第三章)新たな輝星⑥ 三龍祭と四校戦
ささっとすすもうと思ったら、せっかく学校に入ったのに、学園生活してないことに気が付きました。
学校といえば学園祭( *˙ω˙*)و グッ!
お楽しみください。
僕たちはそれぞれ、新装備の使い勝手を試した後、リリィロッシュの信号を合図に馬車へ合流した。
メイシャが合流していたのと、なんとBランクの大型龍を討伐していたのにはかなり驚いたが。
「ラケイン、凄いな! 完全に地方の主級じゃないか!」
「……いや、メイシャのおかげだ」
ラケインの一言でメイシャは、真っ赤になってイジイジしている。
腕をじたばたさせる度に巨大な戦鎚が振り回されていなければ、本当に可愛いんだけど。
頼むから馬車を壊さないようにしてほしい。
後から聞いたが、泥地龍が出現したのは、メイシャの大岩のせいだと考えて間違いなさそうだ。
泥の中を住処にしている泥地龍の真上に、大岩を落としたのだ。
まさに、メイシャのおかげだな。
まぁ、一番驚いたのは、大量の龍種の素材を、いきなり持ち込まれたルコラさんだと思うけど。
僕たちが《砂漠の鼠》に魔物の素材を出すと、飛び上がってビックリしていた。
思いがけない品物に喜び半分、報酬の工面のための金策に頭痛が半分、と言ったところらしい。
まぁ普段ルコラさんに任せっきりで奥で寝ているギルドマスターに、頑張って貰うしかないな。
魔蜥蜴馬車を宿舎に預け、寮に戻る。
修行だ、討伐だと遠征が多いので、ついつい忘れがちなるが、僕達はまだ育成学校に在学しているのだ。
ちなみに僕とラケインは三年生、メイシャは一年生だ。
「おぉーい、そこの二人ぃ。ちょっと手伝ってくれぇ」
寮の門を潜ると、独特な間延びした口調の寮長、ゴーワンさんに呼ばれた。
みると、椅子や机、教材の入った荷箱がいくつも積まれている。
「これ、なんですか?」
「おぉ。これはぁ、今年の退学者にぃ支給していた教材だぁ。今年は、根性なしがぁ多くてなぁ。」
半年で特別クラスへ移った僕たちは知らなかったが、毎年一年生は、約1/3の生徒が過酷な授業についていけなかったり、訓練用の依頼でさえ傷を負い、引退せざるを得ないものが出るらしい。
これは、今年の新入生、メイシャの同期である脱落者たちの教材だ。
元々、冒険者養成学校は、知識不足ゆえに危険が多い、新人冒険者たちの救済のため、予備知識と戦闘訓練を授ける施設として設立された。
しかし、いつしか出資元である貴族達の干渉により、家督を継げない三男以下の子供たちに食い扶持を与えるため、または、騎士へ仕官する際の箔付けとして、力も意識もない者達が多く入学することになった。
そこで今では、学校は教え守る教育から、能力あるものを鍛え、相応しくないものを切り捨てるように方向転換しているのだという。
本末転倒にも思えるが、これにより、未来の冒険者を切り捨てることになったが、結果としては、半端な未熟者が命を落とすことを防止しているのだという。
教材を倉庫にしまうと、代わりに引っ張り出されてきたものがあった。
「悪いがぁ、これを本校舎へ持っていってくれるかぁ」
倉庫から今来た道を逆戻りするらしい。
さっきの荷物は、一見して教材とわかったが、今度の荷物はなんだろう。
ゴーワンさんが持っているのは、台座と袋から巨大な旗だろうと思う。
そして、僕達が運ぶように言われたのは、高さが3m程もある木箱だ。
「台車には固定してあるがぁ、充分注意するんだぞぉ。万が一倒れたりでもしたら、大変なこったぁ」
箱の中からは、微弱ながら魔力が感じられる。
一体、なんだというのだろう。
それはさておき、僕たちは依頼から戻ってクタクタのまま、校舎と倉庫を往復させられることになったのだ。
本校舎へ着くと、ゴーワンさんが僕達の運んできた木箱を慎重にエントランスへと下ろす。
台車に乗ってでさえかなりの重量を感じたが、ゴーワンさんは、体を強化させてる様子もないのにこともなげに持ち上げた。
この人、やっぱり見かけよりも相当強いな。
「おぉ、悪かったなぁ。だがな、こいつをお前さんたちに、初めに見てもらいたかったんだぁ」
そう言って木箱を開封する。
するとそこには、青銅製の台座に支えられた、巨大な水晶、いや、魔石がそびえ立っていた。
台座には様々な種族を思わせる大勢の人々が彫刻されている。
龍、亜人、天使に人間。
残念ながらというか、当然にというか、魔族は見当たらないようだが、多くの種族が巨大な魔水晶を敬うように称えるように踊っている。
「すごいな……」
普段無口なラケインさえも呆気にとられる程の美しさ。
魔水晶もさる事ながら、この彫刻と融合することで、まさしく神々しいまでの荘厳さを醸し出している。
「すげぇもんだろ。こいつは、優勝旗と神聖碑だぁ。もうすぐ30年ぶりの交流戦が開かれるからな。お前さんたちにも頑張ってもらわにゃなぁ」
水晶の隣に巨大な旗を設置して、ゴーワンさんがニッコリと笑う。
この旗も豪奢な刺繍が施されており、その図柄自体が何らかの魔法陣になっているようだ。
歴史を感じさせながらも色褪せない。
そんな素晴らしい優勝旗だ。
「交流戦っていうことは、何かの催し物があるんですか?」
二つの記念品に目が離せないまま、ゴーワンさんに聞いてみる。
「おぉ、お前さんたちの生まれる前の話だからなぁ。多分、担任の先生から明日にも話があるだろぉ。楽しみにしてろよぉ」
そう言うと、がっはっはと笑う。
いやいや、ここまでやったらネタバレして欲しい。
その夜、寮内では水晶と旗についての話題でもちきりだった。
普段豪華なものを見慣れている貴族たちでさえ、あれほどのものは見たことがないのだと言う。
様々な憶測が飛び交う中、翌日の授業で、エレナ先生から説明を受ける。
座学に関しては、リリィロッシュでは教えきれない部分があるので、エレナ先生のクラスに混ぜてもらっているのだ。
「既に話題になっているようですが、30年ぶりに〈四校交流戦〉が行われます。詳細については追って連絡しますが、各自、より鍛錬に励んでください。また、これから、他国の来賓を見かけることが多くなると思いますので、各自規律を守りわが校の恥とならぬように心がけること。いいですね!」
主に問題児であるダンテに向かって念を押す。
〈四校交流戦〉
正式名は、四聖杯とも呼ばれるらしい。
古くは200年前より始まる伝統行事で、当時の勇者パーティの提唱によって始まったという。
北のコール聖教国。
東のエウル王国。
南のノスマルク帝国。
西のエティウ王国。
大陸の四方を治める四大国にある育成学校が、文化や技術の交流を目的に年に一度の合同試合を開催する。
それが四校戦だ。
なんでも、30年前にノガルドが優勝したのを最後に、魔王城が出現したため、中止されたそうだ。
魔王城のあったエティウ、ノスマルクの二国の参加が見送られ、ようやく魔王が倒れたと思ったら小魔王が誕生し、それどころでは無かったのだという。
現在も小魔王の脅威は続いているが、だからこその人事交流が必要という判断があったらしい。
今回は、前回優勝校であるノガルド校が主催となる。
「あえて言わなくてもわかっていると思いますが、特別クラスの三人の力は抜きん出ています。ですが、四聖杯では個人の力だけではどうにもならない種目や相手が出てきます。そのことを強く肝に銘じて、各自鍛錬に励んででください」
ここで、エレナ先生が一息つくと、
「それと、気になっている人もいると思いますが、恒例の学園祭〈三龍祭〉も合わせて開催します。元々は中止された四聖杯の代わりにと企画された催し物ですが、今年はホスト校ということもあり、各校の歓迎イベントとして行います。こちらも例年以上に力を入れましょう」
このタイミングで学校のイベントか。
やれやれ、頭が痛いな。
〈三龍祭〉が一月後に迫る。
三龍祭は、ノガルド校内の三つの寮、リオネット、ホーエリア、イーグレスによる出店での対抗戦だ。
各寮が趣向を凝らした出店や出し物が出展され、参加客の人気投票で優勝が決まる。
普段は各寮混合のクラスで授業が行われるが、この時ばかりは寮対抗で一致団結する。
冒険者志望とはいえ思春期の若者達が集う学校だ。
寮内で新たな恋が芽生えたり、クラスで付き合っていたカップルが破局したりと、この時期の人間模様は阿鼻叫喚の様相を呈する。
一部の教師陣も、普段は手をやかされる生徒達が右往左往する様を楽しみにしているとかなんとか。
ちなみに優勝した寮には、一年間、優勝旗が飾られることになる。
三校戦の優勝旗に比べればこじんまりとしているが、これも豪華な刺繍が施されており、各寮生徒達の誇りと憧れとなっている。
「お前らぁ!今年も旗を取りに行くぞぉ!」
「おぉぉぉ!!」
リーダーとして取り仕切っているのは、同学年だが一歳年上のメイサン=モブール。
戦士職でありながら炎魔法を扱い、魔法剣を得意とする我が寮のエースだ。
我がリオネット寮は、伝統的に暑苦しい生徒が多い。
〈猛き炎の陸獣の王〉だ。
特に見た目に派手なことが苦手な戦士系の生徒の方にその傾向は強い。
普段は無口なラケインでさえ、この時期には、
「この大剣にかけて! ほかの寮生を狩り尽くしてやるぞぉ!」
「おぉぉぉ!!」
この有様である。
それはさておき、消灯の時間になると僕達も個人での出店の相談を始める。
「アロウ。出店の方はどうする? みんなと何か考えるか?」
「うん、それも考えたけど、みんなには悪いけど、同じレベルでこじんまりとするよりは、僕達だけで派手にやった方がポイントは稼げると思うんだ」
実際、三年生の上位陣はともかく、ほかの生徒達に合わせるとなると、それなりのレベルにしかならなくなる。
ならば、二人だけで何かやった方が得策だと思うのだ。
「うん、同意見だな。でも、アロウはともかく戦士の俺が役に立てるのは、やっぱり戦闘だけだぞ?」
そう、いくらレベルが高くても、戦闘に特化している戦士であるラケインには、パフォーマンスは向いていない。
しかし、僕には一つのアイディアがあった。
「その点は、僕に考えがあるんだ。ラケインは……」
こうしてリオネットの夜は更けていく。
その頃。
「これだわ。これでリオネットとイーグレスに勝てます!」
「任せてください、おねーさま! 私たちでお客さんのハートを握りつぶしです!!」
「メイシャ、それを言うなら鷲掴みです。握り潰してどうするのです」
〈深遠なる大海の水獣の王〉。
「よっしゃー! みんなでちょちょっと優勝かっさらうぜぇ!」
「ダンテ先生のリサーチにまっかせなさーい!」
「いぇーっ!!」
〈自由な風の空獣の王〉。
二つの寮でも、優勝を狙って秘密の作戦が練られていた。
さらにその頃。
「ひょっひょっひょっ。今年はどのカップルが破局するかのぉ」
「先生、生徒の不幸を願うなんて趣味が悪いですよ。それより、どんな愛の花が咲くかの方が楽しみじゃありませんか」
「やれやれ、恋も別離も表裏一体。出会いがあれば別れもあり、別れなければ出会いもないのですよ?」
「ひょっひょっひょっ。先生のセリフは相変わらず深いのぉ」
酒瓶を囲んで語り合う人影があったことを、生徒達は知らない。