな罠が仕掛けられているとは。


 ドキドキとしていると、恐ろしい殺気が二つほど、突き刺さるように飛んでくる。

無論、炎のような怒りの殺気の偏屈親父(ゴーワンさん)と、絶対零度の殺意の悪鬼女神(リリィロッシュ)だ。


「う、ううん!? 何でもないよ!?」


 滝のように嫌な汗をかきながら、閉会式の進行を見守る。




「それでは、ノガルド育成学校学園祭、三龍祭の表彰式を行います」


 エレナ先生が壇上に上がる。

ちなみに、紳士同盟の暴走を止めるため、エレナ先生は毎年、司会進行役として隔離状態である。


「本年は、四校戦の歓迎式典も兼ねておりますので、ここで来賓の紹介をさせて頂きます」


 壇上に幾人かの男女が居並ぶ。

そこには見間違えようもない、あの巨躯の騎士の姿もあった。


「まずは、北方四大国、クルス教主教国コール聖教国より、ワーゲン=フォルクス猊下」


 陰気で覇気のない男性が立ち上がり、紹介に返すように手を挙げる。


 クルス教。

世界でほぼ唯一の宗教、ということになているが、実際には、数多くの土着信仰をまとめあげ、唯一神の教えに変換されてできた教えであり、馴染まなかった極小数の異教信者は異端として爪弾きにされている。

その割に隣人愛を謳い、自己犠牲により善行を積めば神により救われるという、魔族から見ればおかしな教えだ。

もっとも、教えを信じたところであんな『神』(やつ)が人を救うとは思えないが。


 フォルクスは、クルス教の頂点たる教主であり、王制ではないがコール聖教国の国王とも言うべき存在だ。

しかし、煌びやかで荘厳な法衣を纏っているのに、その顔は亡霊のように青く、吹けば飛びそうなほどその存在は儚い。

病でも得ているのだろうか。

見たところ恐らくまだ50代だろうにその様子は、死を間近にした老人のようだ。


「続いて、南方四大国、ノスマルク帝国より、帝立魔術学院特別顧問、帝国宮廷魔導師、ロゼリア=フランベルジュ老師」


 仮面に顔を隠した女性がうやうやしく礼をする。

美しい女性だ。

歳はまだ二十代の前半だろうか、仮面に顔は隠れているが、何故かその下には整った容姿があることを微塵も疑わせない。


 大陸南方にあるノスマルク帝国は、小国も含めれば百を越える国々の中で、唯一帝国を名乗っている。

王すら従える帝。

その名が示す通り、オーコ大砂洋とホード大森林に挟まれた大陸の南部一帯を全てその支配下に置く、この世界で最も強い軍事力を持つ巨大国家だ。


 フランベルジュ老師は、銀に紅の炎の意匠をあしらった仮面で顔を隠し、煌びやかなドレスも真紅一色だ。

女性にしては高めの身長に豊かな胸元。

掴めば折れそうな腕にくびれた腰。

女性としての魅力を最大限に振りまくように胸元から背中までドレスは大きく露出しており、透き通るような肌と美しい銀髪を真紅の衣装が引き立てている。

しかし、最強の軍を持つ帝国の宮廷魔導師を名乗る女性だ。

見た目通りとはいかない人物なのだろう。


 ここまで来て、ふと気がつく。

これほどまでの大物と席を列する、巨躯の騎士だ。

エティウの学生と名乗っていたはずだが、一体何者なんだろう。


「最後に、西方四大国、エティウ王国特務騎馬隊隊長、ルド=オーガ将軍」


 ガタッと思わず椅子から転げ落ちそうになる。

しかし、その様子を気にするものはいない。

それまで興味もなさそうに座っていた学生達も騒然としている為だ。


 ルド=オーガ。

その名前は、冒険者なら、いや、戦いの場に身を置くものなら誰でも知っている。

白獣の牙(グランファング)”の異名をとるエティウ王国最強の将軍だ。

二年前、たったの十三騎で二千を超える敵国の軍勢を押し返した武勇伝は、もはや伝説の域に達している。

南国(ノスマルク)が魔法で大陸南部を統一した魔法大国なら、西国(エティウ)は武の力で西部をまとめあげた武術大国だ。

その頂点に立つ武の化身。

間違いなく、人類最強の人物のひとりである。


 その後も、何やら偉い人たちの挨拶やら祝辞があったが、もはやうろ覚えだ。




「それでは、当ノガルド冒険者育成学校学園長、エンラ=イードより、本年の優勝寮の発表を行います」


 ザワザワとしていた会場も、流石に空気が切り替わる。

自信はあるが、他の寮の店も素晴らしかった。


「ひょっひょっひょ。学生諸君、お疲れ様じゃったのぉ」


 イード学園長は、ハゲ上がった頭を光らせながら、もとい、豊かな髭を擦りながら講堂を見渡す。

元は高位の魔導師だったそうで、温和な笑みの奥に光る猛獣のような眼光がそれを物語る。

その眼光が壇上のエレナ先生の方に向いていなければ、素直に尊敬するのだが。


「みな、素晴らしい店ばかりじゃった。大物を狩った素材に研究した薬。(つて)を使った一品に長所を活かしたサービス。伝来の技術に更に磨きを掛けた店もあった」


 それぞれがどの店とは言わないが、心当たりがある。

確かにどの店も素晴らしかったのだ。


「ひょっひょっひょ。今年の選考は大いに悩んだ。投票による得点もわずか数票の差じゃった。来賓の皆様も大いに楽しまれたことじゃろう」


 学園長がうんうんと、満足そうに頷く。


「あえて、決め手が何であったかは言うまい。みな素晴らしかった。それでも結果は付けねばならん! 今年の優勝は……リオネット寮じゃ!」


 講堂中が沸く。

壇上に巻かれていた寮旗がバサッと開かれる。

そこにはリオネットの赤い獅子の旗があった。

立ち上がって叫ぶもの。

悔しさに拳を握るもの。

素直に賞賛を送るもの。

僕も、固く拳を握り喜びを噛み締める。


 こうして、今年の三龍祭は、リオネットの優勝で幕を閉じた。

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